取引の公正化を目指す取適法

「取適法」の正式名称は「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律、略称:中小受託取引適正化法」という長い名前。従来の「下請法」(正式名称:下請代金支払遅延等防止法)が法文中で「親事業者」と「下請事業者」といった用語を用いて親子関係、従属関係を前提としていたのに対し、取適法では「委託事業者」と「中小受託事業者」というように、より対等な関係にあることを示し、取引の公正化を目指すものとなっている。

取適法の対象となるのは、資本金1,000万円超、もしくは従業員300名超の企業が資本金1,000万円以下もしくは従業員300名以下の企業との間で交わされる商取引。委託事業者が資本金3億円超の場合は資本金3億円以下の中小受託事業者も対象となる。コンテンツ作成など一部の業務については従業員100名超の企業が100名以下の企業に発注する場合も対象となるので、注意が必要だ。

発注時、納品時に決めておかなければならないこと

取適法では発注時に何を決めておかなければならないかが定義されている。それは以下のような項目だ。

・発注内容を明確に決める
・納期を明確に定める
・納入場所を定めておく
・受入検査完了日(検収日)を決めておく

発注仕様が明確に決まっていないと、成果物が発注側の基準に達していない不合格品であったとしても、受託事業者の責めに帰すべき理由と認められず、受領拒否・返品・やり直し・代金減額などが許されないことがある。電話で「いつものように、こんな感じのものを作って」ではダメなのだ。

納期も何月何日ときちんと決めておかず、「なる早でお願い」だと、1週間後か、1か月後か、あるいは1年後か分からない。こんな発注だと納期遅延になっても受領拒否・代金減額は許されない。商品が納品されたら、発注時に定めておいた検収日までに受入検査を行わないと、不具合があっても後から返品や代金減額ができなくなるからだ。

不当な値下げ、しわ寄せはダメ

商取引は、値段の安いものを購入し、それに付加価値を付けて販売し、利益を得るのが大原則だ。値下げ交渉はその最初のステップだが、発注者が勝手に、あるいは一方的に値下げを強いることは許されない。本書によれば「従前と比べて著しく低い代金の額を『不当』に定めるものと評価される場合に限り、取適法違反となります。委託事業者が、中小受託事業者と協議することなく、一方的に指値で代金の額を決定するような場合には『不当』に定めるものと評価されます」という。

最近では原材料費、燃料費、人件費などほぼあらゆるジャンルで価格が上昇している。中小受託事業者も従業員の給与を上げなければ人手不足で操業が難しい。このようなインフレ局面においては価格据え置きも「不当」な買い叩きと評価されうる。コストアップによる値上げ要請があっても価格転換できない場合、委託事業者は中小受託事業者に対して「価格転換をしない理由を書面等の記録に残る方法で中小受託事業者に回答すること」が求められる。

さらに中小受託事業者から「価格転換の求めがないとしても、価格交渉の場において、コスト上昇分の価格転換の必要性について明示的に協議すること」が求められる。中小受託事業者側にしてみれば、取引を打ち切られる可能性がある値上げの申し出はなかなかしにくい。委託事業者はコストが上がっている場面では、自ら適正価格なのかどうか、考慮すべきということだ。

量販店などでしばしば問題になるのが、中小受託事業者に荷物の積み卸しや店頭セールスを手伝わせたりする無償サービス。もちろん発注時の契約に含まれていれば問題はないのだが、立場の強弱を利用してあれやって、これもやってとタダ働きを強いるのは違法行為なのだ。

罰金よりも社会的制裁

この法律、違反しても50万円以下の罰金という、経済事犯としては驚くほど低額の罰則しかない。大企業にとっては痛くもかゆくもないだろう。だが、これは企業同士の取引という、当事者間で自由に行われる行為に国家が介入するという法律の性格による。本書によれば「委託事業者による自主的な解決を促すことにより、幅広い事案について、取引を公正なものとし、中小受託事業者を保護する」ことを目的としている。犯罪行為として重罰を加えることが目的ではないのだ。

そして勧告は公表され、マスメディアで報道される。コンプライアンスが重視される昨今の社会情勢を鑑みれば、社名が公表されるということの方が、罰金よりもよほど痛手となる。これまでのところ、勧告を無視して罰金を科せられた企業はないようだ。なお、軽微な違反に対しては公表される勧告ではなく、非公表の指導がなされる。

中小受託事業者への手形支払は禁止

本書を読んで、初めて知ったのが手形支払が廃止されたということ。考えてみれば私はもう何十年も手形を受け取ったことがない。記憶があやふやだが、現金化するのが面倒だったということだけは覚えている。受託先にすれば、入金が半年以上も先になるし、不渡り手形を掴まされるリスクもあるのでメリットはほとんどない。

逆に、まだ手形支払が使われていたのかと驚いた。調べたら2027年には紙の手形・小切手の交換が廃止されるという。もっとも電子決済による手形・小切手は「でんさい」という名前で残るので、日本のビジネスから手形取引が完全消滅するわけではない。委託事業者が中小受託事業者に代金を手形で支払うことが取適法で禁止されている。

本書は弁護士である著者が、発注主である企業は発注先に対してどのような取引を行わなければならないのか、簡潔に解説している。新書版で100ページ足らずとコンパクトなので、現場や出先でも携帯し、取引を行う際に、これまでの慣行など、違法でないか確認することができる。巻末にはマルバツ式のテスト60問も掲載され、取適法を正しく理解しているか確認できる。発注側の担当者全員に配って読ませるのもいいだろう。また、中小受託事業者側も自らの権利を守るため、取適法を理解しておくのにお勧めの一冊だ。

まだまだあります! 今月おすすめのビジネスブック

次のビジネスモデル、スマートな働き方、まだ見ぬ最新技術、etc... 今月ぜひとも押さえておきたい「おすすめビジネスブック」をPC-Webzine.comがピックアップ!

『取引適正化法制の解説と分析――優越的地位濫用規制・取適法・フリーランス法』(長澤哲也 著/商事法務)

「取引適正化法制」について体系的に解説。令和7年下請法改正に完全準拠。独禁法上の優越的地位濫用規制、中小受託取引適正化法(旧下請法)、フリーランス法という取引適正化を推進する「取引適正化法制」について、体系的・網羅的に解説。実務で直面する問題を解決へ導く、必携の一冊。『優越的地位濫用規制と下請法の解説と分析』を改題・全面改訂。(Amazon内容解説より)

『それ、違法行為ですけど大丈夫ですか? ―漫画でわかる! 法律で解決するフリーランス三大トラブル― 』(師走トオル 著/技術評論社)

本書では、300万人いると言われるフリーランス(2024年内閣府調べ)向けに、「自分を守る」「適切な仕事と取引をする」ための法律知識をわかりやすく解説した一冊です。独禁法、2024年施行の通称フリーランス新法、2026年1月から施行された取適法──「名前は聞いたことがあるけれど、正直よくわからない」という人のために、フリーランスを守る3つの法律を最低限知るべきポイントに絞って紹介します。フリーランスが実際に巻き込まれやすい3大トラブルも取り上げ、フリーランス歴24年の著者自身の体験と法律に基づく具体的な対処法をセットで解説。(Amazon内容解説より)

『一問一答 中小受託取引適正化法(取適法)――令和7年下請代金支払遅延等防止法改正 (一問一答シリーズ) 』(田中裕可、片木浩介ほか 著/商事法務)

令和8年1月1日施行! 立案担当者が法改正の趣旨・内容をわかりやすく解説。「下請」等の名称の変更、従業員基準の追加、特定運送委託への適用、手形の利用や一方的な代金決定の禁止等を内容とする令和7年下請法改正について、立案担当者が一問一答形式で解説。適切な価格転嫁という、新たな商慣習の定着を目的とした本改正の根底にある理念を丁寧に紐解き考え方を示す。(Amazon内容解説より)

『フリーランスの(トラブルから自分を守るために絶対に知っておきたい)法律の話』(高田ゲンキ、早見ぽな、河野冬樹 著/左右社)

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2024年に施行された待望のフリーランス法(通称)。新法の創設には大きな意義があるものの、それでもなお残る政策課題とは? デジタル化、プラットフォームの巨大化が加速するなかで、今後の安心・安全な働き方を考えるための重要な視点とは? 本書は、フリーランスをめぐる問題状況や法的地位、これまでの法政策を緻密に分析したうえで、DXが進展した未来を見据えた労働・社会保障分野からの改革提言を行います。(Amazon内容解説より)