一人ひとりに合わせた市民サービスを目指す
デジタル市役所の実現に向けた取り組み

新型コロナウイルスの感染拡大による生活様式の変化、政府が掲げる地方行政のデジタル化の推進などによって、自治体における行政サービスの見直しが叫ばれるようになった。それにより、多くの自治体で書面・押印・対面が必須となっていた窓口業務や紙ベースの業務プロセスからの脱却などさまざまな施策が講じられている。福岡県北九州市もまた、デジタルトランスフォーメーション(DX)をキーワードに行政改革に取り組む都市の一つだ。その内容について詳細を聞いた。

デジタルで快適・便利なまちへ

福岡県北九州市
九州の最北端に位置する人口約93万人(2021年10月1日時点)の政令指定都市。1602年に築城された県内唯一の天守閣を持つ「小倉城」や鉄鋼業の発展の礎を築いた「官営八幡製鐵所」などの施設がある。作家の松本清張氏の記念館や漫画家の松本零士氏が名誉館長を務める「北九州市漫画ミュージアム」などの文学や芸術に関するスポットも多い。松本氏の代表作「銀河鉄道999」のラッピングをした北九州モノレールも運行中(写真)。

 多くの民間企業で業務のデジタル化が進む中、総務省は2020年12月に「自治体DX推進計画」を策定した。自治体情報システムの標準化・共通化、マイナンバーカードの普及促進、行政手続きのオンライン化など自治体におけるDX推進のために取り組むべき事項をまとめたものだ。その根本には、政府が定めるデジタル社会のビジョン「デジタルの活用により、一人ひとりのニーズにあったサービスを選ぶことができ、多様な幸せが実現できる社会」がある。

 こうした政府の方針を踏まえ、デジタル技術を行政サービスや市役所業務に活用することで、誰もが安心して必要とする行政サービスを利用できる「デジタル市役所」の実現を目指しているのが、北九州市だ。本市では、「(仮称)北九州市DX推進計画」を策定し、市民目線で市役所のDXを推進するための、目標や取り組み内容などを明確化した。取り組みの期間は、2021~2025年度までの5年間の計画だ。「『デジタルで快適・便利なまちへ』という目的(ミッション)のもと、誰もが住みやすく、住み続けたい、住んでみたいと思えるまちづくりを目指します。DXの推進を契機に、市役所の現状の見直しや改善を図ることで、市民に対するサービスの向上、職員に対する業務の効率化といった効果を同時に実現させていきます」と北九州市 デジタル市役所推進室 企画係長 徳光 崇氏は意気込みを語る。

 (仮称)北九州市DX推進計画では、デジタル市役所を実現させるべく、常により良いサービスや業務改善を追求する「意識改革」、市民に寄り添ったサービスを素早く提供する「しごと改革」、働きがいと働きやすい職場環境を実現する「働き方改革」の三つを行動指針に置いている。この三つの視点から、デジタル技術を徹底的に活用し、市役所の基盤を整備していくのだという。

「単にデジタル技術の導入・活用を図るだけではなく、従来の慣習の打破に挑み、業務の在り方をはじめ、制度・手続きや、政策・組織の在り方を含めた抜本的な改革に取り組むことによって、市役所の在り方そのものの見直しを行っていきます」(徳光氏)

市民のニーズを捉えて支援

 北九州市では、市民目線のデジタル市役所の実現に向けて次の三つのスローガンを掲げている。

1.「書かない」「待たない」「行かなくていい」市役所へ
2.「きめ細かく」「丁寧で」「考える」市役所へ
3.「働きやすく」「いきいきと」「成果を出す」市役所へ

 1.は、市民が手続きのために来庁する回数を最小化して、市民一人ひとりのニーズをきめ細かく捉え、必要な支援をプッシュ型で展開する市役所の実現を目指すものである。全ての行政手続きにおいて、始めから終わりまでデジタルで完結できることを念頭に置き、窓口業務の見直しを行っていく。

 2.は、市の発展に向けた創造的な企画の立案・実現をスピーディーに展開し、市民に寄り添った丁寧な行政サービスを提供する市役所の実現を目指すものだ。AIやRPAなどを取り入れ、定型的な事務作業はデジタル化する。業務を効率化して職員のリソースを捻出することで、相談や支援といった直接市民に接する業務に充てられるようになる。

 3.は、職員に対する取り組みで、職員のワーク・ライフ・バランスを推進し、多様で柔軟な働き方の実現を目指すものだ。時間や場所にとらわれることのない働き方を可能とするテレワークの環境整備や、定型業務をデジタルで処理し、就業時間内で業務を完了させられるようにするといった職場の環境整備に関する取り組みだ。

窓口申請がオンラインで可能に

 デジタル市役所の実現に向けて、本年度実施した取り組みの一つが、「北九州市デジタル窓口」の開設(2021年4月28日)だ。「妊娠・出産」などのライフイベントに関する手続きや図書館の貸し出し予約、市税や国民健康保険料の支払いなど250を超える申請がオンラインから手続きできるというもの。

「デジタル窓口の開設前までそれぞれの部署でバラバラに行っていた手続きを、全て一つに集約しました。『書かない』『待たない』『行かなくていい』市役所の実現に向けた取り組みの一歩です」と話すのは、北九州市 デジタル市役所推進室 行政サービス改革係長 藤原弘光氏だ。

 ほかにも、区役所などの窓口でタブレット端末を活用した申請書作成支援の実証実験やオンラインで区役所などの窓口の空き時間を確認・予約できる実証実験、区役所に行かなくても相談や申請をリモートで受け付けできる実証実験などさまざまな試みが行われているという。

 庁内では、ノートPCを1,500台ほど導入し、職員に対して、在宅やサテライトオフィスでの勤務といったテレワークの実施を行っている。ニューノーマルな働き方に合わせて、職場環境の見直しを図る。

「市民サービスのオンライン化、デジタルツールの活用、働き方改革の実現など、これからの5年間でしっかりと集中して取り組みを行っていきます。デジタル市役所の基盤を整備し、さらに市役所のDX化を発展させたいと考えています」(藤原氏)