仲良しチームこそが最高の成果を生む

「会社は仲良しクラブじゃないんだ!」というのは、よく聞く言葉。「仲良しクラブ」とは公私の別なく親密な人間関係だったり、馴れ合いだったりする集団のこと。一般の会社ではネガティブな言葉として捉えられる。だからといって、無駄に対立したり、いじめたりすることを推奨しているわけではない。利益を追求することが会社の目的であり、そこに労働力を売って対価としての給与をもらう。会社員は仲良しになりたくてなるのではないし、自分に与えられたジョブをきちんとこなせば、仲が良かろうが悪かろうが関係ないというのがこれまでの会社の常識だった。

だが、株式会社ヌーラボ代表取締役である橋本氏は「会社は仲良しチームじゃないと、最高の成果は出ないぞ!」という。同社では社員のことを「ヌーラバー」と呼び、会社は友だち同士の集まりなのだという。

「毎日の仕事を楽しくし、その楽しさがプロダクトに宿り、プロダクトを使ってもらったユーザーさんにも、楽しさや喜びが広がる。そのような世界観の実現に向けて、右往左往して、日々取り組んでいたらこうなっていました」

もちろん橋本氏が言う「仲良しクラブ」というのは、失敗に目をつぶってなぁなぁで済ませるということではない。「仲が良いからこそ、ダメな行動や間違ったことをしたときには、本気になって指摘できる関係性を築き、チームが自律的に機能するようになっていきます」という。楽しく仕事をすることと、自律的に機能することの両方をチームに求めた結果が相乗効果となって現れたというのだ。

リーダーは任命しない、固定しない

チームのリーダーをどう選抜し、どのようにチームの運営を任せるのか。多くの経営者や中間管理職が頭を悩ませるところだ。だが、本書では「リーダーは任命しない」と言い切っている。ヌーラボは福岡を本社として東京、京都、シンガポール、ニューヨーク、アムステルダムに拠点を持ち、130人の社員を抱え、2021年11月現在で社内に40から50のチームが存在している。国や地域は関係なく、プロダクトごとにざっくり組織を分け、その中でプロジェクトごとにチームを分けているという。

ここまでは他の会社でもあることだが、ヌーラボの特色は「それぞれのチームのリーダーを特定の誰かに固定しておくことを、僕は推薦しません」ということ。その時々の状況に応じてリーダーを柔軟に変えてしまうのだ。

たとえば、「プロジェクトの当初はプロダクトや新機機能を開発するのが得意な仲間がリーダーシップをとり、安定期では同じように継続業務に強い仲間にリーダーシップを渡す。サーバーサイドに問題があれば、サーバーサイドに強い仲間にリーダーシップを渡し、ユーザーさんからユーザーインターフェースがわかりにくいという声があれば、リーダーシップをデザイナーに渡す」という柔軟な組織論だ。リーダーを状況に合わせて変えないとチームとしてのパフォーマンスが発揮できず、弱いチームになってしまうと橋本氏は語る。

受託案件業務から自社開発業務に一本化

ヌーラボは、企業内で使われるグループウェアを得意とする会社。起業当時は受託案件業務でスタートしたが、次第に自社開発業務の比率を増やし、現在では受託案件業務から撤退し、自社開発業務一本に絞ったという。ソフト開発会社は、創設期は受託案件でまずは食い扶持を維持することがほとんどだ。いきなり自社開発商品を売り出しても、名も知れない会社の商品を買ってくれる顧客はなく、給与や家賃の支払いに耐えられない。ましてやヌーラボのように企業用のグループウェアとなれば、セキュリティやサポートなどで実績のないベンチャーの製品を導入するのはリスキーすぎる。

普通のソフト開発会社は、発注案件をいかに切れ目なく受託し、こなすかが大変で、自社商品を開発する余裕がないのが普通だが、ヌーラボは、そこをうまく切り替えることができたのだろう。現在、ヌーラボは自社開発商品である、チームのコラボレーションを促進するグループウェアBacklog、Cacoo、Typetalk、Nulab Passなどの開発・運営を行っている。

同社製品を代表するBacklogは、株式会社スターフライヤー、株式会社NTTドコモといった大手企業をはじめ、1万社が導入、NTTドコモでは2万人の社員が使っているという。これだけの実績を確保していれば、自社開発業務一本に絞っても安心だ。

まじめにやるな、真剣にやれ

橋本氏は、「まじめにやるな、真剣にやれ」という。「まじめ」というのは規則正しく、世の中のルールに従うようなイメージ。それに対して「真剣」というのは、どこに課題があり、どうすれば解決できるのかを、頭をフル回転させて考え、解決するようなイメージ。もともとヌーラボの顧客であり、橋本氏の友人でもある人と飲んだとき、その彼が発したのがこの言葉。橋本氏はこれがとても気に入り、自分が言ったことにしていいかと許可をもらって自分の言葉のように使っている。

ものづくりやコミュニケーションにおいては、まじめさやビジネスマナー、会議時の席次などは気にせず、課題解決に真剣に取り組む方がいいというのだ。実際、ヌーラボとクライアントとのミーティングでは、橋本氏の提案で、机を挟んで向かい合って座るのではなく、座る位置をシャッフルし、お互いに対にならないようにしたという。まじめにマナーを守ろうとするのではなく、かしこまった雰囲気を破って課題に真剣に向き合ってこそいいミーティングになると橋本氏は主張する。

橋本氏は、たとえば若手社員や就職希望者に威圧感を与えないようにすることにも腐心している。社長とエレベーターで一緒になっただけで社員が緊張してしまうようではいいチームが作れない。だから外見からして威圧感や権威をできるだけ排除している。その一つが広報や取材での写真撮影。経営者のプロフィール写真というとスーツを着て腕を組んで顔を引き締めて、というのが多い。橋本氏は「場が和むような、写真を見たら思わず笑ってしまうような、ちょっとふざけたポーズになるように意識しています」と徹底している。

仕事の見える化でフリーライダーを発生させない

居心地の良すぎる企業は、フリーライダー、活動に必要なコストを負担せず、利益だけを受ける者を増やすのではないかという指摘もある。企業で言えば労働(コスト)せずに、給与(利益)だけを受け取る、いわゆる給料泥棒やサボり社員のことだ。橋本氏はフリーライダーが生まれる原因として、仕事の分担が見えにくくなっていたり、評価制度が個人の能力やスキルによらずに、年功序列になっているからではないかという。

最近よく耳にする「働かないおじさん」も同様。 一日中、新聞やスマホばかり眺めて仕事をせず、パソコンやコピー機が使えず、部下にやってもらう人たちのことだ。彼ら彼女らも年功序列で本人の能力以上のポジションを与えられた結果ではないだろうか。

ヌーラボでは、自社製品のグループウェアBacklogを使って仕事の見える化をしているので、誰がどんな仕事をどの程度こなしているかは一目瞭然。だから仕事をしなくても誰も何も言わない環境にはなり得ない。社員間は、ビジネスチャットツールTypetalkで絶え間なくコミュニケーションが取られており、評価は個々の能力を軸にしている。

本書に出てくる、「会社は仲良しクラブでいいんだ!」「リーダーは任命しない」「まじめにやるな」といった刺激的な言葉。そのまま自分の会社に取り入れて「面白い会社にしよう」としても、たぶんダメだろう。水鳥はのんびりしているようでも、水面下では絶えず足で水を掻きつづけているように、ここに表現されていない様々な苦労、努力があってこそ、ヌーラボはここまで成長したのだろう。今の会社のあり方を何とかしたい、Z世代に受け入れられる企業にしたいというのなら、本書は大きなヒントを与えてくれるはずだ。

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Me Too、ゲス不倫、LGBT、ポテサラ論争、五輪組織委、女性の自殺、タラレバ娘……。女性の就業率は上がっても、政治経済の要職に就く女性はいまだ数少なく、ジェンダーギャップ指数が先進国で最下位の日本。この国の「かわらなさ」の正体とは? 近年話題をよんだトピックをとりあげつつ、ダイバーシティが根付かない日本社会の、問題の深淵に迫る。2012年第2次安倍政権初期の最重要政策として掲げられた「女性活躍推進」。あれから9年、女性の就業率こそ上がったものの、五輪組織委問題が象徴するようにジェンダー平等はいまだこの社会に根付かず、気づけば国際社会からどんどん取り残されている現実がある。なぜ、日本社会にはダイバーシティが定着しにくいのか?(Amazon内容紹介より)

『多様性が日本を変える』(鈴木雄二 著/幻冬舎)

日本で行われている建前ばかりの男女雇用機会均等やダイバーシティ経営は、むしろ「やったつもり」になることで現実を見る目を曇らせてしまいます。文化や歴史、習慣など世界との違いを学び、受け入れるところから本当の多様性が身につきます。そうすることで、「失われた30年」を脱し、日本人がグローバル社会で活躍できるようになるのです。「男女平等」「女性活躍推進」「ダイバーシティ経営」などが盛んに口にされていますが、日本のジェンダー・ギャップ指数はランクを下げ、最新の調査で156カ国中120位でした。この調子では、イノベーションは生まれません。本書では、ブラジルで生まれ、アメリカの大学で数学を学び、アフロアメリカンの女性と国際結婚、また重量物ダンボールの会社を世界各国で大きく発展させてきた著者が、教育、ビジネスにおいて現在の日本の問題点をあぶり出し、今後、日本人が国際社会でどう活躍していくべきかを提案します。(Amazon内容紹介より)

『なぜ自信がない人ほど、いいリーダーになれるのか』 (小早川優子 著/日経BP)

政府が女性活躍を推進するようになり数年が経過した今なお、日本企業内における女性管理職比率は上がりません。2021年7月の帝国データバンク調査でも、女性管理職比率は平均8.9%と停滞しています。なぜ日本の女性管理職比率や女性役員比率(同11.8%)は簡単に上がらないのか。「自信がないことは、決して悪いことではない」と小早川さんは言います。その背景には、「社内のマイノリティ(少数派)の気持ちが分かるからこそ、多様なメンバーからの意見をくまなくくみ取ることができる」「仕事相手をやり込めるのではなく、相手の立場を考えてWin-Winの関係を構築できる」「不安だからこそ、リスクを敏感に察知し、大事に至る前に対策を講じることができる」といったポイントがあるのです。 (Amazon内容紹介より)

『世界最高のコーチ 「個人の成長」を「チームの成果」に変えるたった2つのマネジメントスキル』 (ピョートル・フェリクス・グジバチ 著/朝日新聞出版)

Googleのプロジェクト・オキシジェン(Project Oxygen)が解明した、優れたマネジャーの条件の1つ目は「良いコーチである」こと。Googleでセールスコーチングプログラムづくりなどにも携わった著者が、「どうすれば良いコーチになれるのか」を自らの経験もふまえて解説。マネジャーが「良いコーチ」になるために身につけたいスキルは、「問いかけ」と「フィードバック(働きかけ)」の2つ。それぞれのコツと、その組み合わせ方を豊富な会話例とともに解説。(Amazon内容紹介より)

『人の顔した組織 あなたの会社は、賢い人を集めた愚かな組織? 凡人ばかりでも優れた組織? 』(福澤英弘 著/東洋経済新報社)

個人の能力の総和と組織の能力は、なぜ一致しないのか? どれだけ多くの優秀な個を集め鍛えたとしても、必ずしも強い組織となるとは限りません。一方で、一般的にはさほど優秀な個を集めたわけではなくても、組織としては強くなり、高い業績をあげる企業も数多くあります。そうなると疑問がわいてきます。「人」すなわち「個」と、「組織」の関係です。個人の能力の総和と組織の能力は必ずしも一致しません。ではどうすればいいのでしょうか。組織には組織の行動原理があり、それを構成するヒトにも固有の思考原理があります。本書では、生きている存在としての組織やヒトの原理を探索していきます。(Amazon内容紹介より)