情報システムに携わる人にとって「インテル® vPro® プラットフォーム」(以下、vPro)は、ビジネスPCになくてはならない管理環境とセキュリティ環境として広く認知されている。またオフィスでPCを利用するユーザーも、PCの筐体に貼り付けられた「vPro」のシールを見たことがあるだろう。そのvProの需要がここ数年、急上昇を続けているという。その理由とvProがもたらすビジネスチャンスについて、インテルで長年にわたりvProのマーケティング活動に携わってきた執行役員 マーケティング本部 本部長 上野晶子氏に話を伺った。

vProはクリーンルームの中にあるPCを
リモートで管理するために開発された

インテルはスペイン・バルセロナで開催された世界最大級モバイル展示会「MWC 2024」に出展し、2月27日(現地時間)に「インテル® Core™ Ultra プロセッサー」および「第14世代 インテル® Core™ プロセッサー」を搭載する2種類の「インテル® vPro® プラットフォーム」を発表した。前者はモバイル向け、後者はデスクトップ向けの製品だ。

 まず「インテル® vPro® プラットフォーム」(以下、vPro)についておさらいをしておこう。vProはPCをビジネスで利用する上で必須となるリモート管理やセキュリティ強化、安定性などを提供する、インテルCPUと共に提供されるプラットフォームだ。vProを搭載したPCを導入している企業では、このプラットフォームを利用した各種ソフトウェアを通じてPCの管理の効率化やセキュリティの強化などが実現されている。

 vProが提供されたのは、今から18年前の2006年のことだ。vProの遠隔管理技術が生まれたきっかけの一つが、当時社内のPCの管理を担当していた情報システム(以下、情シス)担当者のニーズだった。情シス担当者にとって社員のPCの管理は手間のかかる業務であり、夜中や休日に現場へ赴いて対応することもあるなど辛い業務でもある。

 上野氏は「当社は半導体メーカーなのでクリーンルームの中でもPCを使用します。そのPCが故障した場合、クリーンルームに入室するだけでも手続きに時間がかかり、すぐに対応できないという課題がありました。そこでPCに直接触れずに遠隔で保守する方法が必要だと考えたことも、vProの遠隔管理技術が生まれたきっかけの一つです」とvProが生まれた背景を説明する。

 半導体メーカーに限らず製造業では容易に入ることができないエリアが多く存在する。さらに運用するPCの台数が多い企業や、遠隔地に拠点のある企業などにも、vProのリモート管理機能が役に立つ。当初は社内のニーズから考えられた仕組みであったvProが、広く企業に提供されるようになったのはこうした経緯からだ。

 vProが提供する仕組みは、インテル CPUがもたらすパフォーマンスによるユーザーの生産性向上と、リモート管理による情シス担当者の業務の効率化、強固なセキュリティの提供、そしてPCのシステムとしての安定性の実現という四つの仕組みであり、これは今も不変だ。そしてインテルが持つテクノロジーの進化とともに、vProが提供する機能も進歩している。

社内のPCへのリモートアクセスで
日本のリモートワークも支えている

インテル
執行役員
マーケティング本部 本部長
上野晶子

 vProはビジネスPCの利用環境の変化や将来普及するテクノロジーを見越して、テクノロジーを先取りしている点も見逃せない。上野氏は「vProには提供当初より情報セキュリティ対策を支援するさまざまな技術が搭載されてきましたが、2019年からは『インテル® ハードウェア・シールド』という形で整理・統合され、OSよりも下のレイヤーを守る仕組みが提供されています。以前はアプリケーションやOSなどのソフトウェアレイヤーが中心だった攻撃対象が、ここ数年でファームウェアやBIOSなど、さらに下層レイヤーへ急速に拡大しています。こうした攻撃から企業の重要な情報を保護するにはインテル® ハードウェア・シールドが必須になっています」と説明する。

 日本の企業のリモートワークを支えているのもvProだ。リモートワークはコロナ禍への対応に伴い急速に普及したが、それ以前も働き方改革に取り組む企業や、早くからモバイル活用を推進していた企業において、いわゆるモバイルワークが導入されていた。しかしPCの持ち出しを禁止する企業が多く、リモートワークを実現する手段の一つとして、社内にあるPCに社外の端末からリモートデスクトップ接続などでアクセスしていた。

 リモートアクセスでは通常、アクセスするPCの電源を常時入れておかなければならない。しかしノートPCの場合、電源を入れっぱなしにしておくと電源やバッテリーの寿命が短くなってしまうほか、攻撃の対象になりやすいなどのリスクが生じる。そこでPCの電源を遠隔で操作できるvPro搭載PCが利用されるようになった。

 コロナ禍を経てリモートワークが普及した現在も、PCの持ち出しを制限している企業は少なくない。現在のリモートワークにおけるvProの活用状況について上野氏は「全国の都市で再開発が進み、オフィスを新しいビルに移転する企業が増えています。移転の際に有線LANを廃止して無線LANのみを導入するケースが多く、社内のPCに無線LAN経由でリモートアクセスできる仕組みが求められています」と指摘する。テクノロジーを常に先取りして進化を続けているvProは、こうした要望の変化に対応しながら日本の企業のリモートワークを支えている。

新しいビジネスを生み出す
エコシステムも提供する

 前述の通りvProはビジネスPCになくてはならない管理環境とセキュリティ環境として、提供を開始した当初より情シス担当者に受け入れられてきた。しかしvProが現在のように普及するまでに苦労も経験したという。

 上野氏は「日本ではPCの保守・管理をベンダーやSIerなどのITパートナーにアウトソーシングするケースが多く、既存のビジネスへの影響を警戒されることもありました。しかし人手不足の深刻化や情シス業務の内製化、戦略的な情シス業務への変革など環境やニーズが大きく変化しており、vProが広く必要されるようになっています」という。

 さらに「サイバー攻撃のリスクが深刻化しており、被害も甚大になることから企業や組織のセキュリティ対策への意識も強くなっています。ソフトウェアだけではなくハードウェアを含めて情報資産を守るためにはvProが提供するインテル® ハードウェア・シールドが効果的であると評価されています」などが、ここ数年vProの需要が急上昇を続けている理由だ。

 市場にはvProを搭載したビジネスPCが広く流通している。ただしvProを搭載したビジネスPCを導入しただけでは、vProのメリットを生かすことはできない。vProの機能を利用したアプリケーションの導入や、vProの機能をPCの管理やセキュリティ対策などに取り入れる開発が必要だからだ。

 上野氏は「vProはビジネスPCの管理やセキュリティ対策などのプラットフォームであるとともに、ビジネスのプラットフォームでもあります。ISVやSIerがvProを活用した独自のソフトウェアやサービスを開発して提供することで、新たなビジネスを生み出せます」と強調する。

 vProのエコシステムはすでにグローバルで構築されており、多くのビジネスを生み出している。例えばDaaSとvProの「インテル® EMA(エンドポイント・マネジメント・アシスタント)」を組み合わせてPCのヘルプ対応を効率化したり、PCへのセキュリティパッチの適用を自動化したりするなどのソリューションがある。

 インテルでは「PC匠道場」や「vPro友の会」などのコミュニティを提供するなど、vProの効果的な活用の促進と、vProを活用したソフトウェアやサービスの開発を支援している。上野氏は「企業にはPCに関するさまざまな課題があり、それらはビジネスチャンスにつながります。vProでPCの管理やセキュリティ対策に関する話題を提供し、PCに関する課題について話を広げていくことでビジネスを発掘していただきたいと考えています。PCに関するさまざまな課題の解決に、インテルの豊富なテクノロジーが役立つはずです」とアピールする。