プレゼンテーションという言葉を耳にした時に、想起するのはスライド資料を示しながら、自社の商品やサービス、提案内容などを説明するようなシーンや、役員会などで報告するシーンだろう。こうしたシーンのプレゼンは営業職など、一部の職種や役職のビジネスパーソンが行う仕事だと認識している人も多いかもしれないが、プレゼンスキルはコミュニケーションスキルのように、全てのビジネスパーソンにとって必要なものだ。今回はオンラインとオフラインが入り交じるハイブリッドワーク時代のプレゼンスキルについて、2人の有識者にインタビューを行い、アドバイスをいただいた。

三つの間を使いこなす

 AND CREATE 代表取締役 清水久三子氏は、生産性向上研修や女性リーダー育成プログラムといった企業研修のほか、現代の社会課題をテーマにした講演、ビジネスセミナーへの登壇を行っている。プレゼンテーションに関する書籍の執筆も行っており、コンサルタント、ワーキングマザー、起業家としての経験を生かした課題解決の支援を行っている。

 清水氏は「実はビジネスシーン全体を見てみると、上司への報告やお客さまと会話するような場面など、あらゆるシーンでプレゼンを行っています。しかし、それをあまり認識していないんですよね。そのため、大勢の前で話すようなプレゼンは『緊張してしまう』と苦手意識があったり、自分はプレゼンをやらないからと距離を置いたりしてしまいがちです。しかし前述したように、プレゼンをする機会は日常の中にたくさんありますので、プレゼンスキルを身に付けることで、仕事そのものが円滑に進んだり、相手の方との関係性を築きやすくなったりといったメリットが生まれます」と指摘する。

 そのプレゼンスキルに「説明の仕方」や「話し方」がある。清水氏は「プレゼンテーションでは、メッセージを明確に伝えましょう。メッセージとは、自分が伝えたいことではなく、『主張』と『根拠』です。こうした方が良いという主張と、その主張の背景にある理由ですね」と語る。加えて清水氏は、話し方のポイントとして以下の三つの間を挙げた。

1 理解の間
句読点の「、」は0.5秒、「。」は1秒の間を空けて話し、聞き手が理解しやすくする。

2 強調の間
キーワードの前に2〜3秒、後に1〜2秒の間を空ける。重要なことを話すときに“ため”や“余韻”を作り興味や注意を引きつける。

3 集中の間
注意を向けたい場合や質問を受けた後に3〜5秒の間を空ける。質問に回答する場合、長めに間を取って考えることも有効。

 これらの三つの間は、オンラインで行われるプレゼンにも有効で「非常に伝わりやすくなります」と清水氏。

気持ちを伝えるアイコンタクト

AND CREATE
代表取締役社長
清水久三子

 声の抑揚の付け方も重要だ。キーワードや修飾語を1.5倍の大きさで話したり、興味を引きたい場面で声のトーンに1.5倍の高低を付けたり、大切なところはゆっくりと話したりといった点を意識すると良い。「特にオンラインプレゼンの場合、ずっとゆっくり話していると興味が薄れてしまいます。オンラインプレゼンでは対面のプレゼンと比較して早く話したほうが聞きやすいという調査結果もあり、全体は早く話し、重要な所をゆっくりと話すことで、より伝わりやすくなります」と清水氏は語る。

 またプレゼンにおいては、視線も重要だ。アイコンタクトを苦手とする人も多いが、相手の目を見て話すことで、熱心さや気持ちが伝わりやすくなる。「ずっと相手の目を見ていると聞き手も緊張してしまいますので、喉元や口元を見ながら、要所要所で目を見ると良いでしょう。どうしても見られない場合は、体を相手の方に向けるだけでも良いでしょう」と清水氏。また、オンラインプレゼンはアイコンタクトが取りにくいが、PCスタンドなどで高さを変えたり、カメラを見る工夫をしたりすることでアイコンタクトが取りやすくなるという。

 最後に清水氏は「日本人の9割以上はプレゼンを苦手としています。プレゼンで話し方を失敗してしまったと気にする人も多いのですが、プロの芸人のトークではないので、多くの聞き手は些末な失敗を気にしません。しかし、できるだけ相手に伝わるように話したいのであれば、自分の話している姿を録画して聞き直したり、ほかの参加者からフィードバックをもらったりといった工夫をすると良いでしょう。そうした振り返りによって、プレゼンテーションのスキルがどんどん自分の中に蓄積されていきます」とアドバイスを贈った。

時間配分をもとに資料を考える

プレゼンテーション協会
代表理事
前田鎌利

 プレゼンテーション検定の開催や実施、企業内講師育成などを事業とするプレゼンテーション協会。全国高校生プレゼン甲子園の共催としても活動しており、プレゼンスキルの普及に取り組んでいる。

 そのプレゼンテーション協会の代表理事を務める前田鎌利氏は同協会の取り組みを次のように語る。

「『念(おも)いが伝わる世の中へ』を理念に、個々人や企業に対して伝えるスキルを身に付けてもらうことを実現しようと設立されました。プレゼンテーション検定では自分がどれだけ伝えるスキルが身に付いているかをテストし、合格された受講者に認定証を発行しています。またオンラインスクール事業にも取り組んでおり、プレゼンのスキルアップを実現できるコースなどを学べます」

 ビジネスにおけるプレゼンについて、前田氏は「意思決定のためのツール」であると指摘する。そして、その意思決定を行う上で必要となるのが、プレゼン時に聞き手に示す資料だ。前田氏はその資料の作成について三つのポイントを提示した。

 一つ目は時間配分だ。プレゼンは3〜5分の短い時間で伝え、その後の質疑応答で不明な点を補足する方が良い。具体的には3分程度のプレゼンであれば説明用のスライドは5〜9枚、5分であれば20枚を目安に作成すると良いという。前田氏は「1時間の講演となるとまた作り方が異なりますが、商品を紹介するようなシーンの場合、社内プレゼンは3分程度、社外プレゼンは5分程度を目安に資料作成をすると良いでしょう」と語る。

 二つ目は資料の見やすさだ。資料にテキスト情報を入れすぎると見にくくなってしまう。「文章は書きすぎないことが重要です。メインキーワードは13文字、補足は40文字程度が良いでしょう」と前田氏は指摘する。

 三つ目はビジュアルの使用だ。写真や動画などを使うことで相手の感情を動かすことが可能になる。「誰に何を伝えるかによって、ビジュアルの選択は変わりますが、感情を動かすのであれば写真が良いでしょう。逆にロジカルに物事を伝えたい場合はグラフの使用がお勧めです」と前田氏はアドバイスする。

 上記の三つの項目を網羅して、分かりやすく、見やすいプレゼン資料作りを行い、「念い」が伝わるプレゼンを実践していこう。