日本におけるAI PCの普及は遅れ気味
普及には組織全体の理解促進が求められる

2025年5月、インテルは日本を含む23カ国・地域のビジネスパーソン5,050名を対象に、自社におけるAIやAI PCの活用状況、またそれらに関する意識やイメージなどを調査した。その結果をまとめた「AI PCグローバルレポート」が8月18日に発表され、日本と世界の間にある認識や期待の差が浮き彫りになった。本記事では、調査の背景と主要な結果、そして日本市場における課題と今後の展望を紹介する。

世界に比べ低い傾向にある
日本のAI PCに対する理解度と期待

「AI PCグローバルレポート」の調査が行われた背景には、PC市場の活発な動きがある。電子情報技術産業協会によると、2024年度の国内PC出荷台数は830万7,000台(前年比124.3%)と大きく増加した。さらに、2025年度は第1四半期(4月〜6月)時点で262万9,000台と、前年同期比163.4%という高い成長率を記録しており、市場は引き続き拡大傾向にある。

 また企業では、検索や翻訳といった日常業務でAIを活用し、生産性を高める取り組みが広がっている。こうした日常的なAI利用はクラウドサービスを通じて進んでおり、AI導入を加速させている。一方で、IT効率の改善や機密データの保護、長期的なコスト削減といった観点から、AI PCが注目を集めている。こうした市場の変化を受け、AI PCを技術面で支えるインテルは、世界規模での調査を実施した。

 調査によると、日本のビジネスパーソンにおけるAI PCの理解度や期待は、グローバルと比べて低い。AI PCを「よく理解している」「理解している」と回答した割合は日本で52%にとどまり、グローバルの86%と比べて34ポイントの差がある。この差は導入意向にも表れており、AI PCへの移行を進めている、または導入を計画している割合は日本で65%、グローバルでは87%と22ポイントの開きがある。

 さらに、職場で従業員がAIを効果的に活用するための取り組みについて、日本では31%が「積極的な取り組みを行っていない」「AI使用を推奨しない」と回答しており、AI活用に対する姿勢の消極さが浮き彫りになった。こうした背景から、日本におけるAI PCの生産性向上やイノベーションへの期待値も世界に比べ低い傾向にある。「AI PCが生産性を向上させる」と考える割合は日本で70%にとどまり、世界の90%と比べ20ポイント低い。同様に「AI PCがカスタマーインサイトのカギである」(日本69%、世界90%)、「AI PCが従業員の定着や獲得のカギである」(日本64%、世界89%)、「AI PCはイノベーションと関連性がある」(日本75%、世界92%)といった項目でも差がある。日本におけるAI PCの活用イメージの普及には依然として向上の余地があるのだ。

 日本のAI PCの期待値が低い中、AI PCの普及とビジネス現場での活用を加速させるためのインテルの取り組みについて、同社 広報室長 青木哲一氏は次のように語る。「当社では、パートナーさまと連携しながら法人向けPC市場の活性化に取り組んでいます。その一環として、2025年3月には『Intel Commercial Client 内覧会』を開催しました。このイベントでは、AI処理性能やPCとしての基本性能、電力効率の高さといった技術的なメリットに加え、大企業や中小企業での導入事例を紹介し、AI PCのビジネス活用を積極的に訴求しています。さらに、業界をリードするISVとのエコシステム連携を強化し、AI PCで実現できる業務、クリエイティブ、セキュリティ分野のアプリケーションを紹介する『Intel AI PC Showcase』を公開しています。こうした取り組みを通じて、ビジネスでのAI PCの普及を促進しています」

AI PCの導入を阻む障壁として
コストとセキュリティが挙げられる

インテル
広報室長
青木哲一

 同調査ではAI PC導入における主要な障壁についても尋ねている。世界では「セキュリティ上の懸念」が33%で最も高い割合となった。一方、日本でもセキュリティ上の懸念は37%と世界を上回ったものの、最大の障壁は「初期コスト」と「運用コスト」であり、いずれも44%に達した。さらに、技術的・セキュリティ面での懸念を詳しく聞くと、日本では68%が「データ漏えい」を回答しており、世界の49%と比べて高い水準であることが明らかになった。日本企業はAI PC導入を進める際、コストとセキュリティの両面で慎重な姿勢を取っていることがうかがえる。

 しかしコストを障壁としながらも、日本のAI PCへの追加投資に対する許容度は高い。従来のPCと比較して1台当たりどの程度追加で支払えるかという質問に対し、77%が「追加で支払える」と回答している。青木氏はこうした投資意欲と市場の動きについて次のように語る。「AI PCは最高に優れたPCにAIの機能が追加された製品とも言えます。2025年の10月にはWindows 10のサポート終了もあり、企業ではPCのリプレースが進みます。また、デジタルトランスフォーメーション(DX)やAI活用の推進を背景に、データ分析やAIの活用、高度な設計・開発ソフトウェアの利用も進展すると見込まれます。こうしたAIを含めた高度な各種ソフトウェアを利用できるPCとして、高性能なAI PCの導入が進むと期待しています」

AI PCのメリットを多面的に訴求し
日本のAI PCの導入を加速させる

 同調査によると、日本ではAIの可能性に対する理解が世界と比べて大きく遅れていることが指摘されている。自社のリーダーシップ層がAIの可能性を理解していると回答した割合は世界で83%に達する一方、日本は52%にとどまった。従業員についても、世界では73%が理解していると答えたのに対し、日本は48%に過ぎない。さらに、自社のITチームがAI PC導入に準備ができていると考える割合は、世界の90%に対し、日本は65%という結果であり、日本企業ではAIの可能性を組織全体で認識する必要があることが浮き彫りになった。

 それでは、AI PCの可能性を社内で理解するためにはどうしたらいいのだろうか。日本では「AI PCのトレーニング」と「費用便益分析」がいずれも52%で回答が最も多かった。これは、リーダーシップやIT担当者だけでなく、従業員を含めた組織全体でのトレーニングの必要性を示している。青木氏は組織全体での理解促進の重要性について次のように語る。「リーダーシップ層、ITチーム、一般従業員を問わず、AIを含めた高度なアプリやセキュリティ対策に対応する高性能なPCとして、AI PCに対する認知を広げることが重要です。そのためには、技術的優位性やユーザー体験、導入事例など、AI PCのメリットを多面的に訴求していく必要があります」

 最後に青木氏は、インテルが日本市場で注力する三つのポイントを挙げた。「一つ目は、AI PCの総合的な価値を訴求することです。 AI PCがAIを含む高度なアプリケーションやセキュリティ対策に対応できる、高性能なPCである点を強調します。二つ目は、AI PCのユーザー体験を向上させるためにエコシステムとの連携を強化することです。業務効率化やセキュリティ、クリエイティブ分野向けのビジネスソリューションを提供するISVとの連携を強化し、ビジネス現場でのAI機能の活用を推進します。三つ目は、AI PC向け製品の強化です。年内には『Intel 18A』を採用した次世代プロセッサー『Panther Lake』の量産を予定しています。これによりAI PCの性能と価値をさらに高めていきます」