OSのサポート終了(EOS)まで残り約2カ月となったWindows10。テクニカルサポートや更新プログラムの提供が終了するため、ウイルスやマルウェア感染、フィッシングサイト、なりすましの被害に遭う確率が高くなるなど、さまざまなサイバー攻撃からの保護が難しくなる。OS更新はアップグレードによって解決することもできるが、Windows 7/8などのOSアップグレードは終了しているので買い替えが必要となる。今号では、Windows EOSに伴い最新のWindows 11 PCを紹介する。PCのリプレースによる生産性向上・効率化・セキュリティ強化など各製品の魅力をアピールし、新たな商機となるWindows 11 PCの拡販を促進しよう。

Windows 11 PCのビジネスチャンスとは?
AIとセキュリティで生産力を高めよう

Windows 10 サポート終了(EOS)を10月に控える中、ベンダー各社からさまざまな機能を搭載したWindows 11PCが登場している。一方で、それらを導入する企業側がOS更新の重要性や生産力向上へのIT投資を理解していないと刷新は滞るだろう。本記事では、MM総研が発表した市場調査「2024年度通期 国内パソコン出荷台数調査」を踏まえて、Windows 11へのリプレースシナリオを考えていこう。

国内PC出荷台数は伸長の兆し

MM総研
中村成希

 MM総研の調査によると、2024年度の国内PC出荷台数は前年度比25.4%増の1353.9万台。2024年度の国内PC出荷金額は同32.9%増の1兆6,512億円となった。OS更新とGIGAスクール端末の更新需要により、2025年度の国内PC出荷台数は過去最大の1743.2万台が見込まれる。個人市場は同8.8%増の382.7万台と更新需要による回復傾向が続き、法人市場も同35.8%増の1360.5万台と大きく伸長する予測だ。現在、2025年10月にWindows 10のEOSを控え、PCの更新需要が中堅・中小企業の間で本格化するとみられる。加えてGIGAスクール端末の更新が2025年度に活発化することもあり、台数増加を後押しすると推測している。OSの更新需要は2025年度上期まで市場を押し上げ、GIGAスクール端末の更新需要は2025年度下期がピークとなることが予想される。この結果、2025年度のPC出荷台数は2024年度を上回り、PC市場の活況は2年連続で続く見通しだ。

 メーカー別の国内PC出荷台数シェアでは、NECレノボがトップとなる24.6%で、前年度比0.4ポイント伸ばした(グラフ参照)。法人市場向け出荷台数は前年度比35.4%増の1,002.1万台だ。GIGAスクール需要を除く通常の法人市場では出荷台数が911.3万台で、前年度比28.7%増となっている。メーカー上位5社ではDynabookが大きく伸長しシェアを2.6ポイント伸ばす結果となったが、順位に変化はなかった。大企業を中心としたWindows 10のEOSに備えた端末更新が市場をけん引した結果となっている。現状としては、出荷金額の方が増えている状況だ。大企業などでは支給PCを配る台数が多く額が目に見えて異なってくることから、安価なマシンへの需要が高まっている。

 そのほかにも、PCリプレースに伴いセキュリティやアプリケーションコストなど全体費用をコントロールする必要性が高まっている。そうした中では、企業のニーズに合った製品提案が重要となってくるだろう。市場調査を受けて、積極的に法人向けのPCを売り出しているベンダーは、好調な様子だと考えられる。いわゆるナショナルブランドと言われるようなメーカーでは、企業の情報システム部門と会話するなど現場での使用感を確かめながらPCが設計されているとみられる。また、日本の通勤事情や働き方、環境意識やバッテリー稼働など、ノートPCに求められる要素は増えているといえるだろう。そうした中で、どのようにWindows PCのリプレースを提案していくべきか。

 現状のPC市場の概況について、MM総研 取締役研究部長の中村成希氏は、現状をこう俯瞰する。「Windows 10のEOSが今年の10月に迫っています。多くの大企業はこのEOSに備え、Windows 11 PCへのリプレースを完了しているとみていますが、中小企業はこのリプレースが進んでいません。リプレースの駆け込み需要も発生する見込みですが、10月までに中小企業のリプレースが完了するとは考えにくく、EOS後もWindows 11への更新需要が緩やかに継続すると予想しています。そのため、持続的なリプレース喚起が求められます」

Windows 11 PC販売促進の鍵はAI

 それでは、リプレースが停滞気味なWindows 11に対して、どのような切り口の提案が考えられるのか。中村氏は、AI PCのビジネスでの可能性についてこう説明する。「インテルやAMD、クアルコムが提供しているAI PCの推論性能は、最先端のモデルで40TOPSを超えてきています。しかし、40〜60TOPSもしくはそれ以下でも、より廉価なPCモデルを発売しているケースも見られます。目的はAIを動かすこともありますが、SoC上に内蔵しているグラフィックボードの性能が結構高いケースもあるので、画像処理作業にも向いています。また、3D CADなどを扱う専門職ではないビジネスパーソンに対しては、Web会議や、マーケティング用途などで動画作成や編集をするといった活用に役立てられるでしょう。録音した音声をAIに自動翻訳、自動要約させるなど、通常のPCでは少々負荷がかかる用途で高い性能を発揮します。Copilot+ PCのスペックを要求する業種としてはITやゲーム開発などの業種に提案できるでしょう。一方で、一般企業のAI活用はどうかというと活用度にばらつきがある可能性があります。ですので、強力なAI機能をCopilot+ PCにリプレースした場合に有効活用できるように、日ごろから社内の研修や体制を社員に向けて整備する取り組みが重要だと考えています」

セキュリティポリシーの策定を進めよう

 AI活用に当たっては、セキュリティへの対策も講じておくことも欠かせない。例えばChatGPTなどのAIチャットツールを試しに活用する場合、無造作に企業データをAIに共有することにはセキュリティへの懸念が生じる。Windows 11 PCでクラウドやAI、アプリケーションなどを活用する際の機密情報への対策という意味では、企業側の運用方針が必要となってくるのだ。

「日本政府では、サイバーセキュリティーの取り組みを強化しています。例えば、デジタル庁ではセキュアでコスト効率の高いシステム構築を行える基盤を地方自治体や独立行政法人などに向け提供する『ガバメントクラウド』などを推進しています。通信会社などのセキュリティポリシーも年々厳しくなっていて、監査報告の中に、OSが最新であることは基本的な内容であるために項目に入っていないという状況も見られます。多くの大企業ではセキュリティの機運が高まっているので、OSは最新のものに更新しましょう、といった啓蒙を中小企業へ積極的に行うことが重要です。業務で少しずつAIの活用を促しつつ、社内全体でAI活用に当たってのセキュリティポリシーを策定・施行していくイメージです。最初は難しい部分が多いですが、AI活用を進めないことには差が開いていくばかりです。社内体制のDXやビジネスの差別化を図る意味でもWindows 11 PCへのリプレースは良い機会だと言えるでしょう」(中村氏)

 中村氏は、国内PC出荷台数調査を踏まえてWindows 11 PCのリプレースに当たっての準備とポイントについてこう話す。「AI活用とセキュリティポリシーの策定、ルールの共有は並行して行うことが重要です。最近では、AIとセキュリティをビジネスの柱にする会社も増えています。経営の面で大企業と中小企業とでは規模感が異なりますが、AI活用の推進は、経営者や役員などで集まって雑談のような切り口で会話し、取り組みを始めてほしいですね。100人程度の会社では経営者レベルで、300人超えの企業では役員全体で話し合うようなイメージです。実際に、役員クラスの人からのAI活用についての状況も聞いています。それは技術に対して前向き後ろ向きという話だけでなく、会社が置かれた立場や状況などさまざまな事情を抱えているように見受けられます。昨今注目を集めた生成AIの代表例として『ChatGPT』がありますが、こうしたテクノロジーを即座に使い始める人たちは全体の約15%です。残りの85%ほどの人は使い始めることなく、技術的に置いて行かれることになりかねません。特にIT活用が後手に回りがちな中小企業は、販売店にとってのビジネスチャンスと捉えるべきでしょう。経営者から役員、社員にわたってさまざまな研修やセキュリティ体制整備を一つずつ整備することを念頭に、まずは業務に必要なPCのリプレースを促していきましょう」