製造業・電力業のデータ活用を効率化する
統合的なIoTプラットフォームをAWS基盤で展開

製造業や電力業などの工場では、IoT技術によって設備の稼働管理を行っているケースも少なくない。しかし、IoTによって取得したデータを全社横断的に活用することは難しい。そうしたデータ活用の課題に対して、三井情報は基盤にAWSを採用した「IoTプラットフォーム構築支援サービス on AWS」を提案している。

Lesson1 企業変革力に不可欠なデジタル化

今月の講師
三井情報 デジタルトランスフォーメーションセンター
産業ソリューション営業部
第二営業室 マネージャー
久利生大輔 氏

コロナ禍で急速に変わる社会に変化するため、ビジネスシーンの姿も大きく様変わりした。そして、その変化が求められているのは製造業など他業種も同様だ。

 不確実性の高まる世界における日本の製造業の現状と課題について分析した「2020年版 ものづくり白書」(経済産業省、厚生労働省、文部科学省発表)では、不確実性に対応するためには、製造業の企業変革力(ダイナミック・ケイパビリティ)を高める必要があり、その際にデジタル化が有効になると示されている。このダイナミック・ケイパビリティは、「感知」「捕捉」「変容」の三つの能力が求められるとUCバークレー校ビジネススクール教授 デビッド・J・ティース氏により提唱されている。これら三つの能力を高めるためには、データの収集・連携、AIによる予測・予知といったデジタル化が不可欠となる。

 その一方で、製造業におけるデータ活用は進められていない。背景には、データを収集するIoTソリューションはツールによって通信方式やデータ形式が異なることがある。それぞれのデータを連携するIoTプラットフォームを構築するためには、センサーや設備を提供する企業や、データの蓄積基盤を構築する企業との調整が必要となり、現場担当者の負担になっていたのだ。

Lesson2 全社横断的なIoTプラットフォームに需要

こうした製造業のデータ活用における課題を受けて、三井情報が提供をスタートしたのが「IoTプラットフォーム構築支援サービス on AWS」だ。本サービスは製造現場の設備やセンサーのデータをアマゾン ウェブ サービス(以下 AWS)上で収集、蓄積、可視化から時系列分析までを行うIoTプラットフォームの構築を支援するものだ。

 本サービス開発の経緯について、三井情報の久利生大輔氏は「電力業や製造業のお客さまから、全社横断的なIoTプラットフォームを構築し、デジタルトランスフォーメーション(DX)を加速させたいというニーズは非常に多くあります。しかしデータ収集、蓄積、活用という三つをトータルでサポートできるソリューションはなかなかありません。特に課題となるのがデータ活用の部分で、1社のソリューションでは解決しないという問題があります」と語る。

 三井情報はこれまで、空調制御の「GeM2」や太陽光発電監視サービスなど、自社SCADA(Supervisory Control And Data Acquisition)を活用したオリジナルのサービスを運用していた。また、米国のOSIsoftが開発したリアルタイムデータ管理ソフトウェア「PI System」や、米国のSeeq Corporationが開発した時系列データ分析ツール「Seeq」の国内販売代理店として、電力業や製造業のDXの支援を推進している。それらの経験から導入先の運用負荷、基盤がクラウドで統合されていることが企業担当者にとっても負担がからないため、AWS上でIoTプラットフォームを構築できる本支援サービスの提供を決めた。

Lesson3 工場でのパブリッククラウド利用が進む

 海外事例を見ると、工場関連システムのクラウド化が進んでいるという。特にデータ活用部分は、米国がもともとリモートワーク主体の働き方であったことから、クラウド化が顕著だ。海外の流れから、日本の工場関連システムにもクラウド化の流れが起きると判断し、今回のサービス提供に踏み切ったという。実際、直近1~2年で国内の大手製造業がパブリッククラウドを利用する事例も出てきている。「電力業も製造業もセキュリティの不安から、オンプレミスシステムを利用するケースが多くありましたが、特にDXを推進させる分析の業務は、日本国内でもクラウド化が進むでしょう」と久利生氏。

 本サービスではAWS上に、各機械から出力されるデータを安全にPI Systemに送信するゲートウェイ「MKI Intelligent GW」、PI System、Seeqサーバーおよび、リレーショナルデーターベース「Amazon Aurora」の構築を支援し、各システム間連携にかかる負担を軽減することで、企業のデータ活用を後押しする。

「企業のデータ活用にはさまざまな要望があります。はじめはPI Systemのデータから始めて、将来的にはERPのデータとも組み合わせた分析を行いたいというニーズや、データサイエンティストだけでなく事業部門の担当者にも、さまざまな視点で分析をさせたいといった要望です。これらの要望に合わせてデータ数とユーザー数は大きく変動するため、柔軟にリソースを変更できる点が重要になります。AWSはリソースをボタン一つで変更できますし、機械学習の機能も充実しており、プラットフォームで蓄積したデータをAWSの機械学習と連携させるような活用も将来的に実施できると判断し、本サービスの基盤として選択しました」(久利生氏)

Lesson4 データクレンジングの負荷を大幅低減

 機械学習は、取り組む前のデータ収集と前処理が重要だ。特に前処理の中で、データのエラーやノイズ、欠損値を除去する「データクレンジング」をしなければ、機械学習には移れない。そうしたデータクレンジングを、本サービスに含まれるSeeqは柔軟に行える。久利生氏は「Seeqでデータクレンジングを行うことで、データ活用の負荷を大きく下げられます。企業さまからは、Seeqによってデータクレンジングしたデータをツールに流し込んで、より業務効率化を実現したいという声をよくいただきます」と語る。

 製造業、電力業等の工場では、すでにIoTによるデータ蓄積は行われており、本サービスはその蓄積されたデータに対して、プラスアルファでの統合的な分析機能を提供する。特に工場内で蓄積されたデータを解析するのは、工場から離れた本社のDXチームであるケースが多い。その場合、データだけを見ても状況が把握できなかったり、解析に役立てられなかったりするのだ。そうしたシステムに連携した分析を本サービスを利用することで実現できるようになる。

 また、AWSは同サービス上の機能を管理画面から利用できる点もメリットが大きい。オンプレミスの場合は、外部のサービスと接続する際にどう接続するかといった議論からスタートする必要があるが、AWSであれば必要な機能をユーザー自身が追加して、柔軟に運用できる。データ活用や分析からスタートして、さらなる業務効率化に取り組むことが可能になるのも、パブリッククラウドであるAWSを利用するメリットになると言えるだろう。