Advancing AI 〜 2025 に向けて

代表取締役社長
ジョン・ロボトム 氏
2024年12月11日、日本AMDが主催するイベント「Advancing Al & HPC 2024 Japan」が開催された。法人ユーザー向けに開催された本イベントでは、次世代のAI技術が実社会の課題解決やビジネス価値創出にどのように貢献するかを探究するため、基調講演やパネルディスカッション、各企業が登壇するセミナーが実施された。本記事では基調講演を中心に紹介する。日本AMD 代表取締役社長 ジョン・ロボトム氏の基調講演では冒頭、AIが生成したビデオによる登場で会場を驚かせつつ壇上に登壇し「Advancing AI〜2025に向けて」と題して講演を行った。同社の歴史や市場シェアを紹介するとともに、同社半導体とAI技術の可能性を語ったロボトム氏は「パートナーさまやスポンサーさま、そしてISV(独立系ソフトウェアベンダー)さまと共に、AI技術の発展を後押しすることで日本の経済を元気にしていきたい」とメッセージを送った。


効率的なAIのテクノロジー
〜エッジからスーパーコンピューターまで

テクノロジー&エンジニアリング部門
シニアバイスプレジデント
兼コーポレート・フェロー
サミュエル・ナフシガー 氏
ロボトム氏から紹介を受け登壇したAMD テクノロジー&エンジニアリング部門 シニアバイスプレジデント 兼 コーポレート・フェロー サミュエル・ナフシガー氏は、最初にエッジデバイスからスーパーコンピューターまでカバーするAMD製品ポートフォリオを紹介した後、これらの製品全てにAI機能が組み込まれていることや、AIによって起こる価値創造について紹介した。
その価値創造の一例として、ナフシガー氏は自動車産業を挙げた。AMDは自動車メーカーのSUBARUと、2030年死亡交通事故ゼロ実現に向けて協業し、2020年代後半に提供予定のSUBARUの次世代運転支援システム「アイサイト」にAMDのSoC「Versal AI Edge Series Gen 2」を採用する。「私たちはこの次世代運転支援システムでの厳しい電力および面積制約に対応するため、汎用設計を施した第2世代デバイスの設計に取り組みます。AIを使うことでより安全で効率的な心地の良いドライブ体験が実現できるよう、開発を進めていきます」とナフシガー氏は語る。
医療科学においても、同社のSoCを活用したAI技術の活用が進められている。AIは膨大なデータの分析や意味の抽出、要約、特定の行動の提供を得意としている。「AIは患者のDNAや医療履歴などを分析するほか、数千人の類似患者のデータを取り入れることで診断を行います。これらの診断や医療用ロボットによって、医療科学を進歩できるでしょう。AIは画像分析を得意としているため、MRIやX線といった医療画像の正確な分析を可能にします。AIを活用することは、より良い患者診断を行うための絶好のチャンスです」とナフシガー氏は指摘する。
これらのAIは人類に大きな利益をもたらす一方で、高い計算要求というコストや高いエネルギー需要が伴う。AMDは電力効率の向上をけん引すると同時に、システムレベルでエネルギー効率の最適化を図っており、2025年まで30倍のエネルギー効率の向上を目指している。
AI for Scienceによる
イノベーションの劇的進化

センター長
松岡 聡 氏
理化学研究所 計算科学研究センター センター長 松岡 聡氏は、スーパーコンピューターやHPCによるAI技術の活用によってどのようなイノベーションを実現できるのか、という視点から講演を行った。気象予測、カーボンニュートラル技術、創薬研究といったさまざまな分野でのAIの応用事例が紹介された。
理化学研究所が所有するスーパーコンピューター「富岳」は、約16万個ものCPUとペタバイト級のストレージを持つ。世界のスーパーコンピューターに関するランキングの「HPCG(High Performance Conjugate Gradient)」および「Graph500」において10期連続の世界第1位を獲得している(2024年11月19日発表)。
富岳を活用することで、AIとデータを組み合わせた精度の高いシミュレーションが可能になるという。松岡氏は例として線状降水帯の発生予測や、大型船の実験水槽の再現を紹介し、スーパーコンピューターによるシミュレーションがこれらに大きな役割を発揮していると解説した。また富岳で学習した大規模言語モデル「Fugaku-LLM」を2024年5月10日に公開しており、誰もが研究および商業目的で利用することが可能だ。
松岡氏は「科学のためのAIを意味する『AI for Science』は『科学的に創造的』である必要があります。究極の目標はAIが人間の科学者に匹敵する、あるいはそれを超える科学的創造性を持つことです」と語る。例として自動車の構造設計を3D生成AIによって行ったり、創薬プロセスを高速化したりするためのIT創薬技術が紹介された。
このAI for Scienceを実現するため理化学研究所では富岳と専用計算機を連携させ、革新的な計算基盤の整備を行ったり、生成AIの技術を導入したりすることで科学技術のマルチモーダル基盤モデルの構築を進め、より一層の研究サイクルの加速を実現させる「科学研究基盤モデル開発プログラム」(Advanced General Intelligence for Science Program: TRIP-AGIS)に取り組んでいる。
富岳の次世代となる新たなフラッグシップシステムに向けたAI for Scienceの進化にも着手しており、今後ますますAIの発展が加速していきそうだ。


Creating the Engine of Scientific Discovery :
the Next and the Final Big Thing in AI

教授
北野宏明 氏
沖縄科学技術大学院大学(OIST)は、沖縄において世界最高水準の教育研究を行うことにより、沖縄の振興と自律的発展および世界の科学技術の発展に寄与することを目的に、2011年11月1日に設立された。その沖縄科学技術大学院大学の教授である北野宏明氏は、同学で行われている人工知能(AI)研究の知見に基づき講演を行った。
北野氏は「今のAIは例えるなら、産業革命時代の蒸気機関の段階です。現在の生成AIは、文章を生成したり検索の代わりに使ったりといったプロダクティビティツールとして活用されているケースが非常に多いです。しかしこの次のステップとして、クリエイティビティがあります。本講演の最初のスライドで表示した画像は生成AIで作成しましたが、このようなクリエイティブな用途での生成AI活用が今後徐々に増えていくでしょう。その次のステップとして、サイエンスディスカバリーの用途での活用が進んでいきます」と語る。
こうしたサイエンスディスカバリー用途でのAI活用として「AIサイエンティスト」の開発に取り組んでいる。これは「ノーベルチューリングチャレンジ」というもので、ノーベル賞クラスの発見を自律的に行えるAIシステムの開発を進めているという。
「多量の論文を読み、細胞分裂の分子の相互作用を一つひとつ全て記述したような研究データがあります。これは2010年に作成したデータですが、人間が続けるには限界がありますし、研究者のキャリアのことを考えるとこのデータを作り続けてもらうことは難しく、15年間アップデートできませんでした。しかし生成AIであれば、こういったデータの再現が可能で、我々の研究ではほぼこれらをAIに依存しています。AIによってカバレッジが非常に正確になると同時に、AIが予測を行ってくれることも分かってきました。AIの進化によって、科学の発見は今後根本的に変わっていくでしょう」と北野氏は指摘した。