
エプソン、キヤノン、ブラザー、OKIのニューノーマル時代のプリンター戦略
紙業務を支えてきたプリンターのこれから
Chapter.3
デジタル化によるペーパーレスが進行しているとはいえ、業務で紙を使用するケースはまだまだ多い。
紙業務を支えてきたプリンター・複合機のこれからの狙い所を各メーカーに聞いた。
エプソン販売
インクジェットの拡販に注力
手戸氏 エプソンはオフィスから家庭用までプリンター・複合機の幅広いラインアップをそろえています。その中でコロナ禍の影響を受けたのは、オフィスのプリントボリュームでした。ただし、在宅でのプリント需要が増加したため、全体としての影響はそれほどありませんでした。
今後の見通しはなかなか見えにくい部分もありますが、従来から取り組みが始まっていた働き方の見直しは加速するはずです。オフィスに限らず、在宅環境やシェアオフィスなど働く場所が多様になる中、プリンターや複合機を使用する場所も分散していくでしょう。その際、導入しやすいビジネスインクジェットプリンターに強みを持つ当社製品のラインアップが生きてくるはずです。
インクジェットプリンターはレーザープリンターと比較してランニングコストが非常に低く、プリント速度や耐久性も遜色ありません。にじみにくい顔料インクの採用でビジネス文書はもちろん、幅広い用途のカラー印刷に最適なプリンターとなります。さらに当社のインクジェットプリンターは熱を使わずにインクを吐出するマイクロピエゾ技術を採用しているため、ヒートフリーを実現しています。低消費電力でエネルギーとコストも削減できるのです。また、交換部品なども少量で済むために廃棄物を抑えられるなど、環境負荷も低減できます。
これらの特性から、当社ではオフィスなどビジネスの各領域でレーザープリンターからインクジェットプリンターへの移行を促進しているのです。
具体的な製品戦略においては、大容量のインクタンクを搭載したビジネス向けのインクジェットプリンター4機種を7月に新たに発売しました。A3ノビ対応カラーインクジェット複合機「PX-M6712FT」「PX-M6711FT」、A4対応カラーインクジェット複合機「PX-M791FT」、そして顔料黒と染料カラーのA3ノビ対応カラーインクジェット複合機「EW-M5610FT」です。特にPX-M6712FT、PX-M6711FT、PX-M791FTは、コンパクト設計による高い設置性や、新開発の全色顔料インク搭載による高画質、高速印刷、耐久性向上などによる高い生産性を実現しています。
いずれも発売から数カ月が経過していますが、大変好評です。大容量のインクタンクを搭載したビジネス向けのインクジェットプリンター製品をお待ちいただいていたユーザーも多く、ビジネスから店頭などあらゆるチャネルから注文をいただいている状況です。
現在、当社では主に医療、文教市場における活動を強化しています。例えば医療関係のユーザーに対しては、ビジネスインクジェットの持つ低コスト・高速ファーストプリントを訴求し、使い勝手やコスト改善を提案しています。文教市場に対しては、低コスト・省スペースであるA4対応のビジネスインクジェットを各教室に配備し、子供たちの学びを深める活動をしていきます。
プリントコストが低いインクジェットプリンターならば、コスト面からカラー印刷を我慢していたユーザーに、コストを気にせずに印刷できる環境を提供できます。インクジェット製品はカラー印刷の潜在ニーズも掘り起こせるのです。
「宅環境やシェアオフィスなどプリント環境が分散する中で、ビジネスインクジェットの強みを訴求していきます。」
キヤノンマーケティングジャパン
業務の変化に応じた製品を提案
阿部氏 これまでも会議のオンライン化や紙文書のデジタル化によるペーパーレスが緩やかに進んできました。新型コロナウイルスはその流れを加速させてはいますが、一気にペーパーレスになるわけではありません。こうした状況下で、例えばテレワークや自宅学習に対応するために在宅でのプリント需要が伸びるなど、新たな流れも生まれています。
政岡氏 現在はデジタルワークフローへの切り替えの過渡期にあり、この時期にどのような製品、サービスを提供できるかが鍵になるでしょう。業種ごとの業務の変化を把握していくことがポイントになります。また、少子高齢化に伴う労働人口の減少もあり、今後は少ない人数で効率的に業務を行える環境が求められるでしょう。プリンターや複合機とその他のIT商材を組み合わせて無駄をなくした業務を実現できるような提案も必要になります。
佐藤氏 例えば在宅環境は、管理者の手の届かない部分になるため、設置がしやすかったり、タッチパネルなどで誰もが直感的に操作できるプリンターが求められるでしょう。モバイルデバイスから手軽に印刷できる機能も必須です。さらに、クラウドと連携してクラウド上にあるデータをセキュアに印刷できたりするような機能も同様です。機種としては、在宅需要でもA4対応の複合機の販売が顕著に伸びていくでしょう。スキャン機能を利用した紙文書の電子化でペーパーレスを促進できる点に魅力を感じられているようです。一方、オフィスでは紙文書を複合機で電子化し、AI OCRによって文字認識まで実現するようなシステム構築も進んでいます。
阿部氏 そうした際にもやはり操作性がポイントになります。複合機で紙文書を単純に電子化するだけでなく、業務に合わせてNASやクラウドサービスにワンボタンで保存できるような体制を作れる製品が良いでしょう。例えば当社の製品では「アプリケーションライブラリ」という機能で実現できます。「いつもの文書を印刷する」「消耗品情報を確認する」など使用頻度の高い操作や便利な機能をアプリケーション化し、ホーム画面からボタン一つで実行できる機能です。アプリケーションライブラリの活用によって、作業の時間短縮や精度の向上を実現させられるのです。
佐藤氏 これからも印刷ニーズが期待できる現場としては、医療現場や流通小売現場があります。高齢化が進む中で医療現場での印刷需要はなくならないでしょう。また、小売店舗などの販売現場においては、POPやチラシといった視認性の高い印刷物のニーズも強いです。そうした医療や流通小売現場、SOHO向けには、当社のコンパクトなA4対応カラーレーザー複合機「MF644Cdw」などがお薦めですね。
政岡氏 当社は、複合機やプリンター向けの「NETEYE(ネットアイ)」という見守りサービスも提供しています。これは、インターネットを通じてユーザーの製品の稼働状態や消耗品残量などをリアルタイムで把握し、故障・予兆監視、消耗品の自動配送などの迅速な修理・保守サービスを提供します。このようなサービスを活用していただくことで、プリンターや複合機の管理負荷の軽減も可能になるのです。
「現在はデジタルワークフローへの切り替えの過渡期です。業務の変化を把握した上でのプリンター提案が不可欠です。」
ブラザー販売
多彩な製品のクロスセルが魅力
兼広氏 4月以降、在宅での印刷需要が伸びていて、A4対応製品を中心に販売が好調です。インクジェット、レーザーいずれも成長しています。例えば当社のレーザー製品はセルインベースで4~9月の昨対比が120~30%程を記録しました。各地のロックダウンの影響で生産が滞った時期もありましたが、それも現在は回復しています。コンパクトスキャナーも売れており、こちらもセルインベースで4~9月の昨対比150~200%超の伸びを示しています。紙文書の電子化需要が高まったのが要因です。テレワークの普及もあり、紙文書を整理してどこからでもアクセスできるようにするのが目的でしょう。
オフィス業務のデジタル化が進行していますが、電子化するものと紙で使い続けるものはまだまだ共存していくのではないかと考えています。
例えばスキャナーで電子化されるのは、保管したり証拠として残したりするものなどが多く、プリンターで印刷されるのは考えたりする際に使われるものになるのでしょう。対面で顧客に提案する際の資料なども紙がまだまだ使われるのではないでしょうか。
当社製品はコンパクトな筐体に機能をギュッと詰め込んだ高いコストパフォーマンスがウリです。例えばインクジェットであれば、6色のインクを搭載する他社製品もありますが、当社は購入時と利用時のコストパフォーマンスを考慮して4色にこだわっています。ユニークな機能としては、のしや送り状などへの印刷にも対応しています。
これからの時代には、プリンターや複合機もクラウドベースで利用できることが重要です。当社の製品ではWebでプリンターや複合機を管理できるサービスを提供しています。また、スマートフォンやタブレットからの手軽な印刷を可能にするアプリケーション「Brother iPrint&Scan」も用意しています。iOSデバイスやAndroidデバイスから指示が出せるだけでなく、プリンターや複合機のステータスの管理なども可能です。複合機でスキャンしたデータはMicrosoft OneDriveやBox、Google Driveなどに直接保存でき、いつでも確認できるのです。さらに、メールに添付したファイルを簡単に印刷できる「Eメールプリント」機能なども用意しています。
当社のプリンターは、インクジェット、レーザー、モバイル、ラベルなどバラエティー豊かなラインアップも魅力です。さまざまな製品を掛け合わせたクロスセルが可能な点を、販売パートナーの皆さまにも喜んでいただいています。例えば、小売業などでコンパクトなインクジェットプリンターを1台提案できれば、続けてラベルプリンターの提案にもつなげられたりします。病院などでも同じですね。製造や物流の現場でもラベル印刷の需要が見込めます。
これからもエンドユーザーのペインポイントを掘り起こして、最適なソリューションを提案できる製品とサービスを増やしていきます。さらに、医療や製造、物流など業種ごとの取り組みも強化しつつ、横展開も可能なソリューションの提供を図っていきます。
「インクジェット、レーザー、モバイル、ラベルなど豊かなラインアップを用意し、クロスセルを可能にしています。」
沖データ
強みを生かせるのは「現場」
森氏 デジタル化やペーパーレス化が進行する中で、プリンター事業のライフサイクル自体は成熟期を越えた状況へと移行しています。コロナ禍でその状況は加速しました。デジタル化やテレワークの導入を先んじてきた大企業を中心にプリンターや複合機のオフィス用途は減少しています。
その一方で、生活に密着した医療現場や流通小売現場などでは、プリント需要の向上が期待できると考えています。プリント需要が二極化、三極化していく中、プリンターメーカー各社は独自の色をどう出せるかが鍵になっていくでしょう。そうした状況下でOKIデータの強みはどこにあるのかと自問したときに出てきたのが「現場」という答えでした。
これまでもオフィス用途におけるプリンター製品には、それほど課題はありませんでした。しかし、店舗などの現場では、プリンター利用において課題を抱えているユーザーはたくさん存在します。そうした課題の解決において当社が他社に勝てる強みは、LEDプリントヘッドの内製による小型化と高性能、ユーザビリティにあると考えました。そこで、それらの要素を思い切って先鋭化した製品の開発に踏み切ったのです。これは自動車メーカーのマツダが、クルマをゼロからつくり直すというチャレンジの結晶として生み出した「SKYACTIV TECHNOLOGY」の思想にも触発されています。マツダさんは当社プリンターのユーザーでもあり、大いに感銘を受けました。
実際には4年半前から当社の技術を総ざらいして、部品なども全て見直した製品の開発に取り組みました。そして、新しい基幹システムである「Space Saving Technology」を搭載した新製品を昨年から発売し、今年の10月にはA4対応カラーLEDプリンターのフラッグシップモデルとなる「C650dnw」を発表したのです。新製品は、省スペースと高性能を両立し、全てのメンテナンスを前面から行えるようにしたり、内部冷却エアフローの見直しで、左右に2cmのスペースを空けるだけで設置できるようにするなど、大きな進化を遂げています。
Space Saving Technologyによって小型化と高性能を備えたC650dnwは、医療や流通小売、学校など、限られた設置スペースで高い印刷ニーズを満たす製品として、現場の期待に応えるでしょう。当社のプリンターはChrome OSからの印刷にも対応しているので、Chromebookを導入している学校への提案も積極的に行えます。また、旅行代理店やホテルなど、現場での印刷ニーズを有するユーザーへの横展開を目指します。
今後、デジタルと非デジタルの共存環境が拡大する中で、印刷媒体をインターネットとの接点にしていくような事業の構想も立てています。モノに添付された印刷媒体を読み取ることでそのモノのデータの呼び出しや管理、さらに別のデータと連携させたりできるような世界です。これはOKIグループで取り組む戦略でもあり、それらを実現するソリューションの一つとしてプリンターが位置付けられます。いわば、印刷物を通じたデジタルと非デジタルの共存の世界であり、そうした世界の実現を、OKIグループは推進していきます。
「小型化、高性能、ユーザビリティの要素を思い切って先鋭化させた製品の開発に成功しました。」
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