リアルタイムで路面状況を確認
公民連携による「道路維持管理DX」

利用者が道路を安全かつ快適に走行・歩行できるようにするため、自治体では道路環境の維持に努めている。道路を良好な状態に保つには、日々のパトロールをはじめとした点検作業や損傷に対する補修作業などが欠かせない。そんな道路の維持管理をデジタル技術で効率化しようとする動きがある。今回は茨城県鹿嶋市が公民連携で行う「道路維持管理DX」について取り上げる。

茨城県鹿嶋市

人口約6万5,000人(2023年っっx11月1日時点)、茨城県南東部に位置する市。太平洋に面しているため、黒潮の影響を受けて四季を通じて温暖な海洋性気候で過ごしやすい。日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)に加盟する鹿島アントラーズのホームスタジアムである「茨城県立カシマサッカースタジアム」を有しており、サッカーの街としても知られている。

道路の維持管理を行う職員の不足

 人々が安全に道路を利用できるようにするためには、道路の維持管理が重要だ。自治体では道路の点検作業や危険箇所の補修作業などを行いながら、道路環境の維持に取り組んでいる。しかし、常に道路を良好な状態に保つためには問題も生じているという。鹿嶋市 政策企画部 政策推進課の担当者は次のように話す。「道路の維持管理にかかるコストが年々増加しており、措置するのが難しくなってきている状況です。さらに、技術職員の高齢化や労働人口の減少によって、道路の管理を行う職員が不足してきています。これらの理由により、巡回パトロールを行う際に、見回れていない地域が出てくるなど、市内全域の道路状態の把握ができていませんでした。加えて、市民から道路の修繕依頼などのインフラ管理に関わる問い合わせが増えており、職員が対応に追われています。道路のデータ管理についてもExcelを用いて入力していたため、手間がかかり、職員不足も相まって余裕がなくなっていました。道路の維持管理業務に関して当市ではさまざまな問題を抱えている状況でした」

 こうした道路の維持管理における問題を解決するため、2023年6月1日に鹿嶋市は出光興産と「インフラ管理のデジタルトランスフォーメーション(DX)による市民の生活満足度向上のための道路の維持管理に関する契約」を締結した。出光興産が提供する「出光グループの製品配送車両とAIによる道路損傷検知技術を活用した道路維持管理サービス」(以下、道路維持管理サービス)を導入し、道路維持管理の最適化を図り、市民にとってより安全で安心な環境づくりを目指していく。「鹿嶋市では、公民連携による地域課題を解決していく取り組みを積極的に行っています。その一環で、デジタル技術などを活用し、生活者目線で地域課題の解決を目指す『SmartCityX』というグローバル・オープンイノベーション・プログラムに参加しており、これをきっかけに出光興産さまと今回の道路維持管理DXの取り組みを実施することになりました」(政策推進課 担当者)

道路の損傷箇所をリアルタイムで把握

 鹿嶋市と出光興産では2022年度(2022年11月〜2023年2月)に道路維持管理DXに関する実証を実施している。実証の内容は、以下の通りだ。

①市内を高頻度かつ広範囲に配送する出光興産グループの製品配送車両と鹿嶋市の公用車に、AIによる道路損傷検知アプリを搭載したスマートフォンを取り付ける。
②AIが道路の損傷箇所を検知すると、その場で道路の撮影を行う。
③場所と撮影した写真を鹿嶋市の道路管理担当者に通知する。
④道路管理担当者が損傷箇所の報告を確認する。
⑤道路修繕の必要を判断する。

 実証で活用されている道路維持管理サービスは、出光興産とアーバンエックステクノロジーズが協働で提供しているものだ。アーバンエックステクノロジーズの「RoadManager」(以下、RM)というAIによる道路損傷検知サービスが利用されている。

「RMを搭載したスマートフォンを車両に設置するだけで、事故につながる損傷を、自動で検知可能です。人の目だけでは見逃してしまうようなポットホール(路面上の穴)もAIによって見逃すことなく検知できます。当サービスの活用により、道路管理者は役所内で勤務をしながらリアルタイムで路面情報を確認することが可能で、修繕の必要性の判断や手配を素早く行えるようになります」と出光興産の担当者は説明する。

職員の作業時間を低減

 実証を通して、パトロールの頻度と範囲が飛躍的に向上し、ポットホールの検知数の増加や事故を未然に防ぐための補修件数の増加などの導入効果が得られている。

「今まで、職員のパトロールや住民の通報によって発見していたポットホールの検知数は道路維持管理サービスの導入で、約150件から約300件に増加しました。また、住民から通報があった際に状況確認のために現場に向かう必要がありますが、現場に赴く前にシステム上で状況確認がすぐに行えます。実証期間内では3カ月間で約90時間の削減ができました。職員の作業時間の低減などにもつながっており、日常の道路維持管理業務の改善に効果を実感しています。従来は通報があってから現場に向かうといったように、対応が後手に回ってしまう状況でしたが、道路維持管理サービスによって、先手で対応に当たれるようになるのではないかと期待しています」(政策推進課 担当者)

 鹿嶋市では、道路維持管理の最適化によって生み出された職員の作業時間を市民満足度向上に資する丁寧な市民対応に費やすとともに、周辺地域の道路管理者との共同運用による地域の道路の安全・安心と維持管理コストの削減を目指していく。