Vol.1
業務と開発の生産性を飛躍させる
ローコード開発を活用したビジネス展開

2024年までにビジネスで利用されるアプリケーションの65%はローコード開発になるという。本連載ではローコード開発プラットフォームであるマイクロソフトの「Power Platform」を活用したビジネス展開について3回にわたって解説していく。今回はPower Platformの基礎知識と期待できるビジネスについて解説する。

業務のデジタル化は
現場からの要望が増加

日本マイクロソフト
ビジネスアプリケーション事業本部
プロダクトマーケティングマネージャー
平井亜咲美氏

 今後5年間で新たに作られるアプリケーションの数は、過去40年間に構築されたアプリの総数を上回る5億個に達するという予測がある。しかし以前よりIT技術者の不足が問題となっており、短期間で膨大な数のアプリを開発するのは困難に思える。そこで注目されているのが「ローコード開発」という手法だ。

 ローコード開発とはソフトウェアやクラウドサービスを開発する際に必要なコードの知識がなくても、簡単かつわずかなコードだけで必要なツールが開発できる手法だ。ローコード開発によりソフトウェアあるいはクラウドサービスを開発する際の難易度が下がり、生産性とスピードを大幅に向上させられる。そして開発にかかるコストも小さくなる。

 日本マイクロソフトでビジネスアプリケーション事業本部のプロダクトマーケティングマネージャーを務める平井亜咲美氏は「コロナ禍によってテレワークが普及した一方で、多くの業務がデジタル化されていない実態が浮き彫りになりました。デジタル化されていない業務のために出社しなければならないなど、生産性を低下させる要因になっています」と指摘する。

 多くの企業では基幹システムや業務システムを導入して、重要な業務あるいは広範囲にわたる業務のデジタル化は実施済みだ。ところが社内に数多く存在する紙やメール、Excelなどを利用した人手による細かな業務のデジタル化は、投資効果の観点から見過ごされてきた。しかしローコード開発が身近になった現在、今後は改善対象の業務範囲が広がり、細かな業務もスピーディーかつ低コストでデジタル化できるようになる。

アプリの内製が進むほど
新たな商機を生み出す

 ローコード開発を活用すれば業務の現場の人たちが、自身の業務に必要なツールを自ら作れるようになる。平井氏は「一般的にローコード開発は開発言語の知識がなくても、簡単なコードを用いるだけでツールが作れます。さらにマイクロソフトが提供するローコード開発プラットフォームであるPower Platformに含まれるPower Appsを使えば、クリック操作だけ、あるいはExcelの関数を使うレベルで、シンプルかつ簡単にビジネスアプリが作成できます」と説明する。

 そうなると従来のSIビジネスは縮小してしまうのではないか、という心配もあるだろう。平井氏は「業務の生産性向上や効率化といった効果を得るにはノウハウや経験が必要ですし、複雑な仕組みをデジタル化するにはコードの知識が必要となる場面もあるなど、エンドユーザーが自力で対応するには限界もあります」と指摘する。

 平井氏の指摘はPower Appsに限らず、ほかのローコード開発ツールにも当てはまる。そのためローコード開発を用いたビジネスにもSIのスキルが発揮でき、さらに新たな付加価値をサービス化することも可能となるのだ。

 Power Platformを活用したローコード開発ビジネスの商機について平井氏は「いくら簡単なアプリであっても技術者のアドバイスがある方がスムーズかつ有効に作れますし、作成したアプリの安全性の確認など管理面でも技術者の支援が必要になるケースが少なくありません」と説明する。

 アプリを作るという観点では業務を効果的にデジタル化するためのアドバイスや、難しいコードを使わなければならない時のアドバイスといった開発支援サービスを提供できる。これは顧客におけるアプリの内製が進むほど、商機が増えていく。顧客が内製できないアプリをPower Platformで作成して提供する商機もある。またPower Platformで独自のビジネスアプリを作り、自社のブランドで広く販売することも可能だ。

 さらにソフトウェア開発の難易度が低いというローコード開発の利点を生かせば、SIer以外のITビジネスプレーヤーがアプリ開発支援や独自アプリの提供といった新たなビジネスに参入できる商機も生まれるだろう。

開発ツールだけではない
統合プラットフォームの魅力

 Power Platformがローコード開発環境として優れているのはローコード開発ツール(Power Apps)だけではなく、あらゆる業務を有効にデジタル化するためのツールや仕組みを包含したプラットフォームであることだ。

 さらにPower PlatformはクラウドプラットフォームであるMicrosoft Azure、ERPおよびCRMといった業務アプリであるDynamics 365、デスクトップアプリやコラボレーションアプリであるMicrosoft 365を統合している。Azureをベースに独自のアプリやサービスを作成してクラウドを通じて顧客に提供できるほか、Microsoft 365やDynamics 365に含まれるアプリの機能を拡張したりカスタマイズしたりするツールも提供できる。

 Power Platformで提供されるローコード開発ツールのPower Appsは、ローコード・ノーコードでフル機能のWebアプリやモバイルアプリが作成できるほか、Power Platformのデータコネクターを通じて基幹システムやほかの業務アプリなどとデータ連携することもできる。

 さらにPower Platformには業務やデータを可視化するPower BIや、業務の自動化に役立つRPA機能を含むPower Automate、対応業務の効率化に役立つチャットボットのPower Virtual Agentsが提供される。

 これらのPower Platformに含まれるツールを用いて作成されたアプリやツール、Azureで提供されるサービス、そしてMicrosoft 365やDynamics 365は、データコネクターを通じて外部のシステムやアプリ、クラウドサービスとデータ連携することができる。例えばDynamics 365はSAPとデータ連携できるため、Dynamics 365の機能とSAPの機能を組み合わせた独自のソリューションを作成、提供することも可能となる。

 外部とのデータ連携だけではなく、外部の異なる形式のデータを一括して保存・蓄積することも可能だ。平井氏は「次々と生み出されるデータをより多く集め、有効なデータを取り出してビジネスに生かすことが求められていますが、データは生成されたアプリにひもづいているためサイロ化しています。そこでデータコネクターで連携した異なるデータをMicrosoft Dataverseで1カ所に集約し、データ活用の基盤を構築できます。膨大に蓄積されたデータを活用するには的確かつ迅速な分類や分析が必要となるため、Power PlatformではAI Builderを提供しています。AI Builderを使えばDataverseに蓄積されたデータからビジネスプロセスを最適化でき、それをPower AppsやPower Automateで作成するアプリに反映できます」と説明する。

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 次回はより具体的なビジネス展開について解説を進める。