【Introduction】
世界各国で進む産業×IT活用
ビジネスに寄与するモニターとは?

業務の効率化を目指してデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進したい企業は多いだろう。しかし、業務に追われDXが追い付いていない企業も存在する。それでは具体的に、世界、国内においてはどのようなIT活用への取り組みが行われているのか。本記事では、電子情報技術産業協会(JEITA)が発表したディスプレイ市場に関する調査内容「Display Vision」を参照しつつ、ディスプレイ市場の潮流と、今後考えられる活用シナリオを模索していきたい。

国を挙げて進むスマート社会化

 IT活用が発展し、国内企業をはじめ一般社会でネットワーク化やIoTの利活用が進んでいる。世界では、ドイツの「インダストリー4.0」、米国の「先進製造パートナーシップ」、中国の「中国製造 2025」など、ものづくり分野でIT技術を最大限に活用していく取り組みが、官民協力の下で打ち出され始めている。 今後もIT技術はさらに発展していくことが見込まれており、従来は個別に機能していた「もの」がサイバー空間を利活用して「システム化」され、分野の異なる個別のシステム同士が連携協調することにより、自律化・自動化の範囲が広がり、社会の至るところで新たな価値が生み出されていくことが予想される。これにより、生産・流通・販売、交通、健康・医療、金融、公共サービスなどの幅広い産業構造の変革、人々の働き方やライフスタイルの変化、国民にとって豊かで質の高い生活の実現の原動力になることが想定される。

 特に、少子高齢化の影響が顕在化しつつある日本において、個人が生き生きと暮らせる豊かな社会を実現するためには、システム化やその連携の取り組みを、ものづくり分野の産業だけでなくさまざまな分野に広げることが求められている。これにより、経済成長や健康長寿社会の形成、さらには社会変革につなげていくことが重要となっているのだ。また、IT技術が普及していなかった分野や領域にも利用浸透を促すことで、ビジネス力の強化やサービスの質の向上につながると期待されている。

 こうした世界の潮流や日本の課題を踏まえ、サイバーとフィジカルを融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立することを目指す「Society 5.0」の取り組みが進んでいる。

 Society 5.0は、日本が目指すべき未来社会の姿であり、狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く新たな社会として政府が掲げているビジョンだ。「第5期科学技術基本計画」(平成28年1月22日閣議決定)において、「サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会」としてSociety 5.0が初めて提唱された。

連携し合うSDGsとSociety 5.0

 国の政策であるSociety 5.0と深い関係があるのが、同じく日本政府が国家戦略として掲げる「SDGs」(Sustainable Development Goals)だ。日本では「持続可能な開発目標」として一般企業の取り組みにも浸透しつつある。SDGsは貧困・飢餓、教育、環境、健康・福祉、ジェンダー平等など、世界共通の社会課題の解決を目指す取り組みで、2030年までに持続可能で多様性と包摂性のある社会の実現を目指すことが国際社会の共通目標となっている。

 日本政府がSDGsを実践する上で戦略としているのがSociety 5.0との連携だ。SDGs推進本部が公表している「SDGsアクションプラン2020」では、「SDGsと連動するSociety 5.0の推進」が3本柱の一つに掲げられている。また、「SDGsアクションプラン2021」では「Society 5.0の実現を目指してきた従来の取り組みを更に進める」とされており、SDGsの目標達成のために、Society 5.0が関係していると言える。2021年に閣議決定された「第6期科学技術・イノベーション基本計画」においても、「我が国の目指す未来社会の実現は、SDGsとも軌を一にするものである」としている。

 そして、本特集のテーマであるディスプレイ市場と、Society 5.0での市場開拓の可能性について調査を行っているのが、JEITAだ。JEITAでは、2020年にディスプレイデバイス(DD)部会の下、2030年に向けてディスプレイの姿や必要な技術などについて取りまとめた「Display Vision 2030」を策定した。2023年には、更新版として「Display Vision」を発表・公開している。調査内容を見ていこう。

企業が求めるモニターを提案しよう

 調査の分類としては、①モバイルコミュニケーション、②スマートホーム、③モビリティ、④スマートシティ・教育の大きく四つに分けられている。各分野の具体例では、意思伝達装置/話を要約・理解するAI(①)や、アバターで守る健康長寿/頼りになるロボット(②)、どこでも自動運転/収穫物自動運搬(③)、臓器の3Dプリント/災害救助(④)など多岐にわたる。ディスプレイは性能が重要となるHMI(Human Machine Interface)として人間の能力拡張を担う(機能・知識・感覚・知能)とし、その活用機会はさまざまなシーンで拡大するとJEITAは予測している。実際に発売している製品としては、空間に映像を映し出すARディスプレイなども登場しており、医療業やサービス業などでの活用が予測されている状況だ。

 また、人間能力拡張におけるデバイス・技術の進化という観点では、4K、8K、3Dなどのほか、五感に働きかけるディスプレイ、空中ディスプレイなど近未来的なものが挙げられている。その進化は、最も多くの情報を占める視覚情報ディスプレイを中心にさまざまな機能が複合されることで実現され、高度なHMIへと発展していくものとJEITAは分析している。

 Display Visionでは、文部科学省の「令和2年版科学技術白書」(第1章 科学技術による未来予測の取組)および内閣府の下で運営される科学技術振興機構(JST)の「ムーンショット型研究開発事業」を踏まえ、今後、ディスプレイはHMIの核となり拡大することを予感しているという。また、前述した4分野(モバイルコミュニケーション、スマートホーム、モビリティ、スマートシティ・教育)に関する大学の教員などへの有識者ヒアリングや「京都大学サマーデザインスクール」(KDIC共催)の実施などにより、ディスプレイ産業は今後も成長が継続することを確認した、との結論に至った。また、将来予測から映像情報の増加と人間能力拡張に関するディスプレイの活用機会の拡大が期待できるとしている。

 ディスプレイの機能は、高速(処理)、AR/VR、多機能、薄型・軽量/省電力/高耐久・明暗環境対応、空中像、高輝度/高精細、カーブフレキシブル・自由形状など、さまざまな進化を遂げてきた。また、モバイル型や大型、屋外用など、さまざまな形態や性能が求められ、時代のニーズに応じて開発が進んできたと言える。

 据え置きのディスプレイに限定してみると、大型ディスプレイ(テレビ・モニターなど)はテレビ以外のコンテンツを表示することも増えた。そのため、薄型、軽量、フレキシブル、低発熱などディスプレイ設置の自由度を上げる機能も求められていると言えるだろう。また、通信や情報通信や情報処理技術の進化により、空間のシェア、コンテンツへの没入感が重要な指標となり、HDR、なめらかな動画性能、ドット感を感じさせない高精細な技術が進んでいくことが予想される。壁掛け型や平置き型の薄型ディスプレイなら、薄型、軽量、フレキシブル、低発熱、低消費電力などの性能が求められるだろう。大画面、臨場感のあるディスプレイなら、高コントラスト(miniLEDバックライト、OLEDなど)、高速動画、高精細(8K〜)なものが市場に投入され、さらなる高性能化が進むとみられる。

 ここまで見てきたDisplay Visionのディスプレイ市場の概況は、ムーンショット型研究開発制度などスマートシティの構想を主軸とする調査内容となるが、一般企業に対しても近いアプローチが可能となるだろう。企業の業務内容に合わせて、どのようなディスプレイが業務の質の向上や企業全体のビジネスに貢献するのか、活用シナリオを顧客と共に検討してみてほしい。