今夏は、全国的に平年より猛暑が見通されている。そうした中、体調管理には一層注意が必要となる。体調と密接に関係している問題の一つにメンタルヘルスの問題があるが、病気とは異なり自身で気が付きにくく、不調を抱えたまま仕事に向かうビジネスパーソンも少なくないだろう。今回は、夏季の体調管理の一環としてのセルフケアや健康知識に役立つ書籍を紹介する。

メンタルトレーニング大全

坂井伸一郎 著
1,870円(税込)/アルク

 全てのアスリートは生まれつき強靭なメンタルを有しているだろうか? 答えはノーだが、彼らは急所であるメンタルの扱いやそれを守ることに長けていると筆者は指摘する。本書は、アスリートへの教育や研修実績を積んできた筆者が、アスリートが日々行っているメンタルトレーニングを紹介したガイドブックだ。「プレッシャーがつらい」「将来がイメージできない」といった"あるある"だが抽象的で捉えにくい課題を端的に章分けし、そのトレーニングとして「トップアスリートの心得」「つまずきポイント」「現場MEMO」の3ステップでテンポよく構成した。本書内で紹介される「セルフコーチングスキル」(自己対話術)では自己対話の概要や重要性をひもとく。併せて紹介している書籍「完訳 7つの習慣」も、自己対話やその時々に必要な選択に役立てたい。

レジリエンスを活性化する タッピング・イン

ローレル・パーネル 著
福井義一 監訳
今井田貴裕今井田真実
磯和壮太朗 訳
3,960円(税込)/北大路書房

 本書は、精神的な課題に直面した時の適応を助ける「リソース・タッピング」について、「トラウマ(交通事故・地震・火事など)の応急手当」「病気やケガを癒す」「創造性を開花させる」といったさまざまな具体的課題で章立てし解説している。「リソース」とは、肯定的な情動的記憶や経験の源泉、気持ちを喚起する創造的な想像の産物で、すでにあるリソースを強化するために使用するものだという。リソース・タッピングの方法は容易で、こうしたリソースを自分の記憶から呼び起こした上で、膝や脚、肩を右、左、右、左と叩く。これにより、精神的に支障を来した患者が平静を取り戻した事例も多く紹介している。章末に呼吸法の教示やイメージ誘導のスクリプトといった枠を設けており、プログラム的な要素が面白い。ちょっとしたストレッチやヨガの感覚でまねしてみたい。

一番大切なのに誰も教えてくれない メンタルマネジメント大全

ジュリー・スミス 著
野中香方子 訳
2,002円(税込)/河出書房新社

 本書は、心の健康を保つための道具箱として、精神に関する知識の利用に関して穏やかに鼓舞しつつ的確な筆致で説明している。気分の落ち込みを解説した第1章では、ある事象に影響を及ぼす因子の相互関係を分析する「クロスセクション分析」をツールとして紹介。人間は思考、身体的感覚、感情、行動の全てが影響し合ってひとまとめの経験として体験する。これらを相関的に表した図を示したことで、気分はさまざまな内外の要因の影響を受けたもので、感情の原因が脳だけに限定しないことを理解しやすくなっている。第2章ではモチベーションが運動や行動を起こすことで湧き上がるものだと説く。未来の自分をイメージして記録することを促し、「弁証法的行動療法」(DBT)のセラピーで検討されている変化と現状維持のメリット・デメリットを思考するための空白の表を用意した。こうした行動がモチベーションを起こす手助けとなりそうだ。