在宅テレワークの定着でテレワーク難民が増加
コロナ禍、国内で急速に普及した在宅テレワーク。長時間通勤からの解放を喜ぶ声や生産性向上を実感する意見も多く、今後もテレワーク継続を望むビジネスマンは大きなパーセンテージを占めている。しかし一方、もともとの住環境の中に労働環境が入り込んできたことで、少なからず問題が生じている人も一定の割合を占める。
夫婦共働きで同じタイミングでWeb会議があると住居内に適した場所が2か所はない。子供やペットが仕事中邪魔してくる。普段は大丈夫なのだが、親戚が泊りにくると仕事をするスペースがない。通学路や商店街に面しているため、決まった時間に外の音が気になる。近所で新築工事が始まり、騒音に悩まされる。家にインターネット環境がない若者や、書斎はあるがそこで一日仕事をするという想定では設計していなかったなど、自宅で仕事がしづらい理由はさまざまだ。
こうしたオフィスでは起こらないような環境の問題を会社は解決してくれず、自分で解決方法を模索しなくてはならない。
一方でオフィスも変化している。社員の出社が減ったため狭いスペースに引っ越してフリーアドレスになり、いちいち申請しないとオフィスを使えないケースもあり、フル出社は難しくなっている人も多い。
会社も自宅も使えないとしたら、第3のワークスペースを探さなくてはならないが、仕事をするために近所にもう一部屋借りられるような人はほとんどいないだろう。そうしたテレワーク難民の関心が高まっているのが、最近増加が顕著なコワーキングスペースだ。
コワーキングスペースとシェアオフィスの違い
コワーキングスペースはすでに目新しいサービスではない。働き方改革が話題に上るようになってからは、モバイルワークの一つの形として広く認知されている。デスクと電源、ネットワーク環境を時間単位などで利用できるサービスだ。サービス提供の形としては、シェアオフィス(レンタルオフィス)と同じ建物で同じ事業者によって提供されるケースが多かった。事業者としては、一つのスペースでほぼ同じ設備を用意すれば、複数のターゲットの利用が期待できるためだ。
シェアオフィスの場合、壁によって閉じられたパーソナルスペースを普通複数人で使うが、会議室や共有スペースなどのリソースは他のシェアオフィス利用者と共同利用することで、単独のオフィス物件より安く利用できる仕組みだ。主なニーズは資金調達前のスタートアップの拠点や、ある程度以上の規模の企業のサテライトオフィス的な使われ方だ。
一方、コワーキングスペースの場合、フリースペースのデスク利用や、小規模なオープンの打ち合わせスペースが主として提供され、ニーズとしては営業マンなどが出先で時間調整などのために短時間利用したり、臨時の打ち合わせスペースとして使用したりなどのドロップインがメインだった。
しかし、ここにきて、コワーキングスペースサービスにさまざまな変化が訪れている。
コロナ禍に急増するコワーキングスペース
コワーキングスペースは近年ずっと増加傾向だったが、新型コロナウイルスの流行以降、参入企業の増加スピードが加速し、活況を呈している。利用者ニーズが増大しているのはもちろんだが、コロナ禍で収益が思わしくなく新しいビジネスに取り組みたいといった動機を持つ企業も少なくない。テレワーク交付金や事業再構築補助金などの各種補助金が利用しやすいといった状況や、全国的な空き不動産の増加などもこの傾向に拍車をかけている。
一般社団法人コワーキングスペース協会(https://coworking-japan.org/)代表理事の星野邦敏氏は「特にコロナ禍で目立つのは、大手企業が店舗数を100~200といった単位で増やし、全国展開していることだ」と話し、野村不動産のH1T(https://www.h1t-web.com/)や三井不動産のWORK STYLING(https://mf.workstyling.jp/)、東急グループのNewWork(https://www.newwork109.com/)などの例を挙げた。
これらの中には100人以上の法人契約しか受け付けないなど、従来のコワーキングスペースとは明らかにターゲットが変わってきているものがある。
「コロナ禍で、それまで利用者の中心だった小規模事業者やフリーランスに加えて、大企業の社員などの利用が増加した」(星野氏)ためだ。
一方、利用の仕方も変わってきている。コロナ以前は3~4時間の利用が多かったが、一人が一つの拠点で日に8時間以上過ごすなど、作業場所としてのニーズが増大している。まさにテレワーク難民の利用スタイルだ。
テレワーク難民のコスト感覚
テレワーク難民にとって、コワーキングスペース利用を考える際に問題となるのが利用料金だ。
企業の在宅勤務手当は月額数千円から1万円までというところが多く、自宅の通信費・光熱費の増加分の補助程度だ。セキュリティのためにPCは会社支給も多いが、デスクやチェアなど自宅の労働環境を整えるのには不足する。そんな懐事情で利用するには、従来のコワーキングスペースの価格は厳しかった。
短時間利用のドロップインを想定した15分や1時間刻みの利用料金では、1日フルに利用しただけで数千円がかかる。
シェアオフィスとコワーキングスペースのサービスを両方提供しようとすると、人気の場所は渋谷や丸の内など、人が集まりやすい所になる。当然、家賃も高くなる。
しかし、テレワーク難民がコワーキングスペースを探す場合、これまでの常識は当てはまらない。一番の課題は、PC作業に集中できる場所の確保だから、都心である必要はない。住居の最寄り駅や、移動時間の少なくて済む駅の近くにある方がいい。職住接近だ。
こうしたニーズに応えて、最近では安価な料金で長時間利用が可能なコワーキングスペースがJRや私鉄の沿線に多数登場してきている。
月額1万クラスのフリーデスク
WOOCが展開するBizComfort(https://bizcomfort.jp/)の場合、現在首都圏を中心に100以上の拠点でシェアオフィス、コワーキングスペースサービスを提供し、毎月のように2~3の拠点が追加されている。コワーキングスペース専門の拠点も増えている。コワーキングスペース利用のライトプランの場合、1日の利用料金が1,100円(都心のいくつかの拠点では2,200円)で24時間使い放題だ。拠点を1つ指定してのフリーデスクなら月額8,800円~13,200円の価格帯が大半を占める。これでWi-Fi完備でフリードリンクが付き、プリンターも無料で利用できる。付属の大型ディスプレイを無料で使用できる席のある拠点もある。会議室やロッカーの利用はオプションになっているが、とりあえずコストをかけずに第3のワーキングスペースを確保できる。
東京アントレサロン (https://entre-salon.com/plan/freedesk/)のフリーデスクは月額9,505円。こちらは銀座や赤坂など主要駅で拠点を展開しており、受付が常駐、オープンな打ち合わせスペース(有料)は会員が立ち会うことで3人の外部の人間とのミーティングが可能だ。拠点の住所を自社の住所として使用でき、法人登記や郵便物受付などもできるバーチャルオフィス機能も用意されていて、名前の通りアントレプレナー(起業家)向けを意識したサービスが豊富だ。
国内23カ所・海外23ヵ所、計46ヵ所の拠点を持つFabbit (https://fabbit.co.jp/plan/co-working/)も、岡山や九州などでは月額8,000円台、9,000円台でフリーデスクを提供している拠点がある。
また、特定の都市で数拠点を提供しているコワーキングスペースの中にも月額1万円内外のフリーデスクを提供しているケースはあり、自宅から行きやすい拠点も調べてみるべきだろう。
入会金などは別途必要な場合が多いが、月決めのフリーデスクをサブスク感覚で利用できる価格帯は、テレワーク難民にとって心強い。なお、各社会員の獲得には熱心で、入会金の引き下げをはじめとしたキャンペーンを頻繁に展開している。契約前にはそうした比較検討も重要だ。
もちろん、料金だけでなく、自分が望むサービスや環境が用意されているかどうかもしっかり確認しよう。通常、契約の前に内覧ができるので、Wi-Fiの速度をスマートフォンで測ってみるなど、Web会議などにも不自由ないかチェックしよう。
低価格のフリーデスクの提供が、在宅テレワーク難民のニーズとマッチしているのは確かだが、前出の星野氏はポストコロナをにらみ、「本来、コワーキングスペースは出会いの場で、そこから新しいビジネスが生まれるような空間としての魅力があった。コロナが収まったら、そうしたニーズにも再び応えられるようにしていきたい」と語っていた。
コロナ禍のテレワーク難民を脱したら、そうしたコワーキングスペースの利用にもチャレンジしていきたいものだ。