Agentic Enterpriseの実現に向けて
HPEが提供するソリューション
生成AIの活用が幅広く浸透している現在、その次の潮流として、AIエージェント同士が連携しながら業務を遂行する「エージェンティックAI」に注目が集まっている。日本ヒューレット・パッカード(以下、HPE)では、AIエージェントが企業におけるデジタル労働力として人と協働しながら価値を創出する新たな企業運営モデルを「Agentic Enterprise」と呼称している。しかし、その実現に向けては多くの課題が存在する。では、こうした課題に対し、HPEはどのような戦略の下でソリューションを提供しているのか。本記事では、その取り組みと方向性を追っていく。
エージェンティックAI時代に
企業が直面する四つの課題
エージェンティックAIの普及に伴い、企業は主に四つの課題に直面している。
一つ目は、システムの分散化・複雑化だ。エージェンティックAIの時代では、AIエージェントが自律的に判断し、その場の状況に応じてさまざまなデータやアプリケーション、SaaSへアクセスするようになる。さらに、複数のエージェント同士が連携しながら業務を進めるケースも増えるため、処理の流れをあらかじめ固定的に設計することが難しくなる。その結果、人だけでシステム全体の動作を把握し、制御することが困難となってしまう。
二つ目は、AI利用コストの増大だ。エージェンティックAIでは、目標達成に向けて計画、実行、検証を繰り返しながら推論を重ねるため、単純なチャット利用と比べてトークン消費量が大幅に増加する。さらに、複数のエージェントが協調して作業することで、AIモデルの呼び出し回数も増加し、コストを押し上げる要因となる。AIコーディングエージェントを大量に並列稼働させた公開事例によると、月間6,000億トークンを消費したとされる。また、API利用コストが月額100万ドル規模に達したケースもあった。そのため企業には、利用状況を可視化するとともに、処理効率の向上やコストの最適化を継続的に進める仕組みが求められる。
三つ目は、AI需要の急拡大と変動だ。従来はAIモデルの学習が中心であったため、高性能なGPUの確保が重要視されていた。しかし、エージェンティックAIの普及によって推論処理やオーケストレーション、制御機能の重要性が高まり、CPUへの需要も大きく増加すると見込まれている。加えて、多数のエージェントが分散環境で相互に通信することで、ネットワークに求められる性能や信頼性、セキュリティ要件も一段と高まる。AIエージェント活用の拡大は、CPUやGPUだけでなく、ネットワークを含めたITインフラ全体に影響を及ぼすことが予測されている。
四つ目は、セキュリティとガバナンスだ。AIエージェントが企業におけるデジタル労働力として機能するようになると、人材管理と同様の統制が必要となる。具体的には、どのAIエージェントがどの業務を実行しているのか、どのデータやシステムへのアクセス権限を持っているのかを明確に把握しなければならない。また、誤作動や不正な挙動が発生した場合には、迅速に停止や復旧を行える仕組みも不可欠である。
さらに、サイバー攻撃側もAIを活用することで、脆弱性の発見から攻撃実行までの時間短縮や攻撃の自動化を進めている。その結果、攻撃はより大規模かつ高度化しており、企業には従来以上に強固なセキュリティ対策とガバナンス体制の構築が求められている。
新しいITプラットフォームには
三つの要件が求められる
こうしたエージェンティックAI時代の課題を解決するため、HPEではどのような戦略を採っているのだろうか。同社 執行役員 プリセールス統括本部長 中村史彦氏は次のように語る。「人手中心の運用から、AIを活用した継続的な判断・最適化が必要であると当社は考えています。エージェンティックAI時代に求められる新しいITプラットフォームには、『安全に自律的につなぐ』『効率的に支える』『継続的に適応・改善する』という三つの要件が必要であると考えています」

新しいITプラットフォームに求められる三つの要件を実現するため、同社は安全かつ自律的な接続を担うネットワークレイヤー「Self-Driving Networking」、AIワークロードを効率的に支えるインフラ・基盤レイヤー「Agentic Infrastructure」、継続的な適応と改善を実現する運用レイヤー「Intelligent Hybrid Operations」の三つを柱として製品・サービスを展開している。さらに、これら三つのレイヤーを統合する基盤として「HPE GreenLake Intelligence」を位置付けている。ネットワーク、インフラ、運用ソフトウェアを横断的に連携させることで、自律運用とリアルタイムな最適化を実現するプラットフォームを提供していく方針だ。
また、「HPE Services」を通じて、構想策定から設計、導入、運用、ファイナンス支援に加え、サードパーティーソリューションとの連携までを包括的に支援し、顧客のAI活用を後押ししていく。

自律型プラットフォームを実現するために
HPEが提供する三つのソフトウェア
本説明会では、三つの柱の中でもIntelligent Hybrid Operationsが中心テーマとして取り上げられた。AI活用に伴いシステム環境が高度に複雑化する中、Intelligent Hybrid Operationsを実現する根幹のアプローチとなるのが「クローズドループ運用」だ。
クローズドループ運用とは、環境全体の情報を継続的に収集・観測し、その結果を分析して最適なアクションを推論し、自動的に実行する仕組みだ。さらに実行結果を検証して次の判断や改善につなげることで、自律的かつ継続的な最適化を可能にする。

HPEでは、このクローズドループ運用を具現化するソフトウェア群として「HPE CloudOps Software」を提供している。HPE CloudOps Softwareは、「HPE Morpheus Software」、「HPE OpsRamp Software」、「HPE Zerto Software」の3製品で構成される。

HPE Morpheus Softwareは、企業内のデータセンターだけでなく、パブリッククラウドやエッジ環境を含む複数のプラットフォームを、一つのクラウドとして統合管理可能なソフトウェアだ。管理者は異なる環境を一元的に管理できるだけでなく、利用者は「セルフサービスポータル」を通じて必要なリソースへアクセスし、自動化機能を活用してシステムのデプロイやプロビジョニングを行える。さらに、「HPE Morpheus Orchestration Copilot」の搭載により、自然言語による操作が可能となり、手作業中心のワークフローで発生するコストやヒューマンエラーを削減する。
HPE OpsRamp Softwareは運用管理を担うプラットフォームだ。従来のインフラ監視にとどまらず、AIエージェント、AIモデル、アプリケーション、ツール、インフラといった構成要素を一つのサービスとして捉え、環境全体の状態をリアルタイムに観測する。発生するさまざまなイベントを相関分析し、障害原因の特定や対策提示を行うだけでなく、自律的な復旧まで行える。さらに、AIエージェント運用および大規模言語モデル(LLM)利用状況の可観測性を強化する新機能も発表された。AIエージェントのリクエスト数やLLMの呼び出し回数、モデルプロバイダーごとの利用状況に加え、トークン消費量、利用コスト、キャッシュ効率などを可視化する。そうすることで、AI活用環境全体の状況把握と最適化を支援するのだ。
HPE Zerto Softwareはデータ保護とデータレジリエンスを担うソフトウェアだ。AIエージェントによる誤操作や不正アクセスによって重要データが改ざん・破損された場合でも、迅速な復旧を実現し、事業継続を支援する。
最後に中村氏は、「Self-Driving Networkingで自律的につながり、Agentic Infrastructureで安全かつ効率的に動かし、Intelligent Hybrid Operationsでインテリジェントに運用する。この3本柱を基盤にさまざまな製品・サービスを提供することで、企業の『Agentic Enterprise』への変革と価値創出を支援していきます」と意気込みを語った。

