社会で通用するプログラミングの学びを実践

群馬県太田市の教育課程特例校に指定されているぐんま国際アカデミー。国際バカロレア機構が提供する国際的な教育プログラム「国際バカロレア」の認定校であり、日々変化を遂げる国際社会の中で、リーダーとして必要な能力と知識を備えた国際人の育成を行うべく、児童生徒の能力を最大限に伸ばす教育を実践している。そんな同校の中高等部で実践しているプログラミング教育の取り組みを取材した。

12年間の学びをICTがサポート

 算数、理科、社会、芸術など、教科の70%を第二言語である英語で学ぶイマージョン教育に取り組むぐんま国際アカデミーでは、チョーク&トークの講義型の授業ではなく、児童生徒の主体性を育てるため具体的な活動を通して課題に取り組ませ、子供たちの高い適応能力によって英語の力を伸ばしている。そうした学びを支えるのが、ICT環境だ。ぐんま国際アカデミーの高等部ではGIGAスクール構想以前から、BYODによる1人1台の端末環境を整備しており、中等部では来年度からChromebookによる1人1台の端末環境が整備される予定だ。

「本校では通知表もシラバスも全てオンラインで配信されます。全教室にWi-Fiも整備されており、授業でICTを使う環境は整っています。特に国際バカロレアのDP(ディプロマ・プログラム)では、科目を横断した探究型の学びが重視されるため、学習の中でコンピューターの活用は不可欠なのです」と語るのは、ぐんま国際アカデミー中等部・高等部 教諭の吉田慎吾氏。教育機関向けの「Google Workspace for Education」(旧名称: G Suite for Education)も導入しており、初等部から高等部まで同一のアカウントを利用することで、12年間の学びの内容を継続して閲覧できるようにしている。

中等部で使用する端末はChromebookを指定している。
中等部2~3年生は現在学校から端末を貸し出してICTを活用した学びを行っている。技術室の充電保管庫にはChromebookがずらりと並ぶ。

汎用的なプログラミング教材を選択

 そんなぐんま国際アカデミーでは、情報の授業におけるプログラミング教育も一歩先を行く。もともとC++によるプログラミングや、マイクロソフトの統合開発環境「Visual Studio」を教材としてプログラミング教育を行ってきたという吉田氏。その背景には、「教材でしか使えないツールは授業で使わない」という吉田氏の教育に対する考えがある。実際に技術科で使う木材は近場のホームセンターで調達するなど、汎用的で社会に出ても使えるツールで授業を行っている。

 しかし、プログラミング教育においては汎用的な開発環境では重たく授業では利用しにくかったり、レベルが高すぎたりといった課題があった。そこでプログラミング教材として吉田氏が選択したのが、アプリ開発クラウドサービス「Monaca」だ。JavaScriptとHTML5の共通スキルセットで、モバイルアプリやデスクトップアプリ、Webアプリなど多彩なアプリ開発に取り組める。「一般企業向けに提供されているツールである点も、選定理由の一つでした」と吉田氏は振り返る。

 一般企業でも利用されているツールでありながら、「Monaca Education」として、プログラミング教育向けパッケージが提供されている点もメリットの一つだ。Monacaの入門書「Monacaで学ぶはじめてのプログラミング」の提供や教員向けの研修会も開催しており、プログラミング教育でアプリ開発を取り入れやすい。

 実際にぐんま国際アカデミーでも、中等部の技術・家庭科や高等部の情報科の授業でMonacaを活用してスマートフォンアプリの開発に取り組んだ。「起動が速くて環境構築不要で利用できる点が非常によいですね。プレビュー画面も付いているので、記述しているコードがどのような動作をするのか分かりやすい点も魅力です」と吉田氏。ブロック崩しやぷよぷよなどのゲームを作る開発テンプレートも用意されており、プログラミングにチャレンジしやすい。

プロジェクターでMonacaの画面を示しながらプログラミングのやり方を学ぶ。Webブラウザーでコーディング可能な専用エディタを搭載しており、OSを問わないBYODを実現している高等部でもスムーズに使える。
生徒たちは自分たちのアイデアをアプリにするため、お互いに話し合いながら開発を進めていく。

新学習指導要領に対応した学びへ

「新学習指導要領では計測・制御のプログラミングが例示されていますが、Monacaでは端末のセンサーから動作を制御するようなプログラミングも、スマートフォンのセンサーを利用して行えます。また、2021年度からは中学校の技術・家庭科の技術分野においてもプログラミング教育が拡充されており、ネットワークを利用した双方向性のあるコンテンツのプログラミングが新たに例示されていますが、Monacaであればチャットアプリの開発ができるため、新学習指導要領に即したプログラミングの学びが実現できます」(吉田氏)

 Web APIやデータベースとの連携も可能だ。2022年度からスタートする高等学校の新学習指導要領では、共通必修科目として「情報Ⅰ」が新設され、全ての生徒がプログラミングに加えて、ネットワークやデータベースの基礎を学ぶことになるが、そうした新学習指導要領に基づく学びにも、Monacaの活用は有効なのだ。

 実際に授業の中では、動物の名前が書かれたボタンを画面に配置して、押すと鳴き声が再生されるといったアプリや、タイマーアプリ、今日の晩ご飯の献立を決めるといったアプリなど、多種多様なアプリが開発された。「コロナ禍により、本校でもオンライン授業を実施しました。そのため実際に教室でプログラミングを開発する実習授業の時間を確保することが難しい状況でしたが、オンライン授業ではZoomとオンラインホワイトボードを活用したブレインストーミングや、ペルソナ分析などによって日常に潜む課題を見つけ、その課題を解決するプログラミングのアイデアを出していきました」と吉田氏は振り返った。

 将来的にはアプリストアで配信できるようなプログラミングを授業で取り組んでいきたいと話す吉田氏。一般企業でも使われているプログラミングツールを活用した学びは、社会に出た後も生徒たちの大きな資産となりそうだ。