民間企業のIT市場規模は増加傾向

IT Investment

 矢野経済研究所は、2022年度の国内民間企業のIT投資実態と、今後の動向を調査した。同調査によると、2021年度の国内民間企業のハードウェア・ソフトウェア・サービスを含むIT市場規模は、前年度比4.5%増の13兆5,500億円となった。

 2021年度における市場拡大の背景には、コロナ禍を契機に普及したテレワークのためのITインフラへの投資拡大がある。また、テレワークが困難な業種・業務においても、リモート対応の機会が増加。そのため、ECの強化、AIを活用したコールセンター向け投資、デジタルマーケティング関連への投資拡大も市場に影響を及ぼした。さらに、コロナ禍で停止していたプロジェクトの再開など短期的なマイナスからも回復する傾向があったと分析している。

 2022年度はデータを活用し、競争力や顧客エンゲージメントを高める取り組みも増えた。また、2022年1月に施行された「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」(電子帳簿保存法)、2023年10月に施行予定の「適格請求書等保存方式」(インボイス制度)なども市場を後押しし、企業のIT投資は今後も拡大が見込まれる。そのほか、サイバー攻撃による被害が増加傾向にあることから、セキュリティ対策やBCP対応も市場拡大につながるという。

 2023年度以降は、基幹システムやサーバーのリプレースのほか、前年度と同様にセキュリティ対応やデータ活用の取り組みにより、市場の拡大が続く見込みだ。さらに、データを活用するための人材不足が深刻化していることから、リスキリングやリカレント教育などのIT人材の育成にも今後は投資が増加するとみている。

 同社はそうした背景から、IT市場は2022年度に前年度比4.0%増の14兆900億円、2023年度は同2.2%増の14兆4,000億円、2024年度は同1.4%増の14兆6,000億円の堅調な成長を予測している。

DXへ取り組む意欲が高まる

 同調査では、中小企業がDXへ取り組む意欲に関しても分析している。革新的な取り組みとIT刷新の2軸に分け、それぞれ8段階の数値での回答を集計した。この結果、平均値はそれぞれ、革新的な取り組みが4.39、IT刷新が4.57となった。どちらも標準値の5に近い値を示している。

 2019年の回答結果の平均値は、革新的な取り組みが3.37、IT刷新が3.78。2022年と比較するとIT刷新に対する意欲は0.79、革新的な取り組みに対する意欲は1.02向上した結果となった。近年、企業のDXに対する意欲は拡大しており、特に革新的な取り組みに表れている。ビジネス状況が目まぐるしく変わる中、IT刷新では不十分だと考える企業が増加傾向にあると分析した。

※2018〜2021年度は経済産業省および総務省の調査をもとに矢野経済研究所推計。
※会計年度、かつIT投資額ベース。
※2022年度以降は予測値

既存システムの機能追加/再構築が増加傾向

No-Code/Low-Code

 ノークリサーチは、中堅・中小企業が実際に活用している、または想定しているノーコード/ローコード開発ツールの用途についての調査を実施した。調査においては、ノーコード/ローコード開発ツールを「プログラミングが全く不要または簡易なプログラミングによってアプリケーションを開発できるツール」と定義し、「超高速開発ツール」「PaaSとして提供されているもの」(以下、PaaSツール)など六つの分野に分類している。また、ノーコード/ローコード開発ツールにおける用途として「新規業務システム開発」「既存システムの機能追加」などの設問を用意し、中堅・中小企業全体における導入済み/導入予定の回答割合を集計している。

 その調査における「導入済み」と比較した「導入予定」の増減を詳細に見ていくと、「既存システムの機能追加」や「既存システムの再構築」は35.6%、33.0%と高い値を維持。「レガシーマイグレーション」や「クラウドサービス間の連携」は25.0%、26.1%と増加している。その一方で、「新規業務システム開発」は18.2%に減少。さらに「Excel代替のシステム開発」はピークを過ぎた可能性が指摘されている。またRPAとの使い分けが意識され始め、「ヒトによる手作業の自動化」も今後は減少するとみている。

 しかし、上記の傾向は開発ツールの分野によって変わると同社は指摘している。例えば「既存システムの機能追加」をするためのツールとしては、超高速開発ツールは全体傾向と同様に減少している一方で、PaaSツールとしては大きく増加しているという。反対に「レガシーマイグレーション」の用途では、超高速開発ツールは増加、PaaSツールは減少している。

 さらに、超高速開発ツールでもPaaSツールでも、クラウドサービス間の連携の用途の需要が高まっているという。クラウドであるPaaSツールが導入済み(29.3%)、導入予定(31.5%)と高い値を示していると同時に、超高速開発ツールについても「導入予定」の割合が高く(27.2%)、今後増加する可能性が指摘されている。

CASB運用監視サービス市場は2桁成長

Cloud Access Security Broker

 アイ・ティ・アールは、国内において従業員のクラウドサービスの利用を監視し、適切なセキュリティ対策を行う運用監視サービス「Cloud Access Security Broker」(CASB)の市場規模予測を発表した。同調査によると、2021年度の売上金額は前年度比51.2%増の12億7,000万円となった。

 市場拡大の背景には、企業システムのクラウドシフトに伴うクラウドセキュリティ対策ソリューションとして、CASBの導入が拡大していることがある。

 しかし、現状国内では慢性的なセキュリティ専任要員、およびスキル不足から、CASBを使いこなせない企業が多い。そのため、CASBの販売、実装だけでなく運用監視サービスをセットで提供するベンダーが増加し、市場が急拡大している。2022年度は前年度比33.1%増を見込み、2021〜2026年度にかけての年平均成長率は12.8%、2026年度には23億円に達するとアイ・ティ・アールは分析している。同社のコンサルティング・フェロー 藤 俊満氏は、同市場の増加傾向を次のように分析する。「新しい働き方としてデジタルワークスタイルが定着化に向かっており、セキュリティアーキテクチャも境界防御型からゼロトラスト型に移行しつつあります。CASBは、ゼロトラスト型セキュリティの中心的なサービスであり、導入が加速していくとみられますが、機能が豊富で設定と運用は難しいことから、今後も外部のSOCベンダーに運用監視を委託するケースが増えるでしょう」

※ベンダーの売上金額を対象とし、3月期ベースで換算。2022年度以降は予測値。