巨大化するAIデータセンターと建設反対運動

巨大なAIデータセンターの建設計画が次々と発表・着工される中、データセンター建設への反対運動が世界各国で起きている。データセンターを建設する際には、近隣住民の理解を得ることが重要な課題となっている。

米国には、データセンター建設反対運動について集計するサイト「Southeastern Data Center Registry — Cancelled Projects」があるが、同サイトによれば、2026年10月時点で計画が中止・撤回されたデータセンターは127件、データセンターの規模を表す受電容量は12.8GW、投資総額は671億ドルに達するという。

データセンター建設反対運動について集計するサイト「Southeastern Data Center Registry — Cancelled Projects」

日本でもデータセンター建設への反対運動が増加している。ただし、近隣住民の漠然とした不安に端を発するケースも少なくない。生活圏に要塞のように閉鎖的で巨大な建物ができることへの心理的な圧迫感から始まり、調べていくうちに、住環境に深刻な影響を与える可能性があることを知り、事業者や建設を認可した自治体に説明を求めるという形が、現在のところ多い。しかし、データセンターが集積し「データセンター銀座」とも呼ばれる千葉県印西市や白井市では、自治体の対応や建設計画をめぐる訴訟も相次いでいる。また、東京都昭島市の反対運動のように、公害調停などの手続きを絡めた動きも出てきている。

反対運動に対する昭島市の対応ページ

データセンターの大型化は、クラウドサービスの普及とともに始まった。それ以前は、データセンター事業者が企業の業務サーバーなどを設置するためのスペースを提供し、電力や通信回線などのインフラを用意する「スペース貸し」がデータセンタービジネスの中心だった。しかし、クラウドサービスを提供するには、それまでとは比較にならない数のサーバーが必要になる。そこでクラウドサービスベンダーが、自社サービスを提供するための「ハイパースケールデータセンター」と呼ばれる大型データセンターの建設を急ピッチで進めてきた。

さらに規模を拡大させたのが、AIデータセンターの登場である。生成AIの開発やサービス提供を手がけるOpenAIやMicrosoft、Googleなどが、従来のハイパースケールデータセンターを上回る規模のAIデータセンターの建設を急ぎ始めた。シナジー・リサーチ・グループの調査では、世界のハイパースケールデータセンター(AIデータセンターを含む)の稼働数は、2020年の700強から2024年には1100強へと約1.5倍に増加している。今後も年間約130カ所が新規に建設されていくという。また、モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル(MSCI)の資料では、米国のデータセンターの受電容量の規模は、2024年の3.2GWから2025年には12.3GWへと、1年間で約4倍に増加している。2020年と比較すると10倍以上だ。

これは、クラウドサービスの需要に応えるためのデータセンターから、AIのためのデータセンターへと建設の重点が移り、一つのデータセンターの規模も大きくなっていることを示している。AIデータセンターをめぐる問題では、この「規模の巨大化」が大きな要因となっている。

なぜ、AIデータセンターはこれほど巨大にならなければならなかったのだろうか。AIの開発では、LLM(大規模言語モデル)が膨大なデータを学習する。OpenAIのGPT-4.0の場合、学習には約2万5000基のA-100 GPUを90〜100日間稼働させたと言われている。

このような計算を実行するには、GPU間で大量のデータを高速にやり取りする必要がある。そのため、大量のGPUを一つのデータセンターに集め、データセンター全体を一台の巨大なコンピューターのように利用する構成が採用されてきた。AIベンダー各社がLLMの開発競争に注力していた段階では、必要な学習処理を実現するため、データセンターの規模は巨大化していかざるを得なかった。

3つの重要なAIデータセンター問題

こうして登場したAIデータセンターが抱える問題として、特に重要なのが「電力」「水」「熱」の3つである。この3つは相互に関係している。
 
膨大な数のGPUを搭載したサーバーを稼働させるには大量の電力が必要であり、その結果、大量の熱が発生する。この熱を適切に処理しなければサーバーに障害が発生するため、冷却が必要になる。AI以前は空調設備による空冷が中心だったが、AI向けGPUでは発熱密度が高まり、空冷だけでは十分な冷却が難しくなっている。そのため、液体を利用して熱を運ぶ水冷方式への移行が進んでいる。
 
一方、電力や水といったインフラは地域の資源でもある。データセンターによる大量消費が、生活用水や農業用水など、地域産業が利用する資源に影響を与える可能性がある。電力を再生可能エネルギーだけで賄えなければ、新たな発電設備の建設が必要になる場合もあり、電源構成によってはCO₂排出量の増加につながる。地下水をくみ上げて冷却に使用する場合には、地下水の減少や地盤沈下などの問題が生じる可能性もある。そして、GPUなどが発生させた熱は、最終的には大気や水など周囲の環境に放出される。そのため、データセンターの大量の排熱が地域環境や、より広い意味での気候環境に与える影響も無視できない。
 
多くの人が日常的に生成AIを利用するようになった現在、AIの利便性を維持しながら、こうした問題を抑制していく必要がある。そのためには、事業者と住民との対話はもちろん重要だが、同時に、新しいテクノロジーによって問題そのものを小さくしていく必要がある。
 
その際、最初に検討すべきなのは、現在のシステムに存在する無駄を見直すことだ。従来、データセンター事業者は、土地、電力、通信回線、非常用発電機などの設備を個別に調達していた。そのため、個々の要素を組み合わせた結果が、必ずしも全体として最適な構成になるとは限らなかった。ハイパースケール化によって投資額が膨らむと、不動産事業者やデベロッパーなども加わり、調達の分業化が進んだが、個々の設備を組み合わせることによる全体最適の難しさは残っている。
 
これを解決するには、共通の仕組みやインターフェースによってさまざまな要素を組み合わせ、システム全体を設計できる範囲を広げる必要がある。その中で、電力使用量や通信速度などの最適化も図っていく。そのための有力な技術の一つが、NTTが推進するIOWNである。

IOWNは光と電気のデータ変換回数を減らす

NTTのIOWNは、単純な「光通信の高速化技術」ではない。「光ファイバーを高速化する技術」というよりも、「コンピューターとネットワークの中で、これまで電気が担ってきた通信部分を、どこまで光に置き換えられるか」を追求する技術群と考えたほうが分かりやすい。フレッツ光などの光通信では、光ファイバーの中を流れているのは光信号だ。しかし、現在のコンピューターやネットワークでは、情報処理の多くを電気信号で行っている。光ファイバーを通ってきたデータも、ネットワーク機器の中では電気信号に変換され、スイッチやルーターなどで処理された後、再び光信号に変換されて送られる。
 
コンピューター内部でも、CPU、メモリー、GPUなどの間を大量の電気信号が行き交っている。AIでは、計算能力を高めるためにGPUを増やせば、それだけGPU間で大量のデータをやり取りする必要が生じる。そこで重要になるのが、「計算する能力」だけではなく、「計算資源の間でデータを運ぶ能力」だ。IOWNは、この通信部分の光化を広げることによって、電気信号と光信号の変換回数を減らし、高速・低遅延・低消費電力な通信を実現しようとしている。
 
さらに、計算資源の間でデータを運ぶ部分についても、光電融合デバイスによって光化を進め、最終的には情報を処理するコンピューター内部まで光信号を利用することを目指している。2023年に商用化されたIOWN 1.0ではネットワークやデータセンター間、サーバー間の光化が進められており、IOWN 2.0ではコンピューターのボード間、さらにIOWN 3.0ではCPU・GPUなどのチップ/パッケージ間、IOWN 4.0ではチップ内部へと光化の範囲を広げていくロードマップが示されている。

NTT技術ジャーナルより「光電融合デバイスの展開」

これによって通信速度を高め、遅延を抑えられることは、データセンターにとって大きな意味を持つ。AIデータセンターをめぐる地域との摩擦では、その巨大さが大きな要因となっている。もし低遅延のネットワークによって巨大データセンターが担っていた計算処理を複数のデータセンターに分散できれば、データセンターそのものの巨大化を抑制できる可能性がある。
 
これまでGPUを一つのデータセンターに集めることで実現していた高速なデータ交換を、遠距離にある複数のデータセンター間でも実現できれば、計算資源を分散配置することが可能になるからだ。実際、2026年のIOWN Global Forumでは、光接続を利用してXPU間通信をスケールさせる「Optically-Accelerated AI Cluster」の機能アーキテクチャが公開されている。
 
今後、LLMの学習そのものよりもAIサービスを利用する「推論」の需要が大きくなれば、これまでと同じペースで巨大なAIデータセンターを建設する必要性は低下するかもしれない。小規模なデータセンターであれば、地域の電力消費量に匹敵するほどの電力を必要とするケースも減り、水資源の使用量も抑えられる。計算資源を地域に分散することで、データセンターと地域社会との摩擦も減らせる可能性がある。

放熱問題への有効な対策は

さらに、地球環境への影響という観点でも、IOWNは有効な手段の一つになり得る。IOWNが4.0まで進んだとしても、発熱の削減は主としてデータの変換や送受信に関わる部分であり、演算処理そのものによって発生する熱をなくすことはできない。しかし、前述したデータセンター間の処理分散をうまく利用すれば、排熱問題に対しても新たな解決策を考えられるのではないだろうか。
 
発電には地域的な偏りがある。原子力や太陽光、風力などによって発電された再生可能電力が余っている地域で計算処理を行える体制を構築すれば、電力の有効利用やCO₂排出量の削減につながる可能性がある。ただし、電力を計算処理に使えば、そこで発生する熱そのものがなくなるわけではない。
 
IOWNの利用をさらに一歩進めるなら、「熱需要に合わせて計算処理を移動させる」という考え方も可能になる。これは現時点でNTTが明示的に提案しているものではなく、IOWNによるデータセンター分散処理という考え方から導き出せる一つの構想である。
 
データセンターの排熱は、化石燃料を燃焼させたときに発生するような高温ではない。しかし、数十度程度の温度上昇であっても、大量に発生すれば、全体として周囲の環境に影響を与えるほどの熱量になる。そこで、この熱をヒートポンプなどによって回収し、暖房などの熱を必要とする地域の家庭や工場に供給すれば、本来そこで必要だったエネルギーを削減でき、温室効果ガスの排出抑制にもつながる可能性がある。
 
熱を長距離運搬することは難しい。そこで、熱を周辺の住民や企業が必要としている地域にデータセンターを配置し、IOWNによって計算処理を分散する。実際、ストックホルムではデータセンターの排熱が地域暖房の熱源として利用されている(※1)。また、フィンランドのエスポーでは、Microsoftの新設データセンターから、25万人の地域暖房利用者の40%に相当する規模の排熱供給が計画(※2)されている。
 
ここからさらに「余剰電力+データセンター+排熱利用」までを一体化したシステムを考えると、データセンターを、単に電力を熱に変えて捨てる施設から、余剰電力を計算資源に変換し、その副産物として生じる熱まで地域で利用する施設へと変えられる可能性がある。そうなれば、AIデータセンターは単なる「電力需要家」ではなく、「電力網×通信網×計算資源×熱供給網」を横断する存在になる。
 
もちろん、実現は簡単ではない。余剰エネルギーがある地域では、そのエネルギーを暖房などに直接利用したほうが合理的な場合もある。したがって、余剰電力が発生する地域と熱需要が存在する地域が、必ずしも一致するとは限らない。さらに、熱需要には季節性がある。余剰エネルギーの利用と地域への熱供給を比較しながら、大気や水への放熱を最大限に抑えるための季節ごとの計算処理の配置を設計する必要がある。
 
単純にネットワーク接続を広げるだけでは、この問題は解決できない。電力、水、熱、通信、計算資源の需給を組み合わせ、地域ごとの条件を事前に評価する「データセンター環境アセスメント」のような仕組みが必要になるだろう。これは、単なるデータセンターの建設技術ではなく、新しいビジネスになる可能性があるほど複雑な問題だ。

参考サイト
 ※1:Stockholm Exergi サイト
 ※2:フィンランド エスポー市 サイト

巨大データセンターをなくすのではなく、役割を変える

このように考えると、地域社会との摩擦を減らすためには、巨大なデータセンターを際限なく増設するのではなく、計算資源を分散し、ネットワーク技術によってそれらを一体的に利用することが一つの有力な方向になる。もちろん、IOWNだけが課題解決の技術ではない。冷却技術、電力制御、蓄電、再生可能エネルギー、熱利用など、さまざまな技術を組み合わせていく必要がある。
 
一方で、学習処理の割合が低下したとしても、今後も巨大データセンターの需要がなくなるわけではない。最近では、インターネット上にAIによって生成されたデータが急速に増加し、学習データの品質が損なわれ、従来のような学習を行うことが難しくなる可能性も指摘されている。これに対して、AIを利用して信頼できるデータを生成・検証する研究も始まっている。こうした処理にも大きな計算能力が必要になるため、巨大AIデータセンターがその役割を担う可能性は高い。
 
つまり、AIデータセンターをなくせば問題が解決するわけではない。むしろ、今後増加する計算需要を、どこで、どの電力を使い、どのように通信し、発生した熱をどう処理するのかまで含めて設計する必要がある。
 
AIデータセンターは、単独の建築物ではなくなりつつある。電力網、通信網、計算資源、熱供給網、そして地域社会までを一つのシステムとして捉え、その全体を最適化する。そのための技術の一つとして、IOWNには大きな可能性がある。