ICタグが実現する在庫管理から顧客接点の創出
小売店の商品棚管理を効率化するソリューション―凸版印刷・NEC

ICタグを利用した非接触による識別を行える「RFID」(Radio Frequency IDentification)。このRFIDで活用されるICタグの中で、主に物流管理や商品SCM管理に活用されるのが周波数UHF帯を利用する「UHFタグ」だ。凸版印刷はこのUHFタグの基礎技術ができた2000年初頭ごろからRFIDソリューションの領域に参入し、官公庁とも連携をしながら実証実験を進めてきた。現在は、低価格ICタグ「SMARTICS-U」シリーズとして、多様な領域の業務効率化を支援している。



凸版印刷
中林貴光

 凸版印刷が提供する低価格なICタグ、SMARTICS-Uが特に活用されているのが、アパレル業界だ。「アパレル店の大きな課題は、店頭の棚卸しです。通常は営業終了後に、従業員が大人数で行っていましたが、毎日行うことはできず数カ月に1回程度の実施であるケースが多いです。しかしSMARTICS-Uを活用すると、店舗スタッフ1〜2人がリーダー/ライターを使えば30分ほどで棚卸しが完了するため、作業負荷が大きく削減できるのです」と語るのは、凸版印刷 DXデザイン事業部 事業推進センター カード・IoT本部 IoTデバイス開発部 部長 中林貴光氏。ある大手アパレル店では、SMARTICS-Uで毎日棚卸しが可能になった結果、日々在庫状況を更新できるだけでなく、製造から販売まで一気通貫で商品管理を行えるようになり、サプライチェーン全体の改革が行えるようになったという。

 また凸版印刷は、このSMARTICS-Uを活用し、店頭在庫の確認が可能にする陳列棚「スマートシェルフ」を提供している。スマートシェルフは商品パッケージにSMARTICS-U(ICタグ)を内蔵し、陳列棚から商品を取り出すと自動でそれを検知し、在庫の減少や手に取られた商品の回数などを記録できるソリューションだ。手に取ったことを検知すると、商品の関連情報をサイネージで表示するプロモーションも行える。またこの技術を活用し、アパレル店向けの「スマートハンガーラック」も提供している。これは技術的にはスマートシェルフと同様で、服を手に取るとそれにマッチした商品をサイネージに表示する仕組みだ。

凸版印刷が提供するSMARTICS-N(NFCタグ)は、開封検知機能や真贋判定機能などを内蔵できる。商品のキャンペーン情報発信にも活用できるため販売後の顧客接点創出に生かせる。
SMARTICS-U(UHFタグ)を活用したスマートハンガーラックは、サイネージとのプロモーション連動などに生かせる。

プロモーションにも使えるNFC

人気フィギュア「ベアブリック」にはNFCタグが搭載されており、真贋判定に活用されている。

 こうしたUHFタグは、低価格・高品質ながら店舗の業務効率化に大きく寄与できる。一方で管理が行えるのは生産から店舗での販売までだ。凸版印刷では、より幅広いニーズに対応できるRFIDタグとしてNFCタグ「SMARTICS-N」も提供している。NFCは交通系ICカードに代表される近距離無線通信技術で、昨今は多くのスマートフォンにこのNFC機能が搭載されている。スマートフォンをタグに近づけるだけで情報を読み取れるため利便性が高い。凸版印刷ではこのNFCタグを活用したSMARTICS-Nを、商品の真贋判定やキャンペーン情報の発信などに活用できるようにしている。「アンテナ回路が断線すると開封を検知する開封検知機能を搭載したNFCタグもラインアップしています。活用することで食料品などの賞味期限が来たらプッシュ通知するようなサービスも提供できます。また『クラウド型ID認証プラットフォーム』とNFCタグを組み合わせることで、商品の真贋判定に活用することも可能です」と中林氏。凸版印刷のRFIDソリューションは商品の生産、流通、販売からその後のプロモーション、アフターフォローまでもサポートし、小売店の業務効率化からプロモーション戦略までをトータルでサポートする。

店舗スタッフの品出しの負担を
映像解析で低減

NECは以前から、店舗DXを実現するソリューション開発を進めてきた。始まりは2016年ごろからスタートした社内Future Lab.での取り組みで、以降店舗の業務効率化と顧客の購買体験の二つの側面から、未来の買い物体験を実現する店舗DXの取り組みを進めてきた。そうした中で活用されてきたのが、映像だ。自社内に展開した省人型店舗やレジレス店舗の取り組みのノウハウを生かし、実店舗での活用のしやすさにこだわったその映像解析ソリューションを見ていこう。



 業務におけるNECの映像活用技術の歴史は長い。「約30〜40年前から郵便局で郵便物を自動仕分けする機械で、郵便番号を認識する用途などに長年活用されていました。この映像活用の技術を小売店の業務効率化に生かしており、2022年2月から新たに提供をスタートしたのが、カメラ映像からAIが自動で商品棚の在庫量を可視化する『NEC棚定点観測サービス』です」と語るのはNEC スマートリテール統括部 映像アナリティクスグループ ディレクター 田原裕司氏。

 NEC棚定点観測サービスは、カメラ映像から商品棚の画像を抽出し、欠品状況や品出しの通知を行える定点観測サービスだ。人の目視による商品棚の管理は、棚の状況をチェックする「売場チェック」と、商品を補充する「品出し」の作業が必要だ。しかし、こうした作業は従業員による売り場とバックヤードの行き来が増えるため、業務負担の増加につながっていた。

NEC
田原裕司
NEC
米澤八栄子

運用も設置も容易なシステム

 NECが提供する本サービスは、一つのカメラ映像から定点観測したい商品棚を抽出してゆがみを補正する。棚のみを見るため、人物などは消去し個人情報にも配慮する。補正された棚画像はモバイルアプリやWebブラウザーなどで閲覧でき、棚の在庫が規定値以下になったときに通知される。「ネットワークカメラは『i-PRO mini』と『AXIS M1065-LW』を、環境に合わせて提案しています。大体1台で棚三つ分を定点観測できます」と語るのは、田原氏と同じく映像アナリティクスグループの主任を務める米澤八栄子氏。2023年2月には新たに「品出し通知」機能を強化し、商品ごとの在庫量検知や、本部側からのリモート確認が可能になった。また学習モデルの作成効率化および共通化を実現したことで、カメラ設置後最短1日でサービス利用をスタートできる。

「本サービスはすでに東急ストアやイオンリテールで導入されており、品出しの効率化などで大きな効果を挙げてます。従来、こうした棚を管理するシステムは棚ごとにセンサーの設置が必要だったり、商品ごとにICタグを装着する必要があったりして導入や設置のコストがかかりましたが、本サービスは設置も簡単ですし、初期費用7万4,800円〜、基本の月額利用料3,980円(ともに税別)とコストを抑えて導入できます。携帯やスマートフォンが爆発的に広がったように、店舗のカメラも今後爆発的に広がる時が来ると考えています。そうしたときに迷わずこのサービスを導入してもらえれば、従業員にとってとても便利な新しい店舗として営業してもらえるでしょう」と田原氏は語った。

NEC棚定点観測サービスはWebブラウザー、スマートフォンなどから棚の様子を確認できる。在庫状況をパーセンテージで可視化したり、特定商品の在庫が減少した場合は通知したりと、従業員の品出し負担を大きく軽減できる。