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「デジタル田園都市国家構想基本方針」の基本理解

「デジタル田園都市国家構想基本方針」の基本理解

2022年09月06日更新

日本DX
デジタル田園都市国家構想を理解して
伸びるビジネスを見極める

日本の全土で誰もがデジタル化のメリットを享受できる社会を実現する「デジタル田園都市国家構想」の基本方針が今年6月7日に閣議決定され、いよいよ「日本DX」の実現に向けて具体的な取り組みが始まった。デジタル田園都市国家構想ではデジタル技術を活用することで地方が抱える諸問題を解決し、都市と地方の格差を解消することを目指しており、ITに関わるあらゆる領域で商機が生まれることが期待されている。日本ではすでに国を挙げてDXを推進しているが、デジタル田園都市国家構想が加わることでIT市場はどのように変わるのか、求められるソリューションは何かについてリポートする。

「デジタル田園都市国家 想基本方針」の全体像と
政策の基盤となるICTに関わる施策を読み解く

|日本DX|概論

「デジタル田園都市国家構想基本方針」が今年6月7日に閣議決定された。基本方針では「デジタルの力を活用した地方の社会課題解決」「デジタル田園都市国家構想を支えるハード・ソフトのデジタル基盤整備」「デジタル人材の育成・確保」「誰一人取り残されないための取組」の四つのテーマに基づいて取り組みを進めるとしている。この基本方針の内容からデジタル田園都市国家構想の全体像を俯瞰し、ICTに深く関わる施策を見ていく。

予算規模はのべ5.7兆円
全体で733件もの関連施策

「デジタル田園都市国家構想基本方針」に示された取り組みの内容を見ていく前に、デジタル田園都市国家構想の事業規模から説明する。デジタル田園都市国家構想は特定の省庁が推進するのではなく省庁を横断して国家全体で取り組む大規模な政策だ。その取りまとめを行うのが内閣官房に事務局が設置されているデジタル田園都市国家構想実現会議だ。

 デジタル田園都市国家構想では数多くの事業が進められることが発表されているが、その予算は推進交付金などのべ5.7兆円(2021年補正予算と2022年当初予算合計)に上る。内閣官房がWebサイトで公開している「当面取り組むデジタル田園都市国家構想関係施策一覧」を参照すると、デジタル田園都市国家構想に直接関わる事業となる「新たな経済対策、令和4年度概算要求および令和4年度税制改正要望におけるデジタル田園都市国家構想推進関連施策のうち、デジタル田園都市国家構想の実現に直接貢献するもの」という項目には426件もの施策が示されている。

 さらに間接的にデジタル田園都市国家構想に関わる事業となる「新たな経済対策、令和4年度概算要求および令和4年度税制改正要望におけるデジタル田園都市国家構想推進関連施策のうち、中長期的にはデジタル田園都市国家構想の実現に貢献し得るもの」に97件、そして従来の地方創生施策でデジタル田園都市国家構想の施策と一体的に推進する施策が210件、全体で733件もの施策がデジタル田園都市国家構想の具体的な取り組みとして進められることになる。ちなみに資料には「当面取り組む」と記載されているので、規模が拡大されるとみられる。

デジタルなくして成果は得られない
課題解決への取り組み方が変わる

 先に閣議決定されたデジタル田園都市国家構想基本方針に基づき、年末には「デジタル田園都市国家構想総合戦略」(仮称)が策定(まち・ひと・しごと創生総合戦略の改訂)される予定だ。

 デジタル田園都市国家構想は「全国どこでも誰もが便利で快適に暮らせる社会」の実現を目指すことが基本方針で示されており、その実現の鍵となるのが「デジタル」であることが基本方針に明記されている。

 具体的には「デジタルは地方の社会課題を解決するための鍵であり、新しい価値を生み出す源泉。今こそデジタル田園都市国家構想の旗を掲げ、デジタルインフラを急速に整備し、官民双方で地方におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)を積極的に推進」と記されており、ICTを有効に活用できる環境(基盤)の整備とICTを積極的に活用する施策の推進がデジタル田園都市国家構想に含まれるさまざまな取り組みの土台となる。

 デジタルを活用した施策は、従来の施策と何が異なるのだろうか。デジタル田園都市国家構想の四つのテーマの一つである「デジタルの力を活用した地方の社会課題解決」について取り組みの変化を見ていこう。

 地方における解決すべき課題として「東京圏への一極集中の是正」や「少子高齢化への対応」、「地域経済の活性化」、「教育の質の維持・向上」、そして「適正な医療水準の確保」などが挙げられている。これらの課題への取り組みとして次のような施策がある。

 例えば「地方に仕事をつくる」ために、従来は地域を支える産業の振興、農林水産業の成長産業化、中小企業の生産性向上、加工振興、地域における脱炭素化などが進められてきた。これらの取り組みに対してデジタル田園都市国家構想ではスタートアップ・エコシステムの確立、中堅中小企業におけるDXの実現、スマート農林水産業、観光DX、地方大学を核としたデジタル実装など、デジタル活用による課題解決策が示されている。

「人の流れをつくる」では従来は地方移住の推進、関係人口創出・拡大、地方への人材支援・インターンシップ推進、政府関係機関の地方移転、魅力のある地方大学の実現、高校生の地域留学などが取り組まれた。今後は「転職なき移住」の推進、オンライン関係人口、二地域居住等の推進、サテライトキャンパスなどが示されており、いずれもデジタルを活用したリモートでの取り組みを主軸としている。転職なき移住の推進では2024年度までにサテライトオフィス等を地方公共団体1,000団体に設置するとしている。

「結婚・出産・子育ての希望をかなえる」や「魅力的な地域をつくる」でもデジタルの活用が推進される。前者は従来、女性活躍の推進、少子高齢化対策の推進などに取り組んできたが、今後は母子オンライン相談、母子健康手帳アプリ、子どもの見守り支援などが示されている。魅力的な地域づくりでは地域交通の維持・確保、医療機能の確保、SDGsを通じた持続可能なまちづくり、地域防災の確保などから、GIGAスクール・遠隔教育、遠隔医療、ドローン物流、自動運転、MaaS、インフラ分野のDX、3D都市モデル整備・活用(国土交通省が主導する日本全国の3D都市モデルの整備・オープンデータ化プロジェクト「PLATEAU」)、文化芸術DX、防災DXなどへと変わっていく。

 さらに地域の特色を生かした分野横断的な支援として、デジタル田園都市国家構想交付金による支援や、スマートシティ関連施策として地域づくり、まちづくりを推進する経営人材を国内100地域に展開するなどの支援も行う計画だ。

光ファイバーの整備を急拡大
2027年度末に世帯カバー率99.9%

「デジタル田園都市国家構想を支えるハード・ソフトのデジタル基盤整備」では「デジタルインフラの整備」や「マイナンバーカードの普及促進・利用拡大」「データ連携基盤の構築」「ICTの活用による持続可能性と利便性の高い公共交通ネットワークの整備」、そして「エネルギーインフラのデジタル化」が示されている。

 デジタルインフラの整備では、総務省が主導して取り組む「デジタル田園都市国家インフラ整備計画」に基づいて進められる。同計画では光ファイバー、5G、データセンター、海底ケーブルなどのICTインフラの整備を地方ニーズに即してスピード感を持って推進すること、「地域協議会」を開催して自治体、通信事業者、社会実装関係者等の間で地域におけるデジタル実装とインフラ整備のマッチング、すなわちビジネス化について推進すること、そして2030年代のインフラとなる「Beyond 5G(6G)」の研究開発を加速し、2020年代後半から順次、社会実装して早期のBeyond 5Gの運用開始を実現することなどが示されている。

 まず光ファイバーの整備について、2027年度末までに世帯カバー率99.9%を目指すとしている。ちなみに世帯カバー率99.9%を実現した際の未整備世帯数は5万世帯となる。未整備世帯数は2020年度末で39万世帯、2021年度末で17万世帯となっており、現在も整備は急速に進められている。しかし「誰一人取り残されないための取組」や「全国どこでも誰もが便利で快適に暮らせる社会」の実現においては、光ファイバーの世帯カバー率を限りなく100%に近づける必要がある。

 前述したデジタルの力を活用した地方の社会課題解決においても、ICTインフラが整備されていることが前提となる施策が数多くあるため、光ファイバーの整備地域の拡大は早急に目標を達成しなければならない施策の一つと言える。

 光ファイバー整備に関する具体的な施策としてはユニバーサルサービス交付金などがある。ユニバーサルサービス交付金では光ファイバー等の有線ブロードバンドサービスをユニバーサルサービスと位置付け、不採算地域における維持管理費用を支援すること、補助金(高度無線環境整備推進事業:令和4年度予算額36.8億円、令和3年度補正予算額17.8億円)により条件不利地域における光ファイバーの整備を促進することなどが示されている。

 むやみに整備するのではなく、事業として持続可能な展開を図ることや、地域の要望への対応などにも配慮されている。自治体や通信事業者、携帯電話事業者、インフラシェアリング(鉄塔やアンテナ等の共有)事業者、総務省(総合通信局等)などで構成される地域協議会を開催し、地域のニーズを踏まえた整備を推進するとしている。

 公共施設のある地域については特にインフラ整備の必要性が高いことから地域協議会での協議を通じて必要とする全地域の整備を目指すという。特に学校のある地域については、GIGAスクール構想の実現の観点から光ファイバー整備の重要性が高いと指摘している。

日本列島を周回する海底ケーブルと
データセンターの地方拠点の整備

 光ファイバーの整備拡大に伴い、国内海底ケーブルも増強する。これまで太平洋側に密集していた海底ケーブルについて、日本海側も整備することで日本列島を周回する「デジタル田園都市スーパーハイウェイ」を整備する。現在、国内海底ケーブルは日本海側の九州と東北の間が未整備となっており、九州と秋田県をつなぐ海底ケーブルを新たに整備することで周回経路を実現する計画だ。

 この日本海側海底ケーブルの敷設について総務省は令和3年度補正予算の500億円から補助率5分の4(上限なし)で事業者を支援する。この日本周回ケーブル、デジタル田園都市スーパーハイウェイは2025年までに整備する計画だ。

 海底ケーブルの陸揚局の地方分散も進められる。現在、海底ケーブルの陸揚局は房総半島に密集しており、リスク対策の一環として陸揚局を地方に分散する。同様に東京などの都市圏に密集するデータセンターも地方に分散する。計画では十数カ所の地方拠点を5年程度で新たに整備するという。さらにIX(インターネットエクスチェンジ、相互接続ポイント)も地方に分散させる。

 これらデータセンターや海底ケーブル陸揚局、IXの設置事業に対して総務省では先ほどの令和3年度補正予算の500億円から補助率2分の1(上限50億円)で事業者を支援する。さらに経済産業省も令和3年度補正予算と令和4年度以降の国庫債務負担行為の526億円からデータセンターの電力および通信インフラ整備(電力供給や通信回線の引込等を行うための共同溝等の整備費用の2分の1を支援)やデータセンター地域拠点用地整備(データセンター拠点整備に伴う土地造成の費用の2分の1を支援)を支援する。

 5Gの整備については世界最高水準の5G環境を2段階で実現するとしている。第1段階では基盤展開を、第2段階では地方展開を進める。まず4Gを2023年度末までに全住居エリアをカバーする。
ちなみに2020年度末時点で8,000人が4Gエリア外となっている。

 次にニーズのあるほぼ全てのエリアに5G展開の基盤となる親局(高度特定基地局)を全国展開する。そして2020年度末時点で16.5%の5G基盤展開率を2023年度末までに98%まで引き上げる。

 そして従来は2023年度末までに人口カバー率約9割を目指していた5Gの整備だが、新たな計画では2023年度末には全市区町村に5G基地局を整備(合計28万局)し、5G人口カバー率を2020年度末時点30%台から全国95%へ引き上げる。さらに5G人口カバー率を2025年度末には全国97%、2030年度末には全国・各都道府県99%を目指す。

 Beyond 5G(6G)については情報通信審議会において日本が注力すべき研究開発課題を含むBeyond 5Gに向けた研究開発戦略を今夏に取りまとめ、これを反映した研究開発を総務省が主導して加速させる。研究開発課題としては通信インフラの超高速化と省電力化、衛星などを活用して陸海空をシームレスにつなぐ通信カバレッジの拡張、セキュアな仮想化やオーケストレーション技術による通信のセキュリティと品質の向上などがある。

 これらの研究開発課題への取り組みの成果を2025年に開催予定の大阪・関西万国博覧会を起点として順次、社会実装するとともに、国際標準化を推進する。そして必須特許の10%以上の確保と、世界市場の30%程度の確保を目指すとしている。

デジタル人材の育成・確保と
誰一人取り残さないための施策

「デジタル人材の育成・確保」においては「全ての労働人口がデジタルリテラシーを身に付け、デジタル技術を利活用できるようにするとともに、専門的なデジタル知識・能力を有し、デジタル実装による地域の課題解決を牽引する人材を『デジタル推進人材』として、2026年度末までに230万人育成を目指す」と明記されている。このほか「デジタル人材地域還流戦略パッケージ」に基づいたデジタル人材の地域への還流や、「女性デジタル人材育成プラン」に基づく取組も推進する。

 具体的な取り組みとしては「デジタル人材育成プラットフォームの構築」や「職業訓練のデジタル分野の重点化」、「高等教育機関等におけるデジタル人材の育成」、そして「デジタル人材の地域への還流促進」が挙げられている。

 デジタル人材育成プラットフォームの構築では全てのビジネスパーソンに共通に求められる学びの指針となる「DXリテラシー標準」やDX推進人材向けの「デジタルスキル標準」を作成する。またデジタルスキル標準にひも付ける形での教育コンテンツも整備する。そのほか地方におけるDX促進活動支援として、地域の企業や産業の人材に向けて実践的な学びの場を提供する。

 職業訓練のデジタル分野の重点化では公共職業訓練、求職者支援訓練、教育訓練給付においてIT分野の資格取得を目指す訓練コースの充実を支援するほか、人材開発支援助成金の拡充、3年間で4,000億円規模の施策パッケージの創設などを提示している。高等教育機関等におけるデジタル人材の育成では大学や高専で数値やデータサイエンス、AIの教育を推進する。また大学や専門学校が自治体や企業などと連携してDXなど成長分野に関するリテラシーレベルの能力取得およびリスキリングを実施し、リカレント教育を推進する。

 デジタル人材の地域への還流を、「デジタル人材地域還流戦略パッケージ」に基づき推進していくことも掲げられている。デジタル人材地域還流戦略パッケージは地域へのデジタル人材等の還流と地域人材市場の育成、マッチングビジネスの早期市場化・自立化を図ることを目的としたもの。

 具体的な取り組みとしてはプロフェッショナル人材戦略拠点と地域金融機関、株式会社地域経済活性化支援機構が連携して行う取り組みを強化するとともに、スタートアップの実情を把握するベンチャーキャピタルやスタートアップ専門の職業紹介事業者等とも連携し、地域企業への人材マッチングを支援する。

 また地域課題解決において中核的な役割を担う地方公共団体に対して、スキルの高い外部人材の派遣を促進(移住支援)するほか、デジタル等を活用した地域の社会的課題の解決を目指す起業等を支援するなどの取り組みもある。

 こうした急速なデジタル化の流れに取り残されぬよう、2022年度に2万人以上で「デジタル推進委員」を展開し、例えば高齢者等が身近な場所で身近な人からデジタル機器・サービスの利用方法を学ぶことができる「デジタル活用支援」事業などを実施する。

 また地域で子どもたちがICT活用スキルを学び合う「地域ICTクラブ」の普及促進、障害者に対するデジタル機器の紹介・貸出・利用に関する相談等を行うサービス拠点の設置、生活困窮者のデジタル利用等に関する支援策の検討、全国の学校におけるICT環境の整備、ICT支援人材の学校への配置促進、低所得世帯向けの通信環境の整備など、「誰一人取り残されないための取組」もデジタル化の推進と両輪で進められる計画だ。

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