電子レシート×販売促進が生み出す価値

-Retail Tech- 三徳

買い物の支払いにも非接触が求められる昨今、しかしレシートの受け渡しはいまだ必要な状態だ。今回は電子レシートシステムを導入した三徳に、キャッシュレス・レシートレスの買い物体験について聞いた。

実証実験から利用継続の要望が

 東京都内に27店舗、千葉県に2店舗、神奈川県に4店舗のスーパーマーケットを展開する三徳は、創業以来「健康・安全・安心・美味」を追求し続けている。健康によく、美味で環境に優しい商品。これら全ての要素がそろった“本物”の食品を提供し続けることが使命であり喜びであるとする三徳では、顧客に対して真の“おもてなし”ができる従業員作りを目指している。

 顧客へのさらなる利便性向上を目指し、三徳が導入したのが東芝テックの電子レシートサービス「スマートレシート」だ。導入のきっかけは2018年に東京都町田市で行われた、経済産業省および国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の電子レシートの標準データフォーマットおよびAPIに対応した電子レシートプラットフォームの実証実験だ。東芝テックが受託事業者となり、三徳を含む6社が店舗協力として参加した。

 三徳は本実証実験に町田市内の4店舗で参画したところ、顧客からのアンケートで電子レシートを継続して利用したいという声が多くあったのだという。また、スマートフォンの普及が進み、今後電子レシートの普及は確実に広がっていくと感じたことや、競合他社に先駆けて導入することで、顧客の囲い込みにつながる可能性を感じたことも導入を決めた背景にある。

キャンペーン機能でメーカーにも利益

 実際にスマートレシートを利用する中で、三徳が特に気に入っているのがキャンペーン機能だ。各消費財メーカーが店頭はがきなどで実施するキャンペーンをスマートレシート上で実施している。

 はがきでの応募と比較して、スマートレシートからの応募は圧倒的に多く、各メーカーからも好評だという。中にはスマートレシートだけの限定キャンペーンを実施するメーカーもいるそうだ。

 スマートレシート上でキャンペーンを実施できることで、はがきや事務局のコストを抑えられ、その分顧客に還元できるキャンペーン企画が打てるようになるなど、メーカーにとってもメリットが大きい。

 もちろん顧客の利便性向上にも、スマートレシートは効果を発揮している。レシートを受け取らなくて楽になった、自分で集計しなくても自動で集計されるようになった、家計管理が楽になったといった好意的な声が多いという。

 コロナ禍において、多くの小売店舗で現金やレシートの受け渡しに配慮が求められている。三徳もそれは例外ではなく、自社の電子マネーカード「Santokuコジカカード」とスマートレシートを連携することで、金銭やレシートの受け渡しを一切せずにレジ会計を終えられるようにしている。

 今後も、顧客も従業員も安心で安全な店舗の提供を継続して進めていく方針だ。

1.東芝テックのスマートレシートアプリは、その店舗の会員カードがない場合、ホーム画面のバーコードを読み取ればレシートを電子化できる。会員カードがある場合は、連携操作を行うことで、会計時にカードを提示するだけでレシートの電子化が可能になる。
2.スマートレシートで電子化されたレシートをもとに、9種目の費目に振り分けされた家計簿が自動的にできあがる。わざわざ購入した金額を打ち込む必要がなく、消費者にとって非常に利便性が高い。

リテールを支える“三方よし”の電子レシート

-Retail Tech- 東芝テック「スマートレシート」

売り手よし、買い手よし、世間よしを表わす“三方よし”。それを実現するのが電子レシートシステムだという。レシートのデジタル化にとどまらないその仕組みを聞いた。

震災をきっかけに着想

スマートフォンでレシートが確認できる電子レシートアプリ「スマートレシート」。非接触が求められる今、またキャッシュレス決済の普及率が向上している現在、まさに求められているサービスだが、東芝テックが本製品の提供をスタートしたのは2014年10月31日からと、非常に早い段階からレシートの電子化に取り組んでいる。その開発のきっかけとなったのは、2011年に発生した東日本大震災だ。

「日本のレシートロール紙の元となる紙を作っている製紙会社の3カ所のうち2カ所が、東日本大震災で被災しました。紙の供給が枯渇したため、中国や韓国などからロール紙を輸入するなどしていましたが、日本のレジに合わず故障するトラブルなどが生じていました。そうした有事の対応から、今後個人の所有デバイスがスマートフォン主流になっていく中で、レシートをペーパーレスにするという着想が生まれました」と東芝テック リテール・ソリューション事業本部 マーケティング統括部 スマートレシート担当 グループ長 吉村 真氏は語る。

 その着想をもとに電子レシートの描く未来を想定し、スマートレシートの特許を取得した。しかし当時はスマートフォンの普及率があまり進んでおらず、実用化には至らなかった。「特許は1年半~2年ほどで公開されるのですが、その内容を見た広告代理店からスマートレシートの発案者に問い合わせがありました。注目されたのは、スマートレシートに搭載されている広告機能です」(吉村氏)

キャンペーン応募をアプリで完結

スマートレシートには、デジタル化したレシートを閲覧できる機能のほか、キャンペーンやクーポンを利用する機能が搭載されている。例えば特定の商品を購入したことで応募できるキャンペーンの情報が配信されるため、ユーザーはそれに応募して商品などを獲得できるのだ。「従来であればコンビニや大型の商業施設などでしか実施が難しかったキャンペーンを、小規模な小売店でも実現できる点に非常にポテンシャルがあるという意見をいただきました。そこで実際に利用効果を検証してみようと、みやぎ生活協同組合さまと協力して実証実験を行ったのが2013年8月のことでした」と吉村氏。その実証実験では、生活者、小売業、取引先の3者ともに非常に好評だったという。そこで製品化に至ったのが、冒頭で述べた2014年のこととなる。

 あらためてスマートレシートの機能を見ていきたい。まず電子レシート機能。保証書貼付用レシートも電子化されており、保証書対象商品購入時レシート一覧に表示される。また、キャンペーン機能では前述したように、店舗で実施しているキャンペーンに参加できる。

「このようなキャンペーンは、従来缶コーヒーに貼られたシールやはがきなどで行われてきました。しかし、スマートレシートのキャンペーンであればアプリ上ですぐに応募できるため、従来のキャンペーン手法と比較して10倍近い効果が得られます」と吉村氏は語る。

 クーポン機能では、企業や店舗軸で利用可能なクーポンを表示できる。また、企業単位で利用可能なスタンプカード機能も用意しており、スタンプ条件に合致する買い物レシートが発行されると自動的にスタンプが押される。

小売店にとってのエコシステムへ

紙のレシートを削減できるスマートレシートはレシート用紙の消費が減るため環境のためにもよいツールです。小売店の顧客にとっては、『レシートで財布が膨らむ』といったお困りごとを解決できるだけでなく、クーポンやキャンペーンなどのお得な情報も、店舗を横断して本アプリで確認できるため非常に高い利便性があります。また、小売店にとってはスマートレシートを導入することで、販売促進に活用できます。キャンペーンやクーポンはもちろんのこと、消費者側の購買行動データをもとに販売戦略を立てることが可能になります」と吉村氏。

 例えば自身の店舗で特定の商品の販売が伸び悩んでいる際、従来であればその原因を特定するには自店舗内の原因分析にとどまっていた。しかしスマートレシートであれば周辺のスマートレシート導入店舗における消費者の購買動向データも確認できるため、立地や周辺店舗の状況などをもとに、データに基づいた戦略を立てられるようになる。

 実際にスマートレシートを2019年11月20日から利用をスタートした渋谷PARCOでは、消費者の買い物履歴に商品データが加わってよりきめ細かな分析・学習が行えるようになることで、来店前・来店中・来店後の最適なタイミングで情報配信することを目的に導入している。

 渋谷PARCOでは、パルコ公式アプリ「POCKET PARCO」にスマートレシートを連携し、アプリのコンテンツの一つとしてスマートレシートを活用できるようにしている。

 スマートレシートを活用することで、小売店や卸、消費者、そして社会が“三方よし”となる世界にしていきたいと話す吉村氏。

 電子レシートにとどまらない小売店にとってのエコシステム構築に向けて、スマートレシートはこれからの拡大も続けていく。

スマートレシートのホーム画面。単体のアプリとしても提供されているが、小売店が提供しているアプリとスマートレシートのWebブラウザー版を連携して小売店アプリの1機能としても使える。
電子化されたレシートはアプリ内で確認できる。応募可能なキャンペーンがある場合は表示されるため、お得な情報を見逃さずに済む。
「対象店舗で商品を購入すると○○がもらえる!」といったキャンペーンをアプリ上で実施できる。はがきなどで実施していたキャンペーンを効率化でき、便利だ。
企業単位で利用可能なスタンプカードをスマートレシート内に作成できる。スタンプ条件に合致する買い物レシートが発行されると、自動的にレシートが付与される。