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電子帳簿保存法と改正ポイントの解説

電子帳簿保存法と改正ポイントの解説

2021年11月09日更新

いよいよデジタルファーストへ
改正電子帳簿保存法がDXを刺激する

電子帳簿保存法が改正され、2022年1月1日に施行される。企業では業務の電子化が重要な課題として取り組まれる一方で、国税関係書類の原本を紙で保管している。そのため紙の文書を扱う業務が残り、業務の電子化が進まないという事情もあった。

しかしすでに施行されている電子帳簿保存法では定められた要件を満たせば紙の書類を電子文書で保管でき、紙の原本を破棄することも認めている。それにもかかわらず税務関係書類の原本は紙で保管されている。

本来、電子帳簿保存法はペーパーレス化と紙文書を扱う手続きや業務の電子化を苦心することが目的であるが、これまでは実施に多くの要件を満たさなければならず、同法に対応したペーパーレス化や業務の電子化を進めにくかったという側面があった。

そこで2022年1月1日に施行される改正電子帳簿保存法では各要件が緩和され、企業や組織の経理業務を電子化しつつペーパーレス化を促進することで、社内の業務を広くシステム化するとともに社外との取引も電子化することで、国内におけるDXを推し進めようという狙いが見える。

改正電子帳簿保存法を起点に社内業務の幅広い領域において、また企業間および顧客との取引において、デジタル化への取り組みが活性化して新たなビジネスチャンスが生まれそうだ。

改正電子帳簿保存法の目的はDXの加速
経理業務から企業のデジタル化を促進

Part.1 電子帳簿保存法と改正ポイントの解説

電子帳簿保存法は1998年より施行されている制度だが、日常生活やビジネスにおいてITの活用が一般化した現在も国税関係帳簿書類の電子化は進んでおらず、制度利用を促進することが大きな課題となっている。そこで2022年1月1日に施行される改正では制度利用に求められる要件が大幅に緩和あるいは廃止される。改正電子帳簿保存法について、改正の目的やポイントを財務省主税局において同法の企画・立案に携わり、税法や税務、電子帳簿保存法に関する著作を多数執筆している税理士の松崎啓介氏に解説してもらう。

業務のデジタル化の後押しと
適正な記帳の確保が目的

松崎啓介税理士事務所 税理士
租税調査研究会 主任研究員
松崎啓介 氏

財務省主税局にて税法の企画・立案に従事し、
電子帳簿保存法なども担当する。その後、大
月税務署長、東京国税局で企画課長、審理課
長、個人課税課長、国税庁監督評価官室長、
仙台国税局総務部長、金沢国税局長を経て税
理士登録。
主な著書に「国税通則法精解」「国税徴収法
精解」(大蔵財務協会)、「コメンタール国
税通則法」(第一法規)など多数執筆。

 松崎啓介氏は長年にわたり財務省主税局において税法の企画・立案事務、国税庁、国税局での人事管理、組織運営、署の事務運営、税法の審理事務などに従事し、税法や税務に関する著作も多数執筆している。現在は税理士事務所を運営するほか租税調査研究会の主任研究員を務める。また財務省主税局に勤務時にはここで解説していただく電子帳簿保存法の企画・立案も担当した。

 2022年1月1日の電子帳簿保存法の改正について松崎氏は「改正の目的の中で納税者と国税の税務関連業務における生産性の向上を目指してDXに取り組むことが示されています。制度を普及させるためにインセンティブが示されることはありましたが、このような言葉が使われたことがなく、税務関連業務におけるペーパーレス化やデジタル化を推進することで、企業など納税者におけるDXの推進に貢献するという強い姿勢が現れています」と解説する。

 今回の電子帳簿保存法の改正は与党大綱における令和3年度税制改正の考え方に明示されているという。その与党大綱の「令和3年度税制改正の基本的考え方」でDXへの取り組みについて次のように示されている。

「今回の感染症では、わが国における行政サービスや民間分野のデジタル化の遅れなど、さまざまな課題が浮き彫りになった。菅内閣においては、各省庁や自治体の縦割りを打破し、行政のデジタル化を進め、今後5年で自治体のシステムの統一・標準化を行うこととしており、こうした改革に合わせて、税制においても、国民の利便性や生産性向上の観点から、わが国社会のデジタルトランスフォーメーション(DX)の取り組みを強力に推進することとする」

「昨今のクラウド会計ソフトの普及等を踏まえた、適正な記帳の確保に向けた方策を検討していく」

 こうした納税環境のデジタル化の中で電子帳簿等保存制度の見直しについて「経済社会のデジタル化を踏まえ、経理の電子化による生産性の向上、テレワークの推進、クラウド会計ソフト等の活用による記帳水準の向上に資するため、国税関係帳簿書類を電子的に保存する際の手続きを抜本的に見直す」と考え方を示している。

 記帳水準の向上も電子帳簿等保存制度の見直しにおける重要な目的の一つだ。松崎氏は「感染症の感染拡大においては、中小・小規模事業者への給付金の支給や融資に際して、売上や資産・負債等の状況が適切に記録されていないために申請に時間がかかるなど、日々の適正な記帳の重要性が改めて浮き彫りになりました」と指摘する。

 その実態は小規模事業者の半数以上が帳簿を手書きで作成しており、個人事業者の約7割は正規の簿記の原則に従った記帳を行っていないという。

 松崎氏は「記帳水準の向上は適正な税務申告のみならず、経営状態を可視化し、経営の変化対応力を向上させる上でも重要です。近年普及しつつあるクラウドの会計ソフトを利用することで小規模事業者であっても手間やコストをかけずに正規の簿記を行うことが容易にできます。今回の改正では正規の簿記の原則に従って記録されている国税関係帳簿に限って、緩やかな保存要件による電子保存が認められます」と説明する。

制度の利用率は長期にわたり低迷
改正法では最大の障害を廃止

 松崎氏は「これまでも使い勝手を良くするために累次の改正を行ってきましたが、広く利用されるような制度に至っていませんでした。今回の改正は制度創設以来の抜本的な見直しと言え、誰でも実践できる制度を目指していることが分かります」と説明する。

 松崎氏の指摘の通り従来の電子帳簿保存法では大企業は広く利用しているものの、中小企業はほとんど利用していないのが実態だ。税制調査会の資料(2020年10月16日)より作成された別掲の資料によると、電子帳簿保存制度を利用している大企業が72.7%に達するのに対して、中小企業はわずか4.8%にとどまっている。また税制調査会日本商工会議所の資料(2020年10月7日)によると売上が1億円以上の事業者の87.6%が帳簿作成を電子化しているが、売上が小さくなるに従いその割合も低くなっている。

 こうした税務関連業務および国税関係帳簿書類の電子化への取り組みが進んでいない原因は、企業などの納税者だけにあるわけではないようだ。従来の電子帳簿保存法ではさまざまな要件が定められており、それらを満たさなければ国税関係帳簿書類として認められないという足かせがあった。中でも「税務署による事前承認」は、電子帳簿保存制度の利用に積極的な企業であっても二の足を踏む要因となっていた。

 従来の制度では電子帳簿保存を実施する90日前までに所轄の税務署で手続きを行い、税務署長の承認を得る必要があった。その際に利用するシステム等を「承認申請書」に記載しなければならないほか、処理の責任者や作業工程を明記した「事務手続きの概要」の作成・提出も求められる。こうして手間をかけて申請書を作成して提出しても、承認が得られるまでは電子帳簿保存を開始することはできない。ちなみに認められない場合もあり、その際は却下通知が届く。

 こうした障壁があるためか国税庁統計年報より作成した資料によると、2019年の電子帳簿保存承認件数の累計は約27万件、スキャナー保存に至ってはわずか約4,000件と非常に少ないことが分かる。そこで2022年1月1日に施行される改正法ではこの承認制度が廃止される。

 改正法では国が求める基準を満たすこと、電子帳簿保存法に対応した機能を備える経理システムなどのツールを導入し、社内規定を策定して周知ができ次第、スキャナー保存が開始できるようになる。

改正法の六つのポイント
スキャナー保存関連で緩和

 令和3年度の電子帳簿保存法改正の具体的な内容について、主に六つのポイントがある。①についてはすでに触れた通りだ。それ以外の五つのポイントは、全てスキャナー保存に関連する要件だ。

① 税務署の事前承認が不要になる
② 請求書・領収書の自筆署名が不要になる
③ 本人が作成もしくは受領した書類の入力期限が2カ月以内に統一される
④ タイムスタンプが一定の条件で不要になる
⑤ 紙原本と画像の確認が不要になる
⑥ 紙書類の破棄に定期検査が不要になる

 ②についてはこれまでは請求書や領収書を受領した本人が電子化を行う場合、電子化する文書に自筆の署名をする必要があったが、改正法では自筆署名が不要になる。

 ③については書類の作成または受領をする者がスキャナーで読み取る場合には、その者が署名して特に速やかに(おおむね3営業日以内)タイムスタンプを付さなければならないこととされていたがこれが廃止され、「業務処理サイクル方式」(最長2カ月と7営業日以内)あるいは「早期入力方式」(7営業日以内)のいずれかによりスキャンとタイプスタンプの付与を行うことになる。

 さらに④のタイムスタンプに関しては、他者が提供・管理するクラウドサーバー等の利用により、その入力期間までにその国税関係書類に係る記録事項を入力したことを確認することができる場合には、その入力後の電子データについてさらなる入力による改ざんの有無の確認が可能であることから、このタイムスタンプの付与は不要とされた。

 ⑤についてはスキャナー保存の際、従来は紙原本と画像の同等性を確認する「相互けん制」が求められていたが、これも不要となる。そして⑥では、従来はスキャナー保存後に紙書類を破棄するには「定期検査」を受けた後という条件があった。改正法ではスキャナー保存の要件を満たした紙書類については、定期検査を受けずに破棄することが認められる。

電子取引の普及を経て
デジタルファーストな社会を実現

もっと知識を深める本:
松崎啓介氏が電子帳簿保存法について背景や目的、改正ポイントなどを詳細に解説した『電子帳簿保存法がこう変わる! 〜DX化が進む経理・税務のポイント〜』(税務研究会出版局)は半年のうちに4刷を重ねている人気書籍となっている。さらに11月には最新の情報を織り込んで大幅に改訂した『もっとよくわかる 電子帳簿保存法がこう変わる!』が発刊される予定だ。

 今回の法改正では入り口の障壁となっていた管轄税務署の事前承認制を廃止し、信頼性の高い「優良な電子帳簿」をそのまま残しつつ、インセンティブを設けることで電子帳簿等保存制度の利用を促進して記帳水準の向上を図る。それとともに、低コストで利用できるクラウド会計システムの活用により制度利用が進んでいない中小・小規模事業者が利用しやすい環境を整えた「最低限の要件を満たす電子帳簿」を新設し、正規の簿記の原則に従った記帳を普及させ、事業者全体のペーパーレス化を進める計画だ。今回の法改正について松崎氏は次のように総括する。

「最低限の要件を満たす電子帳簿の要件により帳簿を紙に出力することなく、電子的に保存できるようになります。書類の保存に関しても、自己が一貫して電子で作成した国税関係書類や、取引相手から受け取った書類や自己で作成して相手方に渡した書類の写しのスキャナー保存について、タイムスタンプ要件や検索要件の緩和、適正事務処理要件の廃止などにより保存要件が緩和され、制度利用しやすくなりペーパーレス化が促進されるでしょう」

 さらに「ゆくゆくは電子で全ての取引が完結する電子取引が普及し、紙取引と電子取引が混在しない電子データだけの管理で完結する『デジタルファーストな社会』が実現されると期待しています」と語った。


"ゆくゆくは電子データだけの管理で完結する「デジタルファーストな社会」が実現されると期待しています"

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