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事業の本質の捉え方と変革の仕方

事業の本質の捉え方と変革の仕方

2022年01月14日更新

序章:事業の本質の捉え方と変革の仕方

今回よりスタートする新企画では新規事業開発スペシャリストとして多方面で高い評価を得ている角 勝氏をモデレーターに招き、ITの領域で活躍するビジネスパーソンをはじめ、ITビジネスの進展につながる可能性のあるビジネスを展開しているさまざまな領域のビジネスパーソンらに話を伺い、新たなビジネスを生み出すヒントを掘り当てていく。第1回目は本稿にてモデレーターを務めていただく角氏の紹介と、企業が生き残るために新規事業開発が欠かせない理由を説明する。

20年間勤めた大阪市役所を退職した目的

フィラメント
代表取締役CEO
角 勝 氏

 島根県出雲市出身の角 勝氏は1995年に新卒として大阪市役所に入庁し、その後20年間にわたり市職員として地域行政のさまざまな仕事に携わってきた。2010年に都市計画局総務課に配属された際、JR大阪駅の北側にあった梅田貨物駅を中心とする地域の再開発計画が進行していた。これが後の「グランフロント大阪」である。

 大阪市はグランフロント大阪に起業家やエンジニア、投資家などのスタートアップ関係者が集う拠点となる「大阪イノベーションハブ」を開設するプロジェクトを進めていた。

 当時、角氏は「世の中をより良くする」ために自分がどんな貢献ができるかを模索し、職員提案制度に応募し2年連続で入賞するなどの手応えをつかんでいた。大阪イノベーションハブのプロジェクトを知った角氏は異動願いを提出し、科学技術振興担当(イノベーション担当)の職員として大阪イノベーションハブの立ち上げに携わった。大阪イノベーションハブには新しい何かを生み出すことに情熱を持つ人々が集まり、実際に新しいアイデアが次々と生み出されるなど、その役割と成果が注目を集めるようになった。

 大阪イノベーションハブを成功に導いた角氏のもとには、才能のあるイノベーターが集まる場所の作り方や、成果を生み出すための運営の仕方などを相談するために全国の企業や自治体から人が訪れ、講演依頼も増えていった。

 大阪市職員として民間の新規事業開発や自治体の地域振興などに携わり、知見とノウハウを蓄積していた角氏は「社会全体により多くの価値を提供したい」と考え、2015年3月に大阪市を退職し、フィラメントを設立して代表取締役CEOに就任した。

企業のトップの意識を変える方法と理由

 角氏が代表を務めるフィラメントの事業は、全国の企業や自治体における新規事業開発や人材育成、地域振興など「未来志向の相談」への支援が中心となる。「未来志向」の重要性について角氏は次のように説明する。

「企業は特定のビジネスに対して、それを反復し、継続して洗練していく、これを繰り返す組織です。ですから新しいことをやるのは、企業の成り立ち、活動において矛盾する部分があります。しかし事業は歴史の中で永遠に続くことはなく、周りの環境の変化によっていつか消滅してしまいます。新しい事業を立ち上げるには時間がかかりますから、いつでも次の事業の柱として花開かせられるよう、既存の事業が継続できなくなる前に準備をしておく必要があります」

 角氏の説明には誰もが納得するだろう。しかし実際は新しい事業に取り掛かるのは容易ではない。角氏は「多くの経営者は今儲かっている既存の事業に注力したくなります。この捕らわれた心を解き放ち、自由にさせて新しい事業に目を向けさせることが、当社と私の役割です」と語る。

 会社を変えるには経営者や経営層の意識改革が不可欠である。行動や振る舞いが周囲に与える影響は経営者などの意思決定者ほど大きくなるからだ。角氏は「会社を機械にたとえると、社員一人の歯車の大きさは小さく、社員が動いても周りは大きく動きません。しかし経営者の歯車はとても大きく、少し動いただけで周囲は大きく動きます。ですから経営者が自ら意識して動き出さないと変革は起こせません」と説明する。

 では、経営者および経営層の古い意識を変えるにはどうすればよいのか。フィラメントでは企業のトップに直接会って話をしたり、イノベーターと呼ばれる人を招いてトップとの対談を設定し、角氏がモデレーターとなって話が噛み合うように対話をすすめたりするという。

 角氏は「イノベーターの話には既存の意識や思考とはまったく異なる刺激があり、説得力もあるので聞く方は感化されて、新しい考え方に対して肯定的になります。その結果、新規事業の立ち上げに意欲的となり、それを社内に発信することで会社が急速に変わっていくのです」とアドバイスする。

事業の本質から新しい可能性を見出す

 本稿では主にITビジネスを展開する企業の既存事業に変革をもたらすアイデアを提案したり、異なるプレーヤーの事業を組み合わせて新たな価値を生み出すヒントを掘り起こしたり、さらにはITとは異なる領域の事業にITの要素を加えて変革を起こす可能性を検討したりしていく。

 こうした活動を進める中で、それぞれの事業の本質や価値を正しく理解しなければ、実利につながる新たな可能性を見出すことはできない。こうした成功パターンの目利きについて角氏はどのような方法論を持っているのだろうか。

 角氏は「事業に対して現状の内容だけではなく、事業の成り立ちなどの背景や変遷などをヒアリングし、その事業を構成する要素を分解・抽象化することで事業の本質を深く理解できます。この要素の分解と抽象化によって事業の本質を捉えることができれば、新たな価値を生み出すために何を加えればいいのか、何を変えればいいのかといった方策が見えてきます。さらに新たに価値を生み出した事象について、構成される要素を分解して抽象化することで成功パターンも分かります」と説明する。

 ただし分解した要素を単体で捉えてはいけないとも指摘する。角氏は「要素を変えるには全体の見直しも同時にしなければなりません。たとえば店頭で売っている商品をオンラインで販売するならば、店舗で顧客の来店を待っていたこれまでの販売方法から、売り手が能動的に顧客にアプローチする方法に変えなければ買ってもらえません。またサイバー空間は顧客を全国、世界へと広げることができ、接点を容易に増やせる利点もありますから、それを生かせるよう商品やサービスを変える必要も出てきますし、社内の体制も新しいビジネスに合わせなければなりません。新しい仕組みや様式を取り入れるには、全体の見直しが伴わないと成果につながりません」とアドバイスする。

 次回は、こうした角氏の事業の捉え方と変化への導き方をひも解いていく。

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