昨年に引き続き今年も日本経済新聞社大阪本社とダイワボウ情報システム(DIS)が「日経STEAM2023シンポジウム」において「STEAMゼミ」の発表会および表彰式を行った。STEAMゼミでは合計14校の大学生や高校生のチームが「ICTで未来を変える。学びの学生生活」をテーマに、最新テクノロジーを活用して社会貢献につながるビジネスのアイデアを競い合った。日経STEAM2023シンポジウムに特別協賛してSTEAMゼミを主催したDISの山下 隆生常務取締役と、STEAMゼミの審査員を務めた日本マイクロソフトの中井陽子氏、インテルの高橋大造氏が、STEAM教育の重要性と日本の学校教育の未来について語り合った。

最新のICTを使いこなせるスキルを身に付けて
社会にも企業にも貢献できる人材を育む

学習効果を高めるための取り組み

山下氏(以下、敬称略)■GIGAスクール構想によって全国の学校に1人1台のPCが整備され、学校教育のICT化を推進するための基盤が実現されました。今後はこの基盤を生かして生徒の学習効果を高める取り組みが大切です。

高橋氏(以下、敬称略)■インテルは半導体メーカーとしてPCメーカーを支援するとともに、学校でのPCの効果的な活用の支援にも力を入れています。まず教育の場でICTを活用して生徒の学習効果を高めるには、教員のデジタルリテラシーの向上が不可欠です。そこでインテルでは教員向けに「Intel® Skills for Innovation」という授業コンテンツと研修プログラムからなるフレームワークを無償で提供しています。

中井氏(以下、敬称略)■マイクロソフトが提供する学校教育向けのソリューションやプログラムは、いかに生徒がICTを活用して自身の可能性を高めていけるかに主眼を置いて開発しており、学習効果を重視して提供しています。例えばAIの機能を利用して音読の授業を支援する「Teams for Education」で利用できる「Reading Coach」というアプリケーションがあり、大変ご好評いただいています。 これは生徒がPCの前で音読の課題を読み上げると、AIの音声認識機能で発音や朗読の正確さを判断し、間違った単語や文章を指摘してその箇所の音読を反復練習させるというものです。またAIの画像認識機能により生徒一人ひとりを識別できるため、大勢の生徒に対して同じ音読の課題を同時に指導できます。今後はこの仕組みをプレゼンテーションや数学の数式、情報活用の指導にも広げていく予定です。

インテル 執行役員
パートナー事業本部 本部長
高橋大造
ダイワボウ情報システム
常務取締役
山下隆生
日本マイクロソフト 執行役員
パブリックセクター事業本部
文教営業統括本部 統括本部長
中井陽子

未来に備える能力を身に付けるために

山下■テクノロジーは常に進歩しており、最新のテクノロジーについて生徒に教えるSTEAM教育も推進しなければならないと考えています。STEAM教育を通じた生徒が最新テクノロジーに触れる機会を提供することについて、それぞれどのような取り組みを進めていますか。

高橋■現在の日本では最新テクノロジーについて学ぶのは大学に入ってからです。しかし世界経済フォーラム年次総会2023(ダボス会議)において今後はAI人材が増えると指摘された通り、将来は最新テクノロジーを利用する職業が増えることが予想されます。そのため初等教育から最新テクノロジーに触れ、実課題の解決に活用するという、将来社会人になった時に社会から求められるスキルセットを習得しておく必要があると思います。

 多くの学校では1人1台のPCが整備されたことで、従来のコンピューター教室が使われなくなってきています。この使われなくなったコンピューター教室を活用してSTEAM教育を推進していくインテルの取り組みが「STEAM Lab」です。

 STEAM Labでは高性能なPCや3Dプリンターなどの最新の機材、そして3D CADソフトや動画制作ソフトなどの業務の現場で利用されている高度なアプリケーションをコンピューター教室に導入して、児童・生徒の創造力を最大限発揮できる環境をDISさまと共に現在18校に提供しています。

中井■例えば社会で広く利用されているWindows 11やMicrosoft 365を小学生の頃から使い続けることによって、これらを使いこなすスキルがおのずと身に付き、社会に出てからも同じICT環境を自在に活用して非常に生産性の高い人材として活躍できます。

 こうした観点からも生徒ができるだけ早く最新のテクノロジーを体験できるよう、全国の学校にSTEAM教育を浸透させるべきです。

 マイクロソフトはSTEAM教育の支援プログラムの一つとして「Hacking STEM」を提供しています。Hacking STEMはSTEAM教育の学習効果の向上を図るとともに、実施にかかる費用を抑えることにも役立ちます。

山下■昨今は「社会に開かれた教育過程」と言われており、社会における解答のないさまざまな課題に対応していく資質や能力の育成に向けてSTEAM教育は非常に重要であると思います。ただし新しい取り組みを多忙な先生方だけにお任せするのではなく、産学官の連携によって企業がお手伝いできることもたくさんあり、特にICTに関わる我々の業界も学校教育の現場に対して継続的に支援する必要があります。

 当社は全国に約90拠点の営業網を持つ地域密着のディストリビューターという役割を生かして、パートナー企業の皆さまと教育現場のICT化推進に貢献する中で、全国での事例を広めていくようなお手伝いもしたいと考えています。

もっと学べる最新のICT環境を提供したい

山下■学校教育でのICT活用の進歩に伴って、現場ではよりレベルの高いICT環境が求められるようになると考えられます。次のGIGAスクール構想では、どのように貢献したいとお考えですか。

中井■マイクロソフトとしては最新のテクノロジーが搭載されたPCでWindows 11とMicrosoft 365 Educationエディションを活用して、生徒たちがもっとたくさんのことを学べるようにしたいと考えています。

高橋■CPUが進化していく中でそれが搭載されたPCの性能が向上するだけではなく、AIなどの最新テクノロジーを生かした使い方ができる環境も実現できます。今後インテルが提供するCPUにはAIを活用したアプリケーションがより高速に動作し、快適に利用できる仕組みが搭載される予定です。

山下■教育現場における切れ目のないGIGAスクール構想の実現は端末の整備と共に活用がどれだけ進むかが大切であり、文具と同様に普段使いのツールになるべきです。当社でも継続した研修などを通じて、活用度向上に向けた支援を実施していきます。

 さらに1人1台のPCが整備されて以降、廃止や転用が検討されているコンピューター教室でSTEAM教育やアクティブラーニングを実施することで、GIGAスクール構想で整備された端末では対応できない先進テクノロジーを学ぶ環境の提供にも注力していきます。

現地リポート
テクノロジーと共に進歩する
新しい学びの場を生徒たちが体感

社会とテクノロジーの関係が密接になる中で、理数教育に創造性教育を加えた「STEAM教育」の重要性が高まっている。そのSTEAM教育を実際に生徒たちが体験し、学校や社会における課題について解決方法を議論し合う「日経STEAM2023シンポジウム」が2023年7月19日に大阪で開催された。

日経STEAM2023シンポジウムに参加した18大学や協賛企業と、来場した生徒たちが交流を図るブース相談会も実施された。

学生サミット 未来の地球会議に
国内外の大学・高校から34チームが参加

「日経STEAM2023シンポジウム」では学校生活や日常生活における身近な出来事から課題を見いだし、その解決策を提案する「学生サミット 未来の地球会議」をはじめ、SDGsに関する問題がなぜ生じているのかについて仮説を立て、その仮説の検証の過程と結果をポスターで発表する「高校生SDGsポスターセッション」や日経STEAM2023シンポジウムに参加した高校生および大学生の各チームのシンボルキャラクターをデジタルアートで制作して発表する「デジタルアート展示会」、研究者として活躍している女性に会場で自由に質問して交流を図る「女性研究者座談会」、そして教育現場でのICT活用のビジネスアイデアを競う「DIS STEAMゼミ」などが行われた。

 審査員はsteAm 代表取締役社長、大阪・関西万博テーマ事業プロデューサー(「いのちを高める」)などを務める中島さち子氏と、京都大学学際融合教育研究推進センター准教授、国際高等研究所客員研究員などを務める宮野公樹氏、そしてFR/LAME MONGER代表でアーティスト、イラストレーター、AI BEARクリエーターとして活躍する上田バロン氏らが務めた。

 学生サミットには国内の大学10校と高校19校の合計29チームに加えて、マレーシア、インドネシア、ラオス、カンボジア、ベトナムの海外5チームが参加して未来の地球を守るためのそれぞれのアイデアについてプレゼンテーションを披露し、インドネシアのスラバヤ工科大学が最優秀賞に選ばれた。

 スラバヤ工科大学が提案したのはインドネシアの過疎地域における災害時の障がい者向け仮設住宅のアイデアだった。また協賛したsteAmからsteAm特別賞が立命館守山高校に、塩野義製薬からSHIONOGI特別賞が武庫川女子大学に贈られた。そのほかベトナム 日越大学がグローバル賞を、大阪府立水都国際高校がクリエイティブ賞を獲得した。

展示会場ではSTEAM教育のさまざまなプログラムが体験できるコーナーが提供され、日経STEAM2023シンポジウムに参加した生徒たちが熱心に説明を聞いていた。

新しい教育を楽しんで
日本の未来を作ってほしい

 教育現場における課題を取り上げ、ICTを活用してビジネスとして成り立つ解決策のアイデアを競うDIS STEAMゼミには大学と高校から合計14チームが参加し、各チームのメンバーとメンターを務めたダイワボウ情報システム(DIS)の担当者が約3カ月間かけて議論を重ねて生み出したビジネスアイデアを発表した。

 審査の結果、最優秀賞に選ばれたのは愛媛県立松山南高校の「南風系Steam班!!」だった。続く優秀賞は大阪府立千里高校の「NOT WYSIWYG」と大阪経済大学の「岡島ゼミ5期生2班」が獲得した。このほか審査に参加したインテルと日本マイクロソフトからそれぞれ審査員特別賞が2校に贈られた。

 審査員を務めたインテル 執行役員 パートナー事業本部 本部長 高橋大造氏は「どのチームも教育の現場や日本の社会における問題をしっかり認識しており、テクノロジーをきちんと理解した解決策を提案していました」と評価した。

 同じく審査員を務めた日本マイクロソフト 執行役員 パブリックセクター事業本部 文教営業統括本部 統括本部長 中井陽子氏は「各チームの発表に対する別のチームからの質問に、皆さんが的確に回答していたことに感心しました。これは各チームがアイデアを深く掘り下げて考えた成果です」と評価した。

 日経STEAM2023シンポジウムに特別協賛しDIS STEAMゼミを主催したDISで代表取締役社長を務める松本裕之氏はDIS STEAMゼミに参加した生徒たちに向けて、「DISが携わるICTのビジネスでは海外の企業の競争力が高くなっています。皆さんがSTEAM教育のような新しい教育を楽しみ、皆さんで考えて今の世の中を変えて、日本の未来を作ってほしい」と語りかけた。

「DIS STEAMゼミ」の受賞チーム。最優秀賞が1チーム、優秀賞と審査員特別賞がそれぞれ2チームに贈られた。
ダイワボウ情報システム(DIS) 代表取締役社長 松本裕之氏が最優秀賞に選ばれた愛媛県立松山南高校を表彰した。