生成AIに「会社の事情」をどう覚えさせるか

2023年ごろ、ChatGPTが爆発的に普及し始めた当初、「プロンプトエンジニア」という職種に脚光が当たったことがある。生成AIから最適な回答を得るにはプロンプトの出来不出来が重要で、優れたプロンプトを書ける人材は高額な報酬で重宝される、というものだった。

ChatGPTの登場からそろそろ4年。この間、生成AIは驚異的な速度で進化した。

以前なら、最初に「あなたは優秀なExcelエキスパートです」と役割を与え、前提条件から細かく指定しなければ、ピント外れの回答が返ってくることも多かった。今ではExcelのマクロ作成程度なら、そこまで細かな指示は必要ない。資料ファイルをまとめて渡して「この書式で処理結果を出して」と頼んでも、かなりのところまで対応してくれる。

そして生成AIの用途も、検索エンジン代わりの質問相手から、企業の定型業務や企画、判断を人間と一緒に進めるAIエージェントへと広がりつつある。

ところが、生成AIに本格的な仕事を任せようとすると別の問題が出てくる。

例えば「お客さまから問い合わせが来た。返信メールを書いて」と依頼するとしよう。生成AIは自社が何を売っているのか、製品や価格の体系、値引きの権限、営業方針、どんな案件を優先するのか、誰の承認が必要なのか、といった事情を知らない。これらを仕事のたびに説明していたのでは、「自分で返信を書いた方が早い」ということになってしまう。

「決まりごと」は文書ファイルで生成AIに渡す

そこで本書の著者が提唱するのが「EXOMEMO(エクソメモ)」だ。EXTERNAL(外部)+MEMO(記憶)を組み合わせた造語で、生成AIに知っておいてもらいたい前提条件や背景、ルールなどを文書ファイルにして保存しておく。仕事を始める際にそれを生成AIに読ませれば、毎回同じ説明を入力する必要がない。

生成AIを使い込んでいる人なら、Markdown(md)ファイルを思い浮かべるかもしれない。Markdownは「#」を見出し、「-」をリストとして扱うなど、簡単な記号で文書構造を表現するテキスト形式だ。余計な装飾が少なく、生成AIに情報を渡す用途とも相性がいい。

一方、本書はMarkdownを覚えろとは言わない。Wordやメモ帳のような、誰でも使えるファイルで構わないという立場だ。重要なのはファイル形式ではない。毎回チャット画面に同じ前提条件を入力するのではなく、「決まり切ったことはファイルにして生成AIに渡す」という仕事の進め方そのものなのである。

Wordなら、普段の業務で使っている文書をそのまま利用できる。ただし、長々と書けばよいわけではない。本書では、困ったEXOMEMOの例として「長く、何が大事なのかわからない」「感情や情報の断片だけが並んでいてルールになっていない」といったものを挙げている。

生成AIに読ませる文書だからこそ、簡潔に構造化し、「何を覚えてほしいのか」を明確にする必要がある。

EXOMEMOそのものを生成AIに育てさせる

本書で面白いのは、「EXOMEMOを一度作って完成」としない点だ。

仕事を続ければ、新しいルールや例外、判断基準が増えていく。それを人間が一つひとつ整理するのではなく、生成AI自身にEXOMEMOをブラッシュアップさせるのだ。

例えば一日の仕事を終えたところで、「今日のやりとりの中で、今後も覚えておいた方がいいポイントがあれば、EXOMEMOに追記する案を出して」と頼む。

こうして日々の仕事で得られた知識や判断基準を追加し、不要になった情報を整理していけば、EXOMEMOは単なる「生成AIへの説明書」ではなく、自分や組織の仕事のノウハウを蓄積した知識ベースへ成長していく。

生成AIに仕事をさせながら、その仕事を通じて得られた知識も生成AIに整理させ、次の仕事に再利用する。本書の重要なポイントはここにある。

また本書では、チャットのスレッドを延々と使い続けることも勧めていない。仕事が一段落したときや、スレッドが重くなったとき、週初めや月初めなどを区切りとして新しいスレッドを立てる。そして、それまでのやりとりを生成AIにまとめさせてEXOMEMO化し、新しいスレッドに引き継ぐという。

長い対話そのものを「記憶」として抱え込ませるのではなく、必要な情報を整理した文書に変換して持ち運ぶという発想だ。

生成AIが記憶する時代にもEXOMEMOは必要か

もっとも、生成AIの進歩はあまりにも速い。

本書は2026年7月に第1刷が発行されている。本文中に生成AIとのやりとりで「本日は2026年2月24日」とあるので、半年くらい前に執筆されたのだろう。その当時と現在とでは、生成AIを取り巻く環境もかなり変化している。

現在のChatGPT、Gemini、Claudeなどでは、過去の会話やユーザーの設定、プロジェクト内の情報などを利用し、以前より長期的な文脈を維持しやすくなっている。筆者自身も、新しいスレッドを立てたからといって、毎回すべての前提条件を一から説明し直す場面は減ったと感じている。

では、EXOMEMOは早くも不要になったのだろうか。むしろ本書を読んで見えてくるのは、生成AI自身の「記憶」と、人間が管理する「業務知識」は別物だということだ。

生成AIの記憶機能はサービスによって仕組みが異なり、モデルやサービスを変更すれば同じ情報が引き継がれるとは限らない。それに対してEXOMEMOは単なる文書ファイルだ。自分の手元に置いておけば、ChatGPTから別の生成AIへ移っても使えるし、人間同士で共有することもできる。

さらに重要なのは、「生成AIに何を覚えさせるべきか」を整理する作業そのものだろう。

顧客対応の方針、商品の知識、判断基準、承認ルール、過去の失敗から得た教訓──。これらを明文化していけば、それは生成AIのためだけの資料ではなく、その会社や担当者が持つ業務ノウハウそのものになる。

生成AIをうまく使うために特殊なプロンプト技術を習得するのではなく、自分の仕事を整理して外部の「記憶」にしておき、必要なときに生成AIに渡す。そして、その記憶自体も生成AIと一緒に育てていく。

プログラミングには手を出していないが、生成AIを日常的な質問相手から「仕事を任せられる相棒」へ一段進めたい。そんなビジネスパーソンにとって、本書の「EXOMEMO」という考え方は、すぐに試すことのできる実践的な方法だろう。

まだまだあります! 今月おすすめのビジネスブック

次のビジネスモデル、スマートな働き方、まだ見ぬ最新技術、etc... 今月ぜひとも押さえておきたい「おすすめビジネスブック」をPC-Webzine.comがピックアップ!

『AIを味方につける仕事術 AI活用のもやもやを現場の力に翻訳する』(木田浩理 著/インプレス)

AI活用で迷わないための「思考の地図」を手に入れる! AIが普及し、誰でも簡単に情報を手に入れられる時代。今、ビジネスパーソンに最も求められているのは、高度な分析スキルではありません。現場に溢れる「もやもや」とした課題を、AIを使いこなして「ビジネスの価値」へと変換できる力。すなわち「翻訳力」です。本書は、積水ハウス イノコムで人材育成に携わる著者が、文系・非専門職でも実践できる「AIを味方につける新しい仕事術」を体系化した一冊です。(Amazon内容解説より)

『できるChatGPT 改訂2版(できるシリーズ)』(清水理史、できるシリーズ編集部 著/インプレス)

ChatGPTは今、単なるチャットツールから「あなたの仕事の優秀なパートナー」へと進化を遂げています。本書は基本操作から新機能「Canvas」「Deep Research」までを完全網羅。ChatGPTに初めて触れる人から一歩進んだ活用を目指す方まで、1冊でChatGPTのすべてがわかります。話題のCanvas機能による文章作成やコード編集、Deep Researchによる深い情報探索など、ChatGPT独自の最新機能をいち早く解説。AIのポテンシャルを最大限に引き出す方法を紹介します。そのままコピーして使えるサンプル用の資料やプロンプトがすべてダウンロード可能。身近な疑問をChatGPTに気軽に相談する方法や、[考えています]を使ったデータの深掘り、[あらゆる学びをサポート]によるリスキリングなども紹介。さらに、GPTsを使った作業自動化なども丁寧に解説。ChatGPTをすみずみまで活用する方法がわかります。(Amazon内容解説より)

『はじめての生成AI ChatGPT「超」質問術』(安達恵利子 著/ソーテック)

生成AIの回答の質が格段に上がるプロンプト作成法がわかる! 生成AIの選択肢が増えるほど、成果を分けるのはAIの種類ではなく、どう頼むかです。本書は、ChatGPTを例にしながら、文章生成を主体とする汎用型の生成AIで幅広く使える質問力(プロンプト術)を、体系立てて身につけるための実践書です。伝わる質問を設計するための枠組みとして、質問の7つの要素と、答え方の姿勢指定を整理し、曖昧な依頼を実用的な依頼へ変換するコツを解説します。次に、条件が足りないときはAIに逆質問させ、こちらが答えていくだけで要件を自然に整理し、単発のやりとりよりも的確な結果へ近づける方法を紹介します。生成AIを使ってみたけど思うような回答を得られないと悩む人に最適の一冊です。(Amazon内容解説より)

『CopilotとはじめるExcel関数 仕事で使える実践ワザ』(掌田津耶乃 著/ラトルズ)

本書は、Copilotを活用しながらExcel関数を身につける、初心者〜中級者向けの実践書です。Copilotの基本操作やプロンプトの作り方からスタートし、SUMやAVERAGEなどの基本的な計算、文字列や日付の処理、条件分岐、データ集計、XLOOKUPによる検索まで、仕事で役立つExcel関数を豊富な実例とともに解説します。ポイントは、Copilotが作った数式をそのまま使うだけではないこと。「何をしたいのか」をCopilotにどう伝えるか、提案された数式がどのような仕組みで動いているのかを確認しながら進めることで、Excel関数そのものへの理解も深めていきます。関数をすべて覚えてから使うのではなく、Copilotと一緒に試しながら、仕事で使えるExcelの力を身につけていきましょう。 (Amazon内容解説より)

『[最速入門]ChatGPTに任せる Excelマクロ&VBA 面倒なプログラミングは秒で片づけよう』(大村あつし 著/技術評論社)

本書は、従来の学習スタイルを覆す「まったく新しいコンセプトのExcel VBAの入門書」です。Excelの定型業務などはマクロプログラミングで自動化できるとご存じの方も多いでしょう。今では面倒なプログラミングはChatGPTのようなAIが代行してくれるようになりました。これから私たちが習得すべきは、AIと対話するスキルです。本書は3ステップで解説しています。マクロ記録では作れないマクロ、「過不足のない正しい情報」でChatGPTに指示を送るスキルの習得、ChatGPTの「特徴」を理解し、最大限に活用するためのテクニックを学習。本書はさらに、自動作成できるマクロを身近に感じていただけるよう「ChatGPTプロンプト集」も付けました。(Amazon内容解説より)