デルが実践するスマートワークとは
スマートオフィスがもたらした仕事の効率化とコスト削減
デル株式会社は、言わずと知れたグローバル企業であるDellの日本法人である。今年、同社のワークスタイルを大きく変えたスマートオフィスへと変貌を遂げたが、そんな斬新なオフィス以外においても、同社はいくつかの手法でスマートワークへの取り組みを実践しているという。神奈川県川崎市にある、同社の本社オフィスにお邪魔してお話をうかがった。
文/二瓶朗、写真/曽根田元
川船 奈穂美氏
法人マーケティング本部
ソリューションマーケティングマネージャー
モバイルワークによる自宅作業、自席とフリースペースを活用して社内業務をこなす
本谷 和美氏
クライアント・ソリューションズ統括本部
ブランドマネージャー
主にAPJ(アジア・パシフィック・ジャパン)拠点のミーティングにてWeb会議やソフトフォンを活用する
グローバル業務に欠かせないWeb会議とソフトフォン
グローバル企業であるデルは、当然ながら日本国内だけでのやり取りだけではなく、世界規模の会議なども少なくない。まずはそのあたりからお話をうかがった。
── グローバル拠点との会議や打ち合わせなど、コミュニケーションはどのように行われているのでしょうか?
本谷 国外拠点との打ち合わせには、「Skype for Business」を活用しています。職種にもよりますが、コアタイムである9時~17時の勤務時間内にミーティングできる社員もいれば、夜間など時間外でのミーティングが発生することもあります。そのためオンライン会議が主体になっています。
川船 アメリカ本社を例にとると、月間で25万件のミーティングが行われています。かつては外部のWeb会議サービスを、月間2万2000回ほど利用していた時期もありましたが、コスト削減の面から前述したようなSkypeを利用することになりました。また近年、アメリカ本社ではPBXシステムの老朽化とともに廃止され、その影響でコミュニケーション手段としてSkypeのソフトフォンの利用が推進されたという背景もあります。
── PBXの廃止とソフトフォン利用でどれほどのコスト削減が実現されたのでしょう?
川船 米国本社で設備投資と運用で、数百万ドル規模のコスト削減につながっています。
── それは大きいですね。日本でもPBXの廃止はあるのでしょうか?
川船 いえ、まだ国内業務ではPBXを介した音声通話は欠かせないこともあり、廃止ということはないかと思われます。ただ業務によっては、ソフトフォンを使っている社員も増えているのが現状です。
── Skypeの活用で業務に影響はありましたか?
川船 生産性が向上しました。外部ツールを使っていたときには、会議室の設定や予約などを事前に行う必要がありましたが、たとえばSkypeを使えば、Outlookと連動し即時に連絡してミーティングを開始したり、ミーティングのスケジュールを決定したりと、ダイレクトに業務を進めることが可能となりました。
── Web会議がメインということは、顔を合わせての会議は少なくなっているのでしょうか?
本谷 いえ、ローカルでの会議は顔を突き合わせてやった方が捗る面もあります。また「何かを産み出す」系の会議では、やはり顔を見ながら進めていったほうが効率がよいと思います。話し合う内容によって、Web会議とリアル会議を上手く使い分けています。また、社外でイベントがあるときなども現場から参加できるのがWeb会議のメリットの1つだと思います。
五味英人氏
グローバルワークプレイス&ファシリティーマネージメント本部
北アジア地域 部長
フリースペース設置のキーマン
中村 隆夫氏
パートナー事業本部
第一営業本部 パートナーデベロップメントマネージャー
外勤営業のため主に社外でモバイルワークをこなす。社内業務や打ち合わせの際にフリースペースを利用
育児休業はモバイルワークを活用して
同社はグローバルな企業である一方、もちろん日本に拠点を置く企業でもある。現在の日本企業では決して見過ごすことのできないワークスタイルも存在するだろう。育児休業や介護休業、そしてさまざまな事情に伴う時短業務や在宅勤務といったものだ。続いてその点についてうかがった。
── 御社の育児休業制度などについて教えていただけますか?
本谷 育児休業制度(Child Care Leave)は、産後休業終了日の翌日から、お子さんが1歳の誕生日を迎える前日まで取得できます。その間、180日目まで賃金の67%が、181日目以降は50%が支払われます。介護休業については、最長で93日間まで取得可能です。
── 利用される社員は多いのでしょうか?
本谷 育児休業については、常時約40名前後が利用している状況です。育児休業明けの職場復帰率は約90%となっています。介護休業については、利用されたケースはいくつかありますがそれほど多くなく、現在利用している社員はいません。弊社社員の平均年齢がそれほど高くないため、介護休業のニーズがあまりないのかもしれませんが、今後は平均年齢の上昇とともに増えるかもしれませんね。
── 時短業務を利用している方はいらっしゃるのでしょうか?
本谷 時短業務については、過去2年で15名ほど、現在も数名が利用しています。
── 在宅勤務については、利用されているケースが多いのでしょうか?
本谷 育児や介護に関わる従業員に限らず、在宅勤務で業務をこなしている人は少なくありません。なお弊社では、 週1~4日のオフィス以外での勤務を「モバイルワーク」と呼んでおります。デルではフレキシブルな働き方を推奨しており、優秀な人材を確保するための重要なビジネス戦略の一つにもなっております。すべてのチームメンバーが公平にこのプログラムを申請でき(ただし、各制度の対象者の条件をすべて満たしていること)いままでの企業の文化や慣例にとらわれず、仕事のプロセスを変化・促進させ、個人とビジネス双方に利益をもたらすことを目的としております。
── モバイルワークに承認は必要なのですか?
本谷 事前に申請し、上長から承認が得られれば利用可能です。
中村 台風などで出勤が困難な場合には、急遽モバイルワークが認められることもあります。当日のメールで上長の承認がおりることもありますし、会社側から勧告があることもあります。
川船 私もときどき自宅でモバイルワークをしますが、業務に集中して作業できますね。通勤時間のストレスを考えると、かなり快適だと感じています。
── モバイルワーク時の勤怠管理はありますか? また、人によって在宅勤務、モバイルワークに向いている・いないがあると思うのですが?
中村 勤怠管理についてはWebに勤怠状況を入力するだけです。上司との信頼関係の上に成り立っているシステムといえるでしょう。私のような外勤の営業職だと、出先から社に戻らずに帰宅するということも少なくありません。柔軟な企業姿勢が、モバイルワークの活用に一躍かっているのではないでしょうか。
本谷 弊社では半期ごとに社員の「パフォーマンスチェック」が実行され、職務に対する達成率、上長の判断、仕事をしているメンバーのフィードバックなどからパフォーマンスが評価されます。社内で業務を遂行する場合と同等、もしくはそれ以上のパフォーマンスを出せれるのであれば、特に向き不向きはないかと思います。
── モバイルワーク時のセキュリティ対策はどのようになっているのでしょうか?
中村 PCおよびスマホでVPNツールを介して社内ネットワークに接続しています。スマホではメールを閲覧したり、不要なメールを削除したりして、メールの長い返信にはPCで対応しています。PCもスマホも両方欠かせないツールとして活用しています。
川船 スマホは基本的に自前の端末ですが、デバイス管理機能とアプリケーション管理機能が統合した「Good for Enterprise」を利用することで、承認端末に専用アプリを導入すれば、メールの閲覧や社内ネットワークへの接続などをセキュアに行なっています。
フリースペースオフィスがモバイルワークの1つの姿を具現化させた
Web会議、育児・介護休業制度、そしてモバイルワークといった働き方に加え、同社の社員のワークスタイルを大きく変革させたものがある。それが同社のワンフロアを改修した「新オフィススペース」だ。このスペースは2016年1月に開設されたというが、1人向けの漫画喫茶的なスペース、差し向かいで対話できるファミレス的なブース、複数人が車座で座れるオープンなデスク、カフェの一角のようにテーブルが集合するスペースなどなど、多種多様な姿を見せる空間となっている。
── どうしてこういうスペースが設けられたのでしょう?
五味 従業員のペインポイント(悩みのタネ)を解決する取り組みの中で「会議室が足りない、コラボレーションできる場所がない」という意見がありました。モバイルPCやスマホが普及した今、先ほどの話にあったモバイルワークは必ずしも外勤営業職限定のワークスタイルではなくなっているということですね。実際、このオフィススペースを作ってみて、弊社が推進しているモバイルワークの1つの具体的な姿が体現でき、社員の認識も深まったと思っています。
── フロアの多くを占めるかなりの規模ですが、コスト効率はよいのでしょうか?
五味 1日あたり300~400人がこのフリースペースを利用しています。こちらを固定アドレスとすると約200人ほどの席しか設置できないので、確かにスペース効率は良く、コスト削減にもつながっていると言えるでしょう。
── いわゆるフリーアドレスのオフィスとして利用されているのでしょうか?
中村 私のような外勤の営業職は基本的に自席がありません。多くの場合は社外にいますから、自席があってもあまり利用する機会は多くないのです。常に自席に置いておくような紙の書類などもありませんし、PCとスマホがあればどこでも業務遂行は可能です。そのため、社内で何らかの業務がある場合にはフリーアドレスの仕事場としてこのオフィススペースを利用します。またここを打ち合わせスペースとしても活用しています。
── かなりオープンな打ち合わせスペースですね。
中村 もちろん、内容を秘匿する必要がある打ち合わせならクローズドな会議室を利用します。しかし日常的な打ち合わせをする場合、実際には必ずしも会議室である必要はないわけです。従来は空いている会議室を探して右往左往……なんてこともありました。しかしこのスペースができてからは打ち合わせのメンバーに「20階に○○時に集合」と通達するだけで、なんとなく顔を合わせて席に着き、ディスプレイを使いながら打ち合わせができます。
五味 お客様に素早く、ベストなソリューションを提供するため、従業員は素早く、いつでもどこでも対応する必要があります。このスペースがあれば会議室の予約を取ることなく、いつでもコレボレーションして対応できます。コストの削減に加え、業務のスピードアップと社員のプロダクティビティ(生産性)の向上に大きく貢献しているスペースなのです。
── 一見すると、ディスプレイが設置されているブースが多いようですが。
五味 フリースペースでは、ディスプレイがあることは重要です。同席者が同じディスプレイを見ることにより、その場の意識や意見が収束していきます。たとえオープンなスペースでも、意識が収束することで周囲は気にならなくなりますし、ミーティングも進むのです。各デスク、ブースのサイズに応じて、最適なサイズのディスプレイを設置しています。
中村 設置されているディスプレイの一部は「ワイヤレスディスプレイ」になっていて、ケーブル接続なしでPCやスマホの画面を表示させ、同席者で共有することができます。これも業務効率の向上につながっています。ワイヤレスディスプレイにはPCの画面、スマホの画面を同時に表示できますよ。
── 営業担当の従業員以外で自席のある方もこちらを利用されるのですか?
川船 私は自席がありますが、フリースペースで作業することも多々あります。集中するためにここで作業することも少なくありません。オープンだから効果があることも多いと思います。
五味 オフィスの基本的な機能の一つとして「フェイストゥフェイスの場」があると考えています。部門内、そして部門という枠を越えた多くの社内の人たちとコラボレーションして、業務を進める必要があるのです。フリースペースはオープンでありながら一人で集中して業務をこなす場も併設しています。さらに、たまたま会った他部門の人たちと立ち話して情報を得たり、何とはなしに聞こえる声が、新たなアイデアのヒントになったりと、自然に社員同士が刺激を与え合う場でもあるのです。
── フリースペースの運用開始から半年以上経っていますが、評判は?
五味 上々といえるでしょう。また弊社の他の拠点からも「参考にしたい」という声も聞こえてきています。グローバルでもこのようなスタイルのフリースペースはないので、日本初のベストプラクティスとして広がっていくかもしれません。
── スマートワークを推進しようとするときのアドバイスなどをいただけますか?
本谷 おそらく、スマートワークを実現する環境を用意するのは容易だと思います。ただ重要なのは、会社の中でそのワークスタイルが「当たり前」と思われるような文化を創ることではないかと思います。そしてワークスタイル変革には、トップの意識が重要で、それがブレないことも大事だと思います。トップダウンのほうがワークスタイルの変革はスムーズに進行していくと思います。
五味 意識も重要です。一般の社員は、スマートワークのベネフィット(利益)を理解していますし、柔軟に対応する意識も能力も持っています。過去スマートワークを経験してきたマネージャーであれば部下がスマートワークを実践しても問題は感じないでしょう。ただ、旧態然とした働き方に慣れ、スマートワークをまったく経験していないマネージャーには、部下の管理という面で、最初戸惑ったり、不安に思うかもしれませんね。
── ありがとうございました。
写真で見るフリースペースオフィス見学ツアー
最後に、同社のワークスタイル変革に大きな影響を与えたフリースペースを写真で紹介していこう。