トレンドの一歩先を行く製品や、その活用事例を紹介し続けてきた本特集も、今月で最終回を迎える。最終回となる今回は「共生社会」をテーマに、障害者に対する雇用と配慮の観点から、そこで活用されるテクノロジーを紹介していく。また、2024年4月1日からは、改正された「障害を理由とする差別の解消の推進」(障害者差別解消法)が施行される。事業者側にも対応が迫られる本法についても詳しく見ていこう。

Case.1
Cafe

分身ロボットの“パイロット”になって
外出困難者がカフェで働く未来へ

東京都の日本橋エリアにある「分身ロボットカフェ DAWN ver.β」(以下、DAWN ver.β)。その店舗のドアを開けると、出迎えてくれたのは120cmほどの身長の分身ロボット「OriHime-D」だ。このOriHime-Dは人が動かし、オーダー対応や配膳を行っている。それらの操作を行っている「パイロット」は、身体に障害があるなどの理由から、外出が困難となっている人たちだ。

孤独を解消するテクノロジー

オリィ研究所
吉藤オリィ

 オリィ研究所が開発しているのが、OriHime-Dをはじめとした分身ロボット「OriHime」シリーズだ。「コミュニケーションテクノロジーで人類の孤独を解消する」ことを目的に、人々の社会参加を妨げている課題を克服するためOriHimeをはじめとした分身ロボットや、これらを活用したイベント企画、そして分身ロボットによる接客を行うDAWN ver.βといったプロダクトを提供している。同社の創業者であり、代表取締役 CVO 所長を務める吉藤オリィ氏は、自身が17歳のころから掲げているテーマとして「孤独を解消する」ことがあると語った。

「子供の頃、体が弱く3年半ほど学校に通えなかった経験がありました。本当に何もできず天井を眺め続けたような時期があったのですが、そのときは本当につらくて、日本語を忘れかけるような経験をしました。誰かの助けがないと生きていけないのですが、その助けられることが苦しいという、全てがつらい状態だったんです。その“苦しさ”というのが具体的にどういったことか、と考えた時に、それは“孤独”から来るものだと思い至ったんです」

 吉藤氏は障害や老化によって肉体的に社会に参加できなくなってしまった人の存在を指摘し、“孤独”が認知症問題や自殺の増加といった社会問題にもつながっていると語る。「例えば障害者雇用で採用された従業員が、自宅でデータ入力などの仕事を淡々とこなすだけでは、仲間意識を得ることが難しいでしょう。孤独を解消する居場所や帰属意識は、周りから言われるのではなく、本人がそう認識することが重要であり、その帰属意識を作るためには“人との出会い”が重要になります」と吉藤氏は語る。

 一方で、肉体的に社会参加ができない人、できなくなってしまった人は“出会い”を創出することが難しい。吉藤氏は「私が作りたかったのは、家にいながら知らない人たちと友達になれたり、たまたま偶発的な出会いを得られたりして、世界を広げられる方法です。それは私が将来、障害を負ってしまったり老後になったときでも社会参加ができる働き方の創出につながります」と話す。

分身ロボットカフェ DAWN ver.βに入店すると、カウンターでOriHime-Dを動かすパイロットが出迎えてくれる。
(上)店内ではOriHime-Dによる配膳で、来店者に食事や飲み物を届ける。
(下)卓上で会話できるOriHimeを操作するパイロットは、DAWN ver.βのコンセプトを英語で説明するなどして接客する。熟練のOriHimeパイロットは、OriHime-DとOriHimeを2台同時に操作して接客することも可能だという。

その人の分身として働く

 OriHimeは、そうした肉体的に社会参加の難しい人たちが、社会参加をする上でのアバターの役割を担うロボットだ。前述したOriHime-Dは、遠隔で接客したり、物を運んだりするような身体労働を伴う業務を可能にする。机上などに設置して会話や身ぶり手ぶりを含めたコミュニケーションを行える分身ロボット「OriHime」は、体長23cmほどのコンパクトなサイズだ。2023年10月からは画質や音質、通信能力を大幅にバージョンアップした最新モデル「OriHime ver.2023」の販売もスタートしている。

 これらOriHimeシリーズのデザインについて、吉藤氏は「OriHimeを操作するパイロット本人がそこにいると認識してもらえるようなデザインにこだわっています。顔は能面をヒントにデザインしており、喜怒哀楽といった感情を相対した人が見いだせるようにしています。能面って、かわいさと不気味さが両立するデザインで、見た時に第一印象が揺らぐんです。ちょっと怖いな、と感じてもパイロットが話し始めたらほっとできる、その人のイメージに合ったアバターとして動き出してくれます。だからOriHimeは単体では完成しておらず、パイロットが入ることでその人自身として動くようになります」とこだわりを語る。

 これらのOriHimeを動かすパイロットたちが働くのが、DAWN ver.βだ。DAWNは「夜明け」を意味している。2018年11月から期間限定店舗として4回営業を実施したDAWN ver.βだが、2021年6月から現在の日本橋に常設実験店をオープンした。「普通のカフェと違うのは、ずっとβ版であることなんです。通常の飲食店ではマニュアルがあり、接客のやり方も決まっているでしょう。しかしDAWN ver.βは、そもそもロボット接客が受け入れてもらえるのか? というところからスタートし、オーダー対応のやり方から試行錯誤を繰り返すなどアップデートを重ねてきました」と吉藤氏。2023年5月にはより体験型の施設に進化してリニューアルオープンしており、従来のカフェ機能を継承しつつ、入場料を支払うことで食事をしない人でもDAWN ver.βのコンテンツを体験できるようになった。

OriHimeパイロットがロボット「NEXTAGE」を操作して、来店者の好みにあったコーヒーを提供するテレバリスタも人気だ。
(上)5月1日のリニューアルオープンから新たに、バーカウンターの営業もスタート。「スナック織姫」として、OriHimeを介して来店者への人生相談などの接客を行う。
(下)10月から初の販売モデルとして提供をスタートした「OriHime ver.2023」は、胸部へのスピーカーや最大4Kに対応する高解像度カメラの搭載など、よりコミュニケーションが行いやすいようパワーアップしている。

英語での接客にも対応

「DAWN ver.βという場所の不思議なところは、卓上にスタッフがいてお客さまと会話しているところです。卓上型のOriHimeがお客さまとコミュニケーションを取り、普段の活動やこのカフェのコンセプトを説明したり、普段の生活や自身の病気のことなどを語ったりしています。お客さま同士が仲良くなることも多く、スタッフとお客さま、お客さまとお客さまがつながれる場になっています」と吉藤氏が語るカフェの在り方は、“人との出会い”を創出することで孤独を解消するというコンセプトにもつながっている。

 取材を行った10月末のDAWN ver.βの店内は、訪日外国人観光客が多く来店していた。その来店者との会話は、基本的に英語で行われており、店内のあちらこちらから英語で談笑する声が聞こえてきた。海外の観光ガイドにDAWN ver.βが掲載されたことから訪日外国人の来客は急増しており、OriHimeのパイロットたちも家庭教師を付けながら英語を学び、業務に生かしているという。

 OriHimeを介した働き方は、DAWN ver.β以外にも広がりを見せている。店舗での接客以外にも、オフィスでの受付に活用されているほか、昨今では自動運転バスや発券機で案内人をするような仕事も増えてきているという。「多くの人を、本人が望む形で社会参加できる世の中にしていきたい」と語る吉藤氏は、リアルタイムに生きている人たちの関係性を創出するプロダクトづくりを、これからも進めていく。

Case.2
School

デジタル教科書や生成AIで
多様な特性の子供たちをサポート

「ディスレクシア」という学習障害をご存じだろうか。文字の読み書きに限定した困難がある状態のことを指し、「読み書き障害」や「読字障害」「識字障害」と呼ばれることもある。こうしたディスレクシアをはじめとした学びの“困りごと”を、ICTで解消している学校がある。

インクルーシブな学びに挑戦

東京学芸大学附属小金井小学校
鈴木秀樹

 文字を読んだり書いたりすることが困難なディスレクシア。文字を知らないのではなく、文字を見た時に重なって見えたり、反転して見えたり、ゆがんで見えたりすることで、文字を読むことに大きな負担が生じるのだ。同様に、形状が似た文字を間違えたり、発音が似た文字を間違えたりするなど、書くことに負担が生じているケースもある。全体的な発達の遅れがないため、就学してから保護者や学校側が気が付くことが多い。

 ディスレクシアを始めとした学習障害は、子供ごとに特性や程度に違いがあるため、学校もそれぞれに適した支援を行う必要がある。そうした多様な特性や障害がある子供たちも含め、全ての子供たちが共に学び合うことを「インクルーシブ教育」と呼ぶ。

 東京学芸大学附属小金井小学校は、このインクルーシブ教育にいち早く取り組み始めた学校だ。2013〜2014年度の文部科学省「インクルーシブ教育システム構築モデル事業」からスタートし、2015〜2016年度の東京学芸大学特別開発研究プロジェクト「東京学芸大学附属小学校におけるインクルーシブ教育のシステム構築に関するプロジェクト研究」、2018年度の文部科学省「学習上の支援機器等教材活用評価研究事業」の採択・実施を重ね、インクルーシブ教育の実現に向けた研究や実践、評価を推進してきた。

 同校でインクルーシブ教育の推進に携わるICT部会 教諭 鈴木秀樹氏は「インクルーシブ教育に取り組み始めた当時、本校で初めて不登校になった子供がいたそうです。そういった子供に対するサポートとして、学習支援が十分でなかったのではないか、という見直しがあり、学習支援の一環としてICTの活用が有効となるのではないか、と検証がスタートしました」と当時を振り返る。

小金井小学校4年3組の道徳の授業の様子。友達の万引きを止める「スーパーモンスターカード」という道徳教材を読み、子供たちに「正しさ」について考えさせる授業だ。
授業では教材を読んだ後、グループで「カードを取っていたらどうなったか」「カードを取らなかったらどうなったか」といった意見をPowerPointの共同編集機能で出し合った。

選択肢を広げるデジタル教科書

 鈴木氏が小金井小学校に赴任したのは2016年のこと。その翌年となる2017年に、企業の協力を得て鈴木氏が受け持つ2年生のクラスに1人1台のタブレット(iPad)を整備した。鈴木氏は「当時受け持った児童の1人が、かなり強度のディスレクシアでした。そこで音声読み上げアプリを活用し、教科書のテキストを音声で読み上げさせたところ、読解が非常に楽に行えるようになりました。また、その子は非常にタイピングが得意な子で、黒板に板書した内容をタイピングし、学級内で活用していたSNSで共有したところ、クラスメイトが何人も『いいね』を押してくれました。読むことや書くことが困難なその子は、国語の授業が嫌いで、地獄のように感じていたようなのですが、ICTを活用することで周りの友達から評価されることが非常に励みになったんですね。『ICTを使えば国語を頑張れる!』と言って、勉強に対して非常に意欲的に取り組むようになりました。ほかの子供たちと同じように学べないというのが、その子にとっては大きなストレスだったんです」と、当時の教育効果を振り返る。

 現在の小金井小学校では、こうした教科書の音声読み上げをデジタル教科書で行っている。小金井小学校では5〜6年生に算数と英語、全学年に国語と社会科(低学年は生活科)のデジタル教科書が導入され、授業で活用されている。

「私は今年3年生の授業を一部受け持っているのですが、国語の教材に『三年とうげ』という単元があります。このテキストの中に歌があるのですが、デジタル教科書による読み上げでは節を付けて歌ってくれるんです。授業で教員がただ読むだけよりも、こういった節がついた歌が画面から聞こえてくると、子供たちは非常に盛り上がります。全員で音声読み上げを聞く経験をすると、子供たち自身もより理解がしやすい読み方を選択できるようになり、学年が上がった時に選択肢が広がります」(鈴木氏)

 紙の教科書にはないカスタマイズ機能も、子供たちに好評だという。例えば文字のサイズやフォント、行間などがデジタル教科書であればカスタマイズできる。「少なくない子供たちが、デジタル教科書では背景に薄く色を付けたり、黒地にしたり、白黒反転させたりして使っています。『こっちのほうが読みやすい』のだそうです。しかし、これまでの紙の教科書は白地に黒文字から変更できませんでした。自分たちに理解しやすいスタイルに変更して学べる点が、デジタル教科書の強みですね」と鈴木氏は語る。

授業の後半では児童から出た「正しいことを行うには何が大切か」という意見を生成AI「ChatGPT」に読み込ませ、回答の頻度やトピックから子供たちが重視しているポイントをピックアップした。
授業ではChatGPTのまとめをもとに、さらに子供たちからの意見を募り、それぞれの考え方を学び合った。

生成AIの活用もスタート

 小金井小学校では光村図書のデジタル教科書を国語科で採用しているが、その中にデジタル教材として「マイ黒板」という機能がある。教科書の本文や挿絵を抜き出して、考えをまとめられる機能だ。「こうした機能も、ディスレクシアの子供たちには有効です。物語の構成を確かめるときに、書くことが困難な子供でもなぞるだけで本文が抜き出せ、読解も進みます」と鈴木氏。

 また、小金井小学校の授業では現在生成AIとして注目を集める「ChatGPT」の活用も進められている。鈴木氏は「インクルーシブ教育の視点では、例えば手が挙げられないとか、授業中に発言ができないといった子供でも、生成AIが提示した内容に対しては意見が言いやすいといった側面があります。今日の4年生の道徳の授業の中では子供たちの意見を集約して、その中から回答の傾向を五つ、ChatGPTにまとめてもらいました。AIの回答は中立的な立場に感じるためか、子供たちはそれに対して意見を言うことに抵抗が少ないように感じました」と語る。

 小金井小学校は2023年度、文部科学省の「特定分野に特異な才能のある児童生徒への支援の推進事業」に採択されている。本事業は、いわゆる「ギフテッド」と呼ばれる特定分野に得意な才能を持つ児童生徒への支援方策を開発するための事業だ。小金井小学校は、学びに困難を抱えている児童への支援にとどまらず、特定分野に特異な才能を持つ児童生徒への支援へと、ICTとインクルーシブ教育を組み合わせた取り組みを、これからさらに発展を続けていく。

Case.3
City Office

難聴者とのコミュニケーション支援する
発話をテキスト化するツール

愛媛県西南部に位置する宇和島市。気候と地形を生かし、ポンカンやブラッドオレンジの生産などの農業や、ハマチやマダイの養殖といった水産業が盛んだ。全国トップクラスの真珠生産量も誇る。一方で人口減少が進んでおり、2023年11月時点で総人口は7万人を切っている。高齢化も進んでおり、高齢化率は40%を超えているという。高齢化が進む中で求められているのが、難聴者への支援だ。

難聴者への対応に課題

宇和島市
松下 裕

 高齢になるにつれ身体のさまざまな部分に支障を来してくるが、その一つとして聴覚があるだろう。年齢とともに音が聞こえづらくなるいわゆる「加齢性難聴」は、多くの高齢者にとっての悩みの種と言える。宇和島市 保健福祉部 福祉課 障がい福祉係 係長の松下 裕氏は「福祉課の窓口には耳が聞こえにくい高齢者の方や、難聴を抱えている方が訪れます。しかしコロナ禍において、市役所職員も市民の方もマスクの着用が基本のスタイルとなった結果、声が伝わりにくかったり、コミュニケーションが取りにくかったりといった課題が生じていました」と振り返る。

 宇和島市役所では手話通訳者も配置し、聴覚に障害がある市民とのコミュニケーションを円滑化できるようにしているが、その当該スタッフが不在のときもある。宇和島市設置手話通訳者 手話通訳者等派遣コーディネーターの片山寛子氏は「私が在席していれば手話で対応することが可能ですが、ほかの業務などで離席しているケースもあります。また、難聴者でも手話を習得していない人もいますので、そうした人に対してはアナログですが筆談でやりとりをしていました。しかし筆談の場合ニュアンスが伝わりにくかったり、接触を避けるコロナ禍では距離を取る必要があり、文字が見にくかったりといった課題がありました。特に普段補聴器を使っている方が、補聴器が壊れてしまい相談に訪れた場合などは、相手の声量は普通なので聞こえの困難に気が付きにくく、コミュニケーションが取りにくいケースもありました」と振り返る。

宇和島市役所 福祉課の窓口で活用されているアイシンの「YYReception Window」。普段はあいさつやその日の日付を表示しておき、筆談などの支援が必要な市民が訪れた際に、職員の言葉をテキスト化する用途として活用されている。
職員から市民への言葉のみがテキスト化され、円滑なコミュニケーションをサポートする。

発話をリアルタイムにテキスト化

宇和島市
片山寛子

 そうした課題を解決するため、宇和島市役所の福祉課の窓口では、アイシンが提供しているリアルタイム音声認識アプリ「YYProbe」を活用した窓口相談支援システムの実証実験を2023年2月15日からスタートした。

 YYProbeはスマートフォンやタブレットからアプリを利用することで、声や音を見える化するアプリケーションだ。宇和島市役所の福祉課ではこのYYProbeによる文字起こしのテキストをアクリルパネルと一体になった透明ディスプレイに表示するシステム「YYReception Window」を活用することで、市民とのやりとりをスムーズに行えるようにしている。

 話した言葉をテキスト化するツールはさまざまあるが、松下氏は「YYProbeは非常に精度高くテキスト化してくれます。YYProbeの実証実験をスタートする以前に、他社のテキスト化ツールの勉強会を行ったことがありますが、実際に使用してみて誤変換が多いという印象でした。YYProbeはそうした誤変換が少なく、正確なテキスト化が行えますね」とYYProbeの利点を語る。

 テキスト化の精度もさることながら、透明ディスプレイ上にテキストが表示されることもYYReception Windowの魅力と言える。宇和島市役所の福祉課の窓口には「音声読上サービス実施中」という掲示がされており、アクリル板と一体になった透明ディスプレイを挟んで市役所職員と市民が会話を行う。透明ディスプレイ上には職員が話した内容がリアルタイムにテキスト化され、聞こえに困難のある市民とのコミュニケーションの円滑化をサポートする。

「タブレット上にテキスト化された内容を表示してコミュニケーションをする手段ももちろんありますが、それだとどうしても視線がタブレットに向いてしまい、視線を合わせてのコミュニケーションが取りにくくなってしまいます。実証実験がスタートした当時はコロナ禍でしたので、マスクやフェイスシールドをしての対応をしていました。しかし難聴者の方々は人の口元や表情を見ることで会話のニュアンスを受け取ります。顔の表情がしっかりと見えるYYReception Windowは、テキストでの伝わりやすさはもちろんですが、顔をきちんと見てコミュニケーションができるところも良いポイントですね」と片山氏。

YYReception Windowはアクリル板に一体化した透明ディスプレイにテキストを表示する。口元や表情が隠れないため、難聴や耳が遠いといった、聴覚に障害のある市民と職員とのコミュニケーションを妨げることがない。
職員の手元にはマイク、アプリがインストールされたスマートフォン、電源スイッチなどが設置されている。導入当初はセッティングに手間を要していたというが、最近では登庁したら電源を付け、常に使えるようにしているという。

他の窓口への展開も検討

 市民からの反応も非常に良いという。特にこれまで筆談でやりとりをしていた利用者からは、会話の内容を理解しやすくなったと好評だ。松下氏は「難聴の方は、会話していて内容をよく理解できなくても『分かりましたか?』と聞かれるとうなずいてしまうことが結構あるんです。YYReception Windowは大事な話もきちんと可視化して見てもらえるため、そういった齟齬をなくせる点も行政としては嬉しいポイントです」と語る。一方で手話を主たるコミュニケーション手段としている市民は、YYReception Windowがあると手元が見えにくくコミュニケーションに支障を来すため、手話を使える利用者への応対はYYReception Windowを使わず、別の窓口で対応するような使い分けがされている。

 実証実験として活用がスタートしたYYReception Windowだが、現在は本格導入されており、宇和島市役所の福祉課窓口でコミュニケーションのサポートツールとして日々活用されている。市民への応対がないときは当日の日付や挨拶などが表示されており、通りかかった市民から「音声を文字にできるんですか?」と興味をもたれるケースもあるという。「アイシンはトヨタグループの企業ですので、車の販売を行っている市民の方からは『うち(勤め先)にも欲しい』という声もありました。市役所の中でも、高齢福祉課の職員から『こちらの窓口でも使いたい』という要望があり、今後ほかの窓口への展開も検討しています」と松下氏は今後の活用について語る。

 YYProbeのアプリは、市役所内の会議業務での議事録作成にも活用されている。テキスト化された内容をAIが要約する機能も搭載されており、その機能を活用した議事録作成業務の効率化を目指している。宇和島市は2020年に「宇和島市DX推進計画」を策定し、デジタルシフト推進課を中心に地域社会のデジタル活用や、行政デジタル化を推進している。デジタル庁が実施している「ガバメントクラウド先行事業」にも採択されるなど、国の標準仕様に基づくデジタル化を積極的に進めている。来年度はオンライン申請への対応も進めていく予定だ。