生成AI技術を活用した機能をすべてのアプリに

2022年11月にOpen AIの「ChatGPT」が発表されてから、生成AIというジャンルが確立され、まさにいま生成AIブームである。アーリーアダプターは、この技術をどのようにビジネスに活用し、加速させるかを研究している。技術はまだ発展途上であり、数カ月前の技術が既に過去のものと感じられるほどの急速な進展を遂げている。

そうした中で、「Adobe Photoshop」や「Adobe Illustrator」といったクリエイティブ系ツールを手掛けるアドビでは、以前から「Adobe Sensei」としてマーケター向けにAI技術を活用した取り組みが行われてきたが、新たにクリエイティブのための生成AI技術「Adobe Firefly」を展開し、各ツールに搭載。さらにドキュメント系ツールである「Adobe Acrobat」にも活用されるなど、あらゆるビジネスシーンにおいて革新的な取り組みが行われている。

そこで今回は、アドビの最先端技術に触れるとともに、アドビの目指す生成AI技術について、デジタルメディア事業統括本部の川島修治氏と昇塚淑子氏にお話を伺った。

画像生成の学習コンテンツは出どころが明確なAdobe Stock

デジタルメディア事業統括本部 営業戦略本部 Adobe Stock Specialist / 担当部長の川島修治氏

一口に生成AI技術といっても、さまざまなものがあるが、大きく分けると画像を生成するものと文章を生成するものとに分けられる。前者は、求める画像を文字で入力すると、それに合わせた絵を描いてくれるもの。後者は、同様に必要な要素を単語や文章として入力すると、それに対して文章を膨らませたり、要約したりするものだ。クリエイティブ系メーカーの老舗として、まず紹介してくれたのが、前者の画像生成系AI技術だ。

「よく皆さんは『Adobe Firefly』が売り物だと勘違いされていますが、Adobe Fireflyとはさまざまな生成技術を有しているAdobeの生成AI技術の総称です」と語るのは、営業戦略本部 Adobe Stock Specialist / 担当部長の川島修治氏だ。

テキスト(プロンプト)を入力すると画像を生成したり、足りない部分を補完したり、ベクターデータで描いてくれたりといった技術を、「Adobe Photoshop」や「Adobe Illustrator」などといったアプリごとに機能として含まれた形で提供しているため、Adobe Fireflyを単体で売っているだけ ではない。アプリを最新版にアップデートすれば、機能拡張された1つに生成AI技術が含まれ、随時進化していくということだ。

川島氏は「画像生成というと、既存の絵から切って貼ったりして作られるものと思われがちですが、アドビの画像生成は本当に絵を描くような感じで生成されます。AIが描く技術というのはこれまで何十年と培ってきたビックデータやAdobe Senseiの技術を経てAdobe Fireflyが生まれており、アドビとしての設計思想となっています」と語る。

AIが絵を描くには、人間と同じように学習が必要だ。例えば、子供にお花を見せて『このお花の絵を描いて』と言うと、その後はお花を見なくても想像で描けるようになる。AIも同様に、さまざまなコンテンツを繰り返し学習することで、入力されたプロンプトから絵を描けるようになる。

ただ、そうなると学習させるためのコンテンツが必要であり、もしかしたらそのコンテンツに類似したものを生成するかもしれない。生成AIによる画像作成で、いま懸念されているのが、その類似性であり学習したコンテンツの出どころが明確なものであるかが、著作権とも絡み問題視されている。

そんな懸念を川島氏は払拭する。「学習コンテンツは、アドビがサービス提供している『Adobe Stock』の素材がベースとなっています。世界220の国と地域の作家やクリエイターのみなさんの作品が登録されており、アドビとの契約で作品をAI技術に活用してもよいというもののみ、利用しています。利用した量によってボーナスプログラムも用意しており、無断使用ではなく出どころが明確なものだけを扱っています」。

クリエイティブな制作に必要な素材が集まっている「Adobe Stock」

そのほかにも、著作権の切れたコンテンツ、パブリックドメインコンテンツなども学習コンテンツとして利用しており、生成された画像は一般に公開しても非常に安全なものであるというお墨付きになっているのだ。

「生成AIにおける説明責任、社会的責任、透明性の実現に向けて、コンテンツ認証イニシアチブ(CAI)およびCoalition for Content Provenance and Authenticity(C2PA)といった活動にも取り組んでいます」と川島氏は語った 。

知的財産に対しては徹底しており、例えば「有名キャラクター名を入力しショッピングモールでアイスクリームを食べている」とプロンプトを入力しても、有名なキャラクターが描かれないようになっている。「ユーザーガイドラインを設けていて、プロンプトの内容がそれを満たしていないと、アラートを表示して生成しないようになっています。そういった知的財産を尊重することで、社会にきちんと出せるような生成物をクリエイトする設計思想になっています」と川島氏は自信を見せた。

プロンプトの内容や素材の画像によっては、こんな感じにアラートが表示されて生成できない仕組みになっている

より生成物を安心して利用できるIP補償が付属

企業が生成物を利用するにあたり、知的財産権(IP)に関する申し立てが発生する可能性も0ではない。そういった懸念に対しても安心して利用してもらうべく、法人向けAdobe Creative Cloudのプランには、対象となるアウトプットの一部 に対してIP補償が設けられている。中小企業・個人事業主向けのグループ版と大企業向けのエンタープライズ版が用意されているが、いずれも有効だ。

また、Adobe Creative Cloud Proエディションも登場。こちらは、Adobe Creative Cloudで利用できるアプリに加え、Adobe Stockが使い放題になる。約4億5千万点もの写真やイラスト、ベクターデータ、テンプレートなどの作品が自由に使えるため、より手軽に安心して成果物を制作できるようになる。

川島氏は「企業や公官庁で資料やパンフレットなどを制作する際、そこに使用する写真やイラストをネットで探して無断で使用してしまうというケースが多く発生しています。無料で利用可能な素材であっても商用利用は違うケースもあり、そのあたりをきちんとモラルを持ってクリアしていかなければなりません。その点、Adobe Creative Cloud Proエディションでは、Adobe Stockが使い放題なため 、そういったリスクはなくなります」と川島氏。Adobe StockにもIP補償がついており、より安心して利用できる。

クリエイターだけでなくビジネスユーザーにも利用してほしい

アドビのアプリは、クリエイター向けということで自由度が高く何でもできる一方、ビジネスユーザーが使いこなすには少々ハードルが高い面もある。また、生成AIによる画像の生成は、資料に添える素材としてもってこいだが、プロンプトを入力するという壁も存在する。

「Adobe Fireflyのサイトには、ギャラリーが用意されており、興味のある生成物をクリックすると、プロンプトやスタイル、効果などの情報が確認できます。これらを参考にプロンプトを編集したり、スタイルや効果を調整したりすることで、目的の生成物を作成でき、やり方を習得していただけると思います」と川島氏。特にプロンプトの書き方は独特なところもあるため、とても参考になるはずだ。

Adobe Fireflyのサイトで「テキストから画像生成」をクリックすると、画像生成で描かれたギャラリーが表示され、作りたい作風を見つけてクリックすると、プロンプトや設定が確認できる
プロンプトの詳細や適用するスタイルなどを確認でき、これを参考にして作品を作れる

また、ウェブ上やモバイルアプリとして気軽に使える「Adobe Express」も用意されている。Adobe PhotoshopやAdobe Illustrator は0から制作するのが基本だが、Adobe ExpressはビジネスやSNS用などの各種テンプレートが数多く用意されており、それを選んでから必要に応じて修正していく手法で簡単にクリエイティブな成果物を制作できる。Adobe Fontsを利用できたり、生成AIを活用したりと創作の幅も広いので、営業マンがプレゼン資料を制作するために利用すれば、時短とともに仕上がりの良いものができるはずだ。

Web版「Adobe Express」の画面。さまざまなテンプレートが用意されており、その中から作りたい作風を選んで、修正することで、誰でもクリエイティブな作品を作れる

「実際にAdobe Expressを活用してチラシやポップを制作していただいております大手メーカー様からは、制作時間が大幅に削減できたという声をいただいております。営業マンや広報担当あるいはSNS担当などさまざまな業務の方が、Adobe Expressを利用していただければ、誰でもクリエイティブな成果物が作れると思いますので、ぜひ活用してほしいですね」と力強く川島氏は訴えた。

Adobe AcrobatにもAI Assistantが搭載

デジタルメディア事業統括本部 パートナー営業本部 シニアパートナー アライアンス マネージャーの昇塚淑子氏

続いて、文章を生成するAIとして、PDFドキュメントの表示・編集が行える「Adobe Acrobat」にAI Assistantが搭載された。2024年6月現在、英語版のみの提供だが、今後日本語版も登場する予定になっている。 そんなAI Assistantについて、パートナー営業本部 シニアパートナー アライアンス マネージャーの昇塚淑子氏に紹介していただいた。

AI Assistantを利用するには、まずAcrobatでPDF文書を開き、AI Assistantボタンをクリック。すると右側にパネルが開き、文書全体の解析が始まる。「AI Assistantを起動すると、Adobeクラウドへ文書を送り、クラウド上で文書を解析します。裏側ではサードパーティの生成AIエンジンが動いていますが、Adobe独自の技術が組み合わされていて、文書からインサイトを取得するための最適なエクスペリエンスを提供しています。AI Assistantでは最初に文書の簡単な概要が提示され、さらにサンプルの問い合わせプロンプトが3件表示されます。これにより、どんな質問をすべきかと考えなくても、サンプルの中から実行してみることができます」と昇塚氏。

画面の右側にAI Assistantが表示され、解析された結果サマリーを表示する

例えば「5つの重要なポイントを教えてください」が提示されているので、それを実行すると、しばらくして5つのポイントが列挙される。このとき、各ポイントに小さい数字が振られており、その数字をクリックすれば、本文の表示パネル内で、生成された回答の参照元が表示される仕組みになっている。きちんと参照元が明示されることで、正しい情報であることがわかるとともに、その前後を読むことで、より内容を理解できるようになる。

昇塚氏は「AIの文書系で問題になっているのが、さまざまな情報を元に学習していると、まことしやかな嘘をつかれてしまう場合があることです。ビジネスにおいてはいい加減な情報を元にした回答は許されないため、Adobe Acrobatの生成AI機能はユーザーが指定した文書を対象に回答を生成する設計になっています」。

ビジネス系レポートに限らず、論文や学術書など100ページに も及ぶ文書も少なくない。そういった文書をすべて読むには時間と労力がかかってしまうが、このAI Assistantを利用することで、重要なポイントをかいつまんで読むことができるようになり、大幅な時短と情報収集が得られる。

ほかにも、例えば決算書などのレポートに対し「2020年から2022年までの年間平均成長率を出して、テーブルのフォーマットにして返して」とプロンプトを入力すれば、必要な数値を抜き出して計算し、表組みで提示してくれる。このときポイントとなるのは、どこの数値を拾ったのかという参照元だけでなく、どのような計算式を使ったかも提示してくれること。成長率の計算式はそれほど複雑なものではないが、どういう根拠で計算されたのかをしっかり明示してくれるので、その情報が正しいか否かを人間が判断できる。

参照した数値を元に、計算式を提示してその結果を表組みで表示してくれる

「単純に質問に対して文言で返すだけでなく、簡単なフォーマットに沿って回答を返すことも可能になっています。例えば、『100ワードでまとめてください』『eメールのフォーマットで作ってください』『ブログのフォーマットで作ってください』などが指定できます」と昇塚氏。

ちなみに、PDFでは目次構造をブックマークタグで指定できるが、ブックマークタグの設定のない文書でも、AI Assistantのサマリー機能では、サマリーを章に分けて返してくる。このあたりは、PDFのことをよく知ったアドビだからこそで、PDFという文書の性格を理解し、人間が仕事を効率化すべく最適な形式で回答を提供してくれる。

昇塚氏は、「さまざまな信頼できる情報は、基本的にPDFフォーマットで流通しているケースが非常に高く、たくさんの情報資産がPDFドキュメントとして眠っています。その中から重要な情報を抜き出そうとすると、1件1件人間が読んでいくしかありませんでした。そういった大量の非構造化された情報資産から効率よくインサイトを引き出そうというのが、AI Assistantが目指しているところです」と語った。

AI倫理に従い情報流出させない取り組み

Adobe AcrobatではAdobe Fireflyと同様にAI倫理に従いプライバシーやセキュリティ、情報の正確性を徹底している。情報の正確性に関しては、前述の通り原則、読み込んだ文書内からのみ情報を抽出して回答しているため、正確性を担保している。

プライバシーやセキュリティに関しては、AI Assistant機能が、文書を解析するために一度クラウドへ送る必要があるため、企業側からすると情報の流出が懸念されるが、送られた文書は学習材料として利用することは一切ない。また、クラウドに送られた文書は12時間しか保持されず、その時間が経過すれば自動的に削除される仕組みになっている。

このため、たとえ企業のコンフィデンシャルな情報に対してAI Assistantを利用したとしても、流出するおそれは極めて低い。

「コンフィデンシャルな情報に限らず、例えば作業途中の未完成な情報の入った文書が、もし学習材料として使われたら、情報の正確性が著しく損なわれることになります。また学習してよいかの判断をする必要があり、それは非常に面倒な作業が発生します。Adobe Acrobatではそうした作業の必要がなく、Adobe Acrobatで読み込んだ文書内で完結しているので、とてもシンプルかつセキュアな機能になっています」と昇塚氏は語った。

アドビのこうした取り組みは、生成AIを活用したい企業にとって後押しになるが、ネットに広がる情報を収集して回答したほうが母数は大きく、幅が広がるのではという意見もあるだろう。その点について昇塚氏は「ネット上の情報にはかなりノイズになるものも多く、正確性に懸念があります。それよりも、ある程度対象ドキュメントを選択するところは人間が判断し、そこからインサイトをAIが抽出。成果物に仕上げるところは人間のインテリジェンスが入って作り替えていくような、人間とAIの共存を想定した機能になっていると思います」とした。

日本語版は現在開発中だが、日本のユーザーでも英語版を利用すれば、AIアシスタントの機能を体験できる。また、取材した2024年5月時点では1件の文書に対しての解析に限られていたが、6月18日に複数の文書に対して解析できる機能が発表された。

今回紹介した生成AIを活用した機能は、いずれも各アプリケーションに組み込まれるが、利用するには制限や追加料金が必要だ。まず、最初に紹介した生成AIによる画像生成は、利用するごとに1クレジットを消費する仕組みになっている。契約するプランが単体アプリだと1人月に700クレジット。コンプリート版、Proエディション版では1200クレジットとなっている。

また、AI AssistantはAdobe Acrobatというツールの中の1機能として利用できるが、利用するには別途追加料金が必要だ。

まだまだ生成AIの技術は発展途上の段階であり、AI Assistantは日本語版の登場に期待したいところだ。いずれにせよ、これらの機能はすでに作業を大幅に軽減してくれている。ビジネスを加速させるアドビの取り組みは、企業にとって必要不可欠な存在となるはずだ。

関連サイト

Adobe Creative Cloud

おなじみのAdobe PhotoshopやAdobe Illustratorをはじめ、新登場のAdobe Premire Rushなどデスクトップ/モバイルアプリ、さらにフォントやストレージなどの各種サービスがいつでも利用可能。随時アップデートされ、生成AI機能も活用した新たなクリエイティブな世界で、ビジネスを加速させる。

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