バス停の時刻表改正作業をIoTで効率化

–Travel Tech– 西鉄バス北九州

日常的に利用されるバス。その発着時刻を掲示するバス停のデジタル化が進んでいる。その北九州市での活用を、スマートバス停を提供しているYEデジタルが紹介してくれた。

頻繁に発生していた改正作業

 九州の最北端に位置することから“九州の玄関口”とも言われる福岡県北九州市。その北九州市を中心に、路線バスを運行しているのが西鉄バス北九州だ。西鉄バス北九州は、空の玄関口である北九州空港と市内を結ぶ空港バス「北九州空港エアポートバス」を運行している。北九州空港には鉄道が直結しておらず、このエアポートバスがビジネスや観光において非常に重要な役割を担っている。

 しかし、新型コロナウイルスの影響によって飛行機の運休や減便、時間変更などの航空ダイヤの改正が頻繁に発生。それに合わせてエアポートバスの改正を行う必要に迫られ、従来年2回行っていたダイヤ改正は最大で月3回実施されるようになるなど、頻繁なダイヤ改正業務が生じていた。その負担は通常時の約10倍に上った。バスの時刻表を作成する手間はもちろんのこと、バスダイヤ改正には利用者への事前告知を行う必要がある。その告知を全てのバス停に貼り出す手間や、作成した時刻表を深夜に張り替える作業など、時刻表作成以外の負担も大きい。頻繁に改正を行っていた時期などは、一連の作業を2〜3日程度で完了させる必要があった。

 そうした作業負担を軽減するため、西鉄バス北九州はYE デジタルと西鉄エム・テックが提供する「スマートバス停」を、北九州空港エアポートバス2路線(小倉系統、折尾・黒崎・学研都市系統)の全バス停に導入し、2021年3月21日から運用をスタートした。

インバウンド需要にも応える

 スマートバス停とは、バス停をIoT化することでバスの時刻表や運行情報を配信できるようなデバイスを指す。一方で、これらのスマートバス停は電源がある場所でなければ運用ができなかったり、路線全てのバス停に導入するにはコスト負担が大きいといった課題もある。そこで今回、西鉄バス北九州が導入したのが、スマートバス停の中でも低消費電力で稼働する電子ペーパー採用の「楽々モデル」(Type-D)。乾電池で稼働し、さまざまな気象条件下でも電源供給不要で運用が可能なモデルだ。その数は合計で23基に上る。

 スマートバス停を導入することで、従来約6時間かかっていた時刻表の作成時間は約83%削減され約1時間に短縮された。作成した時刻表はスマートバス停に配信するだけでよいため、これまで約18時間かかっていた時刻表の張り替え作業の時間もなくなり、大きなコスト削減を実現できた。

 小倉駅のエアポートバス停には透過型液晶ディスプレイを採用した「繁華街モデル」(Type-A)を以前から設置しており、リアルタイムの時刻表表示のほか、フライトインフォメーションとして欠航情報なども配信している。また、リアルタイムの情報配信が可能なこの繁華街モデルは、多言語表示にも対応できるため訪日外国人観光客も利用しやすくなる。入国規制が大きく緩和され、訪日外国人観光客の増加が期待されている中、こうしたスマートバス停の存在は、インバウンド市場の拡大に合わせて、さらに需要が広がりそうだ。

1.小倉駅に設置された繁華街モデルのスマートバス停。2.バスの時刻表や発着状況だけでなく、国内線到着便の状況も表示することで利用者の利便性を高めている。多言語表示にも対応し、訪日外国人観光客も利用しやすいバス停だ。
3.北九州空港エアポートバスの片野駅バス停には、電子ペーパー搭載の楽々モデルが設置されている(左側時刻表は市内を走る西鉄バスのもの)。反射が少ないため屋外でも時刻表が見やすい。防水防塵性能も高く、屋外に設置していても問題なく稼働する。4.楽々モデルではバスの現在位置などが表示できない代わりにQRコードを表示することで、現在のバス走行位置などを確認できる。

広告収入で運用コスト負担も低減するスマートバス停

–Travel Tech– YE デジタル 「スマートバス停」

IoT技術を活用することで、時刻表改正の手間を大きく削減できる「スマートバス停」。その開発の経緯について、YEデジタルに話を聞いた。

現場の声から生まれたバス停

 YEデジタルは、安川電機グループのIT会社として1978年に創業した企業だ。福岡県北九州市に本社を置き、IoTソリューションやAIソリューション、サービスビジネスなどを手掛けている。

 そのIoTソリューションのノウハウを用いて開発されたのがスマートバス停および、そのスマートバス停に更新した時刻表データや広告コンテンツを配信するクラウドサービス「MMsmartBusStop」だ。

 スマートバス停は、省電力技術を駆使してデジタル化されたバス停であり、時刻表だけでなく緊急時のお知らせや、ニュース、広告などをMMsmartBusStopを活用して遠隔配信できる。透過型液晶ディスプレイを搭載している「繁華街モデル」(Type-A)および「市街地モデル」(Type-B)と、反射型液晶ディスプレイを搭載している「郊外モデル」(Type-C)、モノクロの電子ペーパーを搭載している「楽々モデル」(Type-D)の4機種をラインアップしている。繁華街モデルと市街地モデルはAC電源による給電が必要だが、郊外モデルは太陽光発電による給電、楽々モデルは乾電池による給電で稼働するためAC電源が不要で、場所を問わずに設置できる。

 YEデジタルのマーケティング本部副本部長 兼 事業推進部長 工藤行雄氏は「スマートバス停は、2018年ごろから西鉄グループの西鉄エム・テックと共同で開発を進めています」と開発当初を振り返る。西鉄グループでは約3,000台のバスを保有しているほか、上下線合わせて約1万2,000カ所のバス停を管理しており、そのバス停の時刻表の張り替え作業に膨大な時間を要していた。そうした管理の手間を改善するべく、YEデジタルと共同で開発をスタートしたのだ。

YEデジタルの本社オフィス前にある米町バス停には、繁華街モデルのスマートバス停が設置されている。その時間帯の発着時刻が大きく表示され、見やすい。
YEデジタルショールーム内に設置された市街地モデル。ディスプレイサイズが繁華街サイズ(55インチ)と比較してややコンパクトな31.5インチだ。

多様な需要に応えるラインアップ

 当初開発を進めていたスマートバス停のモデルは、電子ペーパー搭載の楽々モデルと、液晶ディスプレイ搭載の市街地モデルだった。「バス停がある場所の8割は、AC電源がないため電源供給ができません。そのため西鉄グループ側からは『AC電源不要で稼働するバス停』を求められていました。しかし、AC電源が必要ながらリッチなコンテンツ表示が可能なモデルにも需要はあると見込んでいました。デジタルサイネージにバスの接近情報などを利用者に知らせるシステムはすでに存在していましたが、これらのバスロケーションシステム表示のサイネージからのリプレース先として、ディスプレイを搭載したスマートバス停が提案できると考えたためです。そこで、AC電源が必要な市街地モデルと必要のない楽々モデルの二つを平行して開発を進めました」と工藤氏は語る。

 その後、実証実験を進め2020年から製品の販売を開始。しかし、コロナ禍での販売スタートとなったため当初は販売が伸び悩んだという。一方で最近は、バス利用者の減少を受けて路線バスの「上下分離方式」※が進んだことにより、行政側が一体的にスマートバス停を導入するケースが増えてきているという。

 楽々モデルは前述した通り、ディスプレイに電子ペーパーを採用しているモデルだ。液晶ディスプレイは電源供給が途絶えると時刻表の表示が消えてしまうが、電子ペーパーの楽々モデルは時刻表を表示した後は電力をほぼ消費せずに表示し続けることが可能だ。YEデジタル マーケティング本部 事業推進部 スマートバス停担当リーダー 筒井瑞希氏は「月に1度の時刻表書き換えと、1日1度に行う死活監視にLPWAで通信を行いますが、それ以外はスタンドアロンで運用しています。時刻表を書き換える際は電力を消費しますが、それ以外ではほとんど電力を使わないため約2年程度は電池交換をせずに運用できるモデルです。頻繁に電池を替える必要が出てくると時刻表を張り替える手間とほぼ負担が変わらなくなってしまうため、省電力性能には非常にこだわって開発しました」と語る。実証実験当時から運用している楽々モデルは2年以上電池交換せずに運用できているという。

※上下分離方式…車両の運行をバス会社が行い、車両や車庫といった資産管理を自治体など行政が担う方式。

ショールームに設置されている楽々モデル。電子ペーパー採用で消費電力が低く、内蔵の産業用乾電池で稼働する。
楽々モデルは設置の手間がかからないのも大きなメリットだ。ポールに取り付けるだけで設置が完了するため、作業負担もコスト負担も少なくて済む。

広告表示で運用コスト低減に繋げる

 AC電源で稼働する液晶ディスプレイ搭載の繁華街モデルと市街地モデルには、PCとLTE通信可能なSIMカードが内蔵されており、時刻表の表示とともに他社のバスロケーションシステムと連携したバスの現在位置や、動画広告などが表示できる。これらの広告収入は、バス事業者の運営費として還元可能だ。筐体はオールステンレスで強度が高く、通行人がぶつかったり叩いたりしても壊れないよう設計されている。時刻表は屋外に設置するため、雨に濡れたり、湿度が高い環境でも問題なく稼働する。

「西鉄バス北九州の事例では、利用者が多い小倉駅には繁華街モデルを、そのほかのバス停には楽々モデルを導入していただくことで1路線をまるごとスマートバス停に置き換えています。このような路線をまるごとスマート化する取り組みが、バス事業者の時刻表管理の運用負担軽減につながります」とYEデジタル マーケティング本部 事業推進部 スマートバス停担当 曽根田英里氏は語る。

 現在、スマートバス停は20社以上のバス事業者と実証実験を行い、導入に向けた検証を進めている。YEデジタルでは、設置する場所に合わせたハードウェアカスタマイズにも個別に対応している。

「設置環境に合ったラインアップをそろえていますので、使い分けながら毛細血管のように広がるバス運行の持続可能モデルの一助になれればうれしいですね」と曽根田氏は語った。