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インテルが見据える日本の教育改革―鈴木国正社長インタビュー

インテルが見据える日本の教育改革―鈴木国正社長インタビュー

2022年03月11日更新

Support STEAM Education

デジタル人材育成に向けた
STEAM教育の拠点を各校に展開

戸田東小学校を皮切りに、インテルでは全国の教育現場に先進テクノロジーの活用を学べるSTEAM Labの設置を進めようとしている。その背景には、日本の深刻なデジタル人材不足と、それを教育への支援によって解決を目指すインテルの強い想いがあった。インテルの教育市場への支援と、STEAM Labが実現する教育の広がりについて、同社の鈴木国正代表取締役社長に聞いた。

学校によって偏りがある端末活用

インテル
代表取締役社長
鈴木国正 氏

 インテルでは2021年2月、米本社のCEOにパット・ゲルシンガー氏が就任した。そのゲルシンガー氏が就任以来掲げているのが、「ユビキタス・コンピューティング」「クラウドからエッジまでをつなぐインフラストラクチャー」「常時接続できるコネクティビティー」「人工知能(AI)」といった四つの“Superpowers”だ。これら四つの要素が、今後の破壊的なイノベーションを実現していくために不可欠であり、インテルはグローバルでこのSuperpowersへの投資に注力し、同社の強みを生かしながらそれぞれの分野でのソリューション開発を進めている。

 しかし、その中での課題もある。インテル 代表取締役社長 鈴木国正氏は「このSuperpowersの可能性を拡張していくためには、これらを支える『サイバーセキュリティ』『デジタル人材』『(脱炭素などの)サステナビリティ』といった基盤の醸成が不可欠です。しかしこと日本においては、このデジタル人材の育成が進んでいないのが現状と言えます」と指摘する。

 インテルはそのデジタル人材育成に向けて、三つのフレームで国内教育市場への支援を行ってきた。一つ目は「1人1台教育PC実現」、二つ目は「次世代教育サポート」、三つ目は「教育DcX/New Tech推進」だ。一つずつ見ていこう。

 GIGAスクール構想によって2020年に大きく進んだ小中学校の1人1台端末環境の整備。インテルはCPUの供給をはじめ、メーカー各社と連携しこれらの整備を強力に推し進めてきた。鈴木氏は「ダイワボウ情報システム(DIS)さまをはじめ、PCメーカー、OSベンダーなどさまざまな企業とのチームワークによって全国の小中学校に1人1台端末の配備を実現しました。このGIGAスクール構想のプロジェクトは大変素晴らしいものであったと思います。しかし一方で、教育現場への支援は端末を配布して終わりではありません。PCを常時授業に活用し、学習効果を上げることができる教員が全国的にみても、まだまだ不足しているため、端末を積極的に活用できている学校と、そうでない学校の差が大きく開いています。文部科学省もこの問題の解決に向けて動いていますが、当社としてもできることを取り組んでいきます」と語る。

教員研修で1人1台環境に最適な授業へ

 この教員への支援も含めた次世代の教育サポートが、同社の二つ目の取り組みだ。例えば同社は、全世界1,000万人以上の教員に対して教員研修プログラム「Intel Teachプログラム」を提供しており、2001年からは日本国内に向けて、学習指導要領に合わせた教員研修プログラムを教育現場に提供している。Intel Teachプログラムは、ICTを活用しながら21世紀型スキルを育成するための授業デザインや指導・評価手法を学ぶ教員研修プログラムで、児童生徒の興味を引き出し、創造性や自主性を伸ばす授業の実現をサポートしている。

 インテルはこのIntel Teachプログラムの資産を活用し、2020年からは大幅に刷新した教員研修と70に及ぶカリキュラムを「Intel Skills for Innovation(SFI)フレームワーク」として提供していく。SFIフレームワークとは、先端テクノロジーを活用し、将来の社会課題を解決するために必要な学習スキルを育成するための授業カリキュラム集だ。コードを使った音楽作成や、花の多様性を学び分類する機械学習モデルの作成といったクリエイティブな学びや、パターン認識を用いた環境汚染の影響調査といった社会課題解決に向けた学びを行うためのカリキュラムを提供する。

「SFIフレームワークでは、グローバルのカリキュラムを日本語化するだけでなく日本オリジナルのカリキュラムも提供し、学校の先生方の学習スキル育成を支援します。また従来のIntel Teachプログラムによる教員研修もSFIフレームワークの中で継続して行い、主に探究・課題解決型授業実践のためのSTEAM教育用の授業デザイン・指導研修を進めていきます」と鈴木氏。

“文具PC”の学びを広げるSTEAM Lab

 また次世代教育サポートの中では、STEAM教育推進に向けたSTEAM Lab構築支援にも取り組んでいる。SFIフレームワークがソフトウェア面でのサポートとするならば、STEAM Labの構築はハードウェア面でのサポートだ。

 STEAM Labは、先進テクノロジー活用人材を育成するためのSTEAM教育の環境だ。協働パートナー企業とも連携し、4KモニターやハイスペックなデスクトップPCといったインフラ環境、3Dプリンターなどの周辺機器を整備し、子供たちの好奇心や創造性を育む。インテルではこのSTEAM Lab環境の整備に加え、教員に対してSFIフレームワークを提供し、STEAM教育を実現するための支援を行う。その取り組みの中で、2020年6月25日に全国に先駆けてSTEAM Labを校内に設置したのが、戸田市の戸田東小中学校だった。

インテルと戸田市は2017年2月からIntel Teachプログラムによる教員研修などで連携してきた。2021年6月からは新たに、最新テクノロジーを活用したSTEAM教育についての共同研究を進めるべく、「STEAM教育ならびに21世紀型スキル育成教育の推進に関する覚書」を締結。戸田東小学校・中学校のSTEAM Labはその取り組みの中核となる設備といえる。もともとPCの演習室として使われていたPC教室のスペースを利用し、STEAM Labとしての環境整備を行った。

 戸田東小中学校のSTEAM Labについて鈴木氏は「戸田東小学校の校長先生とお会いしたときに、『STEAM Labは以前のPC教室とは次元が違います。本当に生まれ変わったような環境で、子供たちが目を輝かせて利用しています』と話してくれました。戸田東小中学校のSTEAM Labでは、協力パートナーであるアドビが提供したCreative Cloudアカデミックライセンスにより、映像制作などデジタルコンテンツ制作や、3DCADや3Dプリンターを活用したデジタルでのものづくりが行える環境を整えてあります。こういった想像力を形にできるソフトウェアと、それを動かすハイエンドなCPUが搭載されたPCによって、子供たちはまるでクリエイターのように、STEAM Labで創造的な学びに取り組めるのです」と話す。

 GIGAスクール構想によって整備された1人1台の端末は、クラウドサービスの利用を前提としている。そのため文部科学省が示したGIGAスクール構想で整備する端末の標準的なスペックを示した仕様書の中でも、CPUはIntel Celeron同等以上(Windows端末およびChromebookの場合)と示されており、決して高い性能の端末ではなくあくまでクラウドサービスの教材を利用する“文具PC”に位置付けられている。

「この文具PCの存在ももちろん大切です。日常的にPCが利用できる環境があり、授業で活用されることで、より協働的な学びが実現できます。キーボードも非常に早く入力している姿が見られ、教育指導要領において『学習の基盤となる資質・能力』に位置付けられている情報活用能力の育成に不可欠な物です。しかし、例えばSTEAM教育におけるArtの部分、『映像制作をしてみたい!』といった子供たちの欲求には、文具PCだけでは十分に対応できません。そうした『作ってみたい!』という子供たちの創造的な学びの欲求に応える場所が、STEAM Labなのです」(鈴木氏)

 インテルはこのSTEAM Labの形を、戸田市のみならずさまざまな自治体や学校で展開するべく2021年11月にSTEAM Lab実証研究校の募集を行っている。STEAM Lab環境によるSTEAM教育推進を目的に、DISをはじめとした協力パートナー企業と共に実証研究を実施する。

「実施校は、できるだけ各地の学校の先生方がその様子を視察できるよう、全国各地にバランスよく指定しました。STEAM Labは戸田東小学校・中学校をベースにしながら、各学校や地域ごとにカスタマイズして展開していきます。各地のさまざまな学校がSTEAM Labを設けることで、その学校が所属する自治体が活用例を横展開し、他の学校に広げていくような動きを期待しています」と鈴木氏はSTEAM Labによって生まれる可能性を語る。

データ活用による新たな学びへ

 2022年からは、日本独自の取り組みとして「Intel RISE for Education」を新たにスタートする。STEAMにおけるArtを意識した取り組みで、次世代のクリエイターを育成していく地域密着型の体験プログラムを、小学校に通う子供たちの課外活動の一環として提供する。STEAM Labは小学校や中学校など、学校の教育課程内の取り組みであるならば、Intel RISE for Educationは学校の教育課程外から、子供たちのSTEAM教育を支援する取り組みと言える。

「日本の先生方は非常に優秀で、それぞれの学校での取り組みや学びを比較していくと工夫を重ねて、ひと頑張りもふた頑張りもするような、良い相乗効果が生まれます。STEAM Labのような環境が各地でできることで、多くの先生方への刺激となりその取り組みが広がることを期待しています」と鈴木氏。

 三つ目の取り組みとしてインテルでは、学校現場の教育DcX(データセントリックトランスフォーメーション)を推進し、教育データの活用による個別最適化学習や、学校運営・教育政策へのEBPM(Evidence Based Policy Making)などの支援も行い、データを中心とした新たな教育向けソリューションを推進していく。これらの取り組みによって、学校現場でのICTを活用した教育をさらに強力にバックアップしていく。

 一方で、鈴木氏は次のような苦言も呈した。「最初に述べた通り1人1台の端末活用が不十分な学校もまだ多くあり、これは大きな問題です。まずはGIGAスクール構想で導入した端末を活用してもらうことからスタートし、子供たちの情報活用能力を伸ばす学びを確実に進めなければ、学校や自治体ごとの差がついてしまいます。この危機感を共有しながら、GIGAスクール構想とともに当社が持つリソースを活用してもらい、日本の教育市場に、パートナー企業さまと共に支援を続けていきたいですね」と力強く語った。

“STEAM Labのような環境が各地でできることで、多くの先生方への刺激となりその取り組みが広がることを期待しています”

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