ホーム > PC-Webzineアーカイブ > 混雑状況可視化システム「VACAN AIS」で宿泊者に"快適"を届ける鴨川館

混雑状況可視化システム「VACAN AIS」で宿泊者に

混雑状況可視化システム「VACAN AIS」で宿泊者に"快適"を届ける鴨川館

2022年11月14日更新

混雑状況の可視化で快適に過ごせる宿へ

–Travel Tech– 鴨川館

第2特集で紹介した観光業でのデジタル活用。それにいち早く取り組んでいるのが、鴨川館だ。コロナ禍を契機に刷新した混雑対策システムが生み出した効果を見ていこう。

既存システムに生じた課題

 鴨川館は、千葉県の南房総にある鴨川シーワールドから徒歩3分の距離にある温泉旅館だ。鴨川温泉「潮騒の湯」と「なぎさの湯」を有し、泉質の異なる2種類の温泉を楽しめる。なぎさの湯は、2019年にリニューアルオープンした際に新たに作られた客室と屋上の露天プール「HARUKA」で入浴できる。HARUKAは水着や専用着衣を着て入り、眼下の太平洋と一体となる感覚を楽しめる絶景温泉として人気を博している。

 一方で、この屋上の露天プールは決して大きな施設ではないため、10名ほどが一度に訪れると混雑してしまう。「そこで、露天プールの混雑状況を可視化できるシステムを導入しました。当時導入したシステムは客室に置いたタブレットから混雑状況を確認できる仕組みでしたが、このタブレットの充電や管理がスタッフの負担になっていました。また2020年初頭から拡大した新型コロナウイルスの感染に伴い、タブレットの除菌作業も必要となるなど作業負担が増加し、別の混雑状況可視化システムの導入を検討していました」と当時を振り返るのは鴨川館を運営する吉田屋 販売促進部 広報企画課 課長代理 永井博明氏。

 現在、多くの宿泊者はスマートフォンを所持している。そのため、スマートフォン上で混雑状況を確認できるシステムを検討したところ、バカンが提供する施設の混雑状況を自動で可視化するシステム「VACAN AIS」に出会い、導入を決めた。

混雑対策で宿泊者が増加

 VACAN AISはAIカメラを天井などに設置し、施設の混雑状況をAIで解析してその人数を算出する。可視化した混雑状況はスマートフォンやデジタルサイネージに表示できるが、鴨川館ではスマートフォンへの表示のみで運用している。

 利用方法は次の通り。まず鴨川館を訪れた顧客は、チェックインと同時に施設のインフォメーションが書かれたリーフレットを渡される。そこに記載されたQRコードをスマートフォンで読み取ると、前述した露天プールをはじめ、大浴場やダイニングレストラン、チェックアウトカウンターの混雑状況を確認できる。「コロナ禍以降、3密を避けることが求められたため、新たに大浴場の更衣室やレストランなど混雑しがちな場所の状況を確認できるようにしました」と永井氏。

 実際VACAN AISを導入したことで、感染症対策をしっかり講じているということが広まり、集客にもつながったようだ。永井氏は「実はコロナ禍以前よりもお客さまが増加したんですよ」とプロモーションとしても効果を発揮したことを語る。
 鴨川館では現在、接客にiPadを導入してチェックイン時の顧客との打ち合わせなどに活用している。また料理提供の進捗管理などにも利用し、運営の効率化にデジタルツールを積極的に活用しているのだ。「今後は精算を客室で行い、チェックアウトの手間をさらに減らせるような仕組みも導入したいですね」と、永井氏は語った。

1.雄大な太平洋を眺望できる絶景の宿として知られる鴨川館。水族館テーマパークである鴨川シーワールドからも徒歩3分の距離にある。2.鴨川館ではチェックインすると、施設のインフォメーションが記載されたリーフレットが手渡される。このリーフレットに印刷されたQRコードを読み取ると、施設内の混雑状況をスマートフォン上で確認できる。3.導入したVACAN AISの利点の一つに、センサーによる混雑検知以外に人が視認して混雑状況を切り替えるハードウェアデバイスが用意されていることがある。「鴨川館で導入する決め手にもなりました」と永井氏。
4.5.鴨川館の大浴場には、男湯、女湯ののれんを抜けた場所の天井に、それぞれVACAN AISのAIカメラが設置されている。大浴場に向かう宿泊者は必ずここを通るため、人数カウントが漏れなく行える。またAI処理により、映像は保存されず出入りしている人数のみをカウントする仕組みだ。6.自家源泉の海辺の温泉「潮騒の湯」は鴨川館の1階に位置し、松原に囲まれた静かな環境でさまざまなお風呂に入浴できる「安房八景の湯」と、白い糸状の滝が絶えず流れ落ちる「白糸の美肌湯」が楽しめる(男女入替制大浴場)。

混雑状況を可視化してストレスレスな世界を作る

–Travel Tech– VACAN バカン「VACAN AIS」

鴨川館が導入したVACAN AISを開発しているのがバカンだ。実は同社のシステム、商業施設のトイレで目にすることが多い。その理由とVACAN AISの開発に至るまでの経緯を聞いた。

トイレの混雑から生まれたシステム

 外出先で利用した施設のトイレが混雑しており、予想外に時間を要してストレスになった経験はないだろうか。そうしたトイレの混雑にまつわる課題を解決するためにバカンが開発したのが「VACAN」と呼ばれるプラットフォームだ。

「当社は『いま空いているか1秒で分かる、優しい世界を作る』をミッションとして、2016年に設立した企業です。従業員の3分の2がAIやIoTなどのエンジニアやPMで技術力が高く、プロダクトの品質の良さが評価され、現在さまざまな場所で、当社のVACANを利用していただいています」と語るのは、バカンの営業部長 里見吉優氏。例えば、商業施設のデジタルサイネージに、トイレの満空表示がされているのを見たことがないだろうか。バカンが提供するトイレの混雑可視化システム「VACAN Throne」はさまざまな商業施設のトイレに導入されており、サイネージだけでなくスマートフォンなどからその利用状況を確認し、トイレ内の混雑を回避できるのだ。トイレの長時間利用を抑止するデジタルサイネージ「VACAN AirKnock」や、そのサイネージを利用して広告を配信できる「AirKnock Ads」など、混雑状況の可視化にとどまらないソリューションも提供している。

「もともとVACAN Throneは、当社の創業メンバーの困りごとから生まれたシステムでした。休日に子供を商業施設に連れて行くと、トイレが混雑しており利用できないケースが多々あり、それをIoTやAIで解決できないかと考えたのが、開発のきっかけです」と里見氏。そこで生まれた混雑状況を可視化するスキルセットを横展開し、主に三つの機能を提供しているプラットフォームがVACANだ。

 VACANでは、センサーやカメラなどで、人やモノの混雑・空きデータを取得・解析して、「混雑抑止機能」「受付・待ち順管理機能」「広告配信機能」を提供する。その中でも、あらゆる場所の混雑状況をAIカメラで可視化し、混雑を抑制しているのがVACAN AISだ。

AI技術でプライバシーにも配慮

 VACAN AISは、天井などに設置したAIカメラによって、あらゆる店舗や施設の混雑状況を自動的に可視化できるシステムだ。AIによって画像データを可視化し、その場にいる人数を算出する。検知方法は、①空間全体で混雑状況を可視化するパターン、②出入口で混雑状況を可視化するパターンの二つを用意しており、利用場所などに応じて選択できる。例えば、レストラン街やフードコートなどの混雑状況を可視化する場合は、店内や入口の待機列を見渡せるように天井などにAIカメラを設置して可視化する①のパターンが良い。待機列の人数をカメラで検知するなどして混雑状況、待ち時間などを可視化できる。

 一方、施設への出入りの人数で混雑状況を把握したい場合は②のパターンが良い。宿泊施設などの大浴場やプールなど、通常のカメラの設置が気になる場合に適した仕組みだ。設置しているカメラはAIによるピープルカウンティングによって、人の出入りのみをカウントしており、「誰が出入りしたか」など個人が特定できるような情報は残らないようになっている。
 設置するAIカメラはバカンが用意したデバイスのほか、導入先の施設ですでに設置されている監視カメラなどを流用することも可能だ。ただしエッジ側で画像をAI処理する必要があるため、別途それらを行えるエッジAIデバイスを接続する必要がある。

人材リソースの最適化につながる

 混雑状況はスマートフォンやデジタルサイネージで閲覧できるため、利用者は混雑を避けた行動を取れる。代表的な導入事例先として東京駅内にある商業施設「グランスタ東京」があり、飲食店街の混雑状況をリアルタイムに可視化して、駅構内のデジタルサイネージにその情報を表示している。また、鴨川館をはじめとした宿泊施設での導入も多い。混雑状況を可視化することで、顧客の体験価値向上はもちろんのこと、サービス利用データや混雑データを活用することで、人材リソースの最適化も実現できるため、今後の旅行需要が回復した際にも大きな効果を発揮できるサービスと言える。実際、100カ所を超える宿泊施設に導入が進んでおり、導入効果へのポジティブな声も多く寄せられている。

「感染対策のため人との接触を避けるようになったコロナ禍以降、混雑対策ソリューションの需要は大きく高まりました。当社のVACAN AISも、導入者数の増加はもちろん、導入する施設のバラエティーが広がりました。例えば投票所など、これまで混雑対策が行われてこなかった施設にも導入が進んでいるのです。今後はメタバース領域でビジネスを行うパートナーと連携し、デジタルツインにおけるリアルショールームに来た人がどのような行動を取ったか、オンラインと同じようにその購買行動のデータを、センサーデバイスで取得するようなプロダクトの開発も進めていく予定です」と里見氏は展望を語った。

宿泊施設では、エレベーターホールやエントランスなど行動時に必ず通る場所にサイネージを設置することで、誰でも混雑を把握した行動が可能になる。
サイネージでは施設の混雑状況を一目で分かるように一覧で表示する。混雑緩和は宿泊者の体験価値向上につながる。
QRコードを読み込み、スマートフォン上で混雑状況を確認することも可能だ。宿泊者の端末から直接確認できることで、客室にいても混雑状況をもとに行動判断が可能になる。
施設の予約受付を可能にする「AutoKeep」も提供している。カフェやコワーキングスペースの予約システムとしての導入例もある。

キーワードから記事を探す