日本のスマートホームは私が普及させる
便利で快適な住空間をより多くの人に利用してもらう

〜『HOMETACT』(三菱地所)〜 前編

2021年11月、三菱地所はスマートフォンのアプリやスマートスピーカーを使って住設機器および家電などをまとめて操作・管理できる総合スマートホームサービス「HOMETACT(ホームタクト)」を開発し、自社物件への導入を開始した。スマートホームという言葉は以前より広く認知されていたが、普及には至っていない。しかし毎日の暮らしが便利になるスマートホームは必ず普及すると確信した三菱地所の橘 嘉宏氏は、事業化に向けてまい進した。今回はHOMETACTの企画と開発に携わった同社の橘氏に、日本におけるスマートホームのビジネスの可能性について話を伺った。

日本でスマートホームが普及しない理由
不便だから使ってもらえない

角氏(以下、敬称略)●これまでスマートホームは家電メーカーやIT企業が製品やサービスを提供してきました。総合デベロッパーである三菱地所さんがスマートホームをサービス提供するというのは興味深いですし、これまでと違った展開が期待できますね。まずは「HOMETACT(ホームタクト)」のサービス内容と特長を教えてください。

橘氏(以下、敬称略)●ありがとうございます。角さんがおっしゃる通り、これまでのスマートホームに関連する製品やサービスは家電メーカーやIT企業が提供しています。そのため利用するためのアプリが個別に提供され、利用する製品やサービスが増えるとアイコンが増えて操作が面倒になるという課題がありました。

●本当にその通りです。実際に私のスマホにも家電を操作するためのアプリがたくさんインストールされていて、画面にアイコンがひしめいています。

●家庭で使っている家電をはじめ空調やお風呂、電気などの住設機器を遠隔で操作して便利に使って暮らしを快適にすることがスマートホームの目的であるはずですが、最初のアプリを起動するところが不便だと多くの人は日常的に使おうとは思いませんよね。

●それがこれまでスマートホームが普及しなかった要因の一つというわけですね。

●その通りです。それから住宅には例えばエアコンやお風呂などの住設機器が取り付けられていますが、自宅をスマート化したいと考えた場合、ユーザー自身でIoT対応の製品を設置したり設定したりするのは難しいですよね。この時点で諦めてしまいます。あと製品に何か不具合があったときの対応も不安という声も聞かれます。

●確かに玄関の鍵や照明などのIoT対応製品を使いたくても、買うのは簡単ですが設置するのは素人では無理ですからね。購入して設置した後も玄関の施錠はこのアプリ、照明の操作はこのアプリという使い方をしていたら、便利さを実感できないでしょうね。

●まさにその課題が日本でスマートホームが普及しない理由だと考えています。メーカーや製品およびサービスごとに、それぞれ個々にIoT化が進むことによってユーザーは使いにくくなり、提供するビジネス側も使いづらいものをわざわざ薦めても苦情がくるだけだと諦めてしまいます。

東京・赤坂にある三菱地所ホームのモデルハウス「赤坂ハウジングギャラリー」で「HOMETACT」を実際に体験できる。

さまざまなメーカーのIoT機器を
まとめて操作・制御できるプラットフォーム

HOMETACTのスマートフォンアプリの画面。誰もが直感的に使えるシンプルなデザインとなっている。「マイシーン」には状況や気分に応じた好みの住空間をワンタッチで演出できる。

●HOMETACTでは導入障壁となる課題をどのように解決しているのですか。

●まずHOMETACTは照明、エアコン、お風呂などの給湯器、カーテン、そしてロボット掃除機など、複数のメーカーのIoT機器を一つのスマートフォンのアプリで操作できます。これまでのように個別にアプリを起動しなくても、HOMETACTのアプリからIoT対応の家電や住設機器をまとめて操作できます。しかも個別の設定が不要でログインするだけですぐに利用を開始できます。

 アプリのユーザーインターフェースも重要です。アプリの操作が難しいと使ってもらえません。ですからHOMETACTのアプリのユーザーインターフェースは直感的に操作できるシンプルで分かりやすいデザインに仕上げています。

 便利で面白い機能もあります。アプリで「おはよう」や「行ってきます」「ただいま」といった「シーン」を設定するとアプリをタップしたり、スマートスピーカー経由で話しかけたりするなどのワンアクションで複数のIoT機器をまとめて動かせ、シーンに応じて設定した通りに住空間を演出できます。さらにWi-FiスピーカーのSonosとも連携が可能なので、照明による空間演出だけではなく、お気に入りの音楽を流したり天気予報を確認したりすることもできます。

●それは便利な機能ですね。スマートスピーカーに「行ってきます」と言えば、照明や家電の電源を一斉にオフにでき、施錠も自動的にされるといった使い方ができるわけですね。

●その通りです。それから時間や位置情報などをトリガーとして複数のIoT機器をまとめて自動で動かせる「自動モード」という機能もあります。トリガーには「家まで100メートル近づいたら」とか「毎週日曜日の12時になったら」、「鍵を閉めたら」「鍵を開けたら」といった条件が設定できます。また季節によって変わる日の出、日の入りと連動した設定もできます。

●こうした使い方の想定が毎日の生活に寄り添っていることが分かりますね。こうした考え方でサービスを構築していかないと日常生活で使ってもらえないですよね。

 ところでHOMETACTはさまざまなメーカーのIoT機器をまとめて操作、制御できるということですが、対応している製品やサービスはどのくらいあるのですか。

●対応デバイスはスマートスピーカーやスマートディスプレイ、スマートロック、給湯コントローラー、赤外線コントローラー、スマートスイッチ、スマートカーテン、ロボット掃除機、ホームシアター、スマートライトなどです。

 これらは一例で、対応しているIoT機器や住設機器はたくさんあります。HOMETACTはオープンなプラットフォームで構築していますので、さまざまなIoT機器に対応しやすいという特長があります。対応機器は今後も拡大を続けていきます。

●先ほどのお話ではユーザーサポートのスマートホームの普及の障壁でしたね。HOMETACTではどのようなユーザーサポートサービスを提供しているのですか。

●HOMETACTはパートナーとの協力によってサービス利用開始前の設置や設定を行う「設定サービス」をはじめ、エンドユーザーや管理会社さまなどの導入先さまからの問い合わせを受け付けるコールセンターの提供、接続機器の不具合や設定フォローなどの「駆け付けサービス(有償)」を提供するためのインフラの整備など、導入からアフターケアまで一貫したサポートサービスを用意しています。

(左)フィラメント 代表取締役CEO 角 勝
(右)三菱地所 住宅業務企画部 新事業・DXユニット 統括 橘 嘉宏

 次回の後編では橘氏がスマートホームの事業化に取り組んだきっかけと、事業化までの経緯、今後のビジネスの展望について話を伺う。