「AI PC」というカテゴリーだけを聞くと「AIを使うためのPC」と捉えがちだ。その見方も正しい一方で、実際にAI PCを使い込んでみるとAI PCの真の魅力が見えてくる。それは性能や省電力性といった従来の価値の進化と、新しい体験の広がりだ。本記事では、PC-Webzineでも連載を持つ戸田 覚氏の視点から、NPUがもたらす変化や最新プラットフォームの実力を踏まえ、法人導入の観点でAI PCの真価を整理していく。

NPU搭載のPCならではの
便利機能はこう使う

戸田覚事務所 代表取締役
戸田 覚

 今回は、昨今話題になっているAI PCについて深く切り込んでいきたい。個人的にも、すでに複数台のAI PCを利用しているのだが、そのメリットはAIだけにとどまらない。そのあたりを詳しく紹介していこう。

 そもそも、AI PCと一口に言ってもその定義はあいまいだ。基本的には「AIに強いPC」ということになる。だが、明確な基準はなく、メーカーがそれぞれにAI PCと呼称しているに過ぎない。とはいえ、一つの基準としてはキーボードにCopilotキーを搭載する最近のモデルが多いようである。

 逆に、明確な基準を持つAI PCの一種が「Copilot+ PC」だ。こちらは、NPUが40TOPS以上で、メモリーが16GB、ストレージ256GB以上とされている。また、生体認証も搭載する。そもそも、おなじみのCPUは計算をつかさどる。また、GPUが画像処理を担当するのもご存じの通りだ。その上で最近よく聞く新顔のNPUはAIのためのプロセッシングユニットなのだ。

 実際には、NPUを利用するアプリケーションはまだ多くないのだが、今後のソフトウェアの進化で役立ってくれるはずだ。CPUやGPUでAIを動かせるが、それをNPUに任せることで全体の処理性能が向上するという側面もある。つまり、CPUやGPUに対する負荷が軽減されるわけだ。

 すでにCopilot+ PCでは、ユーザーのPC操作を記憶して後から探せる「リコール」機能、クリックした情報から次の操作を導く「Click To Do」などの独自機能がいくつか搭載されており、それぞれ便利に利用できる。個人的には、まだプレビュー版だがリコール機能の素晴らしさには舌を巻いている。リコール機能は、自動的に数秒おきに画面のスクリーンショットを撮影する。これがローカルに保存されているのだが、AIが画像やテキストを認識・分析している。これによって、過去に行った作業にさかのぼれるのだ。例えば、削除してしまったメールの内容を見返したり、どこに保存したか分からないファイルを探したりすることもできる。もちろん、検索も可能だ。テキストで検索するだけでなく「先月の展示会のレポート」というキーワードで検索すると、展示会の写真を認識して探せる。「展示会」というテキストがなくても探せるわけだ。

 こんな処理を、CPU、GPUに大きな負荷をかけることなく、裏で処理しているのがCopilot+ PCのNPUの凄さだ。今後はこういった機能が順次追加されていくことだろう。

AIを使わなくても
AI PCが優れている

 まとめるなら、現時点でAI PCしかできないことは、Copilot+ PCの機能くらいしかない。マイクロソフトの「Microsoft Copilotやグーグルの「Gemini」、アンソロピックの「Claude」などのAIは、一般的なPCでも利用できるので、AI PCである必要はない。ローカルで処理しないAI作業は、PCの性能にはさほど依存しないからだ。詳しい方は、LLM(大規模言語モデル)をローカルで利用しているだろうが、そうなってこそ、AIを手元で動かす醍醐味が実感されるだろう。近い将来、そんな使い方も主流になってくると予想されるが、現時点では仕事の現場でローカルAIを使う用途は限定的だ。

 つまり、AI PCを手に入れたからといって、AIをバリバリ活用できる——というわけではないのだ。前述のようにAI PCには明確な定義がなく、Copilot+ PCのみ定義がある。とはいえ、基本的には最近のモデルで、それなりに性能が高い製品が該当する。

 つまり、AI PCは、高性能な新モデルとして手に入れるのが現実的だ。逆に言うと、「現時点で高性能なPCを手に入れたら、結果としてAI PCだった」というケースもあるだろう。将来を見据えて、今こそ高性能なPCを選ぶべき時期なのだ。

 今最も注目したいのは、インテルの新CPUである「インテル Core Ultra シリーズ 3 プロセッサー」だ。今年から少しずつ登場し始めた新しいCPUで、圧倒的な性能だ。ノートPC用のモデルでも、1〜2年前のデスクトップ並みのパフォーマンスを発揮する。さらに、20時間以上のバッテリー駆動が当たり前になっているのには驚かされる。微細なプロセスルールで設計されているので、省電力性が非常に高いのだ。これはもう、革命的な進化であり、AIを使わなくてもそのメリットは実感できる。

 Snapdragonシリーズを搭載したPCも同様で、パフォーマンスの高さと駆動時間の長さを両立している。こちらも、2026年から登場し始めている「Snapdragon X2」シリーズは圧倒的な性能だ。気になるアプリケーションの対応も随分進んできているので、会社での導入も現実的になってきている。

PCが値上がりする中
どの端末を買うべきか

 すでにご存じの方も多いと思うが、2025年の秋ごろからPCが大幅に値上がりしている。メモリーは3〜5倍程度値上がりしており、SSDも2〜3倍は上がった。結果として、PC本体も値上がりしているのだ。

 2025年前半までは、10万円台前半で十分実用的なモバイルノートPCが買えたが、今や20万円前後からとなっている。特に、メモリーが32GBのモデルは、20万円台後半からでないと選びづらい。

 PCにかかるコストが大幅に上がっているのだ。その理由は、メモリーやストレージの需要がデータセンターに食われているからだ。そう考えると、元の価格には簡単には戻らないだろう。また、価格が落ち着いたとしても、さほど下がらないと予想するべきだろう。なにより、インフレも進んでいるのだ。

 1年前のPCがやけに安価だったのだ。これからは、人気のモバイルノートPCは25〜35万円程度するのが当たり前だと思うべきだ。また、高性能モデルを手に入れたいなら40万円以上することも珍しくない。

 個人で買うのは大変だが、企業では、覚悟を決めて導入するべきだ。そもそも、AIの生産性の高さをうまく享受すれば、30万円のPCは高くない。あまり好ましい話ではないが、人件費1カ月分で、1台のPCが買えると考えるなら、AIによるコストダウンで十分に買えるはず。というより、AIを活用できない企業は、今後生き残れるはずがない。

 PCの世界は日々進化しているが、今にして思うと1995年ごろからの30年間はひたすら順当に進化していただけだった。この頃にインターネットが登場し、我々の仕事や生活は大きく変わってきたが、実は30年ほどはジワジワと進化したにすぎない。

 しかし、2025年ごろからのAIの普及によって、間違いなく産業革命が訪れようとしている。これまでの産業革命は、基本的には機械化など、モノの生産など主としてブルーカラーの働き方改革だった。ところが、AIによる産業革命はホワイトカラーの変化が訪れようとしている。過去経験したことのない進化である。その主役がPCであり、スマホやタブレットだ。ここへの投資を惜しんでいると、AIによる産業革命の波に乗れずに、負け組になってしまうことは明白だ。

 AI導入による競争優位性はDX化など比較にならないインパクトだ。圧倒的な速度感で普及するAIを使える環境を全社員に導入するべきだ。しかも、最新のAI PCなら数年間は十分に現役として役立つはず。今やるべき作業ではなく、2年後、3年後を視野に入れたPC選びをするべきであることは、疑う余地がない。様子見をしている場合ではないのだ。