管理部門出身者の一人情シスが激増

――一人情シスが抱える課題を含め、昨今の潮流についてお聞かせください。

 コロナ禍によって、以前は専任のIT担当者を置かなくてもそれほど困っていなかった中小企業もバックアップやリモートワーク、PC資産などの情報を集約して管理しなければいけない状況になりました。その結果、従業員100人以下でも情シスを置く企業が大幅に増えました。これまでの一人情シスは、もともとPCに詳しい人が任命され、自ら学習する人が多かったのですが、最近では総務や人事など管理部門の人が兼任するケースが増えています。そのためIT初心者の一人情シスが中小企業で激増し、ひとり情シス協会にも問い合わせが殺到しています。

 これらの悩みを支援する目的で開設したのが「ひとり情シス大学」です。一日研修でポイントがわかるようにカリキュラムを組んでいますが、実に入校者の78%が管理部門の出身者です。この特性を十分に理解し、役に立てるような提案をする必要があります。

――日本は中小企業のセキュリティ事故が欧米に比べ7 倍も多いとされています。セキュリティ事故を減らすための対策を教えてください。

 ひとり情シス大学では、例えば年間一人当たり2,000円であればこのようなセキュリティ対策の内容、4,000円ならさらに充実するなど、6段階のコースに分けて説明しています。セキュリティ対策をする/しないの議論ではなく、段階のあるソリューションを提示することが検討するきっかけにつながると思います。

予算別に説明することで、セキュリティ対策についてイメージすることができる

 中には0円の提案もあり、我々はこれを「武田信玄コース」と呼んでいます。武田信玄の名言である「人は城、人は石垣、人は堀、情けは味方、仇は敵なり」にならったもので、ロイヤリティが高い社員だけならば、パスワードも定期的に変えてUSBメモリーも持ち出さないからです。これを徹底すれば0円でもある程度は対応できるはずです。

 とはいえ、その状態に甘んじてはいけません。サイバー攻撃で事業が停止し、復旧に5,000万円以上かかった事例が20%もあるので、いつ自社が攻撃されるかを念頭に置くべきです。アメリカは中小企業でもセキュリティ事故の通知が義務付けられており、順守しないと罰金を1日あたり500万円取られます。そういった事情もあって、アメリカの企業はセキュリティ対策に年間一人当たり25,000円ほどをかけています。日本は年間一人当たり2,700円ほどなので、その差は歴然です。

日本とアメリカの中小企業を比較すると、IT運用とセキュリティ対策にかけている費用が大幅に違うことがわかる

 また、日本の中小企業でセキュリティ事故が多い要因としてOSの古さが挙げられます。日本では前世代のOSを普通に使っている中小企業は多いですが、OSを最新化することは基本中の基本です。

セキュリティ事故を防ぐためにOSを最新化する重要性

――なおのこと最新の Windows 11 Pro への移行が急務となりますね。中堅・中小企業が Windows 11 Pro 搭載PCを導入するメリットについて販売店はどのように提案すればいいのでしょうか。

 販売店の皆様には、OSを最新化する重要性を第一に伝えてほしいです。これにより日本国内のセキュリティ事故を低下させることができると考えます。OSをアップデートする作業は一人情シスには少なくない負担ですが、 Windows 11 Pro 搭載PCの導入によって、予算が限られた中でのセキュリティ対策が可能です。なぜなら標準搭載されている Microsoft Defender も高機能化し、脅威を防げることが証明されているからです。またPCのキッティングには Windows Autopilot、バージョン更新には Microsoft Intune(Microsoft 365利用時のみ)といった効率的な管理機能が備わっており、大幅に作業工数を削減できます。

――そのほかに注目すべきポイントはありますか。

 一人情シスがPC選定時に重視するポイントとして「PCの起動の速さ」を上げる方が多いのが特徴です。例えば、最新かつ値段のバランスが良いPCに、起動の速いセキュリティソフトを提案すると、喜ばれます。販売店は多数の製品からPCやソフトを選択できますから、そういった一人情シスの希望も鑑みて提案すれば、商談もしやすいでしょう。

 また、新しいPCを一人情シスの方が社内に配布する際のメッセージを添えて提案すると、喜ばれます。例えば一人情シスの方が「今回は軽さにこだわりました。どこでも使いやすいです!」「業績が厳しく今回は価格優先で決めましたが、頑張って業績を上げていきましょう!」などと社内のユーザーに一言伝えることで機種選定基準も明確になり、混乱を与えなくなります。

 先ほども話したように管理部門経験者の一人情シスが増えています。この人たちは社長や経営層と直接コミュニケーションができますし、社内ユーザーへの周知徹底も得意です。そう考えると、今はITソリューションやデジタル化を提案するにはとても良い環境なのです。とくにセキュリティやガバナンスなどの観点で訴求すると、関心を持たれると思います。

――最後に読者へのメッセージをお願いします。

 中小企業、中堅企業へのアプローチでは経営層との距離が近くなるので、ビジネスに結びつくチャンスが増えます。だからこそ単なる営業ではなく、困りごとを解決するスタンスで臨んでほしいですね。情シス初心者が増えたことで頼られることも多くなるはずですが、「最低限この点までは、ご自身で確認されるといいですよ」と指摘してあげることもITリテラシー向上には必要です。適切なアドバイスによってお客さまのIT力が強化されれば、情シスの方々も「しっかりと我が社のことを考えてくれている」と思うようになり、長期的な信頼関係の構築につながるはずです。

ひとり情シス協会
清水 博 氏