F1で実証された世界有数の技術力を
カスタマーファーストでパートナーとともに国内展開

レノボ・グループの国内事業でサーバーやストレージなどのITインフラ製品を扱うレノボ・エンタープライズ・ソリューションズ(以下、LES)の代表取締役社長に多田直哉氏が今年7月に就任した。多田氏はカスタマーファーストを土台に、LESのインフラ製品とレノボ・ジャパンのPC製品の販売チャネルの一元化を推進するとともに、ディストリビューターやパートナーと連携して産業別のソリューションをそろえ、as a Serviceを提供する「TruScale」の認知を広げることの三つに注力して国内市場のビジネスを伸ばしていくと意気込む。

LESの企業姿勢に共感して入社F1の日本GPを通じてレノボの価値を発信

編集部■今年7月にレノボ・エンタープライズ・ソリューションズ(以下、LES)の代表取締役社長に就任されました。入社を決断した理由を教えてください。

多田氏(以下、敬称略)■これまでシスコシステムズや日本ヒューレット・パッカード、日本オラクルなどIT業界のグローバルリーダーにおいてサーバーやストレージ、ネットワークなどのハードウェアからクラウドまで、さまざまな領域でビジネスに携わってきました。

 そしてレノボ・グループの企業姿勢について伺ったところカスタマーファーストであること、お客さまのビジネスを継続的にサポートするためにテクノロジードリブンでソリューションの価値を高めていること、さらに最新の製品やソリューションをお客さまが導入しやすくするためのas a Serviceでの提供によるフィナンシャルオファーが用意されていることなどが確認できました。これらは私がこれまでのビジネスで常に大切にしてきたことです。LESでも同じ方向性で成長が目指せると確信したことが決め手となりました。

編集部■LESに入社してLESおよびレノボ・グループに対する印象はいかがですか。

多田■LESは想像以上にテクノロジーにおいてリードしていると実感しています。例えばx86サーバーの信頼性において9年連続で1位を獲得しているほか、x86サーバーにおけるセキュリティ攻撃耐性、パフォーマンスに関する世界記録保持数、スーパーコンピュータープロバイダーとしての供給実績、そしてスーパーコンピューターの性能ランキングであるTOP500における電力効率のランキング「GREEN500」など、これらの全てにおいて1位を獲得しています。

 これらのグローバルトップクラスのテクノロジーを持つレノボ・グループが提供する幅広い領域の製品やサービスの価値を、日本のお客さまに正しく伝えて認識してもらうことも、私の役割だと考えています。

 それからレノボ・グループは非常に大きな組織なのですが、ビジネスへの取り組みや変化への対応が機敏なことにも感心しました。本社機能がある中国や米国から経営方針は示されますが、目標を達成するための方法については各地域の経営陣の裁量が大きく、任せてもらえる部分が多いのでやりがいがあります。

編集部■今年9月22日から3日間にわたり三重県鈴鹿サーキットで開催された自動車レースの世界最高峰であるF1(フォーミュラ・ワン)の日本グランプリ(GP)では、レノボのロゴがサーキットを埋め尽くしました。F1を通じてレノボ・グループは観客や世界中の視聴者にどのようなメッセージを伝えたいと考えているのですか。

多田■レノボ・グループは2022年からF1レースをIT面でサポートしており、2023年は日本GPの冠スポンサーとして支援を強化しています。2023年のシーズンは世界22の国や地域でレースが開催され、各サーキットと英国のF1の本拠地で使用されるPCやタブレット、スマートフォン、モニター、そしてサーバーやストレージ、ワークステーションなど多様な機器を提供しています。

 レースの中継映像をはじめ、マシンの走行状態や順位などのデータを英国の拠点を経由してリアルタイムで世界中に配信するシステムや各チームのドライバーがトレーニングで使うシミュレーター、各チームのレース戦略の策定やマシン開発におけるシミュレーションにもレノボ・グループのIT製品が利用されています。

 優勝したドライバーに授与されるトロフィーもレノボ・グループが提供しました。「Kiss-activated」と呼ばれる機能が搭載された世界初のデジタルテクノロジーを搭載したトロフィーで、レノボ・グループと世界的なデザイン会社であるピニンファリーナが協力して開発しました。レースに参加する全てのドライバーの口唇紋(唇のシワやミゾ)のデータをトロフィーに内蔵されるデバイスに登録しておき、優勝したドライバーが「KISS ME」と書かれたセンサーにキスをすると口唇紋を認識し、優勝者の国籍の国旗の色にトロフィーが光る仕組みです。

 日本のお客さまには「レノボ」というブランドに対して、PCやタブレットのメーカーで、グローバルな会社というイメージは浸透していると思います。しかしレノボ・グループには「ポケットからクラウドまで」というメッセージの通り、スマートフォンやPC、タブレットといったデバイスから、モニターなどの周辺機器、そしてサーバーやストレージなどのITインフラ、さらにはスーパーコンピューター、クラウドまで、お客さまが必要とするITの全てを網羅する製品ポートフォリオがあります。

 F1へのサポートを通じてレノボ・グループがPCやタブレットなどのデバイスだけではなく、レースの運営と中継映像の配信を支えるサーバーやストレージなどのITインフラも提供している世界有数のテクノロジーカンパニーであるというイメージを浸透させたいと考えています。

レノボ・エンタープライズ・ソリューションズ
代表取締役社長
多田直哉

Lenovo 360に新しい支援プログラムを提供。産業別ソリューションもラインアップ

編集部■国内市場での成長に向けた取り組みを教えてください。

多田■大きく三つの取り組みがあります。これらに共通することは、パートナーさまとの協業体制を強化することとパートナーさまが売りやすくする土壌を築くことです。

 一つ目は約1年前から取り組みを進めております「Lenovo 360」をさらに推進していきます。Lenovo 360はPC製品を扱うレノボ・ジャパンとインフラ製品を扱うLESの販売戦略を一体化したもので、レノボ・ジャパンのPC製品を販売していただいているパートナーさまにもLESのインフラ製品を販売していただき、またLESのインフラ製品を販売していただいているパートナーさまにはレノボ・ジャパンのPC製品を販売していただくという施策です。

 当社内でもPC製品の営業担当者とインフラ製品の営業担当者が、それぞれの案件を組み合わせて一緒に商談を進めているケースが増えています。この販売チャネルの一体化という新しいビジネスモデルに関心を持っていただいているパートナーさまを後押しするために、新しい支援プログラムを来年度より提供する予定です。

 PCとサーバーではテクノロジーが大きく違うため販売に必要な知識も異なります。PCとサーバーのそれぞれの製品およびテクノロジーを学んでいただくトレーニングプログラムを提供するとともに、その習熟度に応じて報奨に反映させていただくことを検討しています。

 お客さまがPCやサーバーなどのインフラ製品を購入されるのは自社のDXを推進したり、ビジネスを成長させたりするための手段を必要とされているからです。お客さまの視点で捉えると、目的を達成するために必要な手段であるPCもサーバーもまとめて購入できることに価値があります。すでに申し上げた通りレノボ・グループにはお客さまが必要とするITの全てを網羅する製品ポートフォリオがあります。その強みを生かせる販売体制によって、お客さまの要望に的確かつ迅速にお応えできます。これこそがカスタマーファーストの姿勢です。

 またPCとインフラの双方のビジネスの融和が進むことでお客さまが求める価値を提供できるようになります。その結果、パートナーさまのビジネスの成長につながります。パートナーさまが成長することにおいても、カスタマーファーストが重要なのです。

 二つ目はLenovo 360の推進と併せて進めていく産業別のソリューションの提供です。産業別にソリューションをそろえるだけではなく、例えば製造業では工場のライン、生産設備、グローバルサプライチェーンなど、用途を細かく特定したソリューションの展開を短期間で実現したいと考えています。

 LESが産業別のソリューションをラインアップするというよりも、例えばダイワボウ情報システム(DIS)さまのソリューション部隊と連携し、LESの製品を販売するパートナーさまの案件の内容に応じてカスタマーファーストの中でお客さまを見てビジネスを立て付けます。そこで出来上がったソリューションをパッケージ化していくことで産業別のソリューションをそろえていくというイメージです。その際にLenovo 360での取り組みも連動します。またLESやレノボ・ジャパンの製品だけではなく、パートナーさまのソリューションや他社のソフトウェア製品やクラウドサービスなどを組み合わせることも想定しています。

 DISさまにはPCを得意とするパートナーさまと、インフラを得意とするパートナーさまの両方が全国に多数おり、DISさまを通じて両者の融和を図ってくれると期待しています。またDISさまはさまざまな商材を取り扱っている強みもあり、産業別のソリューションを組み立てる際に心強い存在です。

ハイブリッドクラウド化がオンプレを伸ばす。TruScaleでas a Serviceでの提案も可能に

F1の日本GPで優勝者に授与された「Kiss-activated」と呼ばれる機能が搭載されたトロフィー。「KISS ME」と書かれたセンサーにキスをすると口唇紋を認識し、優勝者の国籍の国旗の色にトロフィーが光る。写真は日の丸カラーに光っている状態。

多田■三つ目は「TruScale」の提供です。ハイブリッドクラウドが普及する中で、オンプレミスのサーバーなどのインフラもサブスクリプションやas a Serviceで利用したいというニーズが増えています。またハイブリッドクラウドではパブリッククラウドとオンプレミスベースのプライベートクラウドが混在しますが、ハイブリッドクラウドが伸びることでプライベートクラウドの需要も拡大していくでしょう。

 このプライベートクラウドを構成するサーバーやストレージを一括購入での提供だけではなく、TruScaleによりas a Serviceというフィナンシャルオファーも提供することでパートナーさまのビジネスの成長にも貢献します。

 TruScaleで投資額の負担を抑えることで、潜在需要を引き出しやすくなる効果も期待できます。その際に産業別のソリューションの提案が有効となります。TruScaleは大企業のお客さまだけではなく中小規模のお客さまにも実績があります。

編集部■今年10月24日と25日に米テキサス州オースティンで開催された「Lenovo Tech World'23」で「AI for All」というビジョンとともに、AMDやNVIDIAとの連携を強化してレノボ・グループの全ての製品やサービスにAIを導入する計画が発表されました。現時点でのAIの捉え方とビジネスへの影響をどのように考えていますか。

多田■AIには三つのモデルがあると認識しています。まずChatGPTのようにAIの基盤モデルがパブリッククラウドに展開されているパブリック基盤モデル、そして企業が社内での利用に限定して構築しているプライベート基盤モデル、それから個人が手元のPCでのみ動作させるパーソナル基盤モデルの三つです。

 レノボ・グループはパブリック基盤モデルではデータセンターのITインフラを、プライベート基盤モデルではサーバーやストレージなど企業のITインフラを、そしてパーソナル基盤モデルではPCやワークステーション、エッジコンピューティングを提供でき、AIの領域においてもレノボ・グループの強みが発揮できます。またAIという新しいビジネスチャンスにおいてもLenovo 360による「ワンレノボ」での販売チャネルの一体化が、お客さまの利用環境とパートナーさまのビジネスにメリットをもたらすのです。