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若者や女性も楽しく働ける農業へ変わるテクノロジーの活用

若者や女性も楽しく働ける農業へ変わるテクノロジーの活用

2022年10月13日更新

Special Feature 2
デジタル田園都市国家構想シリーズ Vol.1
ITが拓くスマート農業の未来

PC-Webzine9月号の巻頭特集にて「デジタル田園都市国家構想」の特集を実施した。10月号からの第2特集ではこれを受け、デジタル田園都市国家構想で実施する事業の中から、特に注目のテーマをピックアップしていく。今月号で取り上げるテーマは「スマート農業」。人手不足が進む農業現場において、IT技術を活用して効率化を図っている事例が増えてきている。デジタル田園都市国家構想によって、その流れはさらに加速するだろう。スマート農業の“今”から、その未来を拓くヒントを知ろう。

スマート農業で作業効率を向上し
若者も女性も楽しく働ける農業へ
—農林水産省の施策から

Policy

農業にテクノロジーを掛け合わせるスマート農業は、すでに導入が進んでいる農業現場も少なくない。一方で、導入コストの負担や、栽培している品目がソリューションに対応していないなどの理由で、導入に二の足を踏んでいる農業現場もある。農林水産省では、農業現場におけるスマート農業の導入を推進するため「スマート農業実証プロジェクト」をはじめ、さまざまな施策を実施している。本プロジェクトを中心に、これからのスマート農業に必要なポイントを見ていこう。

加速する労働力不足に技術で対処

 多くの業種で労働力不足の減少が叫ばれているが、特に農業分野ではそれが顕著だ。農林水産省の調査によると、基幹的農業従事者(普段仕事として自営農業に従事している者を指す。以下、農業従事者)の数は1960年の1,175万人から、2010年には205万人、2020年には134万人にまで減少している。また農業従事者の年齢構成も高齢化が進んでおり、60代以下の農業従事者数を見ていくと、2010年の110万人から、2020年には67万人に減少している。

 一方で、農業現場は手作業に頼らざるを得ない危険な作業や、負担の大きな作業、農作物の選別など人手に頼る作業が多い。それに加え、農業従事者が減少しているため、一人当りの作業面積は広がっているという問題もある。トラクターの操作など、熟練の技術が必要な作業も少なくなく、新規参入が難しいため、労働力を新たに獲得することも困難だ。

 こうした従来から存在した課題に加え、労働力不足がさらに深刻化した背景に、コロナ禍がある。農林水産省 大臣官房政策課 技術政策室 課長補佐(技術企画班)の木村晃太郎氏は「コロナ禍によって世界的な感染拡大が見られた当時は、移動が大きく制限されたことで外国人労働者の入国も難しくなりました」と語る。農業現場は、これまでの人手や経験と勘に頼った農作業から、負担を減らすことで若年層も取り組みやすい農作業へと変わる必要がある。その一つの手段として挙げられるのが、スマート農業の活用だ。

スマート農業の三つの活用効果

 スマート農業について、農林水産省では「ロボット、AI、IoTなど先端技術を活用する農業のこと」と位置付けている。その活用の効果を、同省では三つ挙げている。

 一つ目は作業の自動化だ。例えば自動走行できるロボットトラクターによって耕耘整地を効率化したり、スマートフォンで操作する水田の水管理システムによって、水田の給水や排水を省力化したりできる。作業を自動化すればその分人手が省けるため、労働力不足の問題の解消につながる。

 二つ目は情報共有の簡易化だ。位置情報と連動した営農管理ソフトなどを活用することで、作業の情報を自動的に記録できる。またデジタル化することで、場所を問わず栽培した農作物のデータを参照可能だ。これらのデータを活用すれば、熟練者でなくても生産活動の主体になれるメリットもある。

 三つ目はデータの活用だ。ドローンや衛星情報によるセンシングデータや気象データのAI解析によって、農作物の生育や病害虫を予測するような活用が可能になる。これまでの経験と勘に基づいた農業経営から、データに裏付けされた高度な農業経営へと変わることができるのだ。

 農林水産省では、このようなスマート農業の現場実装を加速化させるため、ロボットやAI、IoTなどの先端技術を実際の生産現場に導入して、経営改善の効果を明らかにする実証事業「スマート農業実証プロジェクト」を2019年度から実施しており、2022年8月現在、全国205地区で展開している。

 スマート農業実証プロジェクトで取り組まれている実証区は、水田作から施設園芸、露地野菜、畜産など実に多彩だ。農林水産省 農林水産技術会議事務局 研究推進課 先端技術実装班 研究専門官 佐藤 誠氏は「本プロジェクトは、大規模経営体など特定の経営体や水稲などの栽培品目に限定されているものではなく、中小家族経営や中山間地域の農業者、茶やサトウキビといった地域作物など幅広い経営体や栽培品目による実証を行っています。今まで、スマート農業を実現するためのさまざまな技術が研究開発されていますが、それをそのまま生産現場に導入しようとしても、現場の栽培・経営環境によっては十分に期待される効果を発揮できない場合もあります。そのため、社会実装の前段階として、スマート農業技術を実際の現場に導入して、技術の導入による経営改善の効果を明らかにする本プロジェクトを行っているのです」と語る。

若者や女性も農業に取り組める

 本プロジェクトの実証成果について、2019年度に採択された水田作や畑作、露地野菜などの代表的な事例から営農データを収集し、経営に与える効果を分析している。その中で、ロボットトラクターや農薬散布ドローン、水管理システムなどを導入したほぼ全ての事例において、10a当たりの労働時間が減少したという。「例えば、ドローンによる農薬散布では平均81%、自動水管理システムでは平均87%、AI機能搭載のキャベツ自動収穫機では20%、作業時間が短縮されていました。一方で、10a当たりの収支については、高価なスマート農機を限られた面積の農地に導入したことで、機械費などの経費が増大し、利益は減少した事例もありました。スマート農業機械の導入に当たり、初期投資が大きいことが要因です。そのため、地域でスマート農機のシェアリングを行い、1農業者当たりの負担を軽減させたり、JA鹿児島県経済連が実施しているような、ドローンオペレーターをJA組合員の中から育成し、地域の農業事業者の農薬散布をドローンで代行させたりするようなサービスが有効になるでしょう。また、自動収穫ロボットを販売せずにサービスとして提供するRaaS(Robot as a Service)のような農業支援サービスも負担軽減には有効と考えられます」と佐藤氏。

 また、スマート農業の普及に当たってはスマート農業技術に詳しい「デジタル人材」の不足も課題だ。農林水産省ではこれまでの実証参加者が中心となって、地域でのデジタル人材の育成・確保やデータ活用指導を2022年度から始めている。

 これらのスマート農業への取り組みは、2022年6月7日に閣議決定されたデジタル田園都市国家構想においても取組方針の一つに挙げられている。木村氏は「デジタル田園都市国家構想では『デジタルの力を活用した地方の社会課題解決』を柱の一つに掲げており、その取り組みの一つに地方に仕事を作ることが求められています。それを実現する柱の一つに、スマート農林水産業・食品産業の施策があります。地方に仕事を作る上で、農業は非常に重要な立ち位置を占めています。前述したような作業時間の短縮はもちろん、ロボットトラクターやラジコン草刈機といったスマート農機を導入したことで、女性や高齢者、学生アルバイトといった経験の浅い人材も農業に参画できるようになるといった効果も生まれています。スマート農業は、農業現場で働き手を獲得する上で、また地方に仕事を創出していく上で、非常に重要なツールの一つです。また、当省では食料・農林水産業の生産力向上と環境負荷を低減した持続性の両立をイノベーションで実現する『みどりの食料システム戦略』を策定しています。テクノロジーの活用は、このみどりの食料システム戦略の推進にも貢献できるでしょう」と締めくくった。

草刈りや鳥獣被害対策を
ロボットやドローンが実現する

Device & Solution

農業現場が抱える課題は数多い。労働力不足や作業負担の大きさはもちろん、鳥獣被害などによりせっかく育てた作物が出荷できなくなるケースもある。本項では作業負担が大きい草刈りと、作物への被害が大きい鳥獣被害対策を実現できるデバイスとソリューションを紹介していく。

草刈りから人間を解放する「KRONOS」

和同産業 営業部
営業企画課/課長
鎌田征丞 氏

 岩手県花巻市に本社を置く和同産業は、1941年に創業して以来、除雪機メーカーとしてその名前が知られている。「他社からOEMなどで製造を請け負っている除雪機を含めると、実に全体の7割以上の除雪機を当社が製造しています」と語るのは、和同産業の鎌田征丞氏。同社において、その除雪機と同等の歴史を誇るのが、草刈機だ。もともと従業員に農家が多かった和同産業では、その困りごとを解決する手段として、草刈機をはじめとした農機の製造も行ってきた。しかしその草刈機を使用した作業は、少子高齢化が進むにつれて、農業現場における負担が増大していた。

「草刈りの作業は、それそのものには価値がありません。しかし、刈らなければ作物に影響が出てしまいます。作業としてやりたくないけれど、やらなければならない負担の大きな作業をどうにかできないか、と考えていたときに“自動化”というアイデアを思いつきました」と鎌田氏。

 そこで開発されたのが、ロボット草刈機「KRONOS」だ。製品名のKRONOSはギリシア神話における大地や農耕の神を意味しており、本製品がロボット草刈機の礎になることを願い名付けられた。また、この新たな機械のジャンルを示すため「ロボモア」というカテゴリーを作り、初代機の型式を「MR-300」としている。

 KRONOSは、例えるならばロボット掃除機の草刈機バージョンだ。自律走行型の無人草刈機で、三輪駆動と独自のタイヤパターンによる高い走破性により、さまざまな場所での草刈りを実現する。草刈りをする際は、その対象となる場所の外周にエリアワイヤーを設置し、その中をランダムに走行しながら草を刈る。KRONOSの本体前面には超音波センサーが搭載されおり、障害物に近づくと減速して接触を回避する。

 鎌田氏は「芝刈りロボットなどは多く登場していますが、農園などの雑草を刈るには向きません。KRONOSは農作業における草刈りに特化して開発されたため、荒れ地も走って刈り取れます。また、20度ほどの傾斜であれば草を刈りながら登ったり降りたりできますし、10cmほどの段差も乗り越えられます。もちろん砂利道も走行可能です」と特長を語る。

 また雑草は、生える長さがまちまちだ。KRONOSは10cm以上の長さにまで成長した雑草も押し倒して刈り取れる。負荷が大きい雑草は一度停止し、ナイフの回転数を落とさないように制御しながら刈り取るような設計をしており、多様な雑草をきちんと刈り取れる。

 KRONOSによる草刈りは、3,000㎡ほどの広さで約1週間ほどかかる。人間が草刈機を使って草刈りする方が早いが、KRONOSが草刈りをしている時間、人間はほかの作業に打ち込めるというメリットが大きい。

 すでに多くの導入事例があり、その半数は果樹園だという。また工場や太陽光パネルを設置している発電施設、空港など、農業現場以外にもさまざまな場所での活用が進んでいる。

「まだこのロボモア(ロボット草刈機)の分野は一般に普及していない製品ですので、まずは安全性に配慮しながら農業現場の省力化につなげられるよう開発を続けていきたいですね」と鎌田氏は語った。

和同産業の敷地内で走行しているKRONOS。充電が切れそうになると自動的に充電ステーションに戻ってくる。
KRONOSはスマートフォンで稼働状態を確認できる。またスマートフォンで人が操作して草刈りをさせることも可能だ。

ドローンを活用した「ICT鳥獣被害対策」

株式会社スカイシーカー
営業部 取締役
平井優次 氏

 農業現場において、シカやイノシシといった野生鳥獣による被害は大きい。農林水産省の調査によると、野生鳥獣の農林水産被害額は、2020年度時点で161億円。このうち全体の約7割がシカやイノシシ、猿だという。

 その鳥獣被害の対策をドローンで行う「ICT鳥獣被害対策」を提供しているのが、スカイシーカーだ。スカイシーカーはもともとドローンの専業会社として創業した企業だ。そのドローンへのノウハウを生かし、スタートしたのが今回のICT鳥獣被害対策だという。もともと、鳥獣被害対策を行うための調査は、人間による目視で行っていた。こうした人力の調査は、人が踏み入れない場所は行えないといった問題や、夜間に活発に活動するシカやイノシシなどの調査は、正確に行いにくいという問題があった。

 そこで有効に活用できるのがドローンだ。赤外線カメラを搭載したドローンを、夜間に自律飛行させることで、従来の人力で動物の個体数を確認する踏査センサス調査と比較すると、約10分の1の時間で作業が完了できる。

 スカイシーカーの平井優次氏は同社のICT鳥獣被害対策について、次のように語る。「一般的に鳥獣被害対策では、捕獲して個体数を減らす『個体群管理』、柵などを設置して被害を防ぐ『侵入防止対策』、集落や農地に近づけさせないための管理を行う『生息環境管理』の三つが基本です。しかし、これら全てを行うことはコスト面や作業の負担から現実的ではありません。当社のICT鳥獣被害対策では、事前の打ち合わせや調査現場の下見を行い、どういった獣種に対してどのような調査を行うべきかを把握します。ドローンで撮影した画像データをもとにAI画像解析システムでアウトプットを行い、データの解析とその結果から、被害防止計画の立案や、動物捕獲計画の検討・策定などをレポートにまとめて納品するまでのトータルサポートを行っています」

 具体的には、調査に基づき、侵入経路を特定して柵を設置する場所を指定したり、鳥獣を捕獲する場所をデータに基づいて指定するようなレポートだ。これまで、鳥獣被害対策は経験と勘によるところが大きかった。しかし、人口減少により知識を伝承しながら鳥獣の捕獲を行うことは難しい。そこでドローンによる空撮と、AI画像解析システムを組み合わせることで、データに基づいた効率的な鳥獣被害対策が実現できるのだ。

「本サービスを利用するユーザーは、都道府県や市町村などの自治体が主です。例えば『この場所にイノシシがたくさんいることは分かっているが、どれくらい生息しているか知りたい』『環境整備を行いたいが、どこを中心に行えばいいのか分からない』といった要望を受けて、業務委託の形で調査を実施します。例えばイノシシが河川を通り道にしている場合、どこから乗り上げているのか河川の上流から下流までは幅広く調査する必要があります。当社ではドローンを活用して、その場所を調査し、優先的に環境整備をする場所や、罠を仕掛ける場所などを提案しました。対策を行った後の効果測定を実施したところ、被害が90%減少したという結果も見られました」と平井氏。

 現在全国からICT鳥獣被害対策の依頼を受けているスカイシーカーは、これからもドローンやAIといった先端技術を活用し、農業従事者が抱える社会課題を解決していく。

ドローンによる調査は基本的に夜間に行う。対象としているシカやイノシシは夜間の方が活発に動くためだ。
赤外線カメラによって空撮されたシカの様子。撮影したデータをもとに、対策レポートも作成する。

栽培未経験者でもおいしいトマトを作れる
最先端の技術を集約した「ローカル5G実証ハウス」

Demonstration Experiment

農業現場の課題の一つ、労働力不足を解消するためには新しく農業に参入する人の数を増やす必要がある。一方で、そうした農家への営農指導を行うには、時間も人手も不足している。そうした指導にまつわる課題を、遠隔での技術指導によって解決する実証を行っている事例がある。

最先端の技術でトマトを栽培

NTT東日本
経営企画部 営業戦略推進室
担当課長
ビジネスコーディネーター
中西雄大 氏

 成城学園前駅からバスで約10分ほど離れた場所にあるNTT中央研修センター。そこにあるのが、最先端の技術が集約された、トマト栽培のビニールハウス「ローカル5G実証ハウス」だ。

 2020年4月、東京都の政策連携団体である東京都農林水産振興財団と、東日本電信電話(以下、NTT東日本)、NTTアグリテクノロジーの3者で「ローカル5Gを活用した先端農業の実装に向けた連携協定」が締結された。その中で取り組んでいるのが、先端技術を用いた新しい農業技術のモデルケース作りだ。調布市にあるNTT中央研修センターに整備された試験圃場(ローカル5G実証ハウス)と、立川市にある東京農林総合研究センターを遠隔でつなぎ、ローカル5G実証ハウスからの映像データをもとに、栽培に関するアドバイスが行われている。ハウス内にはローカル5Gを整備し、複数台の4Kカメラの映像を立川市の農林総合研究センターに伝送している。農林総合研究センターでは4台のモニターを並べて伝送された映像を確認し、その映像を見ながら指導員が遠隔で指導している。

 NTT東日本の経営企画部 営業戦略推進室に所属しつつ、NTTアグリテクノロジーの業務にも携わる中西雄大氏は「試験圃場にあるハウスには、最先端の技術が集められています。ローカル5Gを活用した遠隔での指導はもちろん、温度や湿度、CO2などを常にセンシングしながら全自動で制御し、トマトが光合成しやすい環境を整えています。これらの制御は自動で行われているだけでなく、ネットワーク化されており、状況に応じて立川の農林総合研究センター側から遠隔で制御することも可能です」と語る。

4Kカメラ映像を見て遠隔指導

 こうした取り組みをスタートした背景には、農業従事者が減少していることに加え、農業技術の指導を行う指導員の数も減少していることがある。「特に東京都の農業の特長として、小規模な農家が分散していることが挙げられます。技術指導員の人手が不足している中で、さまざまな場所に点在する農家に直接出向いて技術指導を行うことは負担が大きいのです。特にコロナ禍においては移動制限や人との接触を避けることが推奨されましたので、直接出向いての指導が困難になりました。そこで『移動制限があるコロナ禍での新しい技術指導の形』の実現を目指すべく取り組んだのが、今回のローカル5Gを活用した遠隔での高品質な技術指導です」と中西氏。

 そこで重視されたポイントが、“高品質”だ。これまでの技術指導は、多くても週に1回現地に赴いて指導するものだった。しかし今回の実証では、1日5〜10分の時間、遠隔からローカル5G実証ハウスの様子を毎日確認している。指導員の立場からすると、1週間に1回現地を見るよりも、短時間でも毎日様子を見る方が質の高い指導につながるのだという。中西氏は「毎日様子を確認することで、技術指導だけではなく害虫などが発生した場合でもリアルタイムに気付きやすく、きめ細やかな指導が行えます。4Kカメラを使用したことで、高解像度な映像を伝送できるため、ささいな変化も遠隔から把握しやすい環境です」と話す。調布と立川は車で1時間ほど離れた距離にあるが、その移動時間がなくスムーズに指導が行える点も、遠隔による技術指導のメリットの一つと言える。

 5G実証ハウスでは350株のトマトを栽培しているが、現地でそれらを栽培するスタッフは栽培未経験者だ。前述した4Kカメラはローカル5G実証ハウスの天井に4台設置されているほか、立川から遠隔で操作できる自律走行式4Kカメラが1台ハウスの中で動いている。ほか、入り口付近にも防犯用の定点カメラが1台設置されている。遠隔操作用のカメラがあることで、定点カメラの死角を補完でき、栽培員が不在の場合でも能動的な遠隔農作業支援が可能になるのだ。また、トマトの葉っぱの裏側など遠隔操作カメラでも確認しにくい部分はスマートグラスを活用し、適切な判断を行うほか、遠隔でのリアルタイムな作業指示につなげている。

ローカル5G実証ハウスに設置された4Kカメラ。
天井に備え付けられたカメラのほか、自律走行を行うカメラが1台、ハウス内を走行している。定点ではカバーできない部分を近づいて確認できる仕組みだ。

小学校の食育にも活用

 毎日の変化に応じた適切な指導を受けたことで、栽培未経験のスタッフでも定植から出荷までトータルで行うことができ、おいしいトマトの栽培に成功した。

「栽培したトマトは、地元JAと協力した市場流通に加え、こども食堂や地域のお店との連携、NTT東日本の社員食堂での利用を通じ、フードロス削減に向けた取り組みを実施しています。実際に小売店さまなどからは『糖度が高くとてもおいしい』と高い評価を得ています」と中西氏は笑う。調理過程で出た調理くずや食べ残しなどは、グループ企業のビオストックが開発した超小型バイオガスプラントを活用し、エネルギーや肥料を創出する都市型循環エコシステムの実証にも2022年1月から取り組んでいる。

 また、地域の小学校と連携し、給食でトマトを提供する取り組みも2021年11月から実施している。ただ食べてもらうだけでなく「デジタル化に対応した食育」として、ローカル5G実証ハウス内の様子をデジタルコンテンツとして配信したり、社会科見学の一環として実際にビニールハウスに来てもらい食育に生かしている。「スマート農業としての取り組みだけでなく、出荷した先も含めた良いモデルの構築が実現できたと思います」と中西氏は振り返る。

 一方で、今回の実証実験で使用した5G実証ハウスのような環境を、ほかの農業従事者がそのまま導入することはコスト負担が大きい。実際、5年間の運用コストを含めると約2,000万円ほどのコストがかかるという。中西氏は「そのため、今年度は普及版のパッケージも含めて検討を進めています。例えば4Kカメラの同時多接続が必要ないのであれば、ローカル5GでなくWi-Fiの通信環境でも良いですし、モバイルSIM通信でも対応できると思います。ミニマムで安価に導入できる環境で、どれくらい指導が行えるかといったことも含めて、今年度は検証を進めていく予定です」と話す。

 今後は前述した実証から実装に向けた仕組み作りに加え、ドローンやAIを活用した遠隔農業支援のさらなる高度化にもチャレンジしていく方針だ。

スマートグラスを使い、ARで生育状況を伝達したり、葉っぱの様子をより詳しく立川の東京農林総合研究センターに伝えたりしている。
スマートグラスを使えば両手が空くため、そのまま指示を受けて対処することも可能だ。

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