パブリッククラウド市場が1兆円超え
主要ベンダーそれぞれの強みが明確化

Cloud Services Market

コロナ禍以降、既存のシステムをクラウドに移行する動きが加速するとともに、SaaSで新たなワークフローを構築するケースも増加しているようだ。MM総研の調査結果によるとパブリッククラウドの国内市場規模は1兆円を突破し、今後も大きな成長が期待できると予測している。

セキュリティへの意識が改善
PaaSやIaaSも成長を加速する

MM総研
研究主任
狩野 翼 氏

 MM総研の国内クラウド市場に関する調査結果では、2020年度のクラウドサービス全体の市場規模は前年度比22.0%増の2兆8,750億円で、2021年度は拡大を続けて3兆4,764億円に達すると予測している。この調査結果はパブリッククラウドとオンプレミス型などが含まれるプライベートクラウドの総計だが、この調査結果で注目すべき点はパブリッククラウドが2020年度の実績で1兆円を超えていることだ。さらに2023年度は2兆円を超え、2025年度は3兆円を超えると予測している。

 MM総研でこの調査・分析を担当した研究主任 狩野 翼氏は「パブリッククラウドの中でSaaSはテレワーク需要で伸びており、20%ほどの成長を記録しています。この流れは今後も続くでしょう。また、AWS(Amazon Web Services)、マイクロソフト、グーグルなどのPaaSやIaaSについても、クラウドを前提に開発を行うというユーザー企業の意思が数年前から明確に出ており、この流れも不可逆的だと見ています」と説明する。

 SaaSではコロナ禍への対応に伴ってMicrosoft 365やGoogle Workspaceなどのビジネススイートをはじめ、Web会議、仮想デスクトップ、さらにはセキュリティサービスの導入が伸びているようだ。狩野氏は「リモートワークが本格化して脱ハンコを目的に、また電子帳簿保存法改正への対応のために電子契約関連のサービスも伸びています。特に収入印紙取引が多い建設業や不動産業、商業などではコストメリットも大きく、今後も成長が期待できるでしょう」とアドバイスする。

 PaaSやIaaSについては、これまでセキュリティを理由に導入の勢いは加速してこなかった。しかし狩野氏は「クラウドのセキュリティ懸念が大企業でも緩和され、クラウドのメリットが理解されてきています。その背景としてクラウドベンダーによるセキュリティへの取り組みが理解されてきたことと、クラウドベンダーによるセキュリティに足りない機能や仕組みを別のサービスで補う提案がユーザー企業に評価されていることが挙げられます。今後は大規模システムにおいてもPaaSやIaaSの導入が増加するとみています」と語る。

 実際に、同社の調査結果では「セキュリティの強化」を目的にPaaSを導入したと回答した企業は27%に達する。コスト削減に関する選択肢を除けば最も多い回答だ。しかも、PaaSの導入によってその60%の企業が「セキュリティを強化できた」と回答している。「クラウドだからセキュリティが心配」というのは過去の話だと言えよう。

クラウドビジネスに勝ちパターンあり
ベンダーの強みを生かして提案する

 大きな成長を続けることが予測されているクラウド市場だが、実際のビジネスはどのように展開すべきなのだろうか。

 MM総研の調査結果によるとPaaSを利用している調査対象の37.4%がAWS(Amazon Web Services)を、30.6%がMicrosoft Azure(以下、Azure)を、15.9%がGoogle Cloud Platform(以下、GCP)を利用しているという。

 また「顧客へのサービス提供基盤」としてPaaSを利用する際はAWSが53.4%、Azureが37.1%、GCPが19.0%となっている。ちなみにIaaSではAWSが61.7%、Azureが39.3%、GCPが15.9%という結果だ。

 狩野氏は「ユーザー企業にクラウドを提案する際に、勝ちパターンがあるようです。こういう用途や要望にはこのサービスを組み合わせて提案し、その際出てくるだろう疑問にはこんなアプローチを取ろうというように、使われ方に応じた提案パターンの基本形が出来上がっているようです」と語る。

 上記の「勝ちパターン」を実践する際、同じ用途のサービスを提案する際にどのベンダーのサービスを選ぶべきか、クラウドベンダーのそれぞれの強みを理解する必要があるだろう。そのあたりもビジネスの現場ではすみ分けができているようだ。例えば、アプリケーション開発・検証基盤、パッケージソフトウェア、データベースといった用途にはAWSを、Webアプリケーション、Windows Server、仮想デスクトップ基盤にはAzureを、コンピューティング基盤、データ分析基盤、ビッグデータ分析用データウェアハウスにはGCPを、既存アプリケーション、データバックアップ・復旧基盤、EC(電子商取引)基盤にはIBM Cloudをという具合だ。

 最後に狩野氏は「クラウドの利用が拡大するとユーザーにとってはインフラ全体の運用の効率化が課題となりますので、システム全体のコンディションを可視化したり運用を自動化したりするソリューションにも商機が広がります」と締めくくった。

国内法人向けネットワーク市場は成長を継続
Wi-Fi 6をキーワードに10Gbpsスイッチを提案

Network Equipment Market

国内の法人向けネットワーク機器市場は無線LAN製品を中心に堅調に推移しており、今後も無線LANとイーサネットスイッチ、そしてルーターは微増で推移するとIDC Japanでは予測している。そうした中で商機となるのがWi-Fi 6をキーワードとした提案だ。

2022年は2020年並みの支出額を予測
無線LANを起点にスイッチも伸びる

IDC Japan
コミュニケーションズ
グループマネージャー
草野賢一 氏

 2021年3月まではGIGAスクール向けに無線LANの需要が急増したおかげで、国内法人向けネットワーク機器市場は活況を呈した。そして年度が変わってGIGAスクール需要がひと段落すると、市場は減速すると思われていた。しかし同市場は引き続き無線LANを中心に堅調に推移したという。

 IDC Japanのコミュニケーションズ グループマネージャー 草野賢一氏は「2021年はオフィスへの出社が増加し、フリーアドレス化を実施する企業が増えました。その際に無線LANを新たに構築したり、既存の環境を刷新したりすることを目的にネットワークへの投資が進んだとみられます」と説明する。

 同社の調査結果では2019年から2020年はGIGAスクールを背景に法人向け無線LAN市場は金額ベースで大きく成長し、2021年は微減にとどまり、さらに2022年は2020年並みの支出額を予測している。

 イーサネットスイッチに関しても無線LANの増設や更改に伴い入れ替えるケースが多く、平均約2%増で成長を続けると予測している。その際に無線と有線のネットワークを一元管理するためにベンダーを統一するという動きもみられるという。

 ルーターに関しては出社が増えたことでオフィスでWeb会議を利用する頻度が高まり、インターネット向けトラフィックの増加に対応するためにルーターをより性能の高い製品に入れ替える需要が出てきているという。

Wi-Fi 6の提案でLANの増強につなげる
クラウドの商談にネットワークを絡める

 2022年の見通しについて草野氏は「2021年は2020年に引き続き需要は堅調でしたが、部材不足によって製品を十分に提供することができませんでした。部材不足がいつ解消するのかは分かりませんが、2022年は前年の受注残の納品や、納期の遅延を嫌って導入を先送りしていた需要などにより、市場全体としては底堅く微増で成長を続けるものとみています」と分析する。

 そして「無線LANの利用機会や範囲が拡大していますので、Wi-Fi 6対応製品への入れ替えを提案すべきでしょう。Wi-Fi 6ではアクセスポイントからイーサネットスイッチまでの通信が2.5Gbpsに高速化されるため、LAN側に10Gbpsスイッチ製品やマルチギガスイッチ製品を提案できる商機が生まれるからです」とアドバイスする。さらにクラウドサービスを提案する際もネットワーク関連の提案を絡める絶好の機会となるだろう。

情報セキュリティ市場全体が成長を継続
EDRとマネージドサービスが中小企業に浸透

Security Software/Service Market

コロナ禍以降、働く場所が多様化する中で情報セキュリティへの投資が進んでいる。特にエンドポイントセキュリティ、ID管理および認証、サイバーセキュリティの脅威分析や対処などの統合管理といったソフトウェア製品市場が伸びており、今後も高い成長率で推移するとIDC Japanは予測している。

EDRがユーザーの裾野を広げる
クラウド向けサービスも伸長

IDC Japan
ソフトウェア&セキュリティ
リサーチマネージャー
赤間健一 氏

 コロナ禍への対応で浸透したリモートワークでの脅威に対して、エンドポイントセキュリティを強化する動きが顕著に出ている。IDC Japanが公表している調査結果によるとエンドポイントセキュリティソフトウェアの2019年の売上が約1,183億円であったのに対して2020年は約1,355億円、2021年は約1,570億円と高い成長率で推移している。

 IDC Japanでこの調査・分析を担当するソフトウェア&セキュリティ リサーチマネージャー 赤間健一氏は「特にEDR製品はマネージドサービスで提供されるようになり、低コストで利用できるようになったことからユーザーの裾野を広げています」と指摘。

 このほかリモートワークの浸透によりクラウドサービスの利用が促進され、CASB(Cloud access security broker)をはじめIDaaS(IDentity as a Service)などのクラウド向けセキュリティサービスも売上を伸ばした。

 マネージドサービスの市場も大きく成長している。赤間氏は「異なるベンダーの複数の製品を導入している企業が多く、その運用の負担が大きな課題となっています。その解決策としてマネージドサービスの需要が高まっています。特に中小企業では予算も人材も不足しており、しかしながらセキュリティ対策を強化しなければならないという厳しい状況の中で、マネージドサービスへの関心が高まっています」と説明する。

サイバーセキュリティ統合管理と
業界の再編成の行方に注目

 IDC Japanは2020年から2025年のCAGR(年平均成長率)についてエンドポイントセキュリティソフトウェアは12.0%、ID管理および認証は12.6%、サイバーセキュリティの統合管理は10.6%と予測しており、これらにネットワークセキュリティおよびその他を加えた市場全体で2022年は前年比12.5%増で成長すると予測している。その中で注目したいのはサイバーセキュリティの統合管理だ。これまで脅威情報の収集と管理、その分析、脅威への対処、これらの統合管理といったサービスは高度なテクノロジーが用いられており大きな投資が必要だった。しかし昨今は「マネージドセキュリティサービスプロバイダー(MSSP)が製品を購入してSaaSでサービス提供するケースが増えており、ユーザーは低コストで、必要な機能を選んで無駄を省いて利用できます。今後は高度なテクノロジーを用いたセキュリティ対策が中小企業でも容易に講じられるようになるでしょう」と説明する。

 もう一つ注目すべき点はセキュリティ業界の再編だ。赤間氏は「プラットフォーマーはセキュリティサービスを拡充し、インフラソフトウェアやネットワークのベンダーはセキュリティ事業を取り込んでいます。またセキュリティ専業ベンダーは他社と連携し、あるいは淘汰されるなど、セキュリティ業界が大きく変化しています。この動きを観察しながら将来性を計り、どのベンダーとビジネスすべきかを判断する必要があるでしょう」とアドバイスする。