デジタルガバメントを先行させて
民間への波及で地域のデジタル化を実現する

日本DX|分析・提案

デジタル田園都市国家構想では都市と地方との格差を是正し、日本の全土で誰もがデジタル化のメリットを享受できる社会を実現することが目的とされている。そのためITに関わるあらゆる領域で商機が生まれることが期待されている。果たしてその期待は現実となるのか、それとも期待外れとなるのか。デジタル田園都市国家構想が国内IT市場に及ぼす影響について、IT専門調査会社であるIDC Japanのアナリストに見通しを伺った。

デジタルありきに疑問
ビジネスの確立が必要

IDC Japan
ITスペンディング
グループマネージャー
村西 明 氏

 デジタル田園都市国家構想では「デジタル」による社会の変革と地方創生が主軸となっている点が特徴だ。この点についてIDC Japan ITスペンディング グループマネージャー 村西 明氏は地方創生やより良い社会を実現することについて「デジタルありき」の進め方に問題を指摘する。そして「地域を活性化するために求められているのはデジタルの活用よりも、子育てがしやすいなど生活しやすい環境の実現です」と語る。

 生活がしやすい街づくり、いわゆるスマートシティ(スーパーシティ)の実現には二つのアプローチがある。既存の街を作り変える「ブラウンフィールド型スマートシティ」と、まっさらな場所に新たな街を構築する「グリーンフィールド型スマートシティ」だ。

 日本ではブラウンフィールド型が一般的で、国や自治体が主導して進められるケースが多い。一方のグリーンフィールド型は民間企業が主導して進められるケースが多い。

 グリーンフィールド型としてパナソニックが進める「サスティナブル・スマートタウン」が挙げられる。神奈川県藤沢市のほか大阪府吹田市でも実施されている。また神戸では「パナホーム スマートシティ潮芦屋」を、仙台では三菱地所などと協力して「泉パークタウン」も進めている。

 村西氏は「パナソニックの取り組みは自社製品やソリューションの展示場の役割にもなっており、ビジネスのエコシステムが構築されていることが特徴です」と説明する。つまりビジネスとして成立しているため、継続が可能であるということだ。

ITビジネスを確立するための
仕組みを見いだすことが課題

 それではブラウンフィールド型で多い公共主導の場合はどうか。村西氏は「ブラウンフィールド型ではさまざまな取り組みが個別に進められるケースが多いのですが、それぞれを単独でビジネス化するのは難しいのが実情です」と指摘する。

 グリーンフィールド型がうまくいっているのは取り組み全体の目的が明確であり、ビジネスベースで構想し、進めていることが成功要件と言える。

 一方で目的も重要だ。村西氏はグリーンフィールド型とブラウンフィールド型を問わず、また民間主導と公共主導を問わず、ウェルビーイングの観点で進められているプロジェクトはうまくいっていると説明する。例えば会津若松でのスマートシティの取り組みでは会津大学と連携した人材育成がテーマとなっており、また千葉県の柏の葉スマートシティでは高齢者が地域で活躍する取り組みが行われている。

 村西氏が指摘した通り、成功事例を見渡すと「デジタルありき」の進め方ではないことが分かる。ではITに関するビジネスチャンスは見いだせないのだろうか。村西氏は「現状はスマートシティという領域においてITビジネスを確立する仕組みが見えていない状況です」と説明する。

デジタルガバメントが突破口
補助金の情報を周知すべき

IDC Japan
ITスペンディング
リサーチマネージャー
市村 仁 氏

 デジタル田園都市国家構想に限らず社会で広くデジタルテクノロジーを活用して、あらゆる領域で変革を起こしてより良い社会や暮らしの実現を目指す取り組みは今後も続いていくだろう。この流れの中でITビジネスを伸ばすにはどのようなシナリオが有効なのだろうか。村西氏は「デジタルガバメント」が突破口となると強調する。

 村西氏は「中央省庁や地方自治体の業務や情報がデジタル化され、あらゆる手続きや行政サービスの申請がデジタル化されることで、それを利用する市民や企業もデジタル化しなければならなくなるというシナリオです。まずデジタルガバメントが推進されることで、地場のIT企業が自治体にクラウドやRPA、AIなどのサービスやソリューションを提供することになります。次にデジタルガバメントによるデジタル化が民間に波及することで、地場のIT企業が自治体に提供したサービスやソリューションを地域の企業にも提供することになり、地域でのITビジネスが伸びていくとみています」と説明する。

 実際、IDC Japanが実施した調査では、企業や組織がDXを推進する際に国や自治体のデジタル化への取り組みが重要であると調査対象の62%が回答している。IDC Japan ITスペンディング リサーチマネージャー 市村 仁氏は「会津若松では社会インフラやガバメントセクターでの取り組みが徐々に地場の企業に波及しています。中堅・中小の製造業にSaaSでソリューションを提供するなど、具体的な動きも出てきています」と説明する。

 最後に村西氏は「デジタル田園都市国家構想では数多くのプロジェクトが計画されており、補助金が出るものも多数あります。こうした情報を地方の企業に伝えることでデジタル化を促進できるでしょう」と語る。これは地場のIT企業の役割であろう。