国内ITビジネスをけん引するリーディングベンダーに
2023年度の商機とその攻略法を問う

PC-Webzine3月号、4月号と続いたリーディングベンダーへのインタビュー特集も、今月が最後となる。最終回となる今回は、「ソリューション&クラウド」をテーマに、コロナ禍以降大きく拡大したクラウドサービスや、それらを支えるITインフラに活用される仮想化技術について探っていこう。

変わる働き方に伴うITインフラ需要へのニーズとは

拡大するクラウドサービス利用に伴い
堅調に拡大するITインフラ市場の変化を見る

 新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う働き方の変化や、企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)に向けた取り組みの中で、ITインフラに求める需要も変化している。国内ITインフラストラクチャサービス市場を調査しているIDC JapanのSoftware&Serviceリサーチマネージャー 伊藤未明氏はその動向について次のように語る。「2023年3月末に発表した国内ITインフラストラクチャサービス市場の調査では、2022年の同市場は約2兆円で、2022〜2027年の年平均成長率は3.7%と、堅調に拡大していく予測です。こうしたITインフラストラクチャサービス市場拡大の背景には、働き方改革や企業内のインフラの見直しといった取り組みが、コロナ禍で加速したことが挙げられるでしょう。これまで企業において紙で処理されていた業務が電子化され、クラウドサービスによってインターネット上で行われるようになるなど企業にとどまらず市民生活にITインフラが浸透しました。それ故にエンドユーザーに対してクラウドサービスなどを提供する企業は、ITインフラへの投資を増加させて全体的な見直しを進めています」

企業のITインフラはクラウドへ

IDC Japan
伊藤未明

 同社ではサーバー、ストレージ、ネットワーク、コンテナを含む仮想化技術などを対象にした市場を、ITインフラストラクチャサービス市場と定義している。本市場は、ハイパースケーラー、クラウドサービスプロバイダー、デジタルサービスプロバイダー、通信事業者を対象としたサービスプロバイダー市場と、一般企業を対象としたエンタープライズ市場によって構成されており、サービスプロバイダー市場の年平均成長率は13%、エンタープライズ市場は1.4%の成長を見込んでいる。

 サービスプロバイダー市場とエンタープライズ市場の年平均成長率に差があることについて伊藤氏は「サービスプロバイダー市場で特に比重が大きいのがサーバーの保守や運用といった運用系サービスですが、エンドユーザーにIaaSなどクラウドサービスを提供しているベンダーは通常それらの運用/保守を内製化しているため、今回の市場成長には寄与していません。一方で市場拡大に影響しているのが、クラウドサービス向けのデータセンターの需要です。いわゆるクラウドサービスプロバイダー向けに大規模なデータセンター(DC)設備を貸し出す『ホールセールコロケーション』や、クラウド上で動くさまざまなサービスのためのデータセンターの利用が非常に伸びていることが、高い成長率につながっています」と指摘する。

 エンタープライズ市場はこうしたクラウドサービスの利用拡大に伴って年平均成長率が鈍化している。多くの企業で企業内のシステムをクラウドへ移行したことで、サーバーのメンテナンス作業といった運用/保守に対するコストがかからなくなったためだ。しかし、自社内でサーバーやストレージといったITインフラを所有するニーズは、今後も業種を問わず存在するため、市場は緩やかに拡大を続けていく予測だ。

クラウド向けDCの需要が増加

 それでは大きく拡大していくサービスプロバイダー市場のインフラといえるデータセンターサービス市場は、今後どのように変化していくのだろうか。顧客企業の情報システムを情報サービス事業者のデータセンター内で運用監視する「データセンターサービス」の国内市場についての調査も担当している伊藤氏は「2022年8月29日発表時点の調査において、2022年の国内データセンターサービス市場は初めて2兆円を超える2兆275億円を見込んでいます。2021〜2026年の年平均成長率は12.8%と高い成長率を維持する予測で、2026年には3兆2,083億円規模の市場となるでしょう」と語る。

 こうした市場拡大の背景には、ITインフラのリモート運用やクラウドサービスなどの利用拡大がある。特にクラウドサービスの分野では、AWSやMicrosoft Azureといったパブリッククラウドサービスが高い成長を続けていることに加え、前述したホールセールコロケーションも伸長している。「これらの需要拡大に応えるため、データセンターは建設ラッシュが続いています。国内データセンターサービス市場は『IaaSコロケーション』『エンタープライズコロケーション』『クラウドデリバリーホスティング』『トラディショナルホスティング』という四つのセグメントに分けられていますが、この内IaaSコロケーションとクラウドデリバリーホスティング(クラウドサービス)はどちらも年平均成長率が約20%と高く、クラウドサービス利用増加による需要の高さが見て取れます」と伊藤氏。

 市場拡大が続く一方で懸念されるのが、電力コストの負担だ。世界的なエネルギー価格の上昇に伴い、データセンターの電力コストも増加している。電力コストの増加は、提供されるデータセンターサービスの価格に直結するが、クラウドの利用ニーズやそれに付随するデータセンターに対するニーズは、サービス価格が上昇しても堅調に推移するため、市場成長を阻害する要因にはならないと伊藤氏は指摘する。

「データセンター事業者側も電力コストの削減を図るべく、空調冷却システムを見直すなどさまざまな工夫を行っています。先日、液体でIT機器を冷却する液浸冷却装置の実証実験が発表されていましたが、これはかなり画期的な技術だと注目しています」と伊藤氏。一方で、これらの冷却技術は小さな積み重ねであり、大きな電力削減にはなかなかつながらない。IDC Japanではデータセンターにおける再生エネルギー電力の活用ニーズなどについても調査を進める方針だという。

 伊藤氏は「デジタルの世界ではスピード感が重視されます。例えばあるWebサービスを開発する際に、インフラが間に合わないため1カ月待つというのは現実的ではありません。短期間で用意でき、かつ安定性や柔軟性を持つITインフラストラクチャが、これからのデジタル時代に求められます。こうしたユーザー体験に応えるインフラの所持や運用の仕方を、現在さまざまな企業が模索しており、最適化に向けた投資は伸びていくでしょう」と締めくくった。

AIを実装したシェアの高いコラボレーションツール&基盤が強み

Microsoft 365の応用ツールでチームの連携強化
コミュニティ構築や業務分析、自動化をサポート

日本マイクロソフト
山崎善寛

 新型コロナウイルス感染症の拡大が続く情勢において、企業のビジネス継続を目的としたリモートワークは一般的となった。その新たな体制整備のため急激に導入が進んだのがコラボレーションツール「Microsoft Teams」(以下、Teams)だ。Teamsは国内で高いシェアと認知度を獲得した。さらに日本マイクロソフトのクラウドサービスでは官公庁に対してのクラウドサービス評価制度「ISMAP」に登録されており、リモートワーク対応や働き方改革などが遅れがちな官公庁や地方自治体への支援を行っている。また、大企業に比べIT人材が不足しているといわれる中堅中小企業に最適な製品を案内する窓口やキャンペーンを提供している。

 Teamsは無償版が用意されているが、ビジネスで利用するのであればMicrosoft WordやMicrosoft Excel、Microsoft PowerPointといったOfficeソフトとセットで利用できる「Microsoft 365」による導入がお薦めだ。日本マイクロソフト モダンワークビジネス本部 本部長 山崎善寛氏はMicrosoft 365をこうアピールする。「ハイブリッドワークやリモートワークに関わる環境整備が一足飛びのまま、働き方改革が進んでいます。しかし、従業員と会社、オフィスの在り方は今後さらに柔軟な形に変化していくでしょう。当社でもコラボレーションツールとしてTeamsを提供していますが、よりスムーズに現状を把握しフォローできるツールが必要と考えています。そうしたハイブリッドワークやリモートワークを中心に活動する企業さまに対しては、OutlookやTeamsなど使い慣れたツールから働き方を可視化することによってチームの業務見直しや改善を図る従業員エクスペリエンスプラットフォーム『Microsoft Viva』(以下、Viva)によってサポートが可能です」

Microsoft 365 CopilotのExcelの有効な使用例として、集計されていないデータを分析した結果を問うことで、スピーディーに数値を出力してくれるものがある。

社内の境界を越えてチームを再構築

日本マイクロソフト
加藤友哉

 今後の販売促進に向けて、Vivaの注力ポイントを同社 モダンワークビジネス本部 プロダクトマーケティングマネージャー 加藤友哉氏はこう補足する。「働き方が急激に変化する中で企業が持続的に成長するために、従業員の体験向上が重要視されています。Vivaは、そうしたエンゲージメントの観点を複合的なツールによってサポートします。例えば、メンバーの働き方の動向を定量データによって可視化し、働き方改善につなげる『Viva Insights』を提供しています。出社の動きが一部出てきている中では、従業員同士のつながりを再構築していくことも欠かせません。実際、コロナ禍前のオフィスでは近隣デスクの社員同士での雑談など偶発的なつながりがありましたが、リモートワークだとそうした機会は創出しにくいという意見も聞かれました。そうした組織内の疎外感の課題に対応するツールとして、当社では、社内SNS『Yammer』をリブランディングしたモジュール『Viva Engage』があります。同僚などに気軽に話しかけられるデジタルコミュニティとして、より従業員がエンゲージメントを得られる空間を実現しているのです」

 オフィス以外の場所で離れて働くリモートワークがスタンダードとなった一方で、業態の特性も含めて物理オフィスに残る、あるいは戻る意向を示す企業もいるという。そして、一部の従業員が物理オフィスに残るパターンにも課題が生まれているのだ。「勤務形態が混在する中、その弊害として一部の従業員が疎外感を抱いているケースがあるようです。これを受けて、会議室に据え置きのハードウェアデバイスと連携し、非常に高画質・高音質でリアルな会議室を作る『Microsoft Teams Rooms』を提供しています。今後、仮に感染症が収束したとしても全員が100%オフィスに戻る状況は想定し難いでしょう。そうした状況を想定し、就労場所にとらわれず常につながっているような文化を醸成するため、社内でのコミュニケーションの要となる会議の在り方を変えていくことが当社の役目と考えています」(山崎氏)

自動車製造業やITメーカーなどで導入進む
業務改革には処理性能が高いAzure基盤を

自然言語でデータを最適化

 さらに同社では、Word、Excel、PowerPoint、Outlookなど当社の強みであるOfficeアプリケーションにもAI実装を進めている。「専門的な知識がなくても、自然言語の話し言葉をプロンプトとして入力すればデータを最適化した結果を出力できる仕組みを開発しています。それが、3月28日に発表した、自然言語の入力によって自動で資料作成や分析が可能な『Microsoft 365 Copilot』(以下、Copilot)です。今後Microsoft 365の全体にわたってCopilotのAI機能を実装し、働き方改革を推進していきます」と加藤氏はAIに関する構想を語る。

 AIは、その処理能力の高さから、新たなパラダイムシフトを生む可能性を秘めている。働き方改革に視点を置いた日本マイクロソフトのAI実装は、着実な歩みを進めているという。最後に、加藤氏は将来展望と同社としての自負をこう語る。「就労人口が下降し将来の国力維持が危惧される中で、今後は創造的なアイデアや重要な決定判断に時間を費やす仕組みが重要です。なので、今まで1時間かかるものを5分で済ませるなど、ユーザー企業さまが日々行う身近な業務の改善を図る製品開発に力を入れています。例えば、Copilotでは『Excelでチャネル別の売上の内訳を算出してください』『WordのドキュメントをPowerPointのフォーマットに整形し直してください』といった指示をテキストで入力すれば、すぐに処理を行います。また、TeamsでのWeb会議の内容を分析して、ミーティングのサマリー作成を実現していく予定です。今後、Microsoft 365製品全部にAI機能を持たせていくという計画を進めています。AI機能を搭載したオフィスツールに追従する製品は現状ほとんどありません。こうしたオフィスツールはビジョンも含めて今当社以外に存在しないでしょう」

 高性能化とシェア拡大が進むMicrosoft 365だが、その基盤ともなっている包括的なパブリッククラウドプラットフォーム「Microsoft Azure」(以下、Azure)の導入も増えている。実際に、製造業やヘルスケア、アナリティクス分野など、従来オンプレミスで利用していたシステムや新たにAzure上で構築されるシステムのプロジェクトをAzureへ移行するプロジェクトは増えているという。日本マイクロソフト Azureビジネス本部 GTMマネージャーの間瀬千里氏と佐藤壮一氏に話を伺った。

 昨今のAzureの導入の傾向を、間瀬氏はこう語る。「クラウド化の波を受けてAzureを基盤に選ぶお客さまが増えました。新型コロナウイルス感染症の流行当初は喫緊の対応が大部分でしたが、特にクラウドVDI『Azure Virtual Desktop』(以下、AVD)はコロナによる特需で終わらず、継続して導入が増えており、パートナー企業さま側でのビジネスとしても進んでいるという肌感覚を得ています。新しい働き方を支える基盤の一つとして、VDIのクラウド化が進んだ結果とみています」

 実際、コロナ禍を経てAVDの導入は増加傾向にある。例えば、CADをAVDで動かす製造業の事例ではいすゞ自動車の傘下に入ったUDトラックスの事例がある。また、同じく3D CADのVDI環境をAVDで実現したリコー、AzureとクラウドBI「Power BI」の特別支援プログラム「Data Hack」でAIやデータ分析・活用を進める三井物産の事例などその業種はさまざまだ。Azureの幅広い製品群を駆使した形でクラウドネイティブアプリケーションを作る状況が波及し始めているといえる。

 また、AVD以外にも特に注目を浴びているAzureサービスがあるという。それが、最先端のアプリケーションを構築するためのAI生成モデルを構築可能な「Azure OpenAI Service」だ。同ソリューション内では昨今注目されているAIチャットボット「ChatGPT」にも対応しており、需要が高いと佐藤氏は話す。「OpenAIを実装しているインフラストラクチャとしての強みも押し出しながら、クラウドプラットフォームとしてのAzureのさらなる発展を目指します」

スパコンのような高速処理基盤

日本マイクロソフト
佐藤壮一

 Azureの基盤としての大きな魅力は、処理性能が高く業務効率アップに寄与する点だ。佐藤氏は、自動車製造業の例を挙げながら、Azureの性能をこうアピールする。「CAD、エンジニアリング計算とAVDの組み合わせで、自動車製造工程におけるシミュレーション計算での利用事例も増えています。例えば計算処理の高速化を図る場合、仮想マシン(VM)の数を一時的に増やして計算を早く済ませる手法がクラウドならではのメリットとして評価されています。Azureでは、高速で信頼性の高いインターフェース規格『InfiniBand』に対応しており、並列処理を実装する際にその性能が強く生きてきます。従来は数営業日必要があった処理も、朝に処理を開始すれば数時間後の夕方に結果を得ることが可能なレベルになり、ビジネス速度を劇的に向上し、DXを加速する要素にもなっています。前述したChatGPTなど上層のソリューションだけでなく、下層の基盤となるAzureは企業さまの資産のパフォーマンスを大いに引き出せるのです」

 Windows Server2012/2012 R2のサポート終了が残すところ1年に迫るが、これを契機としたAzure提案の有効性はどうか。佐藤氏は「古いサーバーを保有している企業さまが多いというニュースが聞かれますが、主要な業務に使われており、十分な管理対象となっているサーバーはリプレース済みのケースがほとんどです。しかし、社内の隅に放置された使われていないサーバーや重要性が少ない少数サーバーが残存している場合も散見され、扱いに困っているのが実情かと思います。まずはWindows Serverのサポートが切れるリスクを喚起し、サポート切れによって発生する無駄なコストを減らすためにクラウドに移行する道筋であれば、Azure移行に対して前向きな検討が期待できるのではないでしょうか」と指摘する。

少ないリソースをAzureで最大化

日本マイクロソフト
間瀬千里

 時代の潮流において確実性の低い今、インフラの変化やサプライチェーンの不安、さまざまな業種業態を想定した上での一つの成功法はなく、企業にとってその時々の最善な対応が求められる。こうした激流のさなかにある現代を見据え、Azureのビジネス市場への販売戦略を間瀬氏はこう締める。「当社ではユーザー企業さまに対し、より少ないリソースでより多くのことを行うことを Microsoft Cloudを通じてサポートすることを目指し『Do more with less』を掲げています。そのため、インフラストラクチャ、データ分析基盤、AI、機械学習などのテクノロジーに関して、他社に比類ないレベルのセキュリティやガバナンスを実装し、お客さまのビジネスにおける俊敏性と効率性を提供することでイノベーションを加速し、企業さまの成長を支援できればと考えます。世の中の変化へ対応するための移行による目の前のコストの軽減、Azure導入後のコスト、パフォーマンスの最適化、企業さまの競争力強化に向けたIT投資の三つのステップで、不確実性の高い環境下で成長を続けていくサポートを今後もAzureを通して進めていきます」

 三つの軸の最初となるクラウド移行について、同社では実績豊富なパートナー企業と移行検討、計画から支援する「令和のサーバー移行キャンペーン」を実施しているのでこの機会に活用できると良さそうだ。

マルチクラスターやIoTへの需要に対応する仮想化技術

仮想化技術を核とした四つの製品群で
企業のハイブリッドクラウド運用を支援

レッドハット
内藤 聡

 エンタープライズのLinuxディストリビューションをリードする「Red Hat Enterprise Linux」(RHEL)や、そのOS標準の機能として提供されているKVMハイパーバイザー「Red Hat Virtualization」といった仮想化製品で知られるレッドハット。同社の仮想化関連製品の販売戦略について、レッドハット テクニカルセールス本部 クラウドソリューションアーキテクト部 部長の内藤 聡氏は次のように語る。

「まず当社の仮想化関連製品として、オープンハイブリッドクラウドを実現するクラウド型統合管理基盤『Red Hat OpenStack Platform』があります。いわばIaaSを提供するための基盤となる製品であり、2022年度においては特に通信業界で堅調に販売実績を伸ばしてきました。またエンタープライズ向けのKubernetes『Red Hat OpenShift』は、第三者機関の調査でコミュニティ版のKubernetesを抜き導入ディストリビューションとして1位を獲得するなど、非常に高いシェアを獲得しています。一方で、2023年3月に情報処理推進機構(IPA)が発表した『DX白書2023』を見ると、国内企業においても変化に応じて迅速かつ安全にITシステムを更新する重要度が認められつつも、マイクロサービスやコンテナを活用する割合は1〜2割にとどまるなど、当社の仮想化関連製品を求めている潜在的なお客さまは、市場にまだまだ多く存在するでしょう」

多様な環境を統合的に管理

レッドハット
北山晋吾

 こうした日本市場の現状を踏まえ、レッドハットでは四つのプロダクト戦略を掲げている。

 一つ目はマルチクラスターへの対応だ。すでにコンテナを導入し、その活用を拡大させていくユーザー企業に対して、マルチクラスターに対応し高度な管理を実現する統合プラットフォーム「Red Hat OpenShift Platform Plus」(OPP)を提供する。IPAの調査から分かる通り、コンテナを活用している企業の割合は低い一方で、すでにコンテナを活用し複数のクラスターを展開している企業も多くなるなど、二極化が進んでいる。後者の企業に対して、より成熟した環境を提供するのがOPPだ。ハイブリッドクラウドでのアプリケーション市場投入に必要なサービスとして、アプリライフサイクル統合管理ツール「Red Hat Advanced Cluster Management for Kubernetes」、セキュリティ統合管理ツール「Red Hat Advanced Cluster Security for Kubernetes」、コンテナイメージ統合管理ツール「Red Hat Quay」、データ統合管理ツール「Red Hat OpenShift Data Foundation」、そしてハイブリッドクラウド基盤である「Red Hat OpenShift Container Platform」がパッケージ化されている。

「すでにOpenShiftを活用されているお客さまは、多様な環境が混在したハイブリッドクラウド環境になっているケースが多いです。そうした混在環境においてもコンテナワークロードの統合的な管理・保護を行い、エンタープライズの需要に応えるためにOPPを提供します。それぞれの製品を単体で導入するよりもコストパフォーマンスに優れており、すでに活用を進めているお客さまはもちろん、これからOpenShiftやコンテナの運用をスタートするお客さまにもお薦めです」と内藤氏。

エッジ需要に応える新製品を開発

 二つ目にマネージドサービスの拡大だ。「グローバルでは以前から展開していましたが、日本では最近マネージドサービスの展開をスタートしました。現在は、当社サービスのみならずAzureやAWS、IBM Cloudといったパブリッククラウド上でOpenshiftを使うお客さまや、国内のパートナー企業さまを経由してOpenshiftを活用されているお客さまに対してマネージドサービスを提供しておりますが、今後それをさらに拡大していくことで、企業での活用を支援していきます」とレッドハット テクニカルセールス本部 クラウドソリューションアーキテクト部 アソシエイトプリンシパルスペシャリストソリューションアーキテクト 北山晋吾氏は語る。

 三つ目に、クラウドネイティブアプリケーションの提供の加速だ。レッドハットではもともと「Red Hat Runtimes」「Red Hat Integration」と呼ばれるアプリケーション開発をサポートするためのミドルウェア製品群を提供していたが、直近でそれらをまとめたスイート製品として「Red Hat Application Foundations」の提供をスタートした。

 クラウドネイティブアプリケーションやコンテナアプリケーションを使っていく上で、エンタープライズが必要とする継続的な開発と安定かつセキュアなデプロイ機能に加え、APIインテグレーション、イベントストリーミング基盤、DBMSなどのイベントデータベースからのChange Data Captureやシングルサインオンといったアプリケーションに必要となる機能をセットでパッケージ化している。

 四つ目にエッジへの展開だ。IoTを活用していく上で必要になるのがクラウドだが、昨今ではデータ生成場所をクラウドアプリケーションに近づけて、ネットワーク接続に伴う通信やセキュリティといった課題を解消するエッジコンピューティングの活用が進んでいる。レッドハットはそうしたエッジコンピューティングの需要に対して、KubernetesやRHELなどを組み合わせ、リソースに制約のある小型デバイスにアプリケーションをデプロイできる「Red Hat Device Edge」の開発を進めている。現在デベロッパープレビュー段階であり、2023年後半に提供をスタートする予定だ。

「ユーザーさまからすると、これまでハードウェアを選ぶのと同じような感覚でクラウドサービスやプロバイダーを選ぶ時代に入ってきています。そうした時にこれまで仮想化レイヤーを提供してきたレッドハットにも進化が問われます。OSのエリアから一つ引き上げた抽象レイヤーとしてクラウド全般を抽象化していくことで、開発者にとって運用負荷の低い開発環境を実現できる製品群を提供していきます」と北山氏は語った。

日々変わりゆくビジネス環境に柔軟に対応

インフラからアプリケーション領域まで
柔軟性の高さで企業のビジネスを支援

 ハイパーコンバージドインフラストラクチャ(HCI)の先駆者として市場をけん引しているのが、ニュータニックスである。2009年の創業以来、技術革新を重ねながら、仮想化環境の構築・運用を行う企業を支えている。

「創業当初はデスクトップの仮想化に特化したソリューションだと思われていたフシもありましたが、時代の潮流に乗りながら技術革新を重ねてきました。現在は、HCIとその管理ソフトを進化させたハイブリッドマルチクラウドを実現する統合クラウドプラットフォーム『Nutanix Cloud Platform』を中心にビジネスを展開しています。企業におけるデジタル化が加速する中で、場所を問わずいつでも利用できるハイブリッドクラウド・マルチクラウド環境の実現や、AI・機械学習への活用などのさまざまな用途で多くのお客さまに広まっています」とニュータニックス・ジャパン シニア・プロダクト・マーケティング・マネージャーの三好哲生氏は話す。

ハイブリッドマルチクラウドを容易に実現

ニュータニックス・ジャパン
三好哲生

 Nutanix Cloud Platformは、ハイブリッド・マルチクラウドインフラストラクチャを構築するための安全性、負荷に応じて自動でスケーリングを行える弾力性、自己修復性を備えたプラットフォームだ。パブリッククラウドおよびプライベートクラウド、複数のハイパーバイザーやコンテナ、多様なコンピューティング、ストレージ、ネットワーク要件を持つあらゆる種類のワークロードとユースケースをサポートする。Nutanix Cloud PlatformはHCIを実現するテクノロジーを発展させた「Nutanixクラウドインフラストラクチャー」(NCI)、複数のクラウドを一元管理する「Nutanixクラウドマネージャー」(NCM)、ストレージ機能の「Nutanixユニファイドストレージ」(NUS)、データベースの管理を自動化する「Nutanix データベースサービス」(NDB)、仮想デスクトップを提供する「デスクトップサービス」の五つのソリューション群で構成される。詳細は以下の通りだ。

・NCI:コンピューティング、ストレージ、ネットワーク、ハイパーバイザー、コンテナを含めたハイブリッドマルチクラウドインフラストラクチャ全体を統合する。ディザスタリカバリ機能やセキュリティも備えている。
・NCM:アプリケーションの自動化、ガバナンスなどを提供し、ハイブリッドマルチクラウド環境の管理を簡素化できる。ニュータニックスの環境だけではなく、AWS、Azureなどのさまざまなクラウド環境にも対応し、横断的な管理が可能。
・NUS:ブロックデータ、ファイルデータ、オブジェクトデータ、バックアップデータに対応し、単一管理インターフェースからクリック一つであらゆるデータを管理・階層化・複製することが可能。どのデータを誰がどのように利用しているのかをリアルタイムに把握できる分析サービス「Nutanix Data Lens」を提供し、データの管理と制御・セキュリティの自動化を推進する。
・NDB:データベースの立ち上げ、スケーリング、パッチ当て、バックアップ、ディザスタリカバリなど、データベースに関する管理作業を自動化できる。全てリモートでWeb管理コンソールから実施でき、世界中に跨る多数のデータベースの一括運用が可能。
・デスクトップサービス:仮想アプリケーションとデスクトップを提供。ネットワーク環境があれば、パブリッククラウドやプライベートクラウド上で仮想化したデスクトップやアプリケーションを稼働させ、「いつでも」「あらゆる場所から」「どんなデバイス」でもアクセスできる。

 Nutanix Cloud Platformの特長について三好氏は次のように説明する。「Nutanix Cloud Platformは、導入後からシンプルに運用・管理できることが特長です。幅広いクラウド環境で運用でき、複数の管理ツールを使用しなければならないといった複雑さもありません。運用保守においても、暗号化を使用したデータの包括的なセキュリティや自己修復機能などが搭載されているため、万が一障害が発生した場合でもビジネスを止めることなく、安心してお使いいただけます」

NPSで9年連続90点以上を獲得

 ハイブリッド・マルチクラウド環境を実現するためには、技術とプロセスの二つの側面で、クラウドシフトへの支援が欠かせない。ニュータニックスでは、無償で利用できるクラウド移行ツールである「Nutanix Move」を提供している。

「ドライバーのインストール、ネットワークの切り替えなど、クラウド移行にかかる作業を全て自動で行えます。ニュータニックス環境への移行ももちろん、ニュータニックス環境からほかのクラウド環境への移行も可能です。さまざまな選択肢をお客さまに提供しています」(三好氏)

 Nutanix Cloud Platformは、大規模から小規模まで多くの導入実績を持っている。企業から自治体まで、業種業態を問わず幅広く利用できることも強みだ。高いスキルを持つ同社のエンジニアによる充実したサポート体制も好評で、企業やブランド、製品などに対する顧客からの信頼・愛着といった価値を数値化した指標「Net Promoter Score」(NPS)では、9年連続で90点以上を獲得している。

 ニュータニックスでは、日本における2023年度の事業戦略について、「顧客の『ビジネスアジリティ』向上を実現する新たなワークロードの推進」「『ハイブリッドマルチクラウド化』を支援するサービスの強化」「多様なクラウドジャーニーを実現するパートナーエコシステムの拡充」「CX向上に向けた組織・体制の強化とSXの実現」の四つの領域に注力していくことを掲げている。「これからも企業のデジタル化はどんどん進み、ハイブリッドマルチクラウド環境を志向する企業も増えていくでしょう。今後も当社では、Nutanix Cloud Platformを中核として、インフラからアプリケーション領域まで幅広くビジネスを加速させていきたいと考えています」(三好氏)