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文部科学省令和3年度予算からGIGAスクール構想のこれからを展望

文部科学省令和3年度予算からGIGAスクール構想のこれからを展望

2021年02月09日更新

Special Feature 2
GIGAスクール時代の学びをひもとく
――文部科学省令和3年度予算から

政府からGIGAスクール構想の方針が示されてから1年が経過した。コロナ禍による影響も相まって、児童生徒1人1台端末の整備は急速に進んでいる。今回は文部科学省の2020年度(令和2年度)第3次補正予算案と2021年度(令和3年度)予算案をもとに、1人1台端末が整備された教育現場に求められる学びについてひもといていこう。

端末整備からさらに広がるGIGAスクール

Society 5.0時代の教育を実現するための環境を整えるため、スタートしたGIGAスクール構想。コロナ禍で前倒しされた端末整備計画の“いま”と“これから”について、これまで教育の情報(ICT)化に取り組んできた情報教育・外国語教育課を取材した。

スタートラインに立ったICT教育

文部科学省
初等中等教育局
情報教育・外国語教育課長
今井裕一 氏

 2019年度の補正予算で成立した「GIGAスクール構想の実現」。令和時代のスタンダードな学校像として、全国一律のICT環境整備が急務とされ、1人1台の端末環境および高速大容量の通信ネットワークを一体的に整備するために、2,318億円の予算が投じられた。当時は2023年度に達成予定としていた1人1台端末の整備だったが、新型コロナウイルスの感染拡大による全国一斉の臨時休校により、緊急時でも学びを継続するためのインフラとしてICT環境整備の必要性が改めて見直された。そこで2020年度補正予算として「GIGAスクール構想の加速による学びの保障」に2,292億円を計上。2019年度補正措置済の端末と併せて小中学校全てで1人1台端末の環境の早期実現を目指し、2020年度中にはほぼ全ての自治体で、1人1台の端末環境整備が完了する見込みとなっている。

 しかし、小中学校における1人1台の端末環境整備はスタートラインに過ぎない。GIGAスクール構想の目指すべき姿は、1人1台端末と学校における高速大容量な通信ネットワークを整備することにより「Society 5.0時代を生きる子供たちにふさわしい、全ての子供たちの可能性を引き出す個別最適な学びと協働的な学びを実現する」ことにある。そのため、GIGAスクール構想を契機とした学びのICT化は、さらに多岐に広がっていく。まずは2020年度第3次補正予算案からGIGAスクール構想の今後の取り組みを見ていこう。

1人1台端末環境を高校に広げる

 文部科学省では、2020年度第3次補正予算案における「GIGAスクール構想の拡充」に209億円を計上している。その中でも特に多い161億円が割り当てられているのが、高等学校のPC端末整備支援のための補助金だ。低所得世帯の生徒が使用するPC端末整備を支援するため、国立、公立、私立の高等学校と特別支援学校等に対して、1台4万5,000円を上限(国立公立:定額、私立:原則1/2)に補助金を支給する。小中学校に対する整備支援とは異なり補助対象を絞った理由について、文部科学省の今井裕一氏は次のように語る。「高等学校は小中学校とは異なり、すでに1人1台端末環境を実現している都道府県がいくつかあります。また、導入スタイルもさまざまで、生徒個人の所有物としてBYODスタイルで端末を導入する学校などもあります。高等学校は専門学科や総合学科など学びの多様性もあるため、義務教育と同じように一律での整備支援よりも、支援が必要な低所得世帯の生徒の端末を対象に補助金を支給することが、高等学校の1人1台端末環境実現の上では必要と考えました」

 また、GIGAスクール構想の実現を踏まえ、2021年度予算案では「GIGAスクールにおける学びの充実」に4億円が計上されている。GIGAスクール構想の着実な実施に向けて、自治体や学校の支援を充実するとともに、児童生徒1人1台端末環境におけるICTの効果的な活用を一層促進させることが狙いだ。2020年度から引き続き、「『ICT活用教育アドバイザー』等による整備・活用推進」「情報モラル教育推進事業」「児童生徒の情報活用能力の把握に関する調査研究」を実施する。

自治体ごとの格差をなくす

 さまざまな自治体で学校のICT化が急速に進んでいるが、学校の人的体制は不十分だ。そうした学校現場のICT環境の設計や、使用マニュアル(ルール)の作成、オンライン学習時のシステムサポートなど、ICT環境整備等の知見を有する人材の学校への配備経費の支援費として「GIGAスクールサポーター配置促進事業」を2021年度予算案として計上した。

 GIGAスクールサポーターは、ICT活用教育アドバイザーやICT支援員とは異なり、学校現場のICT環境整備の初期対応等、ICT化に関わる技術的な支援を行う人材だ。人件費や旅費、消耗費などの経費を補助対象として、国立は定額、公立、私立は2分の1の補助割合でサポートする。

「GIGAスクール構想によって、ハードウェアの整備は大きく進みました。しかし教育現場のICT活用状況を見てみると、ICT利活用を推進している自治体や学校では文房具のように授業になじんだ使い方をしていますが、そうでない小中学校や高等学校も多くあります。そこで、GIGAスクール構想によって整備された環境の積極的な活用を促進するため『GIGA StuDX推進チーム』を新たに設置しました。“つながる”をキーワードに、まずは『StuDX Style』というWebサイトを立ち上げ、ICT利活用を推進している指導主事等から集約した、1人1台端末の活用方法に関する優良事例や、本格活動に向けた対応事例などの情報発信・共有を随時進めていきます」と今井氏。

 自治体ごとの活用の差を埋めていくことが、GIGAスクール構想後のICT教育定着の鍵となる。


「自治体ごとの活用の差を埋めるべく、StuDX Styleにおいて事例の情報発信・共有を進めていきます」

GIGAスクール構想の拡充
児童生徒1人につき1台端末と高速大容量の通信ネットワークを整備するGIGAスクール構想の継続事業。2019年度第3次補正予算案として209億円を計上し、そのうち161億円を高等学校の低所得帯等の生徒が使用するPC端末整備の支援に割り当てている。

GIGAスクールにおける学びの充実
GIGAスクール構想の実現を踏まえた、自治体・学校への支援とICTの効率的な活用の促進を支援する事業などに対して2021年度予算案に4億円を計上。教育の情報化に関わる事業として従来進めてきた三つの事業を継続して実施する。

GIGAスクールサポーター配備促進
学校の人的体制の不足をサポートするためICT技術者の学校への配備経費を支援する事業として2021年度予算案に10億円を計上。学校における環境整備の初期対応として、ICT環境整備の設計や端末使用のマニュアル作成などに対応する。

学びを充実させるコンテンツ整備

タブレット(PC)端末だけを学校現場に整備しても、授業で実際に学ぶためのコンテンツがなければ活用にはつながらない。GIGAスクール構想で児童生徒に1人1台の端末が整備された次のステップとして必要なのが、教材コンテンツだ。

学習者用デジタル教科書の普及に向けて

文部科学省
初等中等教育局
企画官
学びの先端技術活用推進室長
桐生 崇 氏

 GIGAスクール構想によってハードウェアの整備が進んだ学校現場。2021年度からは授業での本格的な活用が加速していく。そうした中急務となっているのが、授業で活用するコンテンツの整備だ。

 学校の授業で使用する教材として、真っ先に思い浮かぶのは紙の教科書だ。小学校、中学校、高等学校、特別支援学校等においては、文部科学大臣の検定を経た教科用図書または文部科学省著作教科書を使用する義務が課せられており、義務教育段階の児童生徒には無償で給与されている。教科書以外の図書や補助教材で、有益適切なものは使用が認められているが、学習者用のデジタル教科書は学校現場の導入が進んでいない状態だ。背景には、ICT環境整備の不足や、有償での購入が必要といった課題がある。

 そこで文部科学省は、2021年度予算案として「学習者用デジタル教科書普及促進事業」に22億円を計上した。オンラインで取材に対応していただいた文部科学省 初等中等教育局 教科書課課長補佐 度會友哉氏は「2020年度予算は2,000万円でしたが、GIGAスクール構想によってICT環境が整った学校現場が増え、ICTを活用した学びの出発点として、学習者用デジタル教科書は必須になります。学校現場におけるデジタル教科書の導入を促進させるべく、事業規模を拡大させています」と語る。

紙とデジタルを場面に合わせて使う

 そのうち「学びの保障・充実のための学習者用デジタル教科書実証事業」には20億3,300万が新規に割り当てられている。1人1台端末の環境などが整っている小学校や中学校などを対象に、デジタル教科書(付属教材を含む)を提供して普及促進を図るものだ。宿題など学校の授業以外でも活用できるよう、パブリッククラウドを使用した供給形式を採用し、大規模な提供に当たって生じる課題などの報告を学校側に求める。小学校5、6年生および中学校全学年の1教科分の学習者用デジタル教科書(付属教材を含む)の経費全額を負担する。小中学校の5割程度の規模での実証を予定している。

 また、デジタル教科書をパブリッククラウドで配信する中で、そのフィージビリティ(実現可能性)も検証する必要があるため、「学習者用デジタル教科書のクラウド配信に関するフィージビリティ検証」として2021年度予算案に1億1,600万円を新規に計上。複数のモデル地域において比較検証を行い、デジタル教科書のクラウド配信を進める際のコスト削減や望ましいシステムの在り方の検討を進めていく。

 デジタル教科書を使用する上で、その効果や影響に関する調査も不可欠だ。2020年度からの継続事業として2021年度予算案でも「学習者用デジタル教科書の効果・影響等に関する実証研究」に6,500万円(前年度2,000万円)を投じている。実証研究校での詳細な調査によるデジタル教科書の使用による効果・影響の検証や、教員の授業実践に役立てられる事例集や研修動画の製作を予定している。また学びの保障・充実のための学習者用デジタル教科書実証事業と連携して、全国でアンケート調査も実施する。初めてデジタル教科書を使用するケースを含む多数のデータをもとに、効果検証や傾向・課題などの分析を進めていく。

「現在、学習者用デジタル教科書は、児童生徒の学びの充実を図るために必要な場面での使用が認められていますが、その基準の一つとしてデジタル教科書を使用した各教科等の授業時数が2分の1に満たないことが求められています。しかし、授業を進める上では紙の教科書がよい場面も、デジタルがよい場面もあり、使いたい時に制限なく使える措置が必要です。デジタル教科書の今後の在り方等に関する検討会議ではこの基準を見直す方針を示しており、2021年4月1日からこの基準を見直した形で運用できることを目指しています」と度會氏は語った。

オンライン学習システムを全国に

 教育現場でのICT活用として、昨年特に注目が集まったのがオンライン授業だ。コロナ禍における2020年度第1次補正予算で1億円を計上し、学校や家庭において端末を用いた学習・アセスメントが可能なプラットフォームの導入に向けた調査研究として、プロトタイプを開発した。2020年度第3次補正予算案では22億円を計上。システムの機能の改善・拡充を実施する予定だ。現在は関係機関の協力のもと、国や自治体が作成した既存の学力調査問題などをデジタル化し、数百問が搭載されている(2021年1月時点)。文部科学省の桐生 崇氏は「開発しているオンライン学習システムは、通常活用している学習端末を用いて、家庭からでも学校からでもアクセスできます。問題演習方式とテスト方式の2種類の活用が可能なほか、教員が問題作成を行い、担当クラスの単元テストで活用することも想定しています」と語る。2020年1~3月にかけて、小中高約300校での検証も進めていく。

 また、2020年度予算案では前述の補正予算22億円に加え、「オンライン学習(CBTシステム)の全国展開」と「先端技術・教育データの利活用促進」に合わせて7億円を計上している。オンライン学習システムの全国展開では、将来的に全国の小中高生の活用を視野に入れており、希望する全国の小中高校等で運用をできるようにしていくとともに、解答履歴の分析やフィードバックも進めていく。学習マネジメントシステム(学習eポータル)も開発しており、さまざまな学習コンテンツや学びの進捗管理などができるポータルハブのような役割として活用できるようにしていくという。

 オンライン学習システムは、問題やデータの相互運用が可能な国際標準規格に基づく汎用的なシステムとして開発しており「解析した内容をもとに個人指導に役立てるような教材を、事業者の方に開発してもらってもよいと考えています」と桐生氏は語った。


「オンライン学習システムを希望する全国の小中学校で運用できるよう事業を進めていきます」

学習者用デジタル教科書実証
「学びの保障・充実のための学習者用デジタル教科書実証事業」として、2021年度予算案に20億3,300万円を新規に計上。1人1台端末の環境等が整っている小中学校等を対象に、デジタル教科書(付属教材を含む)1教科分の経費を補助してデジタル教科書の普及促進を図る。

クラウド配信の実証
「学習者用デジタル教科書のクラウド配信に関するフィージビリティ検証」として2021年度予算案に1億1,600万円を計上。パブリッククラウドを使用した供給方式とすることから、多教科のデジタル教科書を多数の児童生徒が同時に使用する際のフィージビリティ検証を実施する。

効果・影響等に関する実証
「学習者用デジタル教科書の効果・影響に関する実証研究」に2021年度予算案として6,500万円を計上。実証研究校におけるデジタル教科書の使用による効果・影響の検証を実施する。教員の授業実践に資するよう事例集や研修動画の製作も進めていく。

オンライン学習システムの全国展開
学校や家庭で学べるオンライン学習システムを、希望する全国の小中高校で活用できるようにする事業。「オンライン学習(CBTシステム)の全国展開」と「先端技術・教育データの利活用推進」を合せて、2021年度第3次補正予算案として22億、2021年度予算案として7億円の計29億円を計上する。

ICT環境整備は高校・大学へ広がる

2020年度第3次補正予算案のGIGAスクール構想でも高等学校への端末整備予算が計上された。今後は普通科のみならず職業系専門高校や高等教育機関(高専・大学)にもICT環境整備がさらに求められていく。

IoT時代の即戦力を育成

文部科学省
初等中等教育局
参事官(高等学校担当)
塩川達大 氏

 GIGAスクール構想によりICT環境整備が進んだ小中学校。今後はそうした環境で学んだ子供たちが進級する高等学校や大学などにも、ICT環境整備が求められており、専門高校や高等専門学校(高専)、大学などのICT化も、2020年度第3次補正予算で進められようとしている。

 まず専門高校だ。Society 5.0時代における地域の産業を支える職業人材育成を進めるため、専門高校においてデジタル化対応装置の環境整備を進める「『スマート専門高校』の実現(デジタル化対応産業教育装置の整備)」に、2020年度第3次補正予算案として274億円が計上されている。

 金属造形3Dプリンターやマシニングセンタ、高性能PC端末を配備した実習室の整備などが装置の例としてある。国公私立の職業教育を主とする専門学科などを設置している高等学校が対象となっており、公立私立で3分の1、国立で全額の補助率となる。

 文部科学省の塩川達大氏は「本事業で特に大型の産業教育装置の整備に必要な費用の一部を緊急的に国が補助します。また技術革新により、農業ではドローンを活用したり、工業では測量用のGPS装置を活用したりといった大きな変化が起こっています。そうした恒常的に整備が必要な機器については、今後交付税によって整備できるよう、現在検討を進めており、IoT時代の即戦力を育成する専門高校の実現を目指していきます」と語る。


「IoT時代の即戦力を育成するスマート専門高校の実現を目指していきます」

高等教育のDXを推進する

文部科学省
高等教育局
専門教育課長
吉田光成 氏

 同じく2020年度第3次補正予算案では「デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン」に60億円が計上されている。本事業では、大学や短期大学、高専において、デジタルを活用した教育の先導的なモデルとなる取り組みを推進するため、デジタル技術活用に必要な環境整備費を支援する。

 取り組み例に、学修管理システム(LMS)を導入して全カリキュラムにおいて学生の習熟度等を把握し、そのログをAIで解析して個別最適化を図る「学修者本位の教育の実現」(1件1億円×30件程度)と、VRを用いた対面ではない実験・実習を導入するなど、デジタルを活用して従来困難と思われていた遠隔授業を実現する「学びの質の向上」(3億円×10件程度)がある。

「すでに公募説明会をオンラインで開催していますが、リアルタイム、アーカイブ視聴含め非常に多くの方から関心をいただいています。15カ月予算の中で整備を進めてもらい、高等教育のデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進してほしいですね」と文部科学省の吉田光成氏は語った。


「15カ月予算の中で整備を進め、高等教育のDXを推進してほしいですね」

スマート専門高校
高性能ICT端末などを含む最先端のデジタル化に対応した産業教育装置の整備に必要な費用の一部を国が緊急的に補助するため、2021年度第3次補正予算案として274億円を計上。補助率は公立、私立で3分の1。国立で全額となる予定だ。

大学・高専教育高度化プラン
デジタル技術を積極的に取り入れ、「学修者本位の教育の実現」「学びの質の向上」に資するための取り組みにおける環境を整備するため、2020年度第3次補正予算案に60億円を計上。デジタルを活用した教育の先導的なモデルとなる取り組みを推進していく。

ICT教育整備のこれから

 GIGAスクール構想をはじめとした教育現場のICT化の次のステップについて、文部科学省の次年度事業に基づいて解説してきた。コロナ禍によって端末整備は前倒しされ、小学校と中学校にはそれぞれ児童生徒1人につき1台の端末が整備されたが、それはスタートラインに過ぎない。小学生、中学生が進級した先である高等学校、大学への端末整備は引き続き求められていることに加え、小中学校においても完全な1人1台の端末環境が実現できていないケースも存在する。

 GIGAスクール構想による1人1台端末整備の内、3クラスに1クラス分の整備予算は「学校におけるICT環境整備に係る地方財政措置」で賄われるため、既に整備が進んでいた自治体と、GIGAスクール構想で急遽整備を進めた自治体とでは環境に格差が生じている可能性があるのだ。学校現場のハードウェア整備は、引き続きの支援が必要になるだろう。

 また、学びの要となる教材コンテンツの提案も、今後学校現場で求められるだろう。学習者用デジタル教科書もオンライン学習システムも、基盤はパブリッククラウドだ。GIGAスクール構想ではクラウド利用が前提となっており、文部科学省では学習用ネットワークにおける通信環境の円滑化を図る整備も支援していく。具体的には、現在各学校や教育委員会で一度集約してインターネットに接続している回線を、学習系ネットワークのみ学校から直接インターネットに接続する方式に改めるための整備を進めていく。教育現場に求められるクラウドファーストの選択に最適なネットワークやセキュリティ対策の提案も、今後必要になりそうだ。

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