ストレージと一言で言ってもその範囲は広い。オンプレミスやクラウドにおけるストレージ、そして企業の規模によっても異なる。そうした中でも昨今注目すべきポイントとして、オンプレミスとクラウドにおける導入予定のストレージの形態の変化、そして企業のストレージ活用の課題について、ノークリサーチ シニアアナリスト 岩上由高氏に話を聞いた。

オールフラッシュストレージの需要拡大

ノークリサーチ
シニアアナリスト
岩上由高

 岩上氏は企業のストレージ環境の捉え方について「ハイブリッドクラウドに向けた動きはあるものの、中堅・中小企業も含めた全体としてはオンプレミス/クラウド双方のストレージ環境を完全に統合する状況にはまだ至っていません。そのためストレージの市場動向や企業が抱えているストレージの活用課題を把握するには、オンプレミス/クラウドそれぞれの環境の動向を知る必要があります」と切り出す。

 ストレージ環境が統合に至っていない理由は、データ管理や個人情報保護、支払い方式の違いなど多岐にわたる。実際、オンプレミスのストレージは買い切り型が中心である一方、クラウドのストレージは従量課金制のサービスが基本となっている。こうした背景を受け、ノークリサーチは2024年7月29日に発表した「2024年 中堅・中小企業におけるストレージ環境の形態選択と活用課題の動向」において、ストレージ市場をオンプレミスとクラウドの双方にわたって調査している。

 上記調査を基に、まずはオンプレミスのストレージ環境における動向を見ていこう。注目すべきポイントとして、HDDとフラッシュメモリーを混在させたストレージ「ハイブリッドフラッシュストレージ」と、フラッシュメモリーのみで構成されたストレージ「オールフラッシュストレージ」の導入予定の割合が挙げられる。調査によると、年商50〜100億円の中堅下位企業および年商100〜300億円の中堅中位企業は、オールフラッシュストレージがハイブリッドフラッシュストレージの導入予定の割合を上回っている。

 オールフラッシュストレージの導入予定の割合が増加している背景について、岩上氏は以下のように語る。「ハイブリッドフラッシュストレージを導入するのは、保有しているデータ量が多い企業です。大量のデータの中には使用頻度の低いものも含まれていますので、高価なフラッシュメモリーよりも安価なHDDに保存した方がコストメリットが高いでしょう。しかしフラッシュメモリーが安価になってきた昨今において、データ量がそれほど多くない年商50~100億円の中堅下位企業および年商100~300億円の中堅中位企業は、HDDとフラッシュメモリーを併用する必要がありません。また年商50~100億円の中堅下位企業および年商100~300億円の中堅中位企業は、ハイブリッドフラッシュストレージの運用に必要な、HDDとフラッシュメモリーに保存するデータを区別するといったノウハウが十分にありません。こうした背景の下、年商50~100億円の中堅下位企業および年商100~300億円の中堅中位企業ではオールフラッシュストレージの導入を検討していると考えられます」

クラウドネイティブなデータ活用が進む

 続いてクラウド環境における動向を見ていこう。注目すべきポイントとして、年商50〜100億円の中堅下位企業の導入予定のストレージ形態が挙げられる。導入済みの割合と導入予定の割合を比べた調査によると、物理サーバーの内蔵ディスクやコンピューターに直接接続されたストレージ「Direct Attached Storage」(DAS)に相当する「仮想サーバーディスク」と、オンプレミスにおけるブロックストレージ専用の高速ネットワーク「Storage Area Network」(SAN)に相当する「オブジェクトストレージ」の導入予定の割合は増加している。その一方で、オンプレミスにおけるMySQLやSQLサーバーに相当する「リレーショナルデータベース」の導入予定の割合が減少しているのだ。

 上記の傾向の要因について、岩上氏は次のように説明する。「物理サーバーの内蔵ディスクに相当する仮想サーバーディスクはクラウドのサーバー環境においても必須の要素です。一方、さまざまなデータを格納するストレージについてはオンプレミスのストレージをそのままクラウド環境に再現することが必ずしも最適解ではありません。デジタルトランスフォーメーション(DX)を進めるために、クラウドネイティブなアプリケーションで無理にリレーショナルデータベースを用いるのではなく、オブジェクトストレージなどのクラウドネイティブなストレージ形態を導入して作成しようとしているとみられます」

 クラウドネイティブなデータ活用を志向する傾向は、年商50〜100億円の中堅下位企業においても見え始めているのだ。そのため、オンプレミスからクラウドへのストレージの移行を考えている企業に対しては、ストレージの種類が多岐にわたることを考慮し、アプリケーションの構造に合ったストレージ形態を提案することが重要となってくる。

年商規模とともに課題も高度化

 最後にストレージの活用課題について見ていこう。調査によるとデータ管理に関連するストレージの活用課題は、「業務の現場で発生するデータを管理/活用できない」「社外でデータを利用する環境が整備できていない」「データの種別と所在を整理して把握できていない」という三つが多く挙げられた。これら三つの課題について、最も高い回答割合を示しているのはどの年商帯かを確認すると興味深い結果が見られる。具体的には以下の通りとなる。

・業務の現場で発生するデータを管理/活用できない:年商50〜100億円の中堅下位企業(25.8%)
・社外でデータを利用する環境が整備できていない:年商100〜300億円の中堅中位企業(37.9%)
・データの種別と所在を整理して把握できていない:年商300〜500億円の中堅上位企業(28.1%)、年商500億円以上の大企業(33.8%)

「年商規模が大きくなるにつれて、企業の課題意識は業務現場での小規模なデータ管理から、社内外を問わない全てのデータ管理へと変わってくることが読み取れます。企業の規模が大きくなるほど、個人情報といったセンシティブなデータを扱う量も増加することに加え、データの情報漏えい事故がもたらす影響は大きくなっていきます。そのため、大企業ほど全てのデータを網羅的に管理しなければならないと考えています」と、岩上氏は分析する。

 続けて岩上氏は「販売店としては、ターゲットとする企業規模に応じて、拠点の活用にとどめるのか、社外でのデータ利用にフォーカスするのか、あるいは全社的に社内外問わず場所を問わない網羅的なデータ管理を目指すのか、その範囲を見極めて最適なストレージ製品を提案することが重要です」と販売店各社に向けてメッセージを送った。