デジタル庁の重点プロジェクト
行政DXの現場リポート

短期連載:3回目

最先端ICT都市の実現に向けて取り組む
Microsoft 365を活用した大阪市の業務改善

コロナ禍の影響で、多くの行政機関でデジタルトランスフォーメーション(DX)が進んだ。大阪市は、そうした全国の自治体の中でも一方先を行くICT化に取り組んでいる。そのインフラとなっているのが、Microsoft 365だ。短期連載の最終回となる今回は、大阪市のDXの取り組みをリポートしていく。

災害対策から日常的に使うシステムへ

 大阪市では、最先端ICT都市の実現に向けた取り組みを強化している。2016年3月には「大阪市ICT戦略」と、その戦略を実現していくための「大阪市ICT戦略アクションプラン」を策定。また、当時の大阪市長であった吉村洋文氏のリーダーシップのもと、市長直轄の専任組織としてICT戦略室が立ち上げられた。全国の自治体の中でも、独立したIT戦略の部局は珍しい存在だという。

 大阪市ICT戦略は2018年3月に改訂され、現在は第2版だ。また、同時期に策定された大阪市ICT戦略アクションプランは2020年8月に改訂され、「行政サービスのオンライン化」や「行政DXの推進」などのアクションプランの拡充やスマートモビリティが追加された。

 その行政DXの推進では、外部関係者を含めたWeb会議の実施や、テレワーク環境の構築、BYODによる庁外からのメールやスケジュール等の確認などが取り組み項目として挙げられている。大阪市のそうした行政DXを実現するインフラとして、現在活用されているのがMicrosoft 365だ。

 大阪市 ICT戦略室 担当係長 山本早紀氏は「戦略を策定する以前から、大阪市では庁内情報システムの見直しを進めていました。メールやグループウェアといった情報基盤の刷新を2014年から検討しており、2015年には入札先企業を決定し、ビジネスメールサービス『Microsoft Exchange』をオンプレミス環境で利用し、災害時はクラウドサービスであるOffice 365(当時)を利用できるようにするなど、災害対策目的でのクラウド利用を検討していました。しかしそうした中で、ICT戦略室室長から『日常的に利用していないツールを災害時に利用することは難しいのではないか』と指摘がありました。そこでクラウドサービスを基本とした庁内システム環境を目指し、システム構築に取り組み始めたのが2016年のことです」と振り返る。

職員のスマホを使ったBYODも実施

 Microsoft 365サービスを基本インフラとしたことで、大阪市の行政DXは大きく進んだ。大阪市では2020年3月頃からTeamsを活用していたが、それ以前からSkype for Businessによる庁内間のコミュニケーションを積極的に行っていたという。

「ICT戦略室は二つの庁舎にまたがるため、対面の打ち合わせだと庁舎を移動する必要があります。それをSkype for BusinessやTeamsによる会議で打ち合わせれば、移動の時間も手間も必要ありません」と山本氏。

 また、職員のスマートフォンを利用したBYODによるメールやスケジュールの確認にも取り組んでいる。もともとはWebブラウザー経由で接続していたが、Microsoft Intuneを導入して環境を整え、2020年3月頃からはスマートフォンのOutlookやTeamsのアプリ上から情報を確認できる仕組みを構築した。このBYODによる情報確認は、緊密な連絡が求められる課長級以上の職員が主となっており、新型コロナウイルス感染拡大以前は1,500人程度が利用していたが、新型コロナウイルスによる緊急事態宣言(1回目)解除後は3,500人まで増加したという。

「新型コロナウイルス感染拡大に伴って、大阪市でもテレワークの利用を拡大しました。もともと2018年度からテレワーク制度はありましたが、育児や介護を必要とする職員を対象としており、利用率は高くありませんでした。しかし新型コロナウイルス感染拡大に伴い、登庁人数を制限するなど、人と人との接触を避ける必要が出てきたため、このテレワーク制度を全職員に拡大しました。現在はSaaSのリモートアクセスサービス『マジックコネクト』を利用していますが、今後はICT基盤自体をテレワークを前提としたものに変えていきたいと考えています」と語るのは、大阪市 ICT戦略室担当係長 板井浩二氏。

職員がアプリやチャットボットを内製

 コロナ禍によって集合研修が難しい状況にあったが、Teamsのビデオ会議機能を活用して研修用の動画を作成し、900名弱の新採用者・新転任者に受講してもらったという。録画したデータはMicrosoft Streamにアップロードし、研修者自身が視聴したい時間に受講してもらえるよう工夫も凝らした。

 Microsoft 365は、庁内の業務効率化にも役立てられている。職員の結婚や出産、引っ越しなどの手続きを行う総務事務センターでは、人事異動の影響で4月に問い合わせが集中していた。そこでMicrosoft 365のPower Appsを利用してFAQ検索アプリやFAQ検索チャットボットなどを作成。

 人事室では以前から、前述した問い合わせの対応に課題を感じており、すでにExcelファイルでFAQを公開していたという。そこに、ICT戦略室のローコード開発ツール活用検討の担当者から、人事室にPower Appsの活用が提案されたことで、本アプリの開発に至った。Power Appsによって、日常的な業務の困りごとを現場単位で解決できるようになったのだ。センターの業務負担の削減につながった。

 今後の大阪市の行政DXの取り組みについて、大阪市 ICT戦略室担当係長 末本和広氏は次のように語った。

「行政手続きのオンライン化を、さらに進めていきます。2020年にはオンライン手続き可能なプラットフォームの構築を行っており、今後は業務システムとの連携やスマート申請の推進などにも取り組んでいきます。また新型コロナウイルスへの行政対応は、非常にスピード感が求められているため、2021年度以降はPower Appsをはじめとしたローコード開発ツールなどを利用し、軽微なアプリであれば職員がプログラミングして業務に必要なシステムの内製化にも取り組んでいきます」