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店舗、街―まるごとVR化する凸版とKDDIの取り組み

店舗、街―まるごとVR化する凸版とKDDIの取り組み

2021年11月15日更新

店舗の買い物体験を仮想空間で再現

Shop:ショッピング体験

コロナ禍で多くの物事がオンラインにシフトした。日常的な会議はもちろん、店舗の営業や外出の自粛が求められたことにより、オンラインショッピングの利用率も大きく上がった。半面、店舗での買い物体験の全てがオンラインショッピングに代替できないという課題もある。その課題を解決するため、凸版印刷はリアルとバーチャルを融合させた、新しいショッピング体験ができるサービスの開発を進めている。

凸版印刷
情報コミュニケーション事業本部
事業創発本部 事業推進部 BD1T
部長
名塚一郎 氏

 商品を実際に手に取って体験したり、店員に話しかけてその商品の良さを説明してもらうような店舗での買い物体験を、VR技術によって再現しているのが、凸版印刷だ。凸版印刷の遠隔コミュニケーションサービス「IoA仮想テレポーテーション」の技術を活用し、バーチャルとリアルを融合した新しい買い物体験を提供するサービス「IoA Shopping」を開発している。

 IoA Shoppingは、遠隔地から「バーチャル店舗」と「リアル店舗」を行き来してショッピングすることが可能なサービスだ。バーチャル店舗上ではアバターを動かすことができ、ウィンドウショッピングを仮想空間上で楽しめる。リアル店舗側ではアバターロボットを用いて、そこにスマートフォンからアクセスすることで実際の店舗に訪れたようにウィンドウショッピングが可能になる。

「IoA Shoppingでは、買い物を通じて人と関わることで得られる価値を提供する『Social』、新たな商品との偶然の出会いを提供する『Discover』、時間や空間、距離などの制約を超えた空間ならではの価値を提供する『Beyond』、拡張された商品体験に触れられる価値の提供『Experience』の四つをコンセプトに開発しています。スマートフォン一つあれば、遠隔地からバーチャルとリアルを行き来してショッピングが可能になります。店舗を好きに散策できますし、友人や家族とグループで訪れてショッピングすることもできるのです」と凸版印刷の名塚一郎氏は説明する。

凸版印刷
情報コミュニケーション事業本部
事業創発本部 事業推進部 BD1T
稲地隆志 氏

 凸版印刷は実際に、2021年3月22日から24日にかけてIoA Shoppingの遠隔ショッピングの実証実験を行った。協業しているベータ・ジャパンが運営する「b8ta Tokyo - Yurakucho」にアバターロボットを設置するとともに、仮想空間上にb8ta Tokyo - Yurakuchoと同一の店舗空間を構築した「Virtual b8ta」を展開した。「社員のみ体験できるクローズドな環境での実証実験でしたが、コロナ禍が終わっても使ってみたいといった好意的な声が多くありました。次回以降は仮想空間上の店舗を、より回遊しやすく見やすい配置の空間作りを意識し、いわゆるデジタルツイン型ではないバーチャル店舗とリアル店舗が連携した、新しい店舗デザインを進めていきたいですね」と凸版印刷の稲地隆志氏は展望を語る。

 IoA Shoppingは2021年度中に商品展開を予定しており、ハイブリッドな体験が求められるニューノーマルの世界に、新しいショッピング体験を提供していく。

リアル店舗とバーチャル店舗をスマートフォン一つで行き来できるIoA Shopping。リアル店舗にはアバターロボットを設置し、ボタン一つでアクセスして自由に店舗の中を見て回れる。
家族や友達とグループでショッピング可能。空間内にいる人と音声通話ができるため、同じ商品を見ながら購入を検討するようなコミュニケーションが仮想空間上で行える。
気になった商品があれば、リアル店舗にいる定員と音声ビデオ通話で商品の説明をしてもらうことも可能だ。遠隔地からでもリアルタイムに接客を受けられる。
バーチャル店舗に陳列された商品は3D化されており、さまざまな角度から確認できる。またバーチャル体験を選択すれば、商品の使い方が表示されたり、AR表示によって実際のサイズ感などを確かめたりできる。

渋谷の街を仮想空間に再現
文化の発信拠点「バーチャル渋谷」

City:渋谷区

物理世界に実在している物を、デジタル世界に仮想的に再現する「デジタルツイン」。デジタルの双子という意味を持つそれが、渋谷の都市で実験的に実施されている。渋谷区公認の配信プラットフォーム「バーチャル渋谷」について、構築に携わったKDDIに話を聞いた。

渋谷の活気をオンラインで取り戻す

KDDI
ビジネスインキュベーション推進部
川本大功 氏

「きっかけは、コロナ禍の外出自粛でした」そう語ったのは、KDDI ビジネスインキュベーション推進部 川本大功氏。KDDIでは2019年8月から、渋谷区観光協会、渋谷未来デザインとともに「渋谷エンタメテック推進プロジェクト」を始動し、5G時代を見据え「渋谷の街をエンターテインメントとテクノロジーでアップデートする」をテーマに渋谷の魅力を発見・発信するプロジェクトだ。2019年9月12日には、ARとVisual Positioning Service(VPS)技術※を活用し、現実の渋谷の空間にMRでバーチャルなオブジェクトを重ね合わせる実証実験も行った。

 2020年1月24日には本プロジェクトの理念に賛同した東急、パルコ、ベイクルーズなど32社が参画する「渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト」にアップデートされた。2021年10月時点の参画企業は73社に上る。その最初の取り組みとして2020年1月24日から25日には、渋谷ハチ公前の広場に5Gの可搬型基地局を設置し、スマートフォンをかざすと1964年の渋谷の街並みへタイムスリップするXR体験ブースを開設するなど、渋谷の街を舞台に、5G技術を活用したAR、XRの取り組みに力を入れていた。

 そうした取り組みの最中に起こったのが、コロナ禍だった。2020年4月から5月に発せられた1回目の緊急事態宣言では外出自粛の要請により、渋谷の往来から人流が激減した。

「新しい文化を発信する街であった渋谷から、人が来ていないことを確認する場所に変わってしまっていました。活気のある渋谷のイメージが変わりつつあることにプロジェクトチームとして危機感を抱いており、最初の緊急事態宣言が発せられる以前から、“渋谷の街をオンラインに持っていくことができないか”と構想していたのが、バーチャル渋谷のスタートです」と川本氏。

※3Dマップと、スマートフォンなどに搭載されたカメラ越しの画像を照合し、向きや方位を含む高精度な位置情報を特定する技術。従来のGPSの発展系と位置付けられている。

cluster上に展開されているバーチャル渋谷。スマートフォンからもアクセスでき、アバターで仮想空間上の渋谷を動き回ることが可能だ。
一人称視点と三人称視点が選択でき、画面は一人称視点でバーチャル渋谷を見たもの。右上に表示されているのがアバターだ。

バーチャル渋谷で楽しむハロウィーン

 バーチャル渋谷は、その名の通り渋谷の街を仮想化した空間だ。外出自粛の環境下にあってもアーティストのライブやアート展示、トークイベントなどの渋谷で行われるコンテンツを発信・体験できることをコンセプトとしており、それらを体験できるバーチャルイベント会場と、リアルな渋谷の街と連携して同一コンテンツを表現するデジタルツインの二つの体験を提供している。ユーザーはバーチャル渋谷の空間を、自宅からスマートフォンやPC、VRデバイスなどを利用してアバターで歩き回ることができ、同じ空間を共有しながらイベントを楽しむことが可能だ。

 バーチャル渋谷に行くためには、まずバーチャルSNS「cluster」のアカウントを作成し、スマートフォンやPCなどからログインする。「ワールド」からバーチャル渋谷を検索して「遊びに行く」を選択すると、バーチャル渋谷に入ることが可能になる。バーチャル渋谷を展開するプラットフォームとしてclusterを選択した理由について、川本氏は「スマートフォン上で仮想空間を体験できるアプリケーションが少ない中で、clusterはスマートフォンを含むマルチプラットフォームから仮想空間の体験が可能であった点が大きいです。またイベント演出やビデオ、画像の投映などの連携が可能な点や、ビルなどの情報を再現しつつ展示物のオブジェクトを表示でき、バーチャル渋谷の中で一つのイベントを実施可能であったため選択しました」と語る。

 バーチャル渋谷では2020年5月19日にオープニングイベントとして「#渋谷攻殻NIGHT by au 5G」を開催し、SFマンガおよびアニメ「攻殻機動隊」の最新作である「攻殻機動隊 SAC_2045」の世界と融合したバーチャル渋谷上で、ファンの交流の場を設けた。またトークイベントも開催し、渋谷ならではのコンテンツ発信を仮想空間上で実現した。

 渋谷と言えばハロウィーンの季節になると、仮装した人々が多く訪れてイベントを楽しむ光景があったが、コロナ禍となった2020年は渋谷区から「ハロウィーンは自宅で楽しんで」と外出自粛が呼びかけられた。

 そこでKDDIは、バーチャル渋谷において「バーチャル渋谷 au 5G ハロウィーンフェス」を2020年10月に開催。ストリーミング配信サービス「Netflix」のオリジナルアニメシリーズ計4作品の路上鑑賞イベントや、ホログラムを活用したお笑い芸人のライブ、謎解きイベントなどを開催し、仮想空間上の渋谷で人や街、文化に触れあう場を創出した。本ハロウィーンイベントは2021年も「バーチャル渋谷 au 5G ハロウィーンフェス 2021 ~ FUN FOR GOOD ~」として開催予定だ。

2020年10月にはバーチャル渋谷 au 5G ハロウィーンフェスが開催された。バーチャル渋谷上にハロウィーンの装飾オブジェクトなどが配置され、ライブステージなどが設置されるなど、ハロウィーンを楽しめる空間にカスタマイズされた。
スクランブル交差点に浮かぶジャック・オー・ランタン。現実ではあり得ない幻想的な光景だ。
バーチャル渋谷 au 5G ハロウィーンフェスではオフィシャルショップも出店された。アバターで商品を選び、その場で買い物も可能だ。

実際の街をバーチャルで拡張する

 渋谷の街からのコンテンツ発信を仮想空間上で再現しているバーチャル渋谷だが、全てが仮想空間に再現されているわけではない。現在のところ渋谷駅前のスクランブル交差点、そして渋谷モディ近辺のエリアが仮想空間上で楽しめる。また2021年5月25日にはバーチャル渋谷が拡張され、原宿を新エリアとして提供をスタートするなど、仮想空間エリアは拡張されつつある。

 一方で課題となるのは、イベントなどのコンテンツがない日常での活用だ。

 KDDIは2021年9月13日に行われた新サービス発表会で、「バーチャルシティ構想」を公開。このプラットフォーム上では、店舗での買い物体験やショップの運営、ライブパフォーマンスの配信など、ユーザー主体でコンテンツを発信できる方向で、開発を進めていく。本プラットフォームは、2022年春から大都市に向けて提供をスタートする予定だ。

「オンライン上の仮想空間は『メタバース』と呼ばれますが、他社のメタバースはリアルを代替する仮想空間というコンセプトで開発されているケースが多いです。しかし当社のバーチャル渋谷をはじめとしたメタバースは、実際の街をバーチャルで拡張していくという考え方です。例えば仮想空間上の商業施設の在庫情報が渋谷の実店舗と連携しており、『いま9人が閲覧しています』という情報が実店舗上で表示され、オンラインで買い物したアイテムは実店舗でも受け取れるというような、オンラインからでもリアルからでも買い物体験を楽しめるような環境です。これからもリアルを拡張するバーチャルプラットフォームとして、仮想空間での体験作りに取り組んでいきたいですね」と川本氏は語った。

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