電子帳簿保存法の改正によって、2024年1月1日から完全義務化がスタートした電子取引データの保存。2023年10月1日からは先行してインボイス制度も始まっているが、電子化されたインボイス(電子インボイス)を受領した場合でも、前述した電子取引データの保存要件に従い保存することが求められている。これらの電子取引データの保存をはじめとした電子帳簿保存法について、法令のポイントも含めて松崎啓介税理士事務所 税理士 松崎啓介氏に解説してもらった。

日本企業のデジタル化を後押しする
電子帳簿保存法とインボイス制度を解説

電子取引データの保存が義務化

松崎啓介税理士事務所
税理士
松崎啓介

 税務関係帳簿書類のデータ保存を可能とする法律「電子帳簿保存法」。正式名称を「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」といい、1998年から施行されている。本法律は幾度か改正されているが、昨今注目されているのは2022年1月から施行されている改正電子帳簿保存法(以下、電帳法)だ。

 電帳法には以下の三つの制度がある。

 1.電子帳簿・書類保存制度
 2.スキャナー保存制度
 3.電子取引データ保存制度

 上記の「電子取引データ保存制度」については、施行日から2023年12月31日までの間は特例により電子データを紙に出力しての保存が認められていたが、2024年1月1日からは全ての電子取引について、電子データによる保存が全事業者に義務化された。

 税理士の松崎啓介氏は財務省主税局において税法の企画・立案に従事し、電帳法なども担当した人物だ。松崎氏は電帳法が施行された当時を次のように振り返る。「電帳法が施行された1998年当時は、電子取引の数自体が少なかったため、電子取引で行われた請求書のデータを印刷し、紙で残しておく方法でも問題ありませんでした。しかし昨今、世の中のデジタル化が急速に進む中で、クラウド会計ソフトの活用が普及するなど、電子化が急速に進んでいます。一方で、電子データは改ざんが容易で痕跡も残らないなどの性質があります。そのため、本制度にのっとった電子取引データを保存する上では、『可視性の原則』と『真実性の原則』の両方をクリアした上で保存する必要があります」

 松崎氏が指摘した「可視性の原則」「真実性の原則」とは何か。まず可視性の原則から見ていこう。

 可視性の原則では、税務調査の際に求められた電子データを探し出して提示できるよう「検索要件」と「モニター・操作説明書等の備付け」をクリアする必要がある。モニター・操作説明書等の備付けとは、電子データを明瞭な状態で出力できるモニターやプリンターの備付けや操作説明書等の備付けを指している。ほとんどの企業ではすでに備え付けられているため、新たな投資は必要ないだろう。

企業に応じた要件対応が可能に

 検索要件については以下の3項目が求められる。

 1.取引年月日、取引金額、取引先(「記録項目」)を検索の条件として設定できること
 2.日付と金額の記録項目は、その範囲を指定して設定できること
 3.二つ以上の任意の記録項目を組み合わせて条件設定できること

 上記3項目全てを満たすことは簡単ではない。「文書管理システムを導入できれば検索要件をクリアできますが、特に零細事業者のような規模の小さな企業は対応が難しいでしょう。そこで検索要件を不要とするパターンが二つ設けられています。一つ目は前々年度等の売上高が5,000万円以下の場合は、税務調査の際にダウンロードの求めに応じることを条件に、全ての検索要件への対応が不要になります。二つ目は、保存している電子データのダウンロードの求めに応じることができるようにしており、かつ保存した電子取引データの日付や取引先ごとに整理された出力書面の提示等または提出の求めに応じることが可能であれば、全ての検索要件への対応が不要となります。また、電子取引データそのものの保存が可能であるものの、検索要件を満たすための準備が間に合わない場合等についても、保存している電子データのダウンロードの求めに応じ、その電子データの出力書面の提示等ができるようにしていれば、保存要件は不要として電子データを保存できる恒久的な猶予措置が設けられています」と松崎氏は解説する。

 真実性の原則については、電子データの改ざんを防止するため、以下のA〜Dいずれかの対応を行う必要がある。

 A タイムスタンプが付与されたデータを受け取る
 B 受け取ったデータにタイムスタンプを付与する
 C データの受け取り・保存を、訂正削除履歴が残るシステムや、訂正削除ができないシステムで行う
 D 不当な訂正削除の防止に関する事務処理規程を制定し、遵守する

 データの格納先に応じて、対応を変えることも可能だ。例えば販売管理システムではB、営業システムではCといった対応だ。Bは電子データの授受後の一定期間内に、自らタイムスタンプを付す必要がある。一定期間とは、例えば、業務の処理に係る通常の期間(最大2カ月)を経過した後、速やかに(1週間以内)行うとしている。

「最もコストをかけずに対応できるのがDでしょう。この要件だけはシステム要件ではないため、費用をあまりかけずに要件を満たせます。規程に沿った運用を行う際には、業務ソフトに内蔵されたワークフロー機能で運用することも可能です」と松崎氏。

「優良な電子帳簿」が適用になると過少申告の軽減特例が受けられる。

電帳法を契機に日本をDX

 これらの電子取引データの保存は、電子インボイスにも適用される。インボイス発行事業者は、取引の相手方の求めに応じて、インボイスを交付する義務がある。会計システムで作成したインボイスや、紙のインボイスをPDF化したものを取引相手と電子で授受するものが電子インボイスに当たる。

 電子取引データ保存を行った上で、将来的なDXに備えるためには、電子帳簿・書類保存制度への対応も必要だ。電子取引データ保存に対応する以上、それらのデータを電子データのまま保存し、ダウンロードを行えるストレージや、可視性の原則に基づいたモニターなどの整備が求められる。これらの要件は、電子帳簿・書類保存制度における「最低限の要件を満たす電子帳簿」の要件と重複しており、上図の要件を満たせば自己が最初から一貫してコンピューターで作成している帳簿や書類の電子データ保存が可能になる。

 またスキャナー保存制度における保存要件も2023年の税制改正による見直しで緩和されている。取引相手から受け取った書類や、自己が作成して取引相手に交付する書類の写しをスキャナー保存することで、紙文書と電子文書が混在しない状況を作り出すことが可能となり、経理事務のデジタル化を実現できる。

「デジタル化によって、これまで紙の書類を手打ちでシステム入力していたような作業が削減できるだけでなく、入力ミスも防げます。自動計算による正確性向上も期待でき、生産性の向上も実現できます。電子インボイスと電子帳簿保存法の両輪によって、事業者の業務のデジタル化を進めていくことが、日本全体のDX実現につながります」と松崎氏は指摘した。