ARを活用した美容のオンラインカウンセリング

-Beauty Tech- 資生堂

スキンケアやメイクといった美容(Beauty)と技術(Tech)を組み合わせたBeautyTech。このカテゴリーが、人との接触を避けるべきコロナ禍において大きく注目されている。その実際の取り組みを見ていこう。

対面カウンセリングが困難に

資生堂の「クレ・ド・ポー ボーテ」は、1982年発売の「クレ・ド・ポー」を前身として、1996年に誕生した資生堂グループの最高級ブランド。フランス語で「肌の鍵」という意味を持つブランド名には、「未知の美しさへの扉を開ける」という思いが込められている。

 そのクレ・ド・ポー ボーテが、コロナ禍において取り組み始めたのが、オンラインカウンセリングだ。美容カウンターにおいては美容部員(ビューティーアドバイザー)が顧客からの肌や顔の悩みをヒアリングしながら、その悩みに合わせたスキンケア商品やメーキャップ商品を提案する。

 しかし、人と人との接触を避けるべきコロナ禍においては、こうした対面によるカウンセリングにはリスクが生じる。実際、美容部員が顧客の肌に触れて化粧を行う“タッチアップ”を自粛した化粧品売り場も多くあり、顧客へのサービス提供に課題を抱えていた。

 そうした対面によるカウンセリングのリスクを解決するのが、オンラインカウンセリングだ。Web会議ツールを活用し、対面でのカウンセリングと同じように、顧客の悩みを解決する商品を提案する。クレ・ド・ポー ボーテもZoomによるオンラインカウンセリングを実施し、コロナ禍においても顧客に親身に寄り添うカウンセリングの実施を継続して行っていた。

ARを活用して質を高める

一方で、オンラインカウンセリングの場合、従来の対面でのカウンセリングと異なり、顧客の肌に直接メイクやスキンケアを施すタッチアップは行えない。ファンデーションを肌に塗った際の色味などは、美容部員の腕に塗って見せることで、その違いを顧客に理解してもらっていた。

 前述のような対面でのカウンセリングとの差異を解消し、より質の高いオンラインカウンセリングを実現するべくクレ・ド・ポー ボーテが導入したのが、パーフェクトが提供する「Web BA 1 on 1」だ。

 Web BA 1 on 1はARとAI、対面型ビデオ通話を組み合わせてオンラインカウンセリングを実施する。対面でのカウンセリングのように、美容部員と顧客が対話しながら、気になる商品をARによるバーチャルシミュレーションで実際に顧客の顔に施し、カウンセリングを行えるというものだ。

 クレ・ド・ポー ボーテでは2020年10月7日~12月6日の2カ月間、伊勢丹新宿店においてPoC(実証実験)を実施し、Web BA 1 on 1の活用効果を検証した。オンラインカウンセリングの実施を顧客に対して、LINEやFacebookなどのSNSで知らせ、そこから資生堂が運営するWebサービス「ワタシプラス」上で、オンラインカウンセリングの日時予約を行ってもらう。顧客は、予約受付のメールに記載されたURLから、オンラインカウンセリングを受けてもらう仕組みだ。

店舗平均購入金額が1.5万円向上

 実際にWeb BA 1 on 1によるオンラインカウンセリングを行った効果について、クレ・ド・ポー ボーテ グローバルブランドユニット デジタルトランスフォーメーション担当の小林治香氏は、オンラインイベント「グローバルビューティーテックフォーラム2020」において次のように振り返った。

「Web BA 1 on 1によるオンラインカウンセリングの総合満足度は93%と非常に高い結果となりました。利用者層も年代の偏りは少なく、20~40代までバランスよく予約をいただきました。地域別に見ると東京、神奈川、埼玉、千葉のお客さまが全体の84%を占めており、残り16%は北陸や鹿児島など広域にわたります」

 購買傾向については「購入率は県外からの参加者の方が高い傾向にありました。実際、Web BA 1 on 1のオンラインカウンセリングでは、実店舗よりも平均で1.5万円ほど購入金額が高くなるなど、購買率も高まりました。コロナ禍の影響もあり、スキンケア商品やベースメイク、アイメイク商品が多く購入されましたね。ARを組み込んだことで、お客さまの顔に実際にメイクしたように見せられるため、非常にお客さまの反応がよく、カウンセリングがしやすかったと美容部員からの評価も高い結果となりました」と語った。

 今後はこれらのPoCの結果を共有しながら、他店舗への展開を検討していきたい考えだ。

Web BA 1 on 1によるバーチャルオンラインカウンセリングのイメージ。カウンターでカウンセリングを受けるように通話が可能だ。
美容カウンターでのカウンセリングは、顧客の肌の悩みやメイクの希望を聞きながらタッチアップ(直接メイクやスキンケアを施してアドバイス)を行う。コロナ禍により自粛したブランドも多い。

Webとデジタルの活用が顧客体験を向上させる

-Beauty Tech- パーフェクト「Web BA 1 on 1」

バーチャルメイクアプリ「YouCamメイク」など、画像映像処理技術を生かしたサービスを数多く展開するパーフェクト。BeautyTechの拡大により実現する実店舗でのビジネスの可能性を聞いた。

画像映像処理のノウハウを生かす

 パーフェクトは、台湾に本社を構え、日本、アメリカ、中国、インド、欧州に拠点を置くグローバル企業だ。画像映像処理技術を豊富に持ち、動画編集ソフト「PowerDirector」などで知られるサイバーリンクから2015年に独立し創業した。

 同社の旗艦アプリ「YouCamメイク」はARとAIを利用し、自然で再現度の高いバーチャルメイクが可能になるアプリケーションだ。アプリ上でカラーメイクや肌診断、カラーコンタクト、ヘアカラーなどのバーチャルメイクが楽しめる。

 このAR、AIを用いたバーチャルメイク技術を生かし、パーフェクトではさまざまなサービスを展開している。例えば、カネボウのメイクアップブランド「KATE」では、パーフェクトのメイクシミュレーション機能を同ブランドのWebサイト上に実装し、顧客がWebサイト上で同ブランドのコスメを体験できるようにした。従来のWebページと比べ、このメイクシミュレーション機能が実装されたページでは4.3倍の滞留時間になるなど、高い効果が得られた。

 パーフェクト 代表取締役 磯崎順信氏は「バーチャルメイクは、マスカラやアイライナーが、目尻の粘膜に貼り付けられるように調整しています。リップも同様で、唇の端からずれることがないようARで表現しています。透明感やグロスの表現もARで実現できるようこだわっています」と語る。

OMOの施策が打ちやすい国内市場

 実店舗とWebサイトを連動させるオムニチャネルショッピング体験にも、パーフェクトの技術が生かされている。

 例えば花王の白髪用ヘアカラーシリーズ「ブローネ Lumiest(ルミエスト)」では、店頭でのヘアカラー見本用の毛束を廃止し、顧客にQRコードを読み取ってもらうことで、ARにより髪色を簡単にシミュレーションできるようにした。花王では2022年までに同社のヘアカラー全商品を対象に、毛束見本の見直しを図り、プラスチックの削減を進めていく方針だという。

「Webやデジタルを活用して店頭での顧客体験をよりよいものにしていく取り組みは、2018年ごろから注目されています。それがこのコロナ禍の中で、さらに加速化しているのです」と磯崎氏は語る。

 パーフェクトが開発したオンラインカウンセリング「Web BA 1 on 1」も、そうしたサービスの一つだ。Web BA 1 on 1はARとAI、対面型ビデオ通話を組み合わせてオンラインカウンセリングを行う。百貨店の美容カウンターで美容部員からカウンセリングを受ける感覚で、ブランドのECサイトやWebサイトに訪れた顧客が、オンライン美容部員にビデオ通話をかけ、気になる商品をバーチャルシミュレーションによって自身の顔に施しながら、美容部員と一対一でカウンセリングを受けられるサービスだ。「例えば米国など海外市場においては、平日は百貨店の美容カウンターにほとんど人が入っていません。そのため、Web BA 1 on 1によるオンライン美容部員によるカウンセリングが、働き方の一つの活路となるのです。半面、日本は駅ビルや駅ナカなど、さまざまな場所で化粧品を買うことができ、美容部員からのカウンセリングも受けられます。実店舗での購買行動が非常に強い国であり、“デジタルか、リアルかをあまり意識せずにショッピングができる”『Online Merges Offline』(OMO)の施策が打ち出しやすい市場といえます」と磯崎氏は指摘する。

美容部員の働き方改革にも貢献

 Web BA 1 on 1の国内での導入は、まだ資生堂のクレ・ド・ポー ボーテのみだ。しかしコロナ禍によって、Web上でのトライオン(バーチャルメイク)は非常に増えたという。「デジタル化を考えていなかったブランドも、店頭にサンプルが置けない、タッチアップができないことにより、Web BA 1 on 1に興味を持っていただいています。しかし、Web BA 1 on 1はバーチャルメイクの実装にプラスして、美容部員がツールを使いこなすための時間や、顧客からの予約受付、実際のカウンセリングの対応までのオペレーションが必要となるため、実装のハードルが若干高いのです。資生堂さまは自社でさまざまなデジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組まれており、デジタル化に対して非常に前向きでポジティブです。今回のWeb BA 1 on 1も自社のシステムに予約連携をプラスするなど、運用のための仕組み作りを行っていました。店頭でもマルチチャネルに対応したサービス提供を行っており、これまでの積み重ねもあってのWeb BA 1 on 1活用の成功と言えるでしょう。そのため、他社ブランドでは2021~2022年ごろに導入が進んでいくと考えています」(磯崎氏)

 Web BA 1 on 1は、コロナ禍以降の美容部員の働き方改革にも寄与できる。前述したように、日本国内ではさまざまな場所で化粧品の購入や、対面によるカウンセリングが可能だ。それ故に、美容部員の不足が課題となっている。例えば妊娠出産を契機に、美容部員を辞めてしまった女性が、Web BA 1 on 1を活用し、リモートでオンラインカウンセリングをするような、柔軟な働き方を実現するツールとしても、Web BA 1 on 1は有効なのだ。

Web BA 1 on 1の画面。ピクチャ・イン・ピクチャで表示されているのが美容部員、メインで表示されているのが顧客側だ。
アイライナーをトライした様子。目尻までアイライナーのラインが重なって表示されているのが分かる。
リップをトライしている様子。商品詳細も表示可能で、情報を確認しながらさまざまなリップを試せる。
アイシャドーをトライしている様子。どの部位にどの色が乗るかなども表示され、違和感なくバーチャルメイクが顧客の顔に重なる。