PCにWi-Fiを標準搭載したように
AIをPCの標準機能にしていく

昨年末にインテルはAI処理に最適化されたクラウド向けの「第5世代 インテル Xeon スケーラブル・プロセッサー」と、クライアント向けの「インテル Core Ultra プロセッサー」を発売し、急成長するAI市場で存在感を示した。またNEXT GIGAやDXハイスクールを通じたビジネスの成長が期待される教育市場においても、インテルの動きが注目されている。インテルの社長に就任して6年目を迎えた2024年、 鈴木国正氏はインテルの日本でのビジネスをどのようにかじ取りするのか話を伺った。

社会課題の解決と産業の創出で
インテルは実績を残している

編集部■2018年11月1日にインテルの社長に就任されて今年で6年目を迎えました。日本市場においてインテルはどのような貢献をしたとお考えですか。

鈴木氏(以下、敬称略)■世界中のさまざまな企業が社会課題の解決と産業の創出をミッションに掲げていますが、インテルは実績を残している企業の一つです。その象徴的な事例がPCを民主化したことです。

 インテルはハードウェアとソフトウェアのパートナーと一緒に、いろいろなエコシステムを構築してPCという産業を確立しました。そのDNAが脈々と受け継がれており、日本においても社会課題の解決と産業の創出に貢献し続けています。

 ご承知の通り現在の日本はデジタル化において、諸国の後塵を拝しています。IMD(国際経営開発研究所)の世界競争力センターが昨年11月に発表した「IMD世界デジタル競争力ランキング」の最新版(2023年度版)によると、「ビッグデータとアナリティクスの活用」と「人材における上級管理職の国際経験」は64カ国・地域中、最下位の64位、「人材のデジタルスキルおよび技術的スキル」は63位、「機会と脅威に対する企業の対応」は62位、「女性の研究員」は57位と、非常に厳しい結果となっています。総合順位でも前年の29位から32位へとポジションを下げ、過去最低を更新してしまいました。

 これらの結果だけを見ると悲観的になってしまいますが、一方で「無線ブロードバンド普及率」と「市民の行政への電子参加」、そして「世界での産業ロボット供給」は全て2位と優れており、「高等教育での教員一人当たりの学生数」では3位を獲得し、高等学校の教育環境が整っていることを示しています。つまり環境は整っているのに活用が進んでいないことが、日本のデジタル競争力を低迷させています。

 日本の喫緊の課題である企業のDXも学校のデジタル活用も、一気に成し遂げることはできません。インテルは点の活動から取り組みを始めて線へと拡大していき、さらに面へと展開することで着実に効果を出すという地道な取り組みを進めています。

 DXには生産性の向上と新しいビジネスモデルの創出という大きく二つのテーマがあります。インテルではデータのやりとりや分析・活用を核としたビジネスモデルに変革する「DcX(データセントリック・トランスフォーメーション)」への取り組みを提唱しています。

 日本企業のDXは以前と比較すると随分と進んできたと感じていますが、それは生産性向上への取り組みが対象であり、新しいビジネスモデルの創出というインテルが提唱しているDcXへの取り組みは遅れています。

 しかし昨年から生成AIが脚光を浴び、意識が非常に高まっています。生成AIという新しいツールが使われ始めたことで、DcXへの取り組みも活発になっていくと期待しています。生成AIという分かりやすい手段をDcXの取り組みに活用して、効果的な進め方を模索しながら推進していただきたいと考えています。くれぐれも生成AIを導入しておしまいということにならないよう、経営や事業の課題に対して生成AIを活用すると何ができるのか、この議論を醸成することがDcXの推進力になります。

インテル
代表取締役社長 鈴木国正

クライアントからエッジまで
AI処理に最適なプロセッサーを提供

編集部■AIや生成AIの活用が広がる中で、インテルはどのような役割を担っていくのですか。

鈴木■インテルはPCを誰もがあらゆる場所で使えるようにしました。それと同じようにAIの民主化に向けて「AI Everywhere」を推進しています。その実現に向けてインテルはデータセンターやクラウドからクライアントやエッジまでのあらゆる環境にAI処理に最適なプロセッサーを提供しています。

 現在、AIや生成AIはクラウド上で利用されています。しかし今後はエッジでも利用されるようになります。利用の範囲が広がり、頻度が高くなるとクラウドとの通信において遅延やアプリケーションのレスポンスの低下、通信コストの負担増、そしてプライバシーやガバナンスといった問題が顕著化していくからです。

 その解決策として機密性の高いデータを使った推論をエッジのローカルで処理するとともに、機密性のないデータはクラウドとエッジで共有して、クラウドとエッジをシームレスにつなぐハイブリッドな利用環境が一般的になります。

 そこでインテルはクラウド向けに「第5世代 インテル Xeon スケーラブル・プロセッサー」を、クライアント向けに「インテル Core Ultra プロセッサー」を発売し、ハイブリッドなAIの利用環境の実現に貢献しています。

 特にインテル Core Ultra プロセッサーにはCPUやGPUに加えて、AI動作専用のNPU(ニューラル・プロセシング・ユニット)となる「インテル AI ブースト」が搭載されており、CPUとGPU、そしてNPUの全てにAI処理を高速化するアクセラレーション機能を実装しています。

 インテル Core Ultra プロセッサーはインテル史上最も優れたAIパフォーマンスと電力効率を発揮します。このプロセッサーを搭載したPCは「AI PC」という新しいカテゴリーの製品として、PCメーカー各社から発売されています。

 インテルでは2025年までに1億台のPCへのAIの導入を目指しています。また100社以上のISV(独立系ソフトウェア・ベンダー)と協働してインテル Core Ultra プロセッサーに最適化されたAIアプリケーションを拡充するとともに、OpenVINO ツールキットや無償トレーニングなどを提供して、AI PCでのローカルなAI処理を活用したアプリケーション開発を支援します。さらにDiscordコミュニティ「インテル AI PC Garden」によってAI PC向けのビジネスやサービスを支援するなど、AI PCの普及とビジネスの活性化を促進していきます。

 AI PCのメリットは、当初はビデオ会議での音声のノイズの除去や映像の背景画像の合成、そしてゲームやクリエイティブ系アプリケーションでの機能拡張といった、地味な体験から始まります。しかしすぐにAIアシスタントが日常的な業務を把握してユーザーをサポートするようになり、生産性およびコラボレーションでの体験やクリエイティブ性を向上するなど、ユーザーが実行することを全て網羅するようになります。

 かつてインテルは「Centrino(セントリーノ)」というブランドでモバイルPCにWi-Fiを搭載し、現在ではWi-FiはPCの標準機能になっています。それと同様にインテル Core Ultra プロセッサーがAI PCを普及させ、いずれは全てのPCにAI処理機能が標準で搭載されるようになります。

STEAM Labで得た知見やノウハウで
DXハイスクールに取り組みたい

編集部■NEXT GIGAや「高等学校DX加速化推進事業(DXハイスクール)」など、教育市場におけるビジネスの成長が期待されています。同市場へのインテルの取り組みを教えてください。

鈴木■インテルはGIGAスクール構想が始まるはるか以前から、日本で教育のデジタル化を支援してきました。例えば次世代教育の実践を目指す教員向けの研修プログラム「インテル Teach プログラム」は日本で15年以上提供し続けています。また最近ではSTEAM教育を促進するための実証研究である「STEAM Lab」を実施しました。STEAM Labはダイワボウ情報システム(DIS)さまにリーダーシップを取っていただき、DISさまのパートナーさまと一緒に3年ほど前から地道に進めてきました。

 STEAM Labは2022年から2年にわたって18校で実施してきましたが、STEAM Lab以外にも全国の学校でたくさんのプロジェクトが進められています。3月以降はこれらの学校を有機的につなげ、お互いに他校の取り組みを参考にする活動を促進することで点(各校の取り組みや成果)を線にしていくことを支援していきます。

 またSTEAM Labで得た知見やノウハウがDXハイスクールに役立つとうれしいと考えています。STEAM Labは教育業界やIT業界から、そしてそれらの市場からも注目され、期待もされています。DXハイスクールにおいても点から線、面への取り組みを地道に進めることで貢献していきます。

 このように日本の学校のデジタル化促進という社会課題の解決に貢献するとともに、PCやネットワーク、ソフトウェア、クラウドなどの需要が確実に増え、ビジネス全体が将来的に広がることで産業も創出します。

 AI PCの登場も含めて2024年は確実にフェーズが変わります。これからもインテルのエコシステムを通じてパートナーさま、およびエンドユーザーさまのビジネスの成長や課題解決に貢献していきます。