近年注目が集まるサプライチェーン
セキュリティ強化のための二つの枠組み

近年、サプライチェーン全体を狙うサイバー攻撃が増え、取引先を起点とした被害の拡大が問題となっている。企業には「自社単体」ではなく「サプライチェーン全体」を見据えたセキュリティ対策が求められている。こうした状況を踏まえ、日本には二つの代表的な枠組みが存在する。経済産業省の「サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度」と、日本自動車工業会(自工会)および日本自動車部品工業会(部工会)の「サイバーセキュリティガイドライン」だ。今回は、この二つの枠組みのスコープ(適用範囲)の違いと、実務上の使い分けを整理する。

SCS評価制度のスコープ

「サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度」(SCS評価制度)は、産業・企業規模横断での活用を前提とした枠組みだ。製造業に限らず、ITサービス、物流、商社など、サプライチェーンを構成するあらゆる企業が対象となる。評価は、★3〜★5といった段階的なレベルで構成され、(★1、★2は情報処理推進機構(IPA)が運営する「SECURITY ACTION」を参照のこと)以下の役割を担う。

【SCS評価制度の役割】
・自社が最低限実施すべきセキュリティ対策の可視化
・取引先に対して「どのレベルまで対応できているか」を示す共通言語

 つまりこの制度のスコープは、企業間取引における信頼性を担保するための業界横断の共通評価基盤である。特定業種固有の詳細な技術要件よりも、「組織的管理」「リスク認識」「インシデント対応体制」といった、どの業界にも共通する基盤的な要素に重点が置かれている点が特徴だ。

自工会/部工会ガイドラインのスコープ

 一方、「サイバーセキュリティガイドライン」(以下、自工会/部工会ガイドライン)は、自動車産業という特定産業に特化した枠組みだ。完成車メーカー(OEM)から各層のサプライヤーまで、階層構造を持つ自動車サプライチェーン全体を想定し、次の要素をスコープに含む。

【自工会/部工会ガイドラインの要素】
・OEMとサプライヤー間の要件整合
・車載システムや製造現場(OT)を含む実運用におけるリスク
・NIST Cybersecurity FrameworkやISO 27001など国際規格との整合性

 つまり、本ガイドラインは、自動車産業の中で、取引要件として求められる具体的なセキュリティ水準を明確にすることを主目的としており、産業特化型・実務直結型のスコープを持つ。

OT環境に対するアプローチの違い

 SCS評価制度は、OT環境について「専用のネットワークセグメントに設置し、ほかのセグメントからのアクセスを必要最小限に限定すること」といった基本的なチェックにとどめ、詳細な対策はほかの制度やガイドラインに委ねられている。

 一方、自工会/部工会ガイドラインは、2025年10月に工場領域に特化した指針が公開され、明確にOT環境まで対象としている。

 具体的には、工場領域のサイバーセキュリティ対策における実施状況を評価するための「自己点検項目」が主に以下の三つの観点で示されている。

【自己点検項目】
・組織・体制面:セキュリティ方針の策定、推進体制の整備、従業員への教育・訓練の実施状況
・技術・防御面:資産管理(情報・機器・ネットワーク)、認証・認可の徹底、ネットワーク分離、脆弱性管理やパッチ適用、マルウェア対策など
・管理・運用面:接続ルールの遵守、ログ取得や不正アクセス監視、物理セキュリティ、バックアップや復旧手順の整備、委託先・保守ベンダーの管理
 これらを通じて、工場システムのリスクや対策状況を可視化し、改善すべき課題を明確にすることで、自動車サプライチェーン全体のセキュリティ向上を目指している。この点が両者のスコープの大きな違いだ。
 両者の違いを端的に表すと、以下のように整理できる。

【SCS評価制度】
・業界横断的・共通基盤的スコープ
・業界を越えて使えるものさし

【自工会/部工会ガイドライン】
・自動車産業特化・実務詳細スコープ
・自動車サプライチェーンでの実践ルール

 重要なのは、どちらが優れているかではなく、役割が異なるという点である。

「二層構え」による実務活用

 実務では、次の二層構えが効果的である。

【二層構え】
1.SCS評価制度で「自社の立ち位置」を俯瞰的に把握
2.自工会/部工会ガイドラインで「自動車業界要件への適合」を具体化

 SCS評価制度の★3は、自工会/部工会ガイドラインのLv1相当、★4は、自工会/部工会ガイドラインのLv2相当+Lv3の一部といったように、公開されている「★3・★4要求事項及び評価基準案」には、参考文献として自工会/部工会ガイドラインのどのLvに相当するかが記載されている。

 そのため、自動車産業のサプライヤーは、自工会/部工会ガイドラインへの準拠を通じて、完成車メーカー(OEM)からの要求を満たすだけでなく、SCS評価制度を通じて他業界との取引にも通用する客観的な説明力を確保できる。

各ガイドラインの役割を理解する重要性

 サプライチェーンセキュリティは、単一のガイドラインで完結するものではない。SCS評価制度と自工会/部工会ガイドラインは、抽象度(共通基盤)と具体度(産業特化)の異なる補完関係にある枠組みであり、そのスコープを正しく理解することが、過剰投資や抜け漏れを防ぐ鍵となる。

 今後、取引要件や評価制度がさらに高度化する中で、企業には「どの枠組みで、どこまで対応しているのか」を説明できる力が、ますます求められていくだろう。


〈参考〉
経済産業省「サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度に関する制度構築方針(案)」(SCS評価制度の構築方針(案))」
https://www.meti.go.jp/press/2025/12/2025122 6001/20251226001.html
一般社団法人 日本自動車工業会「自動車産業サイバーセキュリティガイドライン」
https://www.jama.or.jp/operation/it/cyb_sec/cyb_sec_guideline.html
情報処理推進機構(IPA)「SECURITY ACTION とは?」
https://www.ipa.go.jp/security/security-action/sa/index.html