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教員の判断をデータがサポートする未来を省庁連携で創る―デジタル庁

教員の判断をデータがサポートする未来を省庁連携で創る―デジタル庁

2022年05月16日更新

Special Feature 2
教育データ利活用により広がる学びの可能性

PC-Webzine2022年2月号で特集した「進め、学校のデジタル化」において、文部科学省の2022年度予算案をもとに本年度の教育ICTについて展望した。掲載当時は予算審議の段階だったが、3月22日に案通りに成立した。その中でも触れた事業が、教育ICTの次のステップとなる「データ利活用」に非常に大きく関係している。今回は、デジタル庁、文部科学省、総務省、経済産業省が連携して進める「教育データ利活用」について、各省庁の取り組みから、教育デジタルトランスフォーメーションに向けたステップアップの仕方を見ていこう。

省庁連携により実現へ導く教育のデータ利活用とは

デジタル庁

GIGAスクール構想で、教育現場に1人1台の端末と高速大容量のネットワーク環境が整備されて1年がたった。端末活用の中で蓄積される多くのデータは、活用することで児童生徒の個別最適な学びへとつながっていく。そうした教育データについての今後の取り組みの全体像をまとめた「教育データ利活用ロードマップ」が公開された。その内容について、デジタル庁に詳しく話を聞いた。

デジタル化の司令塔を担う

デジタル庁
統括官付参事官付参事官補佐
(戦略企画、準公共総括、教育及びこども担当)
横田洋和 氏

※肩書きは取材当時のもの

 デジタル化のステップとして、よく示されるのが「デジタイゼーション」「デジタライゼーション」「デジタルトランスフォーメーション」(DX)だ。デジタイゼーションはこれまでアナログで行ってきた業務をデジタル化することであり、GIGAスクール構想によって児童生徒1人につき1台の端末環境が導入され、それらを活用するための高速大容量のネットワーク環境も合わせて整備された教育現場は、このデジタイゼーションの段階にあると言える。一方で、その環境をフル活用するにはまだまだ課題が多い状態だ。

 文部科学省、総務省、経済産業省と連携して、教育現場のデジタル化を推進しているデジタル庁は、その発足前の2021年7月1〜31日の期間に「GIGAスクール構想に関する教育関係者の皆様へのアンケート」および児童生徒への「タブレットについてのアンケート」を実施した。その結果は同年9月3日に「GIGAスクール構想に関する教育関係者へのアンケートの結果及び今後の方向性について」として公開されており、「ネットワーク回線が遅い」「教職員端末が古い・未整備」「効果的な活用事例が不足」「家庭学習で使えるシステム・ツールが不十分」「国の調査・手続がデジタル化されていない」などの課題が浮き彫りになった。これらの課題に対して、各省庁では2021年度補正予算や2022年度予算で実証や整備を進め、解決に向けて取り組んでいる。

 デジタル庁 統括官付参事官付参事官補佐(戦略企画、準公共総括、教育及びこども担当)の横田洋和氏(肩書きは取材当時)は「2021年9月1日に発足したデジタル庁では、同年12月24日に閣議決定された『デジタル社会の実現に向けた重点計画』における柱の一つとして健康・医療、教育、防災、こどもなどの準公共分野のデジタル化を掲げています。中でも教育分野は、文部科学省、総務省、経済産業省と連携しつつ、デジタル観点のサポートやデジタル化に向けた司令塔の役割を当庁が担っています」とその位置付けを語る。

 デジタル庁、文部科学省、総務省、経済産業省では教育のデジタル化を進めるため、前述のデジタイゼーションの次のステップである、デジタライゼーションの取り組みに向けたロードマップも策定している。デジタライゼーションはデジタル技術を用いて、製品やサービスの付加価値を高めることを指すが、教育現場においては整備されたICT環境をフル活用して、学習者主体の教育への転換や、教員が子供たちと向き合える環境へと変わることを示す。

データが教育の質を向上させる

 このデジタライゼーションを実現するため、デジタル庁、文部科学省、総務省、経済産業省が連名で2022年1月7日に発表したのが「教育データ利活用ロードマップ」(以下、ロードマップ)だ。ロードマップでは、まず教育のデジタル化のミッションを「誰もが、いつでもどこからでも、誰とでも、自分らしく学べる社会」と掲げている。そして、そのためのデータについて、①スコープ(範囲)、②品質、③組み合わせ、の充実・拡大という三つの軸を設定し、これらを拡大・充実させることで、教育の質の向上を目指す。

 例を挙げると、目的に応じた行政データと学習データといったリソースの組み合わせによる新たな価値創出や、データの標準化などを通じて組織を超えて共有・活用できるデータ品質にすることで、データの利活用を可能にするなどが示されている。これらが相互に連携する構造となることで、「誰もが、いつでもどこからでも、誰とでも、自分らしく学べる社会」を目指すものだ。

 横田氏は今回のロードマップについて「今後の教育データ利活用に向けた施策の全体像と、その青写真を関係省庁で描いたもの」と前置きした上で、「データ利活用という名称から誤解されがちですが、政府が学習履歴を含めた教育データを一元的に管理することは全く考えていません。といいますのも、国は子供に対して教育活動をするわけではないからです。個々人の子供の教育活動は、学校などの現場が行います。今回のロードマップにおいて目指すのは、データが利活用されやすくなるよう、データの標準化を進めたり、データ運用のためのルールなどの整備を進めたりすることで、最終的なミッションである『誰もが、いつでもどこからでも、誰とでも、自分らしく学べる社会』です」と語る。

 ロードマップでは短期(〜2022年ごろ)、中期(〜2025年ごろ)、長期(〜2050年ごろ)と大きく三つのフェーズに分けて目指す姿が示されており、短期においては横田氏が述べたような「教育データの基本項目の標準化」や、「教育現場を対象とした調査や手続きを原則オンライン化」などが挙げられている。中期では、短期で標準化された活動情報などを、学校や自治体間で連携したり、日常化した端末活用によって、教育データ利活用のためのログ収集が可能になったりするような姿を目指す。長期においては、学習者がPDS(パーソナルデータストア)※を活用して、生涯にわたって自らの学習データを蓄積したり、活用したりできるようにするなど、教育のデジタル化のミッションを達成するための目標が掲げられている。

※個人が自らの意志でパーソナルデータを蓄積・管理する仕組み。

標準化でデータを扱いやすく

「教育データを活用する、というと全てのデータを網羅的に収集すると誤解されるかもしれませんが、本ロードマップで目指すのはあくまで教育データの標準化です。教育データの相互流用性の確保を目的としているため、取得できる可能性のある全てのデータを対象とするのではなく、全国の学校や、児童生徒の属性、学習内容などで共通化できるものを対象にしています」と横田氏。

 その共通化できるデータの対象について、本ロードマップでは文部科学省の分類に基づき、以下のような①主体情報、②内容情報、③活動情報の三つに区分している。


①主体情報
 児童生徒、教職員、学校などのそれぞれの属性等の基本情報を定義。
 例)性別、生年月日、在籍校、学年など

②内容情報
 学習内容等を定義。
 例)学習指導要領コードなどの学習分野に関する情報など

③活動情報
 何を行ったのかを定義。
 例)出欠などの生活活動、学習履歴などの学習活動、生徒指導などの指導活動などの記録


 これら定義されている情報については、法令などで規定されている情報以外は、各学校で集めることを強制するものではない。また、例に挙げた標準項目以外にも、各学校設置者(教育委員会)や学校で必要と考えるデータがあれば、独自に定義して活用することも可能だという。

 上記で挙げられた内容情報における学習内容等、教育データの標準化は文部科学省においてすでに進められている。例えば、学習指導要領コードについては、2020年10月に文部科学省が設定し公表した。学習指導要領コードは、学習指導要領の内容や単元などに共通のコードを設定し、それを基に各民間事業者のデジタル教科書や教材ツールなどのデジタルアーカイブを自動的に関連付けて学習に生かしたり、教材などをデータベース化する際に活用したりできる。

 この学習指導要領コードを活用し、デジタル庁では「教育デジタルコンテンツ利活用環境の整備」を行う。これは準公共分野デジタル化推進にかかる経費として、デジタル庁が2022年度予算として10億9,000万円、2021年度補正予算として61億9,000万円を計上しているものから、一部を教育分野に割り当てることで整備を進める。さまざまなデジタル書籍や素材と、指導要領コードをひも付けることで、学校などで児童生徒の発達段階に応じた教材を検索しやすくする。「教員はもちろんのこと、学習者用端末からでも検索できるようシステムを整備していきます。このシステムを小学生が使いこなすのは難しいかもしれませんが、高校生や中学生であれば、現在学んでいる単元からコンテンツの検索を行い、より深い学びが実現できます。また教員側からすると、教えている児童生徒がドリルの特定の問題でつまずいているようであれば、その問題に対応するコンテンツを検索システムから探して指導に反映することが可能になります。学ぶ子供たちと教える教員、双方にとってメリットのあるシステムになるのです」と横田氏。

 また主体情報で示した学校の情報は、同年12月に全国の学校にそれぞれ唯一の学校コードを文部科学省が設定している。学校コードは、全国の学校にそれぞれ唯一の学校コードを設定することで、各種調査を横断したデータの連結や分析が行いやすくなる。

 国から学校へ行う調査の内、一部アンケート調査についてはオンライン化が進められている。2021年度に「文部科学省WEB調査システム」(EduSurvey)を新たに開発したことで、従来はExcelファイルを文部科学省から都道府県の教育委員会へ、そして市区町村の教育委員会から各学校に転送し、集約していた調査をクラウド上で行えるようにした。2022年度から活用を進め、アンケート調査の自動集計やグラフ化に活用していく。

教員の判断をデータがサポート

 教育データの利活用が進むことで、教育現場にどのような効果が生まれるのだろうか。横田氏は先行してデータの利活用を進めているいくつかの自治体を例に挙げた。

「例えば大阪府大阪市では、児童生徒の学習データや日常所見を一元的に確認できる『児童生徒ボード』を活用し、学校内のさまざまなデータを連携することで、個別の児童生徒の状況を迅速に把握して、きめ細やかな個別指導につなげています。同じく大阪府の箕面市では、『生活困窮判定』『学力判定』『非認知能力等判定』の三つの要素を掛け合わせて子供の状態の総合判定を行う『子供見守り支援システム』を活用しています。箕面市では、このシステムを活用することで支援の抜け漏れを見つけ出したり、教員の“気付き”に客観的なデータで応えたりするなど、データに裏付けされたサポートが可能になりました。また、データによって、『重点支援』の対象と判定した児童生徒の内、25%の子供たちは学校内での見守りの対象ですらない“ノーマーク”の子供たちだったそうです」データを活用することで、現場職員の判断のサポートや、経験が不足している若手職員の判断を支援するような活用が可能になるのだ。

 一方で、データ利活用の上では、ルールやポリシー作りが不可欠となる。ロードマップでは端末の利活用ガイドラインの策定や、教育情報セキュリティポリシーの一部改訂を進めることを示すと同時に、データの流通に当たっては、学校や個人レベルでのアプリケーションレベル、データレベル双方での認証・認可が必要であるという前提を共有し、児童生徒や保護者の同意なくして個人情報を第三者に提供しない前提に立った上でデータ流通の検討を進めていく。

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