日本のスマートホームは私が普及させる
便利で快適な住空間をより多くの人に利用してもらう

〜『HOMETACT』(三菱地所)〜 後編

これまでスマートホームの要素となる製品やサービスは家電メーカーやクラウドサービスプロバイダーが提供してきた。縦割りの業界構造から生まれるサービスは、エンドユーザーだけでなく採用企業側のUX(顧客体験)も損ねており、日本でのスマートホームの普及を停滞させている要因の一つとなっている。三菱地所の総合スマートホームサービス「HOMETACT(ホームタクト)」は不動産会社の強みを生かした仕組みとサービス内容で、「日本のスマートホーム市場の確立と成長に貢献していく」と企画・開発に携わった橘 嘉宏氏が意気込む。後編の今回は、HOMETACTのビジネスの展望を伺う。

HOMETACTは東京・赤坂にある「リフォームラボ赤坂」や横浜にある「三菱地所のリフォーム リフォームショールーム内 KIGOCOCHIショールーム」、大阪・箕面市にある「箕面ホームギャラリー」、そして昨年12月8日に東京・大手町にオープンした「playground 大手町」の4カ所で体験できる。

不十分な顧客接点の改善から発想
10年後の普及を見据えて日本で展開

角氏(以下、敬称略)●橘さんがスマートホーム「HOMETACT(ホームタクト)」の企画・開発に携わったきっかけは何だったのですか。

橘氏(以下、敬称略)●今の部署で会員組織「三菱地所のレジデンスクラブ」の管理システムやグループ会社のお客さま情報の管理システムなどを一つのCRMシステムに統合するプロジェクトにも携わりました。

 その際に当社が運営する会員組織で提供していたコンテンツやサービスだけでは、お客さまに1日に複数回接することができず、顧客接点として不十分であることが分かりました。そこで顧客接点を増やす仕掛けを検討しました。

 CRMシステムの統合に携わってITやIoTに関する情報に敏感になっていたので、その領域で不動産会社の強みを生かせる方法として、まず始めにスマートロックに着目しました。スマートロックは1日に少なくとも外出時と帰宅時の2回は利用されます。家族がいれば利用回数はもっと増えます。

 さらにスマートロックをネットワークにつなげて、ほかのIoTデバイスも連携させればお客さまの利便性の向上につながるとともに、利用する機会、すなわち顧客接点も増えていくと考えました。この発想がスマートホームにつながりました。

●スマートホームという言葉はだいぶ前から日本でも定着していますが、普及している感じはしません。ビジネスの可能性を感じたのはなぜですか。

●スマートホームの先進国である米国に何度も出張してスマートホームの普及状況や製品やサービスの動向などを目の当たりにし、日本よりも10年は進んでいると実感しました。逆に捉えると日本も10年後は米国と同じ方向に進むと見ることが可能です。ですから今から取り組みを始めるべきだと確信しました。

●日本でのスマートホームのビジネス展開について、どのようなイメージを描いていたのですか。

●家をスマート化するだけではなく、それにひも付くサービス、例えば管理業務やセキュリティ対策、ヘルスケアなどと連携することでビジネスを広げていけると考えました。実際に米国ではスマートホームにひも付く事業領域がたくさんあるのですが、それぞれがどれも1兆円とか2兆円といった市場規模に成長しています。

 日本でもスマートホームにひも付けられる製品やサービスがたくさんありますが、ベンダーごとの縦割りで提供されています。スマートホームは家や建物に関わるビジネスですから、不動産会社が陣頭指揮を執り、ひも付く製品やサービスを束ねるプラットフォームを構築、提供することで日本にスマートホームを普及させられるのではないかと仮説を立てました。

 2020年1月に初めてラスベガスで開催される世界最大のテクノロジー見本市であるCESに参加した際に、世界のスマートホームの潮流に取り残されている日本市場を目の当たりにし、危機感を覚えました。同時に海外のサービスをローカライズするだけでは日本の不動産商流にフィットさせるのは難しいことも痛感し、日本市場向けの新たなサービス開発を志向するに至りました。

HOMETACTの今後の注力領域としてHEMS(Home Energy Management System)機能である「HOMETACT Energy Window」が挙げられる。各住設機器やスマート分電盤および蓄電池などとの連携によるエネルギー消費状況の可視化などにより、CO2削減をもっと身近にしていくことが目的だ。

時間の経過とともに低下する物件の価値を
HOMETACTでスマート化することで高められる

●私もスマートスピーカーやクラウドサービスを利用して自宅をスマート化していますが、設定が面倒で操作も分かりづらいと感じています。スマート家電なら自分で購入できますが、エアコンや給湯器といった住設機器を含めてスマート化するとなると、一般の消費者の手に負えないという課題もありますね。これが普及しない原因の一つではないでしょうか。

●そこが不動産会社がスマートホームを提供する強みにつながる部分です。スマート家電にしても住設機器のスマート化にしても、お客さまは面倒な作業は一切したくないものです。この要望を満たさなければ、日本でスマートホームは定着しないと考えています。

 そこでHOMETACTではスマート家電やスマート化された住設機器を一つのプラットフォームに束ねて、一つの画面(アプリ)からログインするだけで利用できるようにすることに加えて、全国の工務店さまに対して、全国の建材商社さまと連携しながら、HOMETACTと連携可能な住設機器を一括仕入れできるような仕組みを構築しています。

 お客さまがHOMETACTで自宅をスマート化したいと考えた場合、工務店さまにご依頼いただければ住設機器の調達から工事、設定、保守までワンストップで導入できます。

 今後はHOMETACTを取り扱うパートナーさまを増やして、全国を網羅していきます。

●HOMETACTのビジネスモデルとしては、プラットフォームサービスの利用料金が収益となるのですか。

●はい、当社は連携可能な住設機器の卸売りや工事自体には一切入らず、設定作業料と利用料金を月額などで頂くシンプルな収益モデルになっています。導入に関わるイニシャルコストを最低限にして、最大の物件価値向上を目指していただくためです。

 新築の集合住宅や戸建てへの導入というビジネスはもちろん、管理会社さまが管理マンションの空室に順次HOMETACTを導入していくことで物件の価値を高めて賃料を上げていくというビジネスモデルにも力を入れています。戸建てにしても集合住宅にしても、新築から時間の経過とともに建物、物件の価値は下がっていきますが、HOMETACTを導入することで価値を高め続けることができます。

 今後、HOMETACTと連携する製品や機器をさらに増やしていくとともに、例えば昨年11月29日よりHEMS(Home Energy Management System)機能である「HOMETACT Energy Window」の提供を開始しました。これは各住設機器やスマート分電盤などとの連携により、エネルギー消費状況の可視化や料金目標管理ができるサービスです。今後はCO2削減をもっと身近にしていくなど、省エネをテーマとしたサービスも拡充していきます。

(左)フィラメント 代表取締役CEO 角 勝
(右)三菱地所 住宅業務企画部 新事業・DXユニット 統括 橘 嘉宏